歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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蹂躙

 

 

 

 七大罪の出撃は、連合軍側にも察知されていた。

 

「艦長、ダイダロス基地から新手の出撃を確認!」

 

「なんですって!

 規模は!?」

 

「それが・・・」

 

「どうしたの?」

 

「新たに確認された敵影は・・・7機です」

 

「7機!

 それは確かなの?」

 

「はい、他に増援の気配はありません」

 

 マリューは、その報告から嫌な予感を覚えた。

 明らかに普通ではない様子なのに歌姫達の歌が効かない守備隊は不気味ではある。

 無人特攻兵器の物量も脅威と言って良い。

 それでも対処は可能でジリジリと前進することが出来ていた。

 この状況でネームレスが投入してきた戦力がたったの7機。

 とても通常の戦力とは思えない。

 そして、その予想は当たっていた。

 

 

 

 7機の魔王による蹂躙が始まった。

 

 最初に戦端を開いたのはグリードだった。

 多くのモビルスーツが新手に対して攻撃を仕掛ける。

 

「雑魚どもに俺が止められるか!

 俺の野望の糧としてくれる!」

 

 マモンの機体各部に備えられた砲門からビームが放たれる。

 それは、あのデストロイすら上回る圧倒的な火力だった。

 あまりの火力に連合軍のモビルスーツ達は避けることすら出来ずに次々と落とされていく。

 

 ネームレスの末端はあらゆる組織に入り込んでいる。

 つまり、人類が持つ全ての兵器の技術情報を手にすることが可能なのだ。

 マモンは、デストロイをベースとしているようで機体にこれでもかと兵器が搭載されていた。

 そのため火力は、1機のモビルスーツとしては人類史上最高のものとなっている。

 だが、その火力を実践で使いこなせる者などそうは居ない。

 何故なら火砲が多いということは、それだけ消費するエネルギーも多いということだからだ。

 ジェネレーターが生成するエネルギーは有限。

 考えなしに撃ちまくれば供給が追いつかずにエネルギーが枯渇してしまう。

 フリーダムがハイマット・フルバーストを多用できなかったのもそれが理由だ。

 マモンは大型のモビルスーツだが、デストロイ程ではない。

 そんな機体にデストロイ以上の兵器を詰め込んでいるのにエネルギーダウンする兆候が見られない。

 

 ジャック・グリードのパイロットとしてのセンスがずば抜けているからだ。

 ジェネレーターが生成する時間当たりのエネルギー量と各兵器が消費するエネルギー量を把握し、砲身の冷却期間すらも考慮して、戦場で常に最大火力を維持し続けているのだ。

 刻一刻と変化する戦場でそんな真似が出来る者は他に居ない。

 人類の中でジャック・グリードのみが可能とする絶技。

 ラースが常人の極みとするなら、グリードはその対局に位置する。

 砲撃戦に関するセンスは他の追随を許さない天才。

 それがジャック・グリードと言う怪物だった。

 

 

 

 ブランドン・ラースのサタンも続く。

 連合軍の艦隊に切り込み、進路上のモビルスーツや艦艇を凄まじい勢いで撃破していく。

 その強さに兵士達の心が恐怖に染まる。

 ラースには特別な才能がないため、サタンにも特殊な兵装など搭載されていない。

 ビームサーベルやビームライフル、レールガンなどオーソドックスな機体であるが故に兵士達にもその戦闘が理解できる。

 理解できてしまうことがより恐怖を掻き立ててしまっている。

 理解できない特殊な兵器によるものなら、まだマシだっただろう。

 だが、ラースが使っているのは自分達と同じもの。

 どれだけ隔絶した技量の差があるのかをまざまざと見せつけられてしまう。

 いや、どれだけの差があるのか理解すら出来ないことが恐ろしいのだ。

 人類が持つ技術を結集して造られた機体の性能は、確かにとんでもなく高い。

 だが、それを使いこななせる者はラースしか居ない。

 同じ機体を与えられても自分達には真似など出来ない。

 戦場には敵や味方といった障害物がある。

 必然としてそれらを避けることが出来る速度までしか出せない。

 なのに、この敵は通常の3倍は出している。

 それでも決してミスを犯すことなく、最善手を選択し続けているのだ。

 ゴーストのような無茶苦茶な機動ではなく、人間が耐えられる機動であることが逆に現実味(リアリティー)を失わせていた。

 これが人間に可能な動きなのか?

 兵士達の偽りなき心情がこれであった。

 

 

 

 ニコルのベルゼブブもその真価を発揮する。

 機体の各部から多数のミサイルが放たれる。

 それは、かつてプラントで計画されながらついに完成することなく終わったミーティアすらも超える投射量を見せた。

 視界を埋め尽くすほどのミサイルの雨が連合軍に襲いかかる。

 連合軍も弾幕を張って迎撃するが焼け石に水、ミサイルの雨が過ぎ去った後には無数の残骸が漂っていた。

 

「くっ、怯むな!

 あれだけのミサイルを撃ったのだから弾切れのはず。

 今が好機だ。

 奴に補給に戻る猶予を与えるな!」

 

 ニコルが乗っているのは巨大モビルアーマーだったが、それでも積載量には限界がある。

 実際にミサイルを撃ち尽くしていた。

 

 ベルゼブブが後方へと撤退していく姿を見て、兵士達はミサイルが枯渇したことを確信し、追いかけて後ろから攻撃を仕掛けようとする。

 しかし、弾切れだと思っていたベルゼブブが反転し再びミサイルで攻撃してきた。

 

「馬鹿な!

 これだけのミサイルをどうやって積んでいたのだ。

 奴は魔法でも使えると言うのか!」

 

 ベルゼブブは最初に全弾撃ち尽くす勢いで攻撃を仕掛けてきた。

 だから、たとえ第2射があったとしても少数に留まるはずなのだ。

 だが、実際には第1射とほぼ同数のミサイルが射ち出された。

 機体よりも射ち出されたミサイルの体積の方が大きいことになってしまう。

 物理法則を無視したような現象を前に魔法を使われたように感じても無理はない。

 そして、それが彼の最後の思考となった。

 2度目のミサイルの雨によって追撃していた部隊は壊滅した。

 

「次は・・・あちらですか」

 

 ニコルは、機体を止めることなく次のポイントへと向かう。

 そして、ミサイルの雨を降らせるのだ。

 何度でも。

 

 

 

 連合軍のモビルスーツ部隊が1機のモビルスーツに迫る。

 そのモビルスーツの武装は見たところライフルが一丁のみ、特殊な武装を隠しているのかもしれないが外見からは伺うことができない。

 それでも、少なくとも火力特化の機体でないことは確かだ。

 多数で掛かれば倒せる。

 そう判断して半包囲陣を敷く。

 

 その機体、ベルフェゴールがライフルを構えて攻撃してきた。

 避けることが出来なかった機体には穴が開いている。

 どうやら、ビームではなく実態弾だったようだ。

 実態弾が有効な場面もあるが威力としてはビームに劣る。

 被弾した機体も爆散することはなかった。

 

「やはり、攻撃力は貧弱なようだ。

 おそらく何らかの特殊作戦機。

 厄介なことになる前に落とさせてもらう!」

 

 隊長機が勝負を決めようと前に出る。

 被弾してもさしたるダメージを受けずに迫ってくる敵を前にパイロットのハロルド・スロースは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ハック完了♪」

 

 今、まさに攻撃を仕掛けようとしていた隊長機が後ろから撃たれた。

 

「がっ!いったい何が!?」

 

 後方は部下達が固めている。

 攻撃を受けるにしても彼らから敵の接近を告げる報告がないのはおかしい。

 

 後方を確認した彼の目に飛び込んできたのは、部下の一部が味方に攻撃をしている姿だった。

 

「な、何をしている!

 やめないか!」

 

 突然、乱心したかのように味方を攻撃し始めた部下に制止の声を掛けるが返事は一切ない。

 

「やむを得ん、機体を破壊してでも大人しくさせるか」

 

 ガン!

 

 衝撃を感じて敵に視線を戻せば武器を構えていた。

 不測の事態に注意を逸らしたことで被弾してしまったらしい。

 しかし、やはり撃破されるようなダメージはない。

 その事実に嫌な予感がした。

 味方を攻撃し始めた機体は、奴に撃たれた機体じゃなかったか?

 

 隊長が感じた予感は正しかった。

 

 コックピット内の表示が消える。

 スクリーンもブラックアウトし、外部の状況が分からなくなってしまった。

 そして、

 

「これは、機体が勝手に動いている!?

 操作を受け付けない。

 機体の制御が乗っ取られたのか!」

 

 外の様子は分からないが、自分の機体が味方に攻撃しているのだろう。

 恐ろしい。

 自分の機体は、いったいどれだけの味方を撃ったのだろう?

 そして、その味方にいつ撃たれて死んでしまうかも分からない。

 操縦桿をいくら動かしても機体は一切反応してくれない。

 逃れる術のない状況に狂おしいほどの恐怖を感じていた。

 

 

「私はモビルスーツ戦はあまり得意ではないので、代わりに戦ってくれる駒が必要なんですよ」

 

 スロースは、ベルフェゴールが射ち出した特殊弾頭を介してハッキングし、機体の制御を乗っ取っていた。

 そして、乗っ取った機体がベルフェゴールを守るようにさっきまで味方だった相手に攻撃していく。

 

「この数ではまだまだ不安ですね。

 もう少し駒を増やしましょう」

 

 突然始まった同士討ちに混乱している部隊にさらに射撃を当てていく。

 そうして駒にしたモビルスーツを戦わせることで連合軍をさらに苦しめる。

 撃破されても、ハッキング弾ですぐに戦力を補充されてしまう。

 自らは戦わず、駒にされた味方との戦闘を強制してくる姿はまさに魔王のようだった。

 

 

 

 ヒルダ・H・ラストが乗るアスモデウスは、連合軍との接敵まで後少しのところで背負っていた二つのコンテナを開放する。

 その中から2機のモビルスーツ『ドム・トルーパー』が出現。

 アスモデウスの後方にポジションを取る。

 

「ヘルベルト!マーズ!

 まずはあれだ。行くよ!」

 

「「了解、姉御!」」

 

 連合軍に向けて突進するアスモデウスの前方に光の粒子が発生し始める。

 その光が半球状に広がり、後方へと流れていく。

 その背中に張り付くように2機のドムも続く。

 

 こんな派手な接近を見落とすはずもなく連合軍が迎撃を開始する。

 しかし、アスモデウスの前面に展開する光は光波防御シールドであり、全ての攻撃を弾いてしまった。

 彼女達は、そのまま敵陣に突っ込んでいく。

 

「「「ジェットストリーム・アタック!」」」

 

 先頭のアスモデウスがバリアを張り、その後ろに並んだドムが敵を攻撃して撃破していく。

 前方にしかバリアを展開していないが、推進力のある機体でひたすらに真っ直ぐ突進していくことで後方からの攻撃を許さない。

 そして、後ろにピッタリと付いた2機のドムが攻撃を担当する。

 この三位一体の連携こそがジェットストリーム・アタック。

 3機のモビルスーツが列を成して進んでいく姿はまるで黒い三連星のようだ。

 

 

 

「許さない、ザフトも、あいつらを許した世界も!」

 

 エレーナ・エンヴィーが駆るレヴィアタンも連合軍の戦力が密集する宙域へと飛び込んでいった。

 

「来たぞ!

 とにかく数で当たれ」

 

「くそ!化け物め」

 

 多数の軍を相手に1機で突入してくる。

 側から見れば無謀な行為だろう。

 だが、恐れを抱いているのは軍の方だった。

 新たに現れた敵はどれもとんでもない被害をもたらしている。

 この敵も尋常な相手の訳がない。

 だから過剰なまでの戦力を投入する。

 たとえ個の力では敵わずとも、集団として力を合わせれば勝てるはず。

 そうやって前大戦を戦い抜いてきた。

 

 だが、それが通じない相手もいるのだ。

 その一つがレヴィアタンだった。

 

「ジャマー起動」

 

 レヴィアタンからNジャマーとよく似たフィールドが発生する。

 そして、そのフィールドに囚われたものたちは、

 

「なんだ!機体の動きが鈍い?」

 

「機体の反応が遅れている。

 何が起きているんだ!」

 

 機体の動きが遅くなる。

 敵に照準を合わせようとしても武器を相手に向ける動きが遅々として進まない。

 コースを変えようと操縦桿を倒してもスラスターの向きや姿勢制御も同じ有様だ。

 これでは戦闘など出来ない。

 

「お前たちが作り出したものがお前たちを殺す力になる。自らが生み出したもので溺れて死ね!」

 

 満足に動けなくなった機体を次々と撃ち落としていく。

 エレーナは、天才物理学者だった。

 プラントが開発したNジャマーによって引き起こされたエイプリルフール・クライシスによって婚約者を喪い、復讐のために銃を取った。

 その果てに戦死して、彼女の復讐劇は終わったはずだった。

 

 ネームレスが彼女をカーボンヒューマンとして復活させたことで彼女の復讐は形を変えて続くことになる。

 戦争が終わってしまい、結局プラントに破滅は訪れなかった。

 平和を享受する世界が憎い。

 私は大切な人を奪われたのに、なぜ他の人達は笑っているの?

 幸せな人達が妬ましい!

 

 人類が持つ技術情報を全て得られる環境が彼女の復讐を加速させる。

 Nジャマーは、電波を阻害する副作用を持つ。

 その特性を応用して、電気信号の伝達速度を遅くする特殊なフィールドを発生させることに成功した。

 Nジャマーほど効果範囲は広くないが、戦場で使うには十分なものだった。

 

 

 

 プライドは、他の七大罪の働きを見て満足そうにしている。

 事実、連合軍の足は完全に止められていた。

 このまま時間が来れば全てが終わる。

 

「部下だけに働かせて何もしないわけにも行くまい。

 このルシファーの力、存分に見るがいい」

 

 ルシファーの背中にある6枚の羽は、その一つ一つが6基のドラグーンによって構成されていた。

 計36基のドラグーンが射出される。

 

 それぞれのドラグーンがまるで意思があるかのように縦横無尽に動き、連合軍を撃破していく。

 制御できる数、動きの精度、戦術的な運用。

 全てにおいて人類の最高峰に位置するであろうネオやムウすらも超越している。

 プライドもまた、七大罪の長として相応しい力を示した。

 

 

 強欲(グリード)憤怒(ラース)暴食(グラトニー)怠惰(スロース)色欲(ラスト)嫉妬(エンヴィー)、そして傲慢(プライド)

 戦場に七柱の魔王が降臨し、全てが蹂躙される地獄と化した。

 しかし、まだ希望が消えたわけではない。

 戦場には、魔王に立ち向かおうとする勇者達もたま存在するのだから。

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