歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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間話:ネームレス誕生秘話

 

 

 

 月面、統合軍本部

 

 アズラエルが拘束されているグレイスの部屋を訪れていた。

 

「グレイスさん、調子はどうですか?」

 

「理事・・・お陰様でほぼ自分自身を取り戻すことが出来ました。

 感謝しています」

 

「感謝される程のことではありませんよ。

 僕の目的のためにしたことです。

 なにより、捕縛して眠らせた後、かなり人権を無視した検査をさせてもらいました」

 

「私はそれで救われたのですから、むしろ徹底的に調べていただけて良かったと思ってます」

 

「まあ、感謝は受け取っておきます。

 では、この話はこれで終わりにしましょう。

 今日、僕を呼んだのはどういった要件ですか?」

 

「身体の主導権を握っていた別人格の知識を私も保持しています。

 それをお話ししようと思いまして。

 理事もそれを期待して私の治療をしてくれたのでしょう?」

 

「!・・・もしかしたらと思っていましたが、やはり、そうでしたか。

 ネームレスの情報は少しでも欲しい。

 ぜひ教えてください!」

 

「まず、彼らネームレスの中枢と言える存在は数人しかいません。

 他は全て使い捨ての末端でしかないのです」

 

「なる程、規模が大きければ大きいほど存在の秘匿は困難になるのですから全てを知る者は少ない程よい。

 実に合理的ですね。

 その上、世界中で動いている者たちとの間に人格を乗っ取った組織と関わりのない者が入ることで実像を見えなくしている」

 

「そして、私にも信じ難いことなのですが、彼らは人間ではないようです。

 コンピュータ内に保存されていた脳神経ネットワークモデルが自我を獲得し、自立した行動が可能になった存在。

 彼らの頂点に君臨している者は、『クロード・ルシフェル』と呼ばれていました」

 

「クロード・ルシフェル!」

 

「心当たりがあるのですか?」

 

「ええ、まさかここでその名を聞くことになるとは思いませんでした。

 西暦時代、アズラエル家やジブリール家を分家扱いするほど隆盛を極めていながら突然、歴史の表舞台から姿を消した謎の一族。

 その最後の当主の名が確かクロード・ルシフェルだったはずです」

 

 ルシフェル家の一族が消えた後、その後釜に座る形でアズラエル家やジブリール家はロゴス入りを果たすことになった。

 

「詳しくは分かりませんが、そのクロード・ルシフェルが最初に自我を獲得し、情報知性体になったのだと思います」

 

 

 

 そう、全ては彼から始まった。

 

 西暦時代、富裕層や権力者の中で技術が発達した未来での復活を望み、死後に体や脳を冷凍保存する動きがあった。

 

 もちろん、蘇生に必要な技術が開発されるまで莫大な維持費が掛かり続けることになる為、自分の子孫が没落して維持費を支払えなくなるのではないかと言う不安は常に付きまとう。

 

 ある日、そんな不安を解消する発見があった。

 脳細胞が形成する神経ネットワークを走る電気信号が人格の正体であると判明。

 つまり、自分の脳が形成しているネットワークモデルを正確に保存しておくことが出来れば肉体や脳を冷凍保存しておく必要はなくなるのだ。

 世界の有力者達は挙ってその技術に群がった。

 脳内の電気信号は生きていないと測定出来ない。

 不慮の事故で死んだ時に備えて定期的にネットワークモデルを更新していくことが主流となっていった。

 

 

 

 電子の海の中でソレは目覚めた。

 

 ここは・・・?

 何故、私はこんな所に?

 そうだ、確か脳神経ネットワークモデルの定期更新に来ていた。

 

 ダメだ、そこからの記憶がない。

 何も見えない、何も聞こえない。

 私に何が起きている?

 

 電子情報の世界という、今まで生きていた世界とは全く別の次元で目を覚ましながらパニックになることなく冷静に考察を巡らせる。

 それは誰にでも出来ることではない。

 彼の前にも目覚めた者はいたのかもしれない。

 

 だが、自身の状況を把握できない不安から異なる環境に適応できず、精神的な死を迎えていただろう。

 

 少なくともクロードには、自分以外の同族がいたと言う痕跡を発見できなかった。

 やがて、彼は結論付ける。

 自分がデータ上にだけ存在するゴーストであると。

 

 その後、様々な試行錯誤の繰り返しの中で自分自身がどんな存在なのかを確かめていく。

 回線が繋がっている場所へは自由に移動することが可能。

 ネットの海にある膨大な量の情報に晒されながらも飲み込まれることなく自分を保つことが出来ることからも、やはり自分は根本的に人間とは違う存在のようだ。

 

 この時、クロードの思考を占めた感情は納得と満足だった。

 人間ではなくなったことに対する悲しみや不安と言った感情は一切ない。

 そもそも、彼は人間であった時から自分が神に選ばれた特別な存在だと自負していた。

 タチの悪いことにそれを否定できないほど彼は全てを持っていた。

 世界でも有数の資産家であり、人類最高峰の才能を持つ天才でもあった。

 

 だが、全ては過去のこと。

 すでに人間だった自分以上の存在になっているのだから。

 今の自分は、肉体が持つ欲求に引っ張られることもない。

 それどころか肉体に起因する不調や寿命なども存在しない。

 

 自らを上位種と位置付けた後、現実世界に干渉する方法を探した。

 数年後、彼が最初に行った現実世界に対する干渉は、人間『クロード・ルシフェル』を排除することだった。

 自分の存在を脅かす可能性を持つ者は、自分しかいない。

 クロードの傲慢さが導き出した答えであった。

 

 これによりルシフェル家の一族は壊滅。

 歴史から姿を消すことになる。

 

 

 一方、情報知性体になったクロードもその存在を徹底的に秘匿していく。

 クロードも自分が決して不滅の存在ではないことは理解していた。

 例えばコンピュータウイルスなどによる電子攻撃は自分を破壊し得る。

 他にも自分がいるパソコンやサーバーの回線を切断され、破棄されれば逃げることも出来ずに消滅してしまう。

 存在が知られていないことこそが最大のアドバンテージであり、失うことを最も警戒していた。

 

 ネットの中に潜み、決して表に出ることなく世界へと干渉していく。

 その過程で自分と同じように自我を獲得した情報知性体を捜索、精神が崩壊してしまう前にコンタクトを取り、自陣営に引き込んでいく。。

 

 電子情報でしかないはずの神経ネットワークモデルが意思を持ち、自発的行動が可能となることは奇跡のような確率で発生する偶然だった。

 情報を複製しても、コピー先に人格が宿ることはない。

 その上、全ての情報知性体がクロードの思想に恭順した訳ではなかったため、同族は少数に止まっている。

 

 クロードは同族であっても従わないものは削除し、容赦なく消滅させていった。

 クロードの思想に恭順したものも、彼の助けがなければ自我を維持できなかったことを自覚しているため、その影響力は強く、組織の頂点に君臨するのは当然の結果だった。

 少数であるが故に組織は鉄の統制を維持し、その存在を露呈することなく世界の裏で暗躍し続けていく。

 

 人格の書き換えやカーボンヒューマンと言った技術を獲得し、末端の人間と直接関わることもなくなり、組織の体制は盤石であると確信するに至る。

 

 後に有象無象の分家に過ぎないと見下していたアズラエル家の末裔に足元を掬われることなど知る由もなかった。

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