歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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今回は過去の話になります。
エイプリルフールクライシスの時、行方不明になったカガリが絶望の中で世界の人々の心を救うために歌う覚悟を決めるお話。
この回は、人肉食表現があるので注意。


間話:絶望の中のカガリ

 

 

 アークエンジェルの一室でカガリは、宇宙を見ながら思い出していた。

 ザフトが引き起こしたエイプリルフールクライシスと呼ばれる惨劇の最中で起きたことを。

 あの日、ワールドツアーで世界を巡っていたカガリ達は、次のライブ会場となるユーラシアの都市までチャーター機で移動していた。

 夜間のフライトで、明け方には空港に到着するはずだった。

 

 最初に異常に気付いたのは機長だった。

 明るくなってきた空の中、前方に山岳地帯が見えて来た。

 予定の航路では山岳地帯など通らないはず、なんらかの理由で航路を外れてしまったのだ。

 だが、計器に異常は表示されていない。

 オートパイロットも正常に作動している。

 今まで経験したことのない異常事態にベテランの機長も動揺するが、とにかく空港に連絡して事態を把握しようと無線を繋げる。

 

「駄目だ、無線が通じない」

 

「機長、どうなっているんですか?」

 

 経験の浅いサブパイロットの同僚が聞いてくるが、機長にとっても初めての事態のため分かるはずもない。

 

「GPSの位置座標もおかしいです。この座標なら、もう都市が見えてるはずです」

 

 周りは広大な森林地帯で、前方には山岳が広がっている。

 それでも、計器は異常を示さない。

 

「こんなの、まるでオフラインになったみたいだ。外部からの電波もGPS信号も完全に遮断されれば、こんな風になるかも」

 

「なる程、異常は機体じゃなく世界の方か」

 

「何言ってるんですか機長、ここは地下鉄じゃないですよ。電波どころかGPSすら無いなんて、ネット小説みたいに異世界にでも迷い込んだって言うんですか!」

 

「そうではない、ザフトが近々大規模な作戦を行うって噂があっただろ」

 

「ええ、確かにありましたが」

 

「奴らが大々的に電波の伝わりそのものを妨害しているなら納得できる」

 

「本来の航路からだいぶ流されてるはずですが、未だに通信が繋がらないですよ。それに、そんな特殊な妨害、可能なんですか?」

 

「異世界とやらに迷い込むよりは可能性が高いだろう。それより、今、問題なのは燃料だ。フライトは朝方までの予定だったんだ。そう長くは飛んでいられない」

 

「そうですね、あのカガリ・ユラを乗せて墜落なんてシャレになりません」

 

「なんとか着陸出来そうな場所を探すんだ」

 

「了解」

 

 コックピットに一人の女性が入ってきた。

 カガリのマネージャーを務めるグレイス・オオタである。

 

「機長、何かあったんですか?そろそろ到着予定のはずですが」

 

 機長は状況を説明し、席に戻ってカガリとシートベルトを着けて着陸の衝撃に備えるよう指示する。

 グレイスは、すぐにカガリの所に戻っていく。

 

 その後、燃料が尽きたため森林地帯に胴体着陸を強行、なんとか機体が爆散することなく着陸する事が出来た。

 木々を薙ぎ倒しながら進んでいた機体が停まっている事に気付いたカガリ達がコックピットに入った時、その惨状に言葉を失った。

 コックピット窓を突き破った木の枝で、サブパイロットは頭を貫通して即死していた。

 機長も胸に突き刺さっていて、長くは持ちそうにない。

 

「ダニエル機長、大丈夫か!」

 

 カガリが機長に声をかける。

 フライト前に顔を合わせた時、娘が大ファンだと言っていた。

 記念にとツーショット写真に応じた時、帰ったら娘に自慢できると笑っていた顔を思い出し涙が溢れてくる。

 

「カ・・・ガリさん、機体の・・左・手に・・町が・・」

 

「機長、しっかりしてくれ。死ぬな!」

 

「カガリ、機長はもう・・・」

 

 機長は、もう息を引き取っていた。

 着陸直前に見えた町の情報を伝えることが出来たのは、彼のパイロットとしての意地だったのかもしれない。

 

 その後、カガリとグレイスは機体から食料などの荷物を持ち、機長が言っていた町を目指して歩き始めた。

 それが、長い地獄の中の旅の始まりだとも知らずに。

 

 なんとか食料が尽きる前に、町にたどり着くことが出来た。

 この頃はまだ平穏を保っていた。

 突然の停電と通信障害で外部と連絡が取れなくなった事に混乱していたが、すぐに復旧する、あるいは救援が来ると皆が思っていた。

 カガリ達が来た時も、有名人が来てくれたと歓迎されたくらいだった。

 だが、さらに数日が経っても電気も通信も回復する様子はなかった。

 町の住民達の雰囲気も悪くなり、諍いが増えた。

 暴動が起きるのも時間の問題だった。

 そんな時、町に声が響く。

 

「私の歌を聴けーーーー!」

 

 町の空気を変えようと、広場で争っている人々の前に立ち、歌い始める。

 住民達は、恥じていた。

 わずかな食料や燃料を巡って醜く言い争う姿を見て、それを止めるために姿をさらして歌うなんて。

 世界的に有名な歌手とは言え、年若い少女だ。

 怖くないはずがない。

 気がつくと、争うことを止め、歌に聴き入っていた。

 歌い終わると、カガリは住民達に語りかける。

 

「この事態が何時まで続くのかと不安になるのはわかるよ。でも、こんな時だからこそ、生きるためにみんなで協力しなきゃダメだ。私も出来る限りの事をするから、みんなにも助けてほしい」

 

 住民達は、生きるために自分に出来ることを始めた。

 山菜の知識がある者は、森に入り採取した野草を皆に提供した。

 猟銃を持ち、趣味で狩をしていた者は、鳥や動物の肉を持ち込むようになった。

 手の空いてる者は、彼らの手伝いをしたり、森の木を切り燃料にする木材を確保する。

 カガリ達も彼らを手伝い、夜には彼らのために歌う。

 このコミュニティーは、生き残るために一つに纏まっていった。

 この状況に町長達、町の役人達はカガリに感謝していた。

 彼女がこの町を訪れなければどうなっていたか。

 住民達は協力し合えず、酷い争いになっていただろう。

 自分達に、それをどうにかする力がないことも自覚していた。

 だから、彼らも自分が出来ることをする。

 カガリ達と住民達がスムーズに協力できるように間に立ち、計画を立てて進めていく。

 こうして、この町は奇跡的なほどの治安を維持していく。

 しかし、エイプリルフールクライシスから一月が経とうとする時、この町は失われる事になる。

 略奪者となった多数の暴徒達に襲われ、住民達の殆どが殺されるか散り散りに逃げていった。

 カガリ達も突然の襲撃に混乱する中、町を脱出し逃げ延びていく。

 

 町から離れた森の中、カガリとグレイスは身を潜めていた。

 

「どうやら、逃げ切れたようですね」

 

「なんでこんな、彼らはなんで町を・・・」

 

「おそらく略奪・・・でしょうね」

 

「そんな!」

 

「救援は来ない、外部との連絡もつかない、事態は私たちが思っていたよりも深刻なのかもしれない。物資や食料を得るために殺し合わなきゃいけない程に」

 

 今までいた町が例外だったのだ。

 他の地域の住民達は、助け合うのではなく奪い合っていた。

 信じる事より疑う事の方が、遥かに簡単なのだから。

 何より、エネルギーを失った事により人口の多い大都市ほど被害は大きく、暴動や略奪が多発していた。

 

「カガリ、北へ行きましょう」

 

「グレイス?」

 

「町長から聞いたの。ここから北へ200㎞程行ったところにユーラシア軍の大きな基地があると。そこで保護してもらえば、オーブが迎えに来てくれるわ」

 

「ここにいる彼らはどうする、私たちだけが助かればいいのか?」

 

「今、私たちには彼らを助ける力がない。オーブに帰ってから、手を差し伸べればいいじゃない」

 

「私は無力だな。町が襲われた時、何も出来なかった。町の人達が逃がしてくれなきゃ、死んでいたかもしれない」

 

「カガリには力があるわ。歌っていう力が」

 

「歌で彼らを止めるなんて無理だ、彼らが奪おうとするのは生きるための食料や燃料が必要だからだろう?」

 

「確かに今は届かないでしょうね。でも、私は信じてるの、歌は魔法だって」

 

「魔法?」

 

「ええ、何の物理的な力もなく、主観にしか影響を与えない音と言葉の羅列。でも、古くから人類と共にあり、人の精神に影響を与え続けてきた。神秘が否定された今も残る唯一の魔法、それが歌よ」

 

「歌が魔法か・・・」

 

「人は強い、絶望的状況下でも必ず立ち上がる時が来る。その時にきっと、カガリの歌でみんなを救うことが出来るわ」

 

「そうかな?」

 

「ええ、だから今は生き延びて基地を目指しましょう」

 

 そこからの旅は困難を極めた。

 直線距離にして約200㎞だが、真っ直ぐ進める訳でもない。

 略奪者を避けながら、自分達の食料も探さなければいけない。

 遅々として進まない旅路に何度も挫けそうになった。

 心が折れてしまわなかったのは、グレイスが一緒に居てくれたからだ。

 女の二人旅は危ないとカガリを男装させた。

 挫けそうになるカガリを励まし、僅かな食料を得るために男に身体を売るような事もあった。

 そうして得た食料を惜しげもなくカガリに分け与えてくれた。

 カガリが泣きながら、次は私がすると言い出した時も窘められた。

 子供にそんな事はさせられない、大人に格好つけさせなさいと。

 どうして彼女は、こんなにもしてくれるのだろう。

 グレイスは、幼いカガリに歌を教えてくれた近所に住む優しいお姉さんだった。

 父親のウズミは、忙しく家にあまり居なかった事もあり、寂しさを感じていたカガリは毎日のようにグレイスの所に行き、歌をせがんでいた。

 そんなカガリに嫌な顔一つせずに楽しそうに歌ってくれた。

 最初は大好きな姉のような彼女と一緒にいるために歌っていたが、いつの間にか本当に歌が好きになっていた。

 そんなカガリに本気で歌手を目指さないかと勧めてくれたのも彼女だった。

 芸能事務所に就職していた彼女の紹介で入社し、彼女がマネージャーになってくれた時は嬉しかった。

 幸運にも恵まれて、ワールドツアーを行うまでになったのに、こんな事になってしまった。

 私がマネージャーとして側にいてほしいと思ったから巻き込んでしまった。

 こんなにも尽くしてくれるグレイスに何かを返したかった。

 

 そんな旅も終わりを迎えようとしている。

 食料が尽き、気力、体力も限界に達していた。

 気丈に振る舞っていたグレイスも疲れを隠せなくなっている。

 身体を休めている廃墟のような建物にも、食べられる物はなかった。

 廃墟の中で焚き火で暖を取りながら、疲れ切っていたカガリは泥のように眠る。

 その夜、濃い血の匂いで目が覚めた。

 起きたカガリは、目の前の光景を理解できなかった。

 グレイスがナタで自らの腕を切り落としていた。

 傷口を焼いて止血しているグレイスに駆け寄り、なんでこんな事をしたのか問い詰める。

 

「食料がないから、こうするしかないのよ。ユーラシアの基地までもう少しのはず、ここで動けなくなるほど衰弱する訳にはいかないわ」

 

 カガリは、泣きながらグレイスを責めた。

 なぜ、何時も勝手に決めるんだと。

 私は守られてばかりだ。

 私だってグレイスの為なら喜んで腕を切り落とすのにと。

 

「ごめんね、カガリ。でも、私が歌手の道を勧めなければ、こんな事に巻き込まれなかったかもしれない。だから、カガリを無事に帰さなきゃって」

 

「違う!私がグレイスと一緒に居たいと思ったから、私が巻き込んだんだ!」

 

 互いに相手を巻き込んだと負い目を感じていた。

 自分の心の内側を曝け出して、想いをぶつけ合っていく。

 

「私は歌ってるカガリが一番好きだから、カガリがまた元気に歌えるようになるなら、身体を切り刻まれても構わない。本気でそう思っているの」

 

 そう言いながらグレイスは、自分の腕だったものから肉を切り落とし焼いていく。

 女の細腕とは言え、腕一本分の肉は自分達が数日前に進むための糧になってくれるだろう。

 それでも足りなければ、さらに自分の身体を切り落とす。

 カガリは、自分の所為だと言って、次は自分の腕を切ろうとするだろう。

 それでも、カガリには五体満足で歌っていてほしい。

 

「グレイス・・・私は決めたよ。必ず、この地獄に帰ってきて歌う」

 

 グレイスの肉を泣きながら喰らう。

 喰らうたびに、心に覚悟が積み重なっていく。

 

「この旅の中で、生きるために人の肉を食べている人達も見た。略奪者も、絶望の中で人の心を捨て、悪魔にならざるを得なかった人達だ。そんな人達を人間に戻すために、私は歌う」

 

「カガリなら出来るよ、歌は・・」

 

「魔法だから・・だろ」

 

「ええ、カガリなら偉大な魔法使いになれるわ」

 

 食事を終えて、二人は寄り添って眠った。

 明日から再び歩き出すために。

 

 3日後、2人は基地周辺の偵察に出ていたユーラシア軍に発見され、保護された。

 それは、クライシス発生から約2ヶ月後の事だった。

 身分の確認が終われば、人道支援に派遣されているオーブ軍に引き渡され、帰国する事になった。

 オーブへの帰路、カガリは世界の情勢とオーブ政府が行なってきた事を知った。

 ユーラシアに最も大規模な人道支援を行なっていたのは、間違いなく自分を保護するためだろう。

 それでも、オーブは世界中の人々の命を救うために動いている。

 帰国後は、父を説得し、軍にも協力を頼まなければならない。

 人々の心を救うために。

 そのためには、只のカガリ・ユラではいられない。

 アスハの名前を使う時が来たのだろう。

 こうして世界は、歌姫カガリがオーブの本物の姫君《プリンセス》である事を知る。





人々がカガリの影響を受けて、覚悟を完了させていく世界でカガリの覚悟をガンギマリさせた、カガリガチ勢の女グレイス・オオタ。
原作には出てこないモブキャラの何気ない行動で世界が分岐しています。
他にも原作キャラに大きな影響を与えて、行動を変化させたキーマンは何人かいる設定になってます。
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