歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ネームレスの中枢であり、電子の世界に潜み、決して表に出ることなく世界を操ってきた情報知性体を討ったことで今次の大戦は終結した。
誰にも知られることなく世界を歪ませてきたネームレスと言う存在は、世界に衝撃を与えた。
レクイエムの影響下に置かれ、心を勝手に変えられそうになった経験は、人々を恐怖させた。
だが、彼らを共通の敵として戦ったことで統合軍とリベリオンの間に戦友としての意識が芽生えてもいた。
矛を交えた者達の緊張緩和は、統合政府と非理事国間の関係改善にも繋がっていく。
マニフェスト・デスティニーがネームレスの策謀である事も判明し、アズラエルへの嫌疑も取り下げられた。
対立の根源であった利権問題は、皮肉な事にネームレスの策謀によってロゴス幹部のほとんどが失脚していたことで解決した。
経済界で突然空いた席に非理事国系の資本が入ることで富の不均衡が是正され、市民達の不満はかなり解消された。
政治的な歩み寄りも進み、非理事国の統合政府参加も緩やかに進んでいる。
もちろん世界には様々な問題が残っている。
2度の大戦で疲弊した経済の回復は容易ではない。
ブルーコスモス思想やコーディネーター至上主義も完全に消えた訳ではない。
問題を挙げていけばキリがない。
それでも希望はある。
この世界の人々の心には、どんな難しい問題にも目を逸らさずに向き合おうとする覚悟が芽生え始めているのだから。
その芽を大切に育て上げ、大樹にすることが出来るのかは、まだ分からない。
人は弱い生き物だ。
途中で手折られることも、朽ちてしまうこともあるだろう。
だが、恐れることはない。
人は強くなれると知ったのだから。
戦場で散った多くの兵士が示した覚悟。
強く在るために特別なものなど必要ないと彼らが示してくれた。
明るい兆しもある。
ナチュラルとコーディネーター間の軋轢の根源にあった能力格差の問題にも解決の糸口が見えていた。
ライトマン博士が研究していた能力拡張技術が彼の死後、公開された。
人体に悪影響を与えることなく能力差を埋める技術の数々。
さらに今後の技術発展の道筋も示されていたため、時間と共に問題は解消していくだろう。
同時にライトマンが行ってきた非人道的な実験についても公開されていたため、ライトマン及びその研究を推進していたパトリック・ザラの名誉は地に落ちた。
今後、研究者の倫理は厳しい目で監視されることになる。
ライトマンの非人道的実験の被験者がコーディネーターであったことでブルーコスモス過激派の溜飲を下げさせる効果もあった。
また、同族であるコーディネーターに対する残酷な実験の数々、それを主導したのがプラント議長パトリックであった事実はプラントのコーディネーターが持っていた自分達は理性的な種族と言う幻想を完全に破壊した。
ライトマンは、自らが泥を被ることでコーディネート技術に関する倫理的問題を終わらせようとした偽アスランと同じことをしていた。
ライトマンがトゥルーザフトで偽アスランと上手く協力関係を続けられたのは、本当の意味で同志だったからなのかもしれない。
偽アスランは戦後、顔と名前を変えて歴史の表舞台から去った。
今後は自分自身の人生を取り戻すために生きるのだとか。
彼に寄り添う緑髪の少年が印象的だった。
闇ラクスは、ネームレスとの戦いを最後に歌姫を引退。
喉にインプラントしていた機械も取り外し、歌うことは出来なくなったが日常生活には支障のない体となる。
髪の色と顔は元に戻した。
今後は、ただの少女としてシンを支えていくだろう。
カガリとラクスは、闇ラクスから託された想いを胸に歌い続けていく。
二人の連名でローレライ・システムの破棄及び技術の永久封印を宣言。
人類を洗脳する悪魔となり得る危険性を訴え、歌を2度と悪用されないための活動も展開する。
戦後、ようやく訪れた平和な世界で歌手として多忙な日々を過ごしながら、それぞれのパートナーとの関係も深めていった。
いずれ結婚と言う話も出てくるだろうと周りから温かい目で見守られている。
最後に戦後の動きについて語ろう。
統合軍とリベリオンは、融和の象徴として双方の英雄達が参加する世界平和監視機構『コンパス』を設立。
アークエンジェルもそちらに所属を移した。
大々的に英雄に名を連ねたイレブンにジョージ・アルスターもこれ以上意地を張れなくなったのか遂にフレイとの交際を認めた。
恋人から婚約者に昇格したフレイの機嫌は天元突破し、惚気が止まらない様子に仲間達は苦笑しながらも優しい目を向けていた。
ファントムペインもコンパスに移籍。
ネームレスなき今、民間人が強大な戦力を私兵として保持し続けるのは要らぬ疑惑を招くとしてアズラエルが契約を解消した。
今後はコンパス内で他勢力の英雄達と切磋琢磨していくことになる。
リベリオンからは当然、ファングのオズマ隊が参加。
シンは英雄なんて柄じゃないと言うが、戦いの中で成長した彼は名実共にリベリオンを代表する英雄となっていた。
スティング、アウル、ステラの3人は、ファントムペインがロドニアのラボから奪取した情報にエクステンデッドの詳細な記録があったことから治療が可能になり、ゆりかごを必要としない健康な身体を取り戻していた。
同じ人体実験の被害者であるブーステッドマンの3人とも交流を持ち、徐々に視野を広げていく。
彼らもまた、奪われた人生を取り戻そうとしているのだ。
特にスティングは、手の掛かる問題児の世話をしている共通点があるからか最近アズラエルの秘書もしているオルガと意気投合し、親友と言える関係となっている。
こうして、それぞれがそれぞれの道を歩いていく。
英雄として歴史に名を刻んだ彼らだけではない。
歴史には残らない普通の人々も新しい時代に向けて歩き始めている。
人々が未来は自分の手で切り開く覚悟を持って歩いていく。
これからの世界は、彼らが歩いた足跡が歴史となる。
そして、人の歴史が続く限り、歌も人の心を震わせる魔法として在り続けるだろう。
とある教会で結婚式が執り行われている。
参列している人数はさほど多くはないが、参加者は錚々たる顔ぶれであった。
世界に名を轟かす英雄達が勢揃いしていると言っても良い。
異常に豪華な参列者達の祝福の中、新郎新婦が愛を誓っている。
幸せそうに微笑む新婦の顔を見ながら、新郎は誓いを新たにしていた。
この笑顔を必ず守ってみせる。
彼女が英雄の中の英雄と讃えられる女傑であっても、その本質が優しく家庭的な女性であると知っているから。
新婦であるマリュー・ラミアスは、今日、マリュー・フラガとなる。
世界の敵ネームレスに止めの一撃を放ったアークエンジェルの元艦長にして、英雄達を束ねるコンパスの旗艦ミレニアムの艦長。
そんな重責を担っている彼女の負担を共に背負う。
それは、夫になる自分の義務であり、特権でもある。
「・・・マリュー」
「何かしら?ムウ」
「幸せになろうな」
「ええ、そうね」
俺の言葉に、彼女は花のような笑顔を返してくれた。
結婚式は恙無く終わり、最後のブーケトスとなった。
参列者には未婚の女性も多い。
普通なら争奪戦になるのだが、俺達はあらかじめどうするか決めていた。
皆も納得してくれるだろう。
3人の女性にマリューが歩み寄る。
彼女が持っているブーケは特注して3つのブーケを束ねた物だ。
束ねていた紐を解き、小ぶりのブーケを女性達に手渡していく。
「これは?」
「マリューさん?」
「私にもですか?」
彼女達は、予想外の展開に驚き、戸惑っているようだ。
「貴女達はずっと頑張ってきたわ。
そんな貴女達だから、幸せのお裾分けをしたいと思ったの。
受け取ってくれるかしら?」
彼女達の性格的に他の人に譲ってしまいそうだったからな。
だから、マリューがこうしたいと言い出した時、俺も賛成した。
「「「ありがとうございます」」」
そんなマリューの心遣いを察せない彼女達じゃない。
恥ずかしそうにしながらも笑顔で受け取ってくれた。
「貴女達の結婚式、楽しみにしてるわね」
マリューの言葉に顔を赤くしながら、「気が早すぎです!」と抗議している。
この平和な世界を掴み取れて良かった。
心からそう思う。
〜FIN〜
ご愛読ありがとうございました。
これにてこの物語は完結になります。
読者の皆さんの応援があったから無事に書き切ることが出来ました。
本当に感謝です。
SEED FREEDAM編ですが、世界の問題がまるっと片付いてしまったので劇場版は欠片もありません。
ほのぼのとした優しい世界のエピソードをいくつか上げて終わりになると思います。
気が向いたら別の作品も見て頂けると嬉しいです。
それでは。