歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
「周辺に敵影なし。どうやらザフトは、こちらを完全にロストしたようです」
「アルテミスの献身に感謝だな」
「彼らも無事に脱出出来ていればいいけど」
「きっと無事さ、ああ言うタイプはしぶといからな」
「その内しれっと現れるかもしれません」
「お、イレブンも言うようになったな」
アークエンジェルを無事に逃す為に戦ってくれたアルテミスへの感謝とザフトの追撃を完全に振り切った事への安堵からブリッジの空気は明るいものとなっていた。
学生組には、当面戦闘の危険もない為、カガリやミーアの所に戻って安心させてやるように指示した。
艦長達には、今後の進路を決める仕事がある。
ナタルが月基地への航路を計算してくれている。
そのデータを基に会議を行うのだ。
下の者が資料を作り、上の者が決定を下す、どこの組織でも同じようなものである。
けして、ナタルに仕事を押し付けて雑談をしている訳ではない。
計算された航路のデータが出た事で会議が始まる。
「うーん、分かってた事だが、もっとマシな航路はないもんかな?」
「月基地への最短航路は、デブリ帯を突っ切るルートだけど」
「この速度でデブリ帯に突っ込めば、私たちがデブリになりますよ」
「デブリ帯を安全に通る事が出来るまで減速するくらいなら、他のルートの方がマシか」
「幸い、アルテミスでの補給で物資に不安はありません」
「それなら、出来るだけザフトに見つからない安全なルートで行きましょう」
補給する必要のないアークエンジェルは、デブリ帯に寄ることなく月基地への航路を進むことになった。
カガリとミーアは、ブリッジ勤務の学生組からアルテミスのおかげでザフトを振り切り、当面は安全だと知った。
「それなら、ヘリオポリスのみんなの為にライブをしていいかな?アルテミスで降りれなかったことで、かなりストレスが溜まってるみたいで。小さな子供もいるから心配なんだ」
カガリが学生達を通して艦長の許可を取れないか聞いてきた。
ギター等の楽器を持ったまま避難してきた人達もいた為、ドラム等の大きなものはないが、小さな楽器はいくつかアークエンジェル内に持ち込まれていた。
これなら、簡単な音楽を付けて歌えるとカガリは言っているのだ。
「いいじゃん、俺もハーモニカなら持ってるし、やりたい!」
学生達は乗り気だ、特に自前の楽器を持つトールはカガリとセッション出来るとあって艦長達を説得してみせると意気込む。
楽器を持ち込んだ人達も、降って湧いたチャンスに飛び付くだろう。後は、学生達が許可をもらえれば、アークエンジェル内で小さなライブが行える。
「ミーアさんも参加したら?歌手としてデビューを目指してるんでしょ」
「え、私なんかが、カガリさんと同じステージに立つなんて」
ミーアと避難民達との間に壁がある事を気にしていた学生組が、いい機会だとミーアも参加しようと誘ってくれる。
しかし、ミーアは、ヘリオポリスの人達が自分の歌で楽しんでくれるか不安になる。
プラント市民の自分が歌う事で嫌な思いをしないだろうか、そんなネガティブな事を考えてしまう。
「みんなで楽しむためのライブなんだし、俺みたいな一般人も参加するつもりなんだぜ。気にすることないって」
「ヘリオポリスのみんなに引け目を感じているの?それなら、ミーアさんに出来る精一杯の歌でみんなを笑顔にしたらいいのよ」
「ミーア、私は歌の力を信じている。どんな絶望の中にいても、新しい夢や希望を持つきっかけになる事が出来ると。だから、そこに笑顔にしたい人がいるなら、歌わない理由はない。そう思わないか?」
ずっとヘリオポリスの人達と向き合うことから逃げてきた。
このままではいけないと思っても、一歩を踏み出す勇気を持てなかった。
みんなが背中を押してくれている。
一人じゃない、一緒に歌うと。
カガリのように、私の歌にもそんな力があると信じたい。
「私も、みんなと歌いたい」
「決まりね、ミーアさんの歌、楽しみにしてるわ」
学生組は、艦長達の許可を得るためにブリッジへ向かう。
カガリとミーアは、楽器を持つ人達とライブの練習をしながら結果を待つことにした。
「ライブ・・・アークエンジェル内で?」
「ええ、楽器を持ってる人が数名いたので。アルテミスで降りれなかった事でみんなのストレスも限界だろうって、カガリさんが提案してきたんです」
「プラントで歌手としてデビューを目指してるミーアも参加するつもりなんです。ヘリオポリスの人達とのギクシャクをどうにかする為にも許可してほしいんですよ」
ブリッジでは、リーダーのサイが中心になってマリューと交渉していた。
あいかわらずアークエンジェルは孤立していて、油断できる状況ではないが、ヘリオポリス市民のメンタルケアのためだと訴えれば優しい艦長なら許してもらえると考えたのだ。
「何を考えている!アスハやキャンベルが歌うのはともかく、お前達はブリッジで仕事があるだろう」
厳しいナタルの存在を忘れていたようだが。
「そんな、カガリとセッションするチャンスなんて、今しかないんですよ!お願いですから、参加する許可をください」
ライブそのものではなく、学生組が参加することに対して反対され、トールが食い下がる。
「トールが練習やライブで抜けてる間は、俺たちでカバーしますから、許可してあげてくれませんか?」
トールのためにサイがフォローを入れる。
志願してブリッジで働く事になった以上、仕事に責任を持たなければいけない。
トールもその事に思い至ったのか、サイに感謝の視線を向ける。
「ライブは許可します。トール君は、友人達にあまり負担にならない範囲で参加する事、良いですね」
「「「「はい、ありがとうございます!」」」」
望み通りの許可を得て、学生達は嬉しそうに帰っていった。
「よろしかったのですか、艦長」
「実際、ヘリオポリスの人達のメンタルケアは必要よ。ちょうどいい気晴らしになるでしょう」
「艦長がそうおっしゃるのなら、異存はありません」
「そうそう、アークエンジェルのクルーも、ライブ中は交代で聴きに行くことを許可します」
「艦長!」
「クルーにも気晴らしは必要よ」
マリューの決定に、アークエンジェルのクルーも喜び、ライブを楽しみにしている。
生真面目なナタルは、自分が空気を読めていない雰囲気になっているのが不満のようだったが。
「許可を取ってきてくれて、ありがとう」
「いえ、俺達もライブ中、交代で聴きに来れるようになったので、楽しみにしてますよ」
「カガリさん、私がデビューのために作ってた曲も、だいたいみんなに教えました。音合わせも終わりましたし、軽く練習しようって言ってますよ」
「わかったよ、ミーアは先に行っててくれ」
「俺も練習に参加するよ、じゃ、みんな後はよろしく!」
「もう、トールったら」
「ミリィも大変だな」
「カガリは、これからどうするの?」
「ヘリオポリスのみんなにライブの事を教えてくるよ。明日1日練習すれば形にはなるだろうから、ライブは2日後かな」
「それなら僕たちがするよ、カガリはみんなと練習してきなよ」
「いいのか?」
「ええ、カガリさんが一番大変なんだから、少しくらい手伝わせてよ」
「ありがとう、ライブは期待しててくれ」
学生組からカガリがライブを行うと聞いた避難民達は、久しぶりの明るい話題に笑顔を見せていた。
幸いな事に、アークエンジェルはザフトの部隊に見つかる事なく航行を続け、ライブの日を迎える事が出来た。
食堂に作られたスペースで、カガリとミーア、そして楽器を持ち込んだ人達が準備している。
ヘリオポリスの避難民達とアークエンジェルのクルーが、食堂の椅子で作られた観客席でライブの始まりを待っている。
そして、
「私の歌を聴けーーーー!」
カガリの歌が始まる、観客達は直ぐに歌に夢中になり、歓声を上げる。
今この瞬間は、彼らの顔に恐怖や不安はなかった。
カガリのバックコーラスとして歌っているミーアは、自分の歌に対する姿勢がまだまだ未熟だったと感じていた。
観客は、アークエンジェルのクルーを含めても数十人程度、ステージも食堂の空きスペースで楽器だって満足に揃ってない。
それでも、カガリはまるで生涯最後のステージなのかと思わせるほど、魂を振り絞るように全力で歌っている。
ステージすらない何処かの路上で、観客が一人しかいなくても、カガリは今と変わらずに歌うのだろう。
自分が同じ立場だったら、ここまで出来るだろうか?
それでも、ここで応えない訳にはいかない。
みんなが私をライブに誘ってくれたのは、ヘリオポリスの人達との間にある、ぎこちない空気をどうにかしたいと思ってくれたから。
私自身も、ヘリオポリスのみんなのために何かをしたい。
そう思って、ここに立っているのだ。
カガリの歌が終わり、ミーアの曲が始まる。
プラントで歌っていたラクス・クラインの曲ではない。
ミーア・キャンベルとして、自分自身が歌いたいと思って作ってきた曲を歌い始める。
小さなステージで、楽器も揃っていない。それでもミーアは、全身全霊で歌い続ける。
目の前の人達を笑顔にしたい、その想いを込めて。
ミーアが歌い始めた時に、その感情から身構えてしまったヘリオポリスの市民達にも、その想いが通じたのか声援を送り始める。
カガリのバックコーラスを背に受けて、観客との一体感に心を高揚させながら、ミーアは確信していた。
この先どうなろうとも、今日のステージは生涯忘れられないものになる。
だから、この一瞬一瞬を大切に歌う。
私も、カガリのように、真っ直ぐに自分の歌と向き合うんだと心に決めて。
その後も、カガリとミーアが交互に歌い、ライブは盛り上がっていく。
そして、最後の曲を二人のデュエットで歌い、ライブの幕は閉じた。
歌いきった充実感を胸に、ステージの撤収をしているミーアの下に小さな女の子が近づいて来た。
「どうしたの?」
ミーアが声を掛けると、その子が何かを差し出してきた。
それは紙を折って作った、小さな花だった。
「お姉ちゃん達、エル達のために歌ってくれてありがとう」
笑顔で差し出してくれた花を受け取り、ミーアの心に喜びが溢れる。
「こちらこそありがとう、お花も、歌を楽しんでくれた事も」
カガリにも花を渡し、笑顔で手を振りながら母親と去っていく姿を見ながら、アークエンジェルに乗る事になった運命に感謝していた。
最近では、歌う事が楽しいと感じられなくなってきていた。
このまま、自分の歌を歌うこともなく、きっかけがあれば歌うことを辞めていたかもしれない。
この艦は、小さな頃に感じていた歌う歓びを思い出させてくれた。
プラントに戻っても、求められるラクスの歌ではない、自分の歌を歌い続けよう。
路上でもいい、一人でも歌を聴いて笑顔になってくれるなら、歌わない理由はないのだから。
そんなミーアを見て、カガリは満足そうな微笑みを浮かべていた。
学生組も、盛り上がったライブに興奮していた。
「凄かったな、ライブ」
「ああ、さすがカガリだよね」
「カガリも凄かったけど、ミーアさんも予想以上だったわ」
「もしかしてだけど、ラクス・クラインより上手かったんじゃない?」
「そうね、技術的なことは分からないけど、ラクスの歌にはない熱みたいなものを感じたわ」
「キラはどうだった?俺たちのライブ」
「うん、凄かったよ」
「ちょっとトール、あんたは後ろでちょこちょこハーモニカ吹いてただけでしょ」
「いやぁ、憧れのカガリと同じステージに立てたし、ミーアもびっくりするくらい凄かったし、最高だったよ!参加できて良かった〜」
このライブから数日後、第8艦隊との交信に成功し、合流のため先遣隊が派遣される事になる。
カガリが乗っていた脱出艇なので、ライブに来ていた音楽好きの人達が多い(つまり、楽器を持っててもおかしくない)という設定で日常回のミニライブになりました。
次回は、間話を挟んで先遣隊編になります。