歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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心震わせて

 

 

 

 宇宙に響いていた歌姫達の歌が三度変わる。

 初めて戦場で対峙した時は互いの主張をぶつけ合った。

 次いでトゥルーザフトとの戦いにおいては闇ラクスからローレライ・システムの本質を教えられ、互いの個性を活かしながら一つの調和した音楽を作り上げた。

 そして今、その調和が崩れる。

 

 ラクスが闇へと沈みかけるアレックスの心を繋ぎ止めるためになりふり構わず歌い始めた。

 個性を活かすと言っても、他の二人と歩調を合わせている以上限度がある。

 全員が高い実力を持つが故に完成度は高いものとなるが他人に合わせているため、どうしても窮屈な中で歌うことになってしまう。

 それでは自分の想いの全てを伝えることが出来ない。

 ラクスは今、自分が最も歌いたい歌を選んだのだ。

 

 

 カガリも己の心が望むままに歌を紡ぎ始めた。

 シャロンのサウンドウェーブの出力を前に自分も出力を上げることばかり考えてしまっていた。

 私は元々難しいことを考えるなんて向いていないのに、出力だ何だと変に考え込んでしまっていた。

 グレイスに教わった歌の本質はそんな所にはないって言うのに。

 私は、私の心を震わせる歌を歌う。

 自分自身の心も震わせられないような歌が他人の心を震わせられるものか!

 シャロン、確かにお前の歌には凄い力がある。

 でも、それは魔法じゃない。

 本物の魔法ってやつを見せてやる。

 

 

 闇ラクスは、二人の歌に心を震わせていた。

 ああ、二人の心が伝わってくる。

 私も二人のように歌いたい。

 心が望むメロディーを自然と口遊んでいく。

 これこそが音楽の本来の形。

 なのに、シャロンの出力に対抗するために無理矢理一つに重ねようとしていた。

 相手の土俵に立っていたようなもの。

 そもそも、勝とうと思うことが間違いだったんだ。

 もう間違えない。

 勝つために歌うんじゃない。

 聞いて欲しいから歌うんだ。

 そんな、力で無理矢理心を捻じ曲げるような歌なんかより・・・

 

「私の歌を聴けーーーー!」

 

 

 

 ネームレス中枢

 

「カガリ達のサウンドウェーブの出力が低下していくわ」

 

「3人の歌がバラバラになっている?」

 

「焦りから自分の得意とする歌に走ったか。

 全体の調和より己の望みを優先する愚かな人間らしいじゃないか」

 

「これで本当に終わりだ。

 今まで間借りなりにもシャロンに抵抗できていたのは、3人が協力していたから。

 それぞれが好き勝手に歌えば秩序が失われることなど分かりきったことだろうに」

 

「それが人間と言うものだ。

 絶望を前にしても、信念を貫けば奇跡を起こせると思い込んでしまう。

 だが、現実は物語とは違う」

 

「いいや、彼女達はそんなに馬鹿じゃない。

 本当は勝てないって分かっているんだ。

 だから、あれは滅びの美学ってやつさ。

 どうせ負けるなら最後は信念に殉じる。

 美しいものじゃないか」

 

 ネームレスの中枢である情報知性体は、勝利を確信していた。

 ただでさえシャロンの出力が圧倒していた。

 そこに来て歌姫達は空中分解を起こし、バラバラに歌い始め出力を落とすような真似をし出したのだ。

 データは完全にネームレスの勝利を示していた。

 奇跡など起きない。

 奇跡とは、結果を導き出す計算式に組み込まれた変数が引き起こす出力値の変動よって結果が逆転するものでしかない。

 シャロンと歌姫達の間に変数の値がどうなろうと結果が変動しないほどの差があるとデータが示している。

 故に彼らは、戦場で起きる変化を予測することが出来なかった。

 

 シンが、キラが、アレックスが・・・

 いや、戦場の誰もが心を震わせていた。

 シャロンの歌は、今も心を捉えようと働き掛けている。

 だが、もう引き込まれることはない。

 シャロンの歌声に比べれば遥かに小さい。

 なのに、確かに聴こえてくる。

 そして心を揺さぶり、正気に戻してくれるのだ。

 心の底から放たれる魂の叫び(シャウト)のような歌声は、たとえ小さくとも掻き消されはしなかった。

 

 

「バカな!

 洗脳が完全に止められている!?」

 

「どう言うこと?

 データではもうとっくに終わっているはずよ!」

 

 次々に兵士が正気へと戻っていく。

 完全に止まっていた艦隊が再びエデンへと進軍を開始する。

 この戦場においてシャロンの歌声は力を失っていた。

 

「歌は出力を競い合うものではないわ。

 遥か昔から心を、魂を震わせるために紡がれてきた。

 人類を効率よく管理することしか考えない貴方達には理解できないでしょうけど」

 

 グレイスの啖呵にエデンは沈黙する。

 彼女の言葉のままにカガリ達の歌はシャロンを上回って見せた。

 戦場にいる者達を洗脳することはもう出来ない。

 エデンを落とせば、この長く続いた戦争も終わる。

 ネームレスが暗躍することのない未来がそこまで来ている。

 ようやく、人類は自分自身の意思で未来を選び取ることが出来るようになるのだ。

 

「ふふふっ、ふははははは!

 見事だ、グレイス。

 歌の本質か、確かに私の理解を超えていた。

 シャロンが負ける要素などなかった。

 だが、現に洗脳は阻止されている。

 認めよう、お前達の勝ちだ」

 

「ルシフェル!?」

 

 突然の敗北宣言に他の情報知性体も動揺を隠せない。

 

「だが、その勝利に意味はない。

 お前達が、この戦場での洗脳を防ごうと世界はレクイエムに包まれている。

 こうしている間にも人類の洗脳は刻一刻と進んでいるのだ。

 理想の世界、楽園の創造は止められない。

 そして私は、新世界の神となる!」

 

 人間だった頃のクロード・ルシフェルは、欧米に起源を持つ白人であった。

 そのため、彼の価値観はキリスト教の影響を色濃く受けている。

 彼が考える理想の世界とは神に従順な者しか存在しないアダムとイヴが追放される前の楽園。

 情報知性体になった時、彼は確信していた。

 神となり、世界を再び楽園へと戻すことが自分に与えられた運命なのだと。

 

「そんなことさせないわ!

 ここで貴方達を討ち、シャロンを破壊すれば計画は終わりよ」

 

 マリューの言葉は希望的観測ではない。

 事実、連合艦隊はエデンを射程に捉えつつある。

 総攻撃を掛け、要となっているシャロンとネームレスの中枢を破壊すれば、世界はようやく自由を手にすることが出来るのだ。

 

「確かにその通りだ。

 出来るのならな!」

 

 ルシフェルの言葉と共にエデン内部から多数の機体が出撃してくる。

 それは、100機以上に及ぶサタンの群れだった。

 当然、その全てにラースが乗っている。

 サタンは、七大罪の専用機の中で唯一の量産機。

 つまり、数を揃えることを前提とした機体だ。

 

「嘘でしょう。

 たった一機であれほど手を焼いたのに」

 

「この場で相手を倒せば勝利。

 それはこちらも同じこと。

 ここでお前達を殲滅し、楽園創造は滞りなく遂行される。

 何も問題はない」

 

「くっ、まだよ!

 トゥルーザフトのライトマンを討った時と同じ、シャロンさえ破壊できれば!」

 

「シャロンさえ破壊すれば、そう考えているのだろう?

 そんなお前達に絶望を教えてやろう」

 

 エデンがバリアに包まれる。

 アルテミスと同じ。

 それは、ジェネシスの一撃すら防いだ鉄壁の防御。

 

「これで万に一つの可能性も潰えた。

 お前達はここで全滅し、新しい世界が始まる。

 神への供物となることを光栄に思うがいい」

 

 盤上は既に完成している。

 戦場でのシャロンの影響力を無効化されたのは想定外であったが、大局的には何の意味もない。

 光波防御体を強引に突破できる手段は存在しない。

 そして、100機を超えるサタンは奴らを殲滅するには十分すぎる戦力だ。

 イレギュラーな事態が起きてもプライドが対応するだろう。

 最後まで抵抗することを選んだ愚か者達が全滅する様を見届けてやろう。

 

 

 

 一方、連合軍側は重い空気に支配されていた。

 目の前には一機でも多大な被害をもたらしたサタンの群れ。

 それだけでも絶望的だが、その壁を抜けても要塞はバリアによって難攻不落。

 現状、あのバリアを抜く方法は存在しない。

 万事休す。

 もはや手はないかに思われた。

 

 

「ラミアス艦長、あれを使いましょう」

 

「理事、あれとは?

 ・・・まさか!」

 

「ええ、あれですよ。

 監視の目が届かないことを良いことにヘリオポリスに出向していた技術者達がやらかした報告を聞いた時は頭が痛かったですが、こうして使う機会が来るとは、何が功を奏するか分かりませんね」

 

「本気ですか?」

 

「もちろん、艦長も分かっているでしょう?

 エデンのバリアを貫くにはこれしかない」

 

 アズラエルの提案はマリューにも理解できる。

 アークエンジェルに搭載された機能を使ってエデンを撃つ。

 確かに理論上は可能だ。

 けど、実際に可能なのか?

 

 これまで使わなかったのは情報を秘匿するためではない。

 使う機会がなかったのだ。

 これからも使う機会はないと思っていた。

 それ程に使い道に困る機能だった。

 

 

 アズラエルとマリューの会話を聞いていたブリッジクルーが騒めく。

 この絶望的状況をどうにか出来る可能性があると言うのか。

 

 クルーの目が希望に輝いている様子を見て、マリューも覚悟を決めた。

 手をこまねいていていれば世界が滅ぶ。

 ならば、例え可能性が低くともこれに賭けるしかない。

 

 マリューが懐からカードキーを取り出し、艦長席のスロットに差し込む。

 

「艦長権限によりロックを解除。

 これよりアークエンジェルはバトルモードに移行します!」

 

「か、艦長!

 まさか、本当にあれを使うつもりですか!?」

 

「ナタル、貴女も分かっているでしょう?

 あのバリアをどうにかするにはこれしかないわ。

 他にあるとすればアルテミスをぶつけるくらいかしら?

 でも、今からでは間に合わない」

 

 マリューの言葉にナタルは反論の言葉を失う。

 ナタルとて分かっているのだ。

 常識的な手段ではこの状況を打破出来ない。

 同じ光波防御体を展開したアルテミスによる質量攻撃のような非常識な手段が必要。

 あまりに常識から外れすぎて受け入れ難いだけで、他に手段がないことは理解していた。

 

「私は貴女を、共に戦ってきたクルーを信じてる。

 だから、ナタルも私を信じて力を貸してくれないかしら?」

 

「・・・やっぱり貴女は狡い人だ。

 そこまで言われて断れるわけないでしょう。

 艦長を信じますよ。

 ノイマン中尉!」

 

「いつでも行けます!」

 

「アークエンジェル、トランスフォーム!」

 

 戦艦であるはずのアークエンジェルがその姿を変えていく。

 その様子を見て、味方の艦隊はおろか敵であるエデンのルシフェル達さえも驚愕のあまり思考を止めてしまっていた。

 

 変形を終えたアークエンジェルの姿は、ガンダムフェイスを持つ300メートル級の巨大なモビルスーツだった。

 艦中央に取り付けられていたローエングリンαが分離し、左手で保持する。

 戦艦の主砲だったそれがまるでビームライフルのように見える。

 

「続いて、ピンポイントバリア起動!」

 

 アークエンジェルの右手はバリア発生デバイスになっている。

 これにより、アークエンジェルの拳がバリアに包まれる。

 しかし、これで殴ってもエデンのバリアを破壊することは出来ない。

 如何にアークエンジェルでも要塞を前にすれば質量が足りないからだ。

 

「バリア発生デバイス、回転開始!」

 

 質量不足を補うために右手が高速で回転し始める。

 その結果、バリアは渦のような流れを作り、ドリルを形成した。

 貫通力に特化したこれならば理論上エデンのバリアを貫くことが出来る。

 アークエンジェルの右舷にバリアントが装備されていなかったのは、この機能を持たせるためだった。

 

「人が人として生きていける未来のためにエデンを落とす。

 アークエンジェル突撃!

 モビルスーツ隊は、エデンまでの道を切り開け!」

 

 マリューの号令にキラ達が動く。

 いや、彼らだけではない。

 戦場にいる全ての兵士達が、艦艇がアークエンジェルの前に出て、道を切り開くために命を賭して戦い始める。

 目の前にはサタンの群れ。

 これをどうにかして、アークエンジェルをエデンまで送り届けなければならない。

 容易な事ではない。

 むしろ不可能に近いと言ってもいいほと困難なミッションだ。

 それでも怯むことはない。

 彼らも大切な、守りたいものがある。

 負ければそれが失われるのだ。

 ここで命を張れないなら、何のための軍人か!

 望む未来へと続く道をこじ開けるための最後の戦いが始まった。






作者の勘違いでアークエンジェルの右舷にバリアントが装備されていませんでしたが、バレルロールのためにそのままにしてました。
それをようやく布石として活用できました。
劇場版を見て、衝角突撃と迷いましたが当初の設定通りにしました。
※そうしないとバリアントの整合性が取れない(^_^;)
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