歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
レヴィアタンのジャマー・フィールドから脱することができたアレックス達が偽アスランのケンプファーと共に反撃を開始。
「奴のフィールドの有効範囲はそれほど広くない。
テールバインダーの先を起点におよそ60度の円錐形で形成されている。
有効射程は約5㎞」
外側から戦場を俯瞰していた偽アスランがレヴィアタンのジャマー・フィールドの解析結果を伝えてくる。
「なら、同時に捕捉されないように散会する。互いの位置関係と奴のテールバインダーの向きは常に意識しておくんだ」
「ふん、誰に言っている。
お前こそ無様を晒すなよ」
インフィニット・ジャスティスとストライク・フリーダムがケンプファーと共にレヴィアタンを包囲するように動く。
テールバインダーを向けて、ジャマー・フィールドに捉えても、その機体を撃墜する前に別の機体の攻撃によって回避を余儀なくされてしまう。
「ちっ、ジャマーの効果範囲を解析されたか」
エンヴィーもまずい状況であることは理解している。
圧倒的アドバンテージを
彼女は復讐のために銃を取り、モビルスーツにも乗っていたが、本質は科学者である。
冷静に比我の戦力差を分析し、自身の不利を悟っていた。
それでもレヴィアタンが未だ落とされていないのは、
「エンヴィーさん!」
ベルゼブブからの援護射撃によるものだった。
ディアッカのケーニヒ・モンスターに牽制されながらもミサイルを撃ち込むことによってレヴィアタンへの致命的な一撃を防いでいた。
屈辱だ。
ジャマー・フィールドを完成させた時、もう誰も私の復讐を妨げることは出来ないと思っていた。
だが、実際はどうだ?
グラトニーの援護がなければ、私はとっくに落とされている。
あの男に守られなければならない自分の弱さに苛立ちを感じる。
論理的でないのは分かっている。
何故、あの男に受け入れがたい嫌悪を感じてしまうのか自分でも理解できない。
今は、その嫌悪を無理矢理にでも飲み込む。
あの男を利用してでも私はこの復讐のロードを駆け抜けてみせる。
例えそれが奴らによって舗装された道であったとしても。
「グラトニー、私のジャマー展開に合わせろ。少しずつでも削っていく」
「エンヴィーさん・・・はい!」
レヴィアタンとベルゼブブの動きが変わった。
敵を倒すことしか考えていないエンヴィーが落とされないようにグラトニーが一方的に援護していた形から、互いの動きを認識し、効率良く戦果を上げるための連携へと。
「動きが変わった!?」
「厄介だな。
だが、向こうに戦力を割くことも難しい」
効果範囲を見切ったとは言え、ジャマー・フィールドが脅威であることは変わらない
捕まってしまえば碌な抵抗も出来なくなる。
3機で連携しているから優位を取れているのだ。
2機で対応しようとすれば、1機が捕まった時点でかなり無理をして攻勢を掛けなければならない。
そうなれば、戦況を一気にひっくり返される危険がある。
だが、相手が連携し始めた以上、安全策では状況を打開出来ない。
何処かでリスクを負う必要があるだろう。
その機会を伺いながら時間が経っていく中で新たな動きが起きる。
戦場を恐怖と絶望で塗り替えようとしていた七大罪が次々と撃破されたことで連合軍は勢いを取り戻しつつあった。
プライドと交戦していたムウとネオも戦場の流れが変わりつつあることを感じ取っていた。
「ムウ、気付いているか?」
「ああ、仲間達がやってくれたみたいだな。
これで、お前らの戦力は半分以下だ。
底が見えてきたな!」
「ふむ、確かに私の予想を超えていた。
本職ではないスロースや数合わせのラストはともかく、まさかラースやグリードまで落とされるとは想定外だ」
「私達をいつでも落とせると思って油断していたな。その傲慢さに足元を救われたのだ」
「傲慢さ故の油断?
違うな。
これは・・・強者にのみ許される余裕と言うのだ!」
プライドが操るドラグーンの動きが変わった。
より速く、より複雑な軌跡を描いていく。
その圧倒的な暴威によって、エクスカリバーとプロヴィデンスは瞬く間にボロボロにされてしまった。
「くそ、ここまでかよ」
「今まで手を抜いていたと言うのか」
「お前たちの言葉で一つだけ正しいことがある。
お前たちなどいつでも落とせるが、あえて落とさなかったのは事実だ。
油断などではない。
お前たちにこの世界の終焉を見届けさせてやるためにだよ」
「なに!?」
「目覚めの時が来た。
最早お前たちに勝ち目はない。
いや、最初からなかったのだ」
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「シャロンの最終調整が終わりました。
何時でも行けます」
「・・・長かった。
目覚めてからずっとこの時を待ち望んでいた。
ようやく、世界は在るべき姿に戻る。
機動要塞エデン、浮上せよ!」
その言葉がトリガーとなりダイダロス基地で巨大な爆発が起きた。
その爆炎の中から何かが姿を現す。
その様子は、アークエンジェルでも観測されていた。
「なんだあれは!?」
「基地の内部から要塞?」
何かがあるとは確信していた。
だが、ダイダロス基地の内部にこれほど巨大な構造物が隠されていたとは思わなかった。
それでもやることは変わらない。
前進し、あの要塞を落とす。
「あれが私達が倒すべき敵。
ようやく姿を見せてくれたわね。
アークエンジェル、最大戦速」
壁として立ち塞がっていた七大罪も半数以下にまで数を減らしている。
今なら距離を詰めることが可能だと判断していた。
アークエンジェルに続くように艦隊が前進を開始しようとした時、ネームレスの要塞『エデン』が新たな動きを見せる。
要塞中央のタワーのような構造物に金髪の美しい女性の姿が映し出された。
「古き世界を・・・この混沌に満ちた世界を終わらせよう。
さあ、シャロンよ、その歌声を宇宙に響かせるのだ!」
タワーに映し出されたシャロンが歌い始める。
歌の影響は直ぐに出始めた。
エデンを中心に凄まじい出力のサウンドウェーブが広がっていく。
そのフィールドに囚われた兵士たちに次々と異変が起きた。
「「「「うわぁぁぁぁ!!」」」」
それは前線で戦っているエース達も例外ではない。
「ううぅ・・・駄目だ、この歌は・・・・・カガリ」
この歌に囚われてはいけないのに・・・意識が、心が、引き摺り込まれていく。
キラは、シャロンの歌に必死に抵抗しているがそのあまりの影響力によってあれほど近くに感じていたカガリの歌声すら、か細く、途切れがちになっていた。
デスティニーのコックピット内でもシンが頭を押さえている。
「俺の中に入ってくるな!
俺は・・・闇ラクスを守らなきゃ・・」
「私の心を勝手に作り変えようとしてんじゃないわよ!」
「シン、お姉ちゃん、大丈夫?
このままじゃ、まずいよ」
ルナマリアとメイリンも必死に抵抗しているが事態の悪化は止められない。
それでも諦めるなんてできない。
これまで歩いてきた道を、育んできた絆を、過去を乗り越えて成長した今の自分をこの歌は否定し、消し去ろうとしているのだから。
ムウとネオも歌の影響で苦しんでいた。
「・・・これがネームレスの切り札か」
「全ての人々の心をこうやって塗り替えていくつもりか!?」
「ふっふっふっ、そうだ。
穢らわしい原罪に汚染された心は浄化され、世界は楽園であった頃に戻る」
「人類は知恵の実を食べる前のアダムとイヴになる。お前らはさしずめ、その箱庭の楽園を管理する神を気取るってとこか?」
「真実、我らは神となる。
管理する上位者が必要なのだ。
放っておけば直ぐに滅びへと向かう、愚かな人類には!」
「人を舐めるな!」
「何故、人を信じようとする?
お前達も人類の愚かさを見てきたはずだ」
「お前達がいなければ人はその愚かさを克服することが出来ていたかもしれない。
私のような存在がいない世界があったかもしれないのだ。
だから、私はお前達を否定する!」
「なら、その無駄な足掻きを続ければいい。
お前達が原罪から解放される様を見届けてやろう」
くそっ!本当に余裕だな。
それほど長くは持たない。
今回ばかりは不可能を可能にするのは無理かもしれないな。
アークエンジェル:ブリッジ
「ぐっ、なんだ?意識が思考が変えられていく?」
「これがネームレスの歌姫の力だと言うの!カガリさん達は?」
「歌い続けています。
ですが、出力が違いすぎて僅かな抵抗にしかなっていません!」
「そんな・・・」
カガリさん達を超える歌姫をネームレスは用意していたなんて。
いえ、ローレライ・システムは元々彼らが作ったもの。
出力の差はハードの差なのかもしれない。
どちらにせよあの要塞を破壊しなければならない。
けど、あそこに辿り着くまでとても持たないわ。
私達は、ここまでなの?
歌の影響は連合軍だけに留まらなかった。
「ぐうぅぅぅ、なんで!?
七大罪として力を示せば僕とアスランは見逃してくれる約束なのに!」
ベルゼブブのコックピットの中でニコルも歌によって洗脳されようとしていた。
「ニコル、これで分かっただろう!
奴らに約束を守る意思などない。
世界の完全管理を望む奴らがそんなイレギュラーを残すわけがないんだ!」
「アスラン・・・すみません。
これが儚い
でも、縋らずにはいられなかった」
「分かっている。
お前みたいな優しい奴が世界を見捨てる決断をするのにどれ程の苦悩があったことか。
それでも、俺を救うために行動してくれたんだ。
否定なんか出来ないさ」
「そんなニコルの想いすら踏みにじるネームレスは許せない。奴らは撃たなければいけない存在だ」
「アレックス・・・だが、どうする?
ラクス・クラインの歌のお陰でなんとか踏みとどまっていられるが長くは持たない」
「この歌を止めるんだ。
あの要塞にあるローレライ・システムを破壊する」
「無茶ですよ!
あそこまでなんて、とても持たない」
「リミッターを外す」
「それこそ悪手だ。
下手にトランス状態になれば、歌による洗脳が一気に進んでしまう」
「あのタワーを破壊すること以外の一切を切り捨てるほど集中すれば歌も入ってこない」
「なっ、そこまで深く潜れば帰ってこれなくなるぞ。お前は破壊することしか考えられない殺戮マシーンに成り下がるつもりか!」
「それ以外に手はない。
自暴自棄になっているわけじゃない。
自分を捨ててでも守りたいものが出来たんだ」
その会話にイザーク達が割り込む。
「おい、そんな真似は許さんぞ」
「そうだぜ、ラクスの騎士になったんだろ?なら、彼女の元に帰って、これからも守り続けろよ!」
「すまない、イザーク、ディアッカ。
それでも俺はこの世界を守りたいんだ。
ラクスに平和になった世界を生きてほしい。
そこに俺がいなくてもお前達が守ってくれる。
お前達を信じているから安心して託せるんだ」
「アレックス・・・この馬鹿野郎が!」
「・・・分かった、止まれなくなったお前は俺が終わらせてやる」
イザークもディアッカも赤服を許されるほど優秀だったため正確に状況を把握できてしまっている。
歌姫による奇跡は望めない。
未来へ希望を繋ぐためにはアレックスの策しかない。
意図的にリミッターを外し、トランス状態になるなど誰にでも出来る事ではない。
その上、中途半端なトランス状態では、あっさりと洗脳されて終わってしまう。
後戻り出来ないほど深く集中する必要があるのだ。
そんな事が出来る能力と覚悟があるのはアレックスしかいなかった。
レヴィアタンの中でエレーナ・エンヴィーもシャロンの洗脳に晒されていた。
「何故だ!約束が違う!
私の怒りも憎しみも私のものだ!
勝手に消そうとするんじゃない!」
ネームレスが彼女をカーボンヒューマンとして復活させた時、組織に従う対価として自身の意思を尊重し、復讐に関しては好きにさせると言う取引をしていた。
だからこそ、彼女はその頭脳を使い組織の技術開発にも協力していたのだ。
なのに今、自分の意思は組織によって蹂躙されようとしている。
どれほど組織に対する恨み言を募らせようと応えは帰ってこない。
同じように洗脳に晒され、組織への恨み言を言っているグラトニーを見て思う。
どうやら私達は、切り捨てられる側だったようね。
何故、グラトニーに対して苛立ちを感じてしまうのか分からないが、今は少し共感してしまっていた。
共に望むものが有りながら、それを組織に踏み躙られている。
私から大切な人を奪っておきながら、奪った者達を許そうとする世界が許せなかった。
でも、それ以上に組織が許せない。
私を負の感情を持たない従順な存在へと変えようとしている。
世界を恨んだのは、それ程に失った人を愛していたから。
その感情を失うと言うことは、大切な人への想いも消えてしまうことを意味する。
嫌だ、あの人への想いを忘れたくない。
手放すものか!
最後まで抵抗してやる。
エレーナは、タワーに映る絶望の歌を響かせるシャロンの姿を睨み続けることしか出来なかった。