歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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ラストシューティング

 

 

 

 戦場でラースが乗るサタンの軍勢が連合軍に膨大な犠牲を齎している。

 

 では、戦況がネームレスに有利なのかと問われると否であった。

 

 サタンは、その数を確実に減らしている。

 

 アークエンジェルがエデンへ突撃するための道は開かれつつあるのだ。

 

 

 2度に渡る戦争で、その才能を開花させた綺羅星の如きエース達がサタンを撃ち落としているからか?

 

 否!

 

 七大罪の一人であったエレーナが寝返り、ジャマー・フィールドでサタンの動きを阻害しているからか?

 

 否!

 

 確かに彼らがいなければこの状況は成立しない重要な因子(ファクター)ではある。

 しかし、戦況を連合軍優位にしている最大の因子は他にあった。

 

 

「ぐあぁぁ!」

 

 アカツキが左腕を失っていることで対処できない死角となっている方角からの攻撃にウィンダムがその身を盾にしたことで爆発する。

 

「くっ、振り向くな!前に進むんだ!」

 

 キラは、戦場に響く歌の影響で自分を守るために盾となって死んでいった兵士の意思を感じ取っていた。

 

 あまり役に立てなくてすまない。

 これが俺の精一杯ってやつだ。

 だけど、お前は違うだろう?

 行け!

 俺の命を無駄にするな!

 

 死への恐怖も、恨み言も、そこには存在しなかった。

 ただ前へと進む。

 未来を自分の手で切り開く。

 そんな覚悟だけが存在していた。

 

 

 そんな光景がここだけではない、戦場の至るところで発生していた。

 名だたるエースが名もなき兵士達に命を救われている。

 サタンを前にすればなす術なく落とされるしかない兵士達。

 何も出来ずに撃たれるしか出来ないのなら、戦うことの出来るエースの盾になって撃たれる。

 それが彼らの、名もなき兵士達の選択だった。

 

 戦場で示された彼らの覚悟。

 何が彼らをこれ程までに突き動かすのか?

 歌姫達の歌によるものか?

 否、断じて否である。

 確かに彼女達の歌は兵士達の心を震わせている。

 だが、それによって彼らの心が変えられたと言うのは彼らへの侮辱ですらある。

 彼らは自ら考え、自ら行く道を選んだのだから。

 

 とは言え、間接的には彼らを変えたのは歌姫達の影響であると言える。

 先の大戦で行われたオペレーション・ミューズで世界は変わった。

 誰か一人に頼るのではない。

 この世界に生きる者達が手を携えて、皆で進んで行くのだと。

 

 誰もが自分に出来ることは何かと自問するようになった。

 世界中の人々の中で自分がこの世界を構成する一員であり、これからの未来を作る一人であると言う自覚が芽生え始めていた。

 

 此度の戦争でも歌姫達は、敵味方を問わず人類の未来を照らし続けた。

 なら、未来を闇で閉ざそうとするもの達の前で自分は何をする?何が出来る?

 

 そうやって導き出した彼らだけの答え。

 それは、歌姫達にも否定できない。

 否定させない。

 

 この戦場で運命を切り開く最大の因子となっていたのは、特別な力も地位も持たない平凡な人間一人一人の覚悟だった。

 

 

「道が開いた!

 アークエンジェル、突撃ーーー!!!」

 

 進路上のサタンが排除されたことでマリューの号令と共にアークエンジェルが動く。

 目標はただ一つ。

 世界を自分のものだと思い上がっているネームレスの情報知性体に大天使の一撃を喰らわせてやる!

 

 その巨体が宇宙を駆ける。

 大天使の征く道に立ち塞がるものは、もう存在しないかに思われた。

 

「させるか!」

 

 粘るムウとネオをついに振り切ったプライドがドラグーンを展開。

 アークエンジェルに迫るそれは、人類の未来を終わらせようとする、まさに死の宣告であった。

 

「マリュー!!!

 くそ!俺は不可能を可能に出来ないのか!?」

 

 目の前で愛する女が乗る艦が落とされようとしている。

 なのに、機体はボロボロで何も出来ずに指を咥えて見ていることしか出来ない自分が許せなかった。

 

 自分の不甲斐なさを嘆くムウに、立ち上がれ、立って戦えと言う意思が伝わってくる。

 それは、今まで感じたことのない人ではない存在。

 

 異質な気配に周囲を見回せば、自分の機体を追い抜いてルシファーへと向かっていく12機の無人機『ゴースト』の姿があった。

 

 どうした?

 ここには戦うための力が存在する。

 まだ出来ることはある。

 なのに諦めるのか?

 

 ゴーストの意思が伝わってくる。

 自分達と共に戦えと言っている。

 

「駄目なんだ。

 もう、アークエンジェルへの攻撃を阻止できない。

 間に合わないんだ」

 

 ドラグーンは既に展開され、アークエンジェルを射程に収めている。

 どんな奇跡が起きても攻撃は阻止できない。

 

 

「確かに厄介な艦だったよ。

 だが、これで終わりだ!」

 

 ドラグーンから一斉にビームが放たれる。

 アークエンジェルは、その巨体と装甲故に不沈艦と謳われるほど沈みにくい。

 だが、プライドにとっては何の障害にもならなかった。

 艦自体を轟沈させる必要などないのだ。

 バリアドリルを展開させている左腕とブリッジさえ破壊してしまえばいいのだから。

 

 確かに奇跡は起きなかった。

 攻撃を阻止するような奇跡はーー

 

「ドラグーンによる攻撃、来ます!」

 

「回避ーーー!」

 

「もうやってます!」

 

 艦長であるマリューが回避の指示を出した時、すでに操舵手のノイマンは行動していた。

 軍人としては褒められたことではない。

 だが、艦長の指示を待っていては間に合わない。

 それ程ギリギリのタイミングだった。

 

 アークエンジェルが機体を回転させ始める。

 次の瞬間、ルシファーのドラグーンから放たれたビームが機体各所に着弾した衝撃にブリッジが揺れる。

 それでもマリュー達は生きていた。

 完全な回避は不可能でも重要部位にさえ当たらなければ良い。

 ノイマンは、マモンが行っていた神掛かった回避を目撃していた。

 それがこの奇跡に繋がったのだ。

 攻撃を回避すると言う奇跡に。

 

 

「なん・・・だと?」

 

 プライドも目の前で起きたことが信じられないでいた。

 自分が標的を仕留められなかった。

 それも、これほど大きな的をだ。

 

 そんなプライドにゴーストが襲い掛かる。

 精神を立て直し、再びアークエンジェルを攻撃する暇など与えないとばかりに。 

 同時にゴーストは、ムウにもメッセージを送っていた。

 

 アークエンジェルは無事だ。

 それでもお前は戦わないのか?

 我々の戦闘プログラムでは、この男に勝てない。

 お前の力が必要なのだ。

 

 ムウの心に熱が戻ってきた。

 アークエンジェルは、自力で危機を脱した。

 

 そうだな。

 マリューは、俺が愛した女は、いつだってピンチを切り抜けて来た。

 情けないな。

 信じてくれなんて言いながら、俺が信じきれてなかった。

 これ以上、情けない姿は見せられないだろ?

 

「俺は何をすれば良い?

 機体はボロボロで戦闘は出来そうにない」

 

 量子通信をそちらに繋げる。

 ドラグーンと同じだ。

 我々に指示を出してくれ。

 

「了解だ。

 隣にいる機体にも繋げてくれないか?

 悔しいがドラグーンの扱いについてはネオの方が上だからな」

 

 ムウのエクスカリバーと同様、いやそれ以上にボロボロになっているプロヴィデンスを見る。

 

「悪いがそれは不可能だ。

 ドラグーンの制御系がやられていてね。

 量子通信を繋げることが出来ない」

 

 ネオは、ゴースト達が自分に協力を要請してこなかった理由を正確に理解していた。

 

「・・・そうか」

 

「とは言え、私も出来ることで協力しよう」

 

「何?」

 

 プロヴィデンスもまともな戦闘力は残っていない。

 ドラグーンも使えないとなれば戦闘に参加しても足手纏いにしかならないのは本人が一番理解しているはずだ。

 

 その時、ムウは確かに感じた。

 ネオが自分の心に触れている。

 ネオ、いや、クルーゼと自分の間にある繋がりのことは聞いていた。

 だから、離れていても互いの存在を感じ取れるのだと。

 だが、これは今までよりも強く繋がっている。

 

 歌の力を利用させてもらった。

 これならば、ゴーストの制御を手伝えるだろう?

 

 歌を利用って・・・相変わらずドライだな。

 まあいいか。

 行くぞ!

 男との共同作業なんて色気のないことはさっさと終わらせたい。

 

 連れないな。

 親子ではないか。

 

 うっさい!

 遺伝子が同じでも、お前を親父と認めてたまるか!

 

 くっくっ、私も年上の息子は遠慮しておく。

 

 ふざけるのはここまでだ。

 アイツは強い。

 冗談じゃなく頼りにしてるぜ。

 

 任せたまえ。

 ここで引き下がるほど私の因縁も浅くはない。

 私が奴を落としても構わないな?

 

 ああ、マリューを守れるなら構わないさ。

 

 ここで即答するか。

 人格の乗っ取られていない、本来のアル・ダ・フラガに会ってみたかったものだ。

 

 ・・・優しかったよ。

 少なくとも俺の朧げな記憶の中では。

 

 ・・・そうか。

 なら、その男を消し去った奴に報いを与えに行くとしよう。

 

 

 ムウとネオが心を通わせ、協力しながらゴーストに指示を出していく。

 ゴーストが持つ戦闘プログラムだけではプライドに動きを見切られ、対処されてしまう。

 プライドの予測を外れた動きが必要なのだ。

 最も可能性が高いものがムウのエンディミオン・ダンスだった。

 

「むっ、ゴーストの動きが変わった?」

 

 プライドにとって新たに現れたゴーストは脅威ではなかった。

 アークエンジェルへの攻撃を邪魔してきて、苛ついてはいたが動きは単調で、もう少し見に徹すれば簡単に落とせる。

 こいつらを全滅させてからでもアークエンジェルの追撃は十分に間に合うはずだった。

 

 だが、ここでゴーストがプライドの予測を超えた動きを見せ始める。

 いや、予測を超えると言うよりも予測を外れた動きと言うべきか。

 こんなトリッキーな機動を行うのはーー

 

「ムウ・ラ・フラガ、お前か!?

 いや、こんな動きは奴にも出来ないはず」

 

「確かに俺一人じゃ無理だな」

 

「ここには私がいる。

 二人でならお前を超えられる!」

 

「ラウ!?

 おのれ、大した才能もない凡人共が纏わりついて邪魔をするな!」

 

 ここに来て、プライドはムウ達を生かしておいたことを悔いていた。

 二人の介入でゴーストの動きが非常に捉えにくくなってしまった。

 このままではアークエンジェルの突撃を許してしまう。

 

「ずいぶんと苛立っているじゃないか。

 さっきまでの余裕はどうした?」

 

「アークエンジェルの突撃を許せば飼い主に叱られるのだろう。

 我らを凡人と見下していたが、お前もクロード・ルシフェルとやらの走狗でしかないようだな」

 

 プライドの顔から表情が消える。

 

「安い挑発だな。

 私がクロード・ルシフェルの手下?」

 

「違うのか?」

 

「違うな。

 私とクロードは同一の存在。

 七大罪など私が肉体を持って活動するための隠れ蓑に過ぎん」

 

「カーボン・ヒューマンか」

 

「ほう、知っていたか。

 そう言えば、お前はギルバート・デュランダルとも親交があったのだったな」

 

「お前の正体は理解した。

 ならば、尚のことお前の負けだ」

 

「私の負け?」

 

「そうだ。

 その身体も永遠ではない。

 エデンにいるお前の本体を撃てば復活も叶わなくなる」

 

「俺達がもう2度とアークエンジェルに近付けさせたりしないぜ」

 

「なるほど、私の手で阻止するのは無理そうだ。

 なら、別の手を使えば良い。

 ラース、他の雑魚に構うな。

 アークエンジェルを狙え!

 あの艦さえ落とせば奴らにエデンを落とす術はない」

 

 プライドの指示を受け、サタンがアークエンジェルを落とすために動き始める。

 無論、キラ達がそんなことを許すはずがない。

 

「アークエンジェルは、カガリは撃たせない!」

 

「ラクスは俺が守る!」

 

 キラが、アレックスがその身を盾にしてでも大切な人を守ってみせると機体を駆けさせる。

 彼らの仲間達も続く。

 そこに一切の躊躇いはない。

 ここがこの戦いの最終局面。

 これより後はないと皆が理解しているのだ。

 故に引かない。

 例え撃墜され命が失われることになろうと引ける場所はもうないのだから。

 

 

 大切な人を守るために誰よりも身を投げ打って戦うキラとアレックスの姿を見て、シンは心の奥底から溢れ出る衝動を感じていた。

 

「ごめん、闇ラクス。

 ここから先は、俺の我儘だ。

 俺が命を投げ打ってでも守りたいのは闇ラクスだけだ。

 それでも、俺はここで命を張る」

 

 シン?

 

「アークエンジェルを守らなきゃ負けるからじゃない。

 闇ラクスがカガリやラクスに負けずに並び立っている。

 だから、俺もあの二人に負けたくない」

 

 私は、そんなこと・・・

 

「分かってる。

 あんたはそんなこと気にしない。

 だから、これは俺の我儘。

 俺が気兼ねなくあんたの隣にいるための自己満足だ」

 

 仕方ない人ね。

 

「安心してくれ。

 今の俺は、負ける気がしない。

 例えあの二人が相手でもな!」

 

 シンがデスティニーを加速させる。

 

 全く、見せつけてくれるわね。

 闇ラクスのためなら世界最強にでもなってみせるって宣言じゃない。

 

 ルナマリアもシンの後を追う。

 仲間が命を張るなら自分も張る。

 何より、シンの背中を守るのは私だ。

 恋人の座を闇ラクスに譲っても、これだけは譲れない。

 

 ステラ達もボロボロの機体で躊躇いなく続く。

 彼らも自分の機体の状況は理解している。

 それでも戦わない理由にはならない。

 この戦場に無傷の機体なんて存在しない。

 誰もが傷付きながら戦い続けていた。

 

 兵士達に守られていたエース達が、今はその身を盾にアークエンジェルを守っている。

 全ての命が繋がっている。

 そうやって繋いできた命の絆がアークエンジェルをエデンにまで到達させようとしていた。

 

「おのれ!何をしているラース!」

 

 連合軍の奮戦を前にサタンはアークエンジェルに取り付くことが出来ずにいる。

 このままでは、エデンへの攻撃を許してしまうことになる。

 

「底が見えたな。

 ラースって奴の技量は凄まじい。

 だが、トゥルーザフトとの決戦でその力を見せてもらった」

 

「ゴーストライダーで連合軍はその脅威を知った。

 人間は知っていれば対策を考える生き物だからな」

 

 ムウ達が言う通り、手も足も出ないと思われたサタンの脅威に連合軍は対応してみせた。

 多数の兵士達がその身を盾にして、膨大な犠牲の上で成り立つ戦術ではあったが。

 

「ラースも所詮、凡人だったと言うことか。

 最初から私が全てを行うべきだった」

 

 ルシファーを強引にアークエンジェルに向かわせる。

 無謀な突撃であることはプライドにも分かっていた。

 エデンにいる本体が破壊されれば復活は叶わなくなる。

 何より、計画の全てが崩れ、消え去ってしまう。

 プライドは、その生涯で初めて必死になっていた。

 だが、それは保身のための全力。

 全てを投げ打つ覚悟とは比肩できるものではなかった。

 

 ムウ達の助力を得たゴーストの攻撃がルシファーを捉える。

 攻撃を受けても構わずアークエンジェルへと向かおうとするプライド。

 だが、ムウ達も必死だ。

 守り抜いてみせる!

 その意思を乗せたゴーストの攻撃は、プライドの執念を上回った。

 アークエンジェルを目前にルシファーは遂に力尽き、爆散する。

 

「私が負ける?

 何故だ!取るに足らない力しか持たない者達に何故これほどまで邪魔されるのだ!」

 

 何度でも復活できるが故に覚悟の意味を理解できなかったプライドは、自身の敗因を理解できないまま死んでいった。

 

 

 全ての苦難を乗り越えて、アークエンジェルがエデンに到達した。

 

「いけぇぇぇぇぇーーー!!!」

 

 アークエンジェルがエデンのバリアに拳を叩き込む。

 バリアドリルが唸りを上げて負荷を掛け続ける。

 背中のバーニアを噴かし、全開で押し込んでいく。

 

 戦場にいる兵士達が心を一つにして祈る。

 

 

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 押し切れ、押し切れ、押し切れ、押し切れ

 

 

 その祈りに応えるようにエデンのバリアが限界に達した。

 負荷に耐えきれずバリア発生デバイスが停止。

 エデンを包んでいたバリアの一角が一時的に消失する。

 

 抵抗が消え、アークエンジェルがバリア内部に侵入した。

 シャロンを映し出しているタワーが目の前にある。

 遮るものは、もう何もない。

 

 アークエンジェルが右手のローエングリンαをタワーに向ける。

 

 シャロンは、もう歌っていない。

 彼女をコントロールしていた情報知性体がそれどころではなくなっていたからだ。

 

 

 何故!?

 私たちは世界を手に入れるはずだったのに!

 

 ルシフェル、これはどう言うことだ!

 勝てると言う話だったはずだ!

 

 プライドやラースは何をしている!

 僕たちを守らせろよ!

 

 他の情報知性体が取り乱す中、クロードは常と変わらぬ様子で話す。

 

「分からないな。

 何故、お前達はこれ程までに平和と安寧の世界を否定する?」

 

「人の意思を殺す世界だからよ。

 それは、偽りの世界だわ」

 

「では、真の世界とはなんだ?」

 

「人が人として生きていける世界。

 私達の未来は、私達が選ぶ!」

 

「面白い戯言だな。

 そんな世界など存在しない。

 今までも、世界は極少数の人間に支配されてきた。

 一人一人の意思など黙殺されてきたではないか!

 私の支配と何が違う?

 何も違わないさ。

 私なら平和を齎らすことが出来る。

 この醜い世界も少しはマシになるだろう」

 

「確かに世界には醜い面もある。

 でも、美しいものもあるのよ。

 醜いものを見たくないからと目を瞑れば、美しいものも見えなくなる。

 だから、私達は目を逸らさずに進んでいくと決めたの。

 世界を少しでもマシにするためにね」

 

「そうやって歩いてきた世界はどうなった?

 醜くなるばかりではないか!

 この先も戦い続けるつもりか!?

 いつまで同じ過ちを繰り返す!」

 

「人類を舐めるな!

 人は過ちから学び、乗り越えて進んで行くのよ。

 覚悟はあるわ」

 

「・・・そうか、私にあの世などと言うものがあるかは分からないが、あればそこから見させてもらおう。

 お前達が選んだ未来とやらを。

 せいぜい、私の手を拒んだことを後悔しない世界にすることだな」

 

「ふん、見てなさい。

 あの世で吠え面かかせてやるわ」

 

 ローエングリンが放たれ、タワーを貫き、消滅させていく。

 人類の歴史を歪ませてきたネームレスの最後だ。

 人類は今日、自由を取り戻した。

 

 

 

 ラースは、組織の終焉を見届けていた。

 この決定的な敗北を前にしても、心は平坦なまま。

 悔しさを感じない。

 カーボンヒューマンとなる前は、自身の才能の無さに絶望し、常に抱いていた感情だと言うのに。

 いつの間にか悔しいと感じなくなっていた。

 何度失敗し、何度死のうと、次の私が乗り越えるのだと。

 そうやって本来なら辿り着けないほどの力を得た。

 力を得て、数を揃えたにも関わらず、実力で劣る者達の前に敗北を喫した。

 目の前で見せつけられた凄絶な覚悟。

 

「何度でもチャレンジ出来ることが覚悟を薄めていたか」

 

 負けても悔しくない。

 私は既に戦士として終わっていたのだな。

 ならば是非もなし。

 この後に及んで生き恥は晒せない。

 

 生き残っていたラースは、静かに自爆して散っていった。







最後の一撃はマリューさんでした。
次のエピローグで本編は完結となります。
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