歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
シンが、キラが、アレックスが先頭に立ち、サタンの群れへと向かっていく。
彼らの中で何かが弾け、体中に広がる。
今までよりも深く、どこまでも深く集中を高めていく。
足を踏み入れれば二度と戻れなくなる領域まで。
彼らは、立ち塞がる敵を破壊することしか考えられないバーサーカーとなる決断を下したのか?
否である。
彼らがどこまで深く潜ろうと、帰る道が見えなくなっても、恐れることはない。
愛する者の歌声が導いてくれる。
彼女達の愛が彼らの最大の武器。
愛がある限り、必ず彼女達の下へ帰ることが出来る。
彼らが運命を切り開く刃の切先となって突き進む。
その後ろを仲間達が続く。
アイツの背中を守るのは自分達だ。
どれほど強大な敵を前にしても、これだけは譲れない。
仲間達との信頼の絆が、歌姫の愛に負けないほど自分を包み、守ってくれている。
一人じゃない。
こんなにも多くの人達に支えられて生きているんだ。
この世界は終わらせない!
3人の想いが重なり、戦闘が開始される。
サタンの性能とラースの実力が相まって、絶望的な脅威となって連合軍に襲いかかる。
だが、今のシン、キラ、アレックスの3人にならサタンに対応することが出来る。
1対1では、ほぼ互角。
仲間達が的確な援護をしてくれることもあり複数のサタンを相手にしても持ち堪えることが出来ていた。
「ほう、サタンに乗った私と戦える者がプライド以外にもいたか。
今の自分の限界性能を試してみたい気持ちもあるがここは戦場だ。
2〜3機追加して確実に勝たせてもらう」
サタンは無数に存在する。
今、歌姫の騎士団が抑えているのはそれぞれ4〜5機ほど。
更なる増援を向かわせれば崩壊する。
質を伴う数の暴力によって押しつぶされてしまうのか?
現実はそうはならなかった。
ダイダロス基地の守備隊は全滅した。
脳に埋め込まれたチップによって人格を作り変えられ、カガリ達の歌ですら救えなかった彼らは、ネームレスの忠実な尖兵として最後の一人となっても戦い続け、文字通り全滅した。
エデン浮上のためにダイダロス基地が爆破られたため無人特攻兵器も打ち止めとなり、倒すべき敵がサタンに一本化されたことで戦線を支えていたエース級の戦力を全て投入することが可能となっていた。
もちろん、ここで戦力を出し惜しみするような陣営はいない。
カナードとプレアを筆頭にしたゲシュペンスト隊が。
イレブン以外のソキウス達で構成されたソキウス隊が。
叢雲凱を中心としたサーペントテールが。
アズラエル繋がりで参戦していたロウ・ギュールが。
カガリが心配だからではない、サハク家の地位向上のためだと言って弟を引き連れてきたロンド・ミナ・サハクが。
連合やザフトで勇名を馳せていた前大戦の歴戦のエース達だけではない。
戦後、リベリオンや統合軍に見出されて各地で頭角を現していた若きエース達も参戦していく。
技量の足りない一般兵ですら、せめて弾除けになれ、エース達の盾になるんだと機体を突っ込ませる。
彼らにサタンと戦える力はない。
それでも、アークエンジェルを少しでも進ませるため、未来を切り開く人類の矛の一部足ろうと命を賭して戦っているのだ。
歌姫達の歌で心を震わせた兵士達は、自身の限界まで力を振り絞る。
人間は様々な要因で100%のパフォーマンスを発揮することは出来ない。
しかし、ここにいる兵士達は限りなく100%に近い力を発揮することが出来ている。
彼らの奮戦がサタンとの戦いを支えていた。
膠着状態に陥った戦線。
未だ、アークエンジェルが前進するための道を切り開くには至らない。
閉ざされた扉を開く最後の鍵が前線に到達する。
戦場の一角で多数のサタンが突如として動きを止める。
「む、操作を受け付けない?
レヴィアタンのジャマー・フィールド!
貴様も裏切るか、エンヴィー!」
「先に裏切ったのはお前達だ。
その報いを受けただけよ」
動きを止め、致命的な隙を晒したサタンに連合軍の攻撃が迫る。
いかにラースでも機体が操作を受け付けないのならどうにもならない。
サタンは量産機として数を揃えるため極限までコストカットされている。
ラースの技量を前提としているため被弾することを考慮していないサタンは、高い性能を持ちながら紙装甲と言えるほど脆い機体でもあった。
攻撃さえ当てることが出来れば容易く撃墜できる。
そして、今のラースに攻撃を避ける術はない。
「ジャマー・フィールドに捕まった機体は、ここで脱落だな」
死を目前にしながらラースの様子に変化はない。
いくらでも自分の複製を受け入れられるラースにとってはゲームの残機が1機減った程度にしか過ぎない。
彼にとって、この世界そのものが残機が無限にあるゲームのようなものなのだ。
動きを止められたサタンが次々と爆発し、宇宙の藻屑と化していく。
「確かにジャマー・フィールドは厄介だが、先にお前を落としてしまえば問題なかろう」
ジャマーに捕らわれ、撃墜されていく自分達を囮に別のサタンがレヴィアタンに迫る。
エレーナは、それなりに優秀なパイロットでもあるがラースのようなトップエースと戦えるほどではない。
他のサタンをジャマーで抑えている状況では、エレーナの命はあっさりと刈り取られてしまうだろう。
「させません!」
レヴィアタンに迫るサタンにベルゼブブから放たれた無数のミサイルが襲いかかる。
「小癪な真似を!
その程度で私は止められん!」
雨のように降り注ぐミサイルの隙間を縫うように回避しながら、なおもレヴィアタンへと向かい続ける。
ミサイルの雨を抜け、レヴィアタンを射程に捉えようとした時・・・
「予想通りで何の意外性もない。
お前、使えないな」
ケンプファーのビームサーベルに切り裂かれていた。
「何!?」
ベルゼブブからのミサイルを避けながらレヴィアタンの撃墜を狙う。
それを可能とする技量は大したものだが、あまりにも教科書通りの動きだった。
ラースは、厄介なレヴィアタンの早期撃破のために最適、最短のコースを選択した。
偽アスランは、そのコース上に待ち伏せしていただけだ。
自らビームサーベルに突っ込むような形となって、このサタンは撃墜された。
「助かったよ、グラトニー」
「えっ?」
今までずっと刺々しい対応をしてきたエレーナから素直に礼を言われたことに戸惑う。
同じように切り捨てられた者同士、組織を共通の敵として認識する仲間として歩み寄ってくれたのかもしれない。
そう思い、少しだけ心が温かくなった。
「僕は、もうグラトニーじゃありません。
ニコル・レプリカです」
組織に対する決別を口にする。
「そうか、私も、もうエンヴィーじゃない。
エレーナと呼べ、ニコル」
「・・・はい、エレーナさん!」
頑なに拒絶していた名前呼びを許したからか、嬉しそうな顔をしている。
こんなすぐに仲間として信頼するなんて、やっぱりお人好しね。
それに絆されてしまう私もチョロいのかしら?
エレーナは、歌姫達の歌で全てを思い出していた。
かつて復讐のために入った連合で共に戦った仲間がいたことを。
ハンス隊長
トッド
そして・・・ジョバンニ
何故ニコルにあれ程の嫌悪を感じていたのか、今なら理解できる。
ニコル・アマルフィの戦果報告にジョバンニの名前を見つけたからだ。
エレーナの記憶にはなくとも、細胞が覚えていた。
婚約者だったアレクセイを忘れることは出来ないけれど、乗り越えて新しい未来を選ぶことが出来るかもしれない。
そう思わせてくれた男を殺した存在を受け入れることが出来なかった。
愚かなことだ。
あいつはジョバンニを殺した
過去に引き摺られ、関係のない者まで拒絶していた。
この戦いが終わったら、謝罪の一つでもしないといけないわね。
今なら前に進める気がする。
その為にも、
「組織は潰しておかないとね。
もう二度と、私の想いを踏み躙られないために!」
エレーナは戦場を駆け、サタンを絡め取り、その動きを封じていく。
この戦場でサタンに対して優位を取れる唯一の
そんな彼女を守るのは、偽アスランとニコル・レプリカのコンビだった。
「アスラン、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。
どうやら、歌姫の祝福は俺にも恩恵を齎しているようだ」
ラースは技量はともかく、センスに関しては凡庸であると見抜いていたが、だから対応できるものでもない。
レヴィアタンを守る為にリミッター解除を常時継続せざるを得ない。
偽アスランは、脳への負担を心配していたが歌が集中を助けてくれている。
お陰でまだ戦える。
トゥルーザフトの代表としての戦いが終わった時、これからはニコルの為に生きるのも悪くないと思った。
未来を掴み取ることを俺はもう諦めない。
アレックス、お前も諦めるなよ。
ラースにとって最優先目標となったエレーナを守ることは容易ではない。
偽アスランやニコル以外の兵士達も彼女の重要性を理解して盾となっていた。
それでも無傷では済まない。
レヴィアタンが被弾し損傷しながらも決してジャマーを逸らさず、サタンを拘束し続ける。
その献身によってサタンの数は確実に減ってきている。
同時にレヴィアタンの限界も近付きつつあった。
トドメを刺さんとビームサーベルを構えたサタンが迫る。
絶体絶命のレヴィアタンの前にベルゼブブが機体を割り込ませる。
ビームサーベルが深く突き刺さり、ベルゼブブは大きな爆発を起こした。
「ニコル!」
ベルゼブブが盾となってくれたお陰で距離を取ることが出来た。
だが、その為の犠牲は大きかった。
ようやく仲間と認めることが出来たニコルを失ってしまったのだから。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
激昂した偽アスランがラースに斬りかかる。
「馬鹿め、怒りで思考が単純化しているぞ」
ラースは、偽アスランの様子に落胆していた。
自分のセンスの無さを見抜き、それを利用して対抗してみせた。
なのに、仲間の死などと言うどうでも良いことで心を乱され、先程までの冴えを失っている。
やはり、こいつも不適格か。
ラースは壁として立ち塞がる戦士を望んでいた。
自身の性能を高めるためには相応の相手が必要なのだ。
実力だけならプライドが理想と言っても良い。
だが、プライドの在り方は戦士のそれとは違う。
退屈になるだろう次の世界で、番犬をしながら切磋琢磨して互いを高め合う相手が現れなかったことだけが不満であった。
「所詮は不良品だったな。
死ね!」
怒りで動きが単調になった偽アスランの隙を突き、致命の一撃を与えようとビームサーベルを振り上げる。
「本当に使えないな」
偽アスランが心底見下した表情でこちらを見ている。
「なに?」
次の瞬間、背後からビームがサタンを貫く。
爆発し、火球となったサタンの背後には黒いガンダムタイプ機体がビームライフルを構えていた。
「チェックメイトです」
「ああ、さすがだニコル。
だが、あまり無茶をするなよ」
「もう、しませんよ。
外装パーツもありませんから」
ベルゼブブは巨大モビルアーマーだが、それはモビルスーツをコアとして外装パーツを装着した状態だった。
外装パーツの爆発に紛れて脱出し、隙を窺っていたモビルスーツこそがベルゼブブの本体である。
彼らがギリギリの綱渡りを行いながらサタンを落とし続けたことでアークエンジェルが進む道が開けつつある。
だが、連合軍の思惑を阻止しようと動く者も存在していた。
プライドとムウ、ネオの3人はモビルスーツへと変形していくアークエンジェルを呆然と見ていた。
「何だ、あれは?
どうやればあんな物を作ろうと言う考えに行き着く!?」
プライドからすれば当然の疑問だ。
「ははっ、俺もまさかアークエンジェルがああなるとは思ってもいなかったよ。
さすがのあんたも度肝を抜かれたみたいだな」
「いや、味方の度肝も一緒に抜いていては意味がないだろう」
我に帰ったムウの言葉にネオが突っ込みを入れる。
さすがに完全には戻ってないようだ。
「けど、あれなら不可能を可能に出来るかもしれない。
そうだろ?ネオ」
右手にビームドリルを展開し、突撃の構えを取るアークエンジェルを見ながら話すムウ。
「確かにか細い道ではあるが光明は見えたか」
それに答えるネオ。
「お前達に希望などない。
確かに驚いたが、こけ脅しにしかならん。
サタンによって突撃すら出来ずに終わる」
プライドが二人の会話を切り捨てる。
「なにより、私がいる限り奇跡などあり得ない。
アークエンジェルを破壊し、絶望の中で死なせてやる」
プライドがアークエンジェルに向かおうとするが、進路に立ち塞がるムウとネオ。
「おっと、アークエンジェルには向かわせないぜ」
「不可能だと言いながらアークエンジェルの破壊を優先させる。
内心で可能性を認めているのではないかな?」
「凡人共が私の邪魔をするな!」
ルシファーがドラグーンを展開して攻勢を掛ける。
ムウ達もドラグーンを展開して対抗するが全ては防ぎきれない。
致命傷となるような攻撃だけは何とか避けるが損傷は増すばかりだ。
それでも諦めるわけにはいかない。
こいつをアークエンジェルに向かわせてはならない。
ここで止めなければ確実に希望を刈り取られてしまう。
そんな確信があった。
それは、ムウにとって愛する者を失うことも意味している。
「マリューが希望を示してくれたんだ。
なら、今度は俺が不可能を可能にする番だろ!」
耐え忍び、少しでもプライドを拘束するために機体を動かし続ける。
プライドすらも呆然とさせるアークエンジェルさん。
まあ、この世界で戦艦がモビルスーツに変形すればそうなりますね(笑)