歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
スロースの手に落ちたデスティニーがレジェンドに襲い掛かる。
どれほど呼びかけてもシンは答えることも出来ない。
機体を完全に掌握されては、この場にある装備で救う術はないかに思われた。
二人の少女が今まで苦楽を共にしてきた大切な仲間を切り捨てる決断をするためにはもう暫くの時間が必要だった。
だが、それは二人の心を深く傷付けるもの。
それを厭う存在がそこにはいた。
「えっ、ドラグーンが!
ウルズ、ベルザンディー、スクルド!?」
彼女達に寄り添い続けてきた意志を持つAI。
彼らが操るドラグーンがそんな未来を否定するために宇宙を駆ける。
「なんで!?
お願い、待って!
シンを殺さないで!」
メイリンの言葉にも動きを止めず、ドラグーンはデスティニーの周りを飛び交う。
デスティニーも周囲を飛び回るドラグーンを煩わしく思ったのか撃墜しようとしているが、その攻撃がドラグーンを捉えることはない。
デスティニーを脅威たらしめていたのはシンの操縦技術があってこそ。
今のデスティニーの動きは基本に忠実、悪く言えば教科書通りでしかない。
本機の性能であれば、一般兵には止めることの出来ない脅威となるだろうが、成長し、自我を得たウルズ達のドラグーンを落とすことは出来ない。
「メイリン、ウルズ達はシンを殺すつもりじゃないわ!」
ウルズ達の動きからメイリンの戦術的な意図を感じ取りながら戦ってきたルナマリアがドラグーンの動きがシンを殺すためのものではないことに気付く。
「えっ?」
「よく見なさい。
ドラグーンは、まだデスティニーを攻撃していないわ」
「・・・本当だ」
ウルズ達は、大切に思う少女達の望む未来を引き寄せるための情報を求めていた。
レジェンドに搭載されたドラグーンは只の砲撃端末ではない。
制御するAIが独自の判断で動かすことを想定している。
そのために必要なものは何か?
AIが状況を判断するための各種センサー類だ。
ドラグーンに搭載されたセンサーがデスティニーの詳細なデータを収集していた。
攻撃せずにデスティニーの周囲を飛び回っていたのはそのためだった。
幸運だったのは、スロースが行ったハッキングが機体のプログラム全体を書き換えるようなものではなかったこと。
機体制御の入力系を乗っ取り、ベルフェゴールからの指令をもとにパターン化された行動を入力すると言うもの。
外部からの指示を受け取り、パイロットに成り代わって入力を行うのは、撃ち込まれたハッキング弾頭であった。
トラップによってハッキング弾頭を撃ち込まれたデスティニーも同様だ。
乗っ取られた機体がベルフェゴールからの指令で動いているのは、ベルフェゴールを守ろうとする動きから分かっていた。
だから、ウルズ達は探していたのだ。
デスティニーに撃ち込まれた、指令を受け取るための端末の在処を。
デスティニーの攻撃を掻い潜りながら、ようやく見つけた。
それは、右脚ふくらはぎに相当する部位にあった。
小さな銃撃痕。
その穴の中で機体に食い込んでいる異物の存在を。
そのデータがメイリン達の下へ送られてきた。
「これは!
お姉ちゃん、これを見て!」
「!!!
これをどうにかすればシンを救えるのね?」
「うん!
みんな、ありがとう!」
「行くわよ、メイリン」
二人の中で希望が甦える。
レジェンドの動きに力強さが戻ってきた。
後の事を考えれば、デスティニーのダメージは最小限にしなければならない。
動き続けるデスティニーを相手にピンポイントで攻撃を当てる。
難しいことだが、不可能な事だとは思わなかった。
相手にシンのような技量はない。
ウルズ達もいる。
なら、何を恐れることがある?
さらに闇ラクスの歌が流れ始め、ルナマリア達を支えてくれる。
「闇ラクス、ネームレスの歌姫に備えて温存しておくんじゃなかったの?」
シンの一番近くにいるのは私です。
シンを助けるためなら躊躇ったりしない。
それに、これが私のラストステージ。
後先なんて考えず、全力で自分を解放する方が私らしいなって思ったんです。
「ずいぶん言うようになったじゃない。
まだまだ序盤なんだから、遅れるんじゃないわよ!」
ええ、最後まで駆け抜けてみせます。
ベルフェゴールの中で見ていたスロースも、レジェンドの動きが変わったことに気付いた。
「シン君を撃つ覚悟を決めた?
思ったよりも早かったですね。
それに闇ラクスの歌。
出番の終わった役者がいつまでも舞台に上がっていてはいけない。
付き人だった私が貴女を守るはずだった機体で引導を渡してあげましょう」
スロースがベルフェゴールを近付ける。
レジェンドがデスティニーを撃つ瞬間に出来る隙を突くために。
たとえ覚悟を決めたとしても、年端も行かぬ少女達だ。
撃つ瞬間は心が揺らぎ、平静ではいられない。
必ず隙が出来るでしょう。
それぞれの思惑が交差し、戦いは新たな展開を迎えようとしていた。
一方でステラ達3人は、ラースの前に苦戦を続けていた。
ラースの速度には着いていけない。
無理に着いて行こうとしても、自分達の技量では他の機体かデブリに衝突してしまう未来しか見えない。
だから、ラースの進路上に先回りして待ち受けるしかないのだが、
「何度やっても同じだ。
お前達では俺を捉えることは出来ない」
ただ真っ直ぐに進んでいるのではない。
迫ってくる攻撃を前に、小さな動きを小刻みに連続して行い続けることで速度を落とすことなく全て回避してしまう。
そして、
「うあ!」
「きゃっ!」
「ちぃ、またか!」
すれ違い様にあっさりと確実に攻撃を当ててくる。
先程から何度も繰り返されている光景だ。
撃墜されてないのは追加パーツによる重装甲のお陰だが、その追加パーツも既にボロボロでそう長くは持たないのは明らかだ。
「くそっ、どんなフォーメーションで撃ってもすり抜けて来やがる」
「どうする?
そう何度も持たないよ」
「相手が規格外すぎる。
打つ手なしか」
「諦めちゃダメ!
最後まで足掻くんでしょ?」
「そうなんだが、こうまで通用しないとな」
「・・・スティング」
ステラに励まされていたスティングにアウルから個別回線が繋がる。
わざわざ個別回線を繋いでくるのだ、ステラに聞かれたくないことがあるんだろう。
「どうした?」
「いざとなれば、僕がラースの進路を塞いで体当たりする」
「おい!それは!」
「他に手があるの?
このままじゃ、いずれみんな落とされる」
「くっ、なら俺が・・・」
「スティングと僕、どっちが先に命を使うかなら僕でしょ?
これから先に必要なのはお前だ。
スティングになら任せられる」
「・・・アウル」
アウルからこんな言葉が出るなんて。
ラースの下に居た時には想像も出来なかった。
「だが、ダメだ」
「スティング!」
「お前の覚悟を否定するわけじゃない。
それじゃあ足りないと言っているんだ」
「えっ?」
「追い詰められた状況で命を捨てた特攻なんてラースにとって想定内だろう。
奴の想定から外れるための一手がいる」
思考を止めるな。
今ある手札を使ってラースを出し抜くにはどうすればいい?
「スティング、俺がラースの進路を塞ぐ」
「アウル、それではダメだと!」
「僕の機体でラースの視界を塞ぐから、後ろから僕ごと撃ってくれ。
それなら、ラースの想定を上回れるだろ?」
「何をバカな、そんな事、出来るわけ・・・!」
アウルの提案を否定しようとした時、スティングにある考えが閃いた。
ジョン・ドゥにいた頃、整備員の男とチェスをした事があった。
その男が言っていた。
「クィーンは動かさないのが定石だ」
クィーンは最強の駒。
素人はそれに頼りがちになるが、不用意に動かせばその機動力が仇となりポーンやナイト辺りにあっさりと取られてしまうことが良くある。
「二人とも聞いてくれ。
一か八かだが、作戦を思い付いた」
作戦の詳細を聞いた二人は、
「うん、いいと思う。
さすがスティング」
「なるほど、確かにいい作戦だ。
試してみる価値はあるね」
スティングの作戦に賛同した。
「ラースに仕掛けるぞ。
これが失敗したら、もう打つ手なしだ」
「最後の勝負ってことだね」
「大丈夫、絶対成功してみせる!」
3人がラースを迎え撃つ。
これまでと違い、勝利の可能性が見えているのだ。
彼らは前を向いている。
かつて、エクステンデッドとして使われていた時とは違う。
それは、ラースの思考にはない勝負強さに繋がっていた。