歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
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「戦場にいる兵士達の洗脳は進んでいるけど、想定よりも進行が遅いわ」
「カガリ達の歌によるものだね。
でも、所詮は儚い抵抗に過ぎないさ。
人間如きがシャロンに勝てる訳ないだろ」
「あまり侮るな。
シャロンは、あの3人の歌声から生まれた。
彼女達を圧倒するためにここまで時間を掛けて調整する必要があったのだ」
「分かっているから確信しているんだよ。
彼女達が如何に協力しようと、別々の人間でしかない」
「完全に調和させ、一つの歌声にしたシャロン程の出力は得られないでしょう?」
カガリ、ラクス、闇ラクスの3人のデータからシャロンの歌声は作られている。
だが、サウンドウェーブの出力は3人分を足したものではない。
3つのデータ間の相乗効果を完全に引き出しているのだ。
カガリ達がどれだけ心を一つにして歌おうと別人である以上、完全には重ならない。
歩んできた道も培ってきた価値観も違うのだから。
その違いが圧倒的な出力の差を生み出していた。
「戦場の趨勢は決した
計画を次に進めよう。
『レクイエム』発動」
猛威を振るっていたシャロンのサウンドウェーブの一部が指向性を持って放射された。
それは、地球の周りに浮かぶ人工衛星の一つに着弾し、地上に向けて送信していた信号にサウンドウェーブが乗る。
さらに次の人工衛星に向けて放射された。
サウンドウェーブを受信した人工衛星は地上への照射を始め、再び次の人工衛星へと放射していく。
これまで人類が打ち上げてきた人工衛星を使った地球全土へのサウンドウェーブの照射。
これがネームレスが用意した人類洗脳兵器レクイエムの全貌だった。
サウンドウェーブの照射を受けた地上の人々は、シャロンの歌声を聴きながら深い眠りへと落ちていった。
少しずつ、確実に彼らの洗脳は進んでいく。
次に目が覚めた時、彼らは元の彼らではなくなっているだろう。
ネームレスが計画していたコード・ローレライが最終段階へと入ってしまった。
歌姫達はシャロンの歌に碌な抵抗が出来ない自分達の無力さに打ちのめされていた。
この歌は許しておけない。
これは人の未来を奪うものだ。
なのに自分達の歌ではどうにも出来ない状況に焦りが募る。
特にラクスは殊更追い詰められていた。
待って!
アレックス、私を置いていかないでください!
側に居てくれると言ったではありませんか。
すまない、ラクス。
それでも君に未来を生きてほしい。
俺が命を賭けるには十分過ぎる理由だ。
ああ、止められない。
アレックスが自らを犠牲にしようとしているのは世界の為ではなく、私の為。
だからこそ、私の声では止まらない。
何故、私は守られることしか出来ないの?
弱いから。
自分の歌がこんなにも無力だとは思わなかった。
自分で自分が嫌になる。
クイーンなどではないと言いながら、心の何処かで自分は特別なのだと思っていた。
だから、自分の歌が通用しないことにこんなにも打ちのめされている。
私はどうしたい?
このまましゃがみ込んでアレックスを諦めて、世界の理不尽さを嘆くだけか?
自己嫌悪に陥りながらも自分の心と向き合う。
そうやって得た答えはシンプルだった。
いや、答えは最初から決まっていた。
歌が理不尽を強いてくるなら、歌で跳ね除けてやる。
諦めるな、カガリや闇ラクスから何を学んできた。
あの凄い彼女達が認めてくれたのだ。
だから、歌だけは誰にも譲らない。
どれほど相手が強大でも、アレックスを奪わせない。
アレックスが戻って来れないほど遠くに行くと言うなら、私の歌で呼び戻してみせる。
カガリは、ラクスの焦りを感じながら自らの醜さを自覚していた。
ラクスの心を心配しながらも、キラじゃなくて良かったと思ってしまう。
そんな私の前で、ラクスは更に強くなって立ち上がろうとしている。
凄い奴だ。
私なんかよりもずっと。
ラクスは私を凄いと思ってくれるけど、私はそんなに大した奴じゃない。
グレイスに裏切られていたことも未だに心に突き刺さっていて、完全に吹っ切れたわけじゃない。
頭では分かっている。
グレイスのことはもう割り切って、忘れるべきだと。
でも、無理なんだ。
私は世界よりもキラが大事だと思うような女だ。
グレイスとの思い出は、今も心の中で宝石のように輝いている。
切り捨てるなんて出来ない。
アレックスは自分の覚悟がラクスを傷付けると分かっていた。
それでも、彼女なら乗り越えてくれると信じていた。
やっぱりラクスは強いな。
ラクスが再び立ち上がり、より強く、美しい輝きを放とうとしている。
どれほど深く潜ろうと、必ずそこまで歌声を届かせてみせる。
そんなラクスの意思に包まれて、アレックスは別の覚悟も決めた。
ネームレスの野望は阻止してみせる。
だが、ラクスの下に戻ることも最後まで諦めない。
俺がどんな状態になっても、ラクスの歌だけは聴き逃したりしない。
そう信じることが出来た。
新たな覚悟を決めたアレックスが吶喊を開始しようとした正にその時、戦場に新たな船が侵入してきた。
その船から全周波数で通信が届く。
「カガリ、負けないで!」
「その声は、グレイス!?」
「相手は、貴女達のデータで作られた機械仕掛けの歌姫シャロン・アップル。
確かに強大だけど、カガリなら勝てるわ」
「グレイス・・・どうして?
お前、裏切ってたんじゃ」
この場にグレイスが現れたことに驚き、戸惑うカガリ。
そんなカガリにグレイスと共に乗り込んでいたアズラエルが答える。
「グレイスさんは裏切っていませんでした。
あれは別の人格だったんですよ。
彼女の頭の中に医療用に偽装されたチップが埋め込まれてました。
そのチップが特定の脳波パターンの信号を脳に流し続けることで神経ネットワークを徐々に作り変え、別の人格が身体を乗っ取っていたんです」
「な、なんだと!」
「おそらくユーラシアから帰還後、腕の治療の為に入院した時に埋め込まれたのだと思います。
それから、ゆっくりと時間を掛けて人格を侵食していったんです。
末端に指令を伝えるメッセンジャーは、この技術が使われていたんでしょう」
恐ろしい技術です。
ネームレスと何の関係もない一般人が、ある日、突然、組織の一員として動き出す。
中枢にたどり着けない訳ですね。
「ですが、グレイスさんはカガリさんのマネージャーとして、ずっと近くで歌を聴き続けていたことで彼女の人格はぎりぎり踏み止まることが出来ていた。
貴女の歌がグレイスさんを守っていたんですよ」
「グレイス・・・良かった」
「更にグレイスさんが生還したお陰でネームレスの中枢の情報を得ることが出来ました」
外科手術でチップを取り出した後、カガリの歌を聴くことで徐々に本来の人格を取り戻していった。
その過程でグレイスの身体を乗っ取っていた人格が持っていた知識も取り込むことに成功していた。
「ええ、ネームレスの中枢は今、あの要塞エデンの中央、シャロンを映し出しているタワーの中にいるわ。
シャロンをコントロールする為の制御ユニットの中にね」
「制御ユニットの中?」
「ええ、彼らは人間ではないの。
情報知性体とでも言うべき存在」
「「「「情報知性体!?」」」」
カガリと共に聞いていた面々も驚きの声を上げる。
「いつか生き返ることが出来るようになると信じて、大昔の人間が保存していた脳神経ネットワークモデルの成れの果てです。
そうでしょう?
クロード・ルシフェル!」
アズラエルがエデンに向け、鋭い声を叩き付ける。
その声に沈黙を貫いていたエデンから初めて答えが返ってきた。
「まさか、グレイスの人格が生き残っていたとは。
だが、それでどうなる?
すでに世界はレクイエムに包まれつつある。
古き世界は終わる。
手遅れだ」
「そんなことないわ!
まだ世界は終わっていない。
私はカガリを信じている!」
「何を言うかと思えば・・・くだらん。
現実が見えていないようだな。
シャロンの圧倒的な力の前にお前の歌姫は何も出来ていないではないか」
「確かにシャロンのサウンドウェーブの出力は桁違いね。
出力を最大にすることだけを考えて調整したんでしょう。
物事を効率でしか考えないあなた達らしいわ。
でもね、歌には効率だけじゃ測れない力がある!」
「与迷いごとを!
データで測れないものはない。
そのデータがシャロンが最強の歌姫であると示しているのだ。
どう足掻こうとお前達は勝てない」
「あなた達は歌の本質を理解していない。
歌は人の心を動かす魔法。
効率だけで心が入っていないシャロンの歌は空虚なもの。
心こそが歌を魔法にする力。
だから私は信じてる。
カガリ、貴女なら偉大な魔法使いになれるって」
グレイスの声に迷いはなく、カガリに向ける眼差しには確かな信頼があった。
グレイスの言葉が、向けられる想いが、カガリの背中を押してくれる。
カガリの胸に刺さっていた何かが消えていった。
「ありがとう、グレイス」
お前が信じてくれるなら、私はどんな偉大な魔法使いにだってなってみせる。
私の心に最後まで刺さっていた棘はもう存在しない。
今なら出来る、歌に乗せて心の全てを宇宙に解放するんだ。
シャロンの歌声、その圧力を前に押し潰されそうになっていた。
でも、グレイスの言葉を聞いた今なら分かる。
この歌声は空っぽだ。
出力が高いから押し流されてしまいそうなだけで、本当の意味で心に響かない。
こんな歌に負けると思っていたさっきまでの自分が情けない。
やりたい事、やるべき事、出来る事、全部同じだ。
私を信じて前線で戦っているキラの為に、不甲斐ない私の背中を押してくれたグレイスの為に、ただ心を込めて歌う。それだけだ!
私の憧憬は間違ってなんかなかった。
確かにシャロンの歌は心を震わせるようなものではない。
それでも、その圧倒的な出力で押し潰されようとしていた現実は変わらない。
そんな状況で二人は立ち上がり、更に強く輝こうとしている。
彼女達の真価は特殊な歌声なんかじゃない。
心の強さこそが本質。
このステージに立っているのは、むしろ必然だわ。
叶わないな・・・そう思う自分もいる。
「こふっ!」
吐血する間隔が短くなってきた。
喉の限界はとっくに超えている。
だけど、途中でステージを降りるつもりなんてない。
彼女達は本物で、私は紛い物。
そんな事は自分が一番わかっている。
紛い物で何が悪い!
そう胸を張れるようになった。
一瞬だって構わない。
私は輝くために生まれてきたんだ。
1秒1秒に全てを懸けろ。
主役は譲らない。
これが私のラストステージなんだから!