歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
「おのれ、見下しおってからに」
アウラは屈辱に塗れていた。
彼女の姿は幼く、年齢一桁に見える。
だが、驚くべきことにその実年齢は50歳を超えている。
彼女は、かつてメンデルで研究者をしていた。
研究テーマはアンチエイジング。
全ての女性の夢とも言えるテーマだ。
彼女は、その実験中に起きた事故により全身に薬品を浴びてしまう。
その結果、今の姿になってしまったのだ。
それからの彼女の人生は、屈辱と無力感に苛まれ続けるものだった。
欧米の価値観において、幼いと言うことは未熟であることを意味する。
どれほどアウラが優秀さを示そうと幼い外見のせいで尊敬されることはない。
むしろ、成長できず大人へと成熟しない身体となったアウラへ向けられる視線は常に侮りと憐れみに満ちていた。
自分よりも遥かに頭の悪い連中に身体が幼いと言う理由だけで見下される。
子供のまま成長しない身体は、彼女を苛む呪いへと化していった。
いずれ彼女は狂気に堕ち、世界に死と破壊を齎らす存在になるはずだった。
東アジア共和国、日本地区
新国家ファウンデーション建国の候補地としてリベリオンとの戦争で荒れた共和国南部に目を付けたアウラが下見に訪れる前に気まぐれでこの地に立ち寄った。
彼女が日本地区に降り立ったことで運命は大きく捻じ曲がることになる。
「君、どうしたの?
迷子になったのかい?」
どうやら、この地の人々はとても親切でお人好しらしい。
この外見のためか、外を歩くだけで何かと手助けをしてくれる。
生活拠点にしていた欧米でもあったことだが、何故かこの地では不快感を感じない。
そして、私は運命と出会った。
それは小さなライブハウスだった。
何の店かも分からず、たまたま入ったそこで見た光景に圧倒された。
ステージの上で私ほどではないにしても若く幼い少女達が歌い、踊っている。
その少女達に観客の大人達は熱狂している。
まるで女神を崇拝しているかのような熱の籠った瞳には見下すような色は一切なかった。
何故?
幼さは未熟の象徴。
なのに何故、雰囲気も技術も洗練された大人の歌手ではなく、技術的にも拙く、洗練もされていない少女達に熱狂しているのだろう?
分からない。
分からないけど、この光景を見ていると身体の中から形容し難い熱が湧き上がってくる。
ここで歌えば、私にもあの崇拝するような視線を向けてくれるかな?
アウラは、胸を高鳴らせながらライブハウスの経営者に歌わせてほしいと頼んだ。
私も彼女達のようになりたいと。
日本地区は、東アジア共和国に編入されてから文化的な制限を課せられていた。
特にアイドルなどの芸能関係は下火となり、関係者は苦しい経営を強いられている。
そんな中でスターを目指し、地下アイドルとして研鑽を積んでいる彼女達と同じステージに元研究者でたまにカラオケで歌っていた程度の素人が上がりたいなど本来なら認められるわけがない。
しかし、アウラの現在の外見は幼女である。
重要なことなのでもう一度言う。
幼女である。
もっと言うなら金髪白人の美幼女である。
日本地区の住民は白人コンプレックスを拗らせている者も多い。
話題にもなるし、最近停滞していた業界に新しい風を齎してくれるかもしれない。
そう考え、クラブハウスの経営者は了承した。
ステージで歌っていた少女達は、この横入りに不満を持たなかったのかと言うと持たなかった。
自分達の歌を聴いて、目を輝かせながら自分達のようになりたいと言う幼女に素人は帰れなどと言うほど鬼のような感性ではなかった。
こうしてアウラの初ライブがあっさり決まった。
リストにはない突然の乱入者、それも幼い金髪白人美少女がステージに上がったことに観客達がざわつく中でライブが始まった。
こんな状況で盛り上がるのか?
そんな問いは愚問だ。
確かに歌のレベルは高くない。
せいぜい素人に毛が生えた程度だろう。
ただし、それは成人女性の基準での話だ。
年齢一桁の美少女が懸命に歌っている。
多少拙くはあるが年齢を考えれば上手いと言える。
むしろ、年齢的に上手いけど拙いと言う部分は観客達の琴線を刺激した。
頑張れ!
観客達の感情は自然と一つになっていた。
かつて独立国であった日本が東アジア共和国に編入された際、日本人のアイデンティティーが失われることを良しとしない人々が離脱し、新たな国オーブを建国した。
それ故に多くの日本文化がオーブに継承されている。
では、残った人々の中から日本人のアイデンティティーは消えてしまったのか?
確かに文化は制限され、下火になってしまった。
それでも、その魂にまで刻まれた本質はそう簡単に消えはしない。
ステージで懸命に歌うアウラの姿は、彼らの中にある日本人の本質を目覚めさせていた。
イエス、ロリータ!
ノー、タッチ!
世界に変態大国と呼ばれていた日本人の血が今、目覚める。
彼らはまるで保護者のような視点でアウラを応援し始めた。
今日、アウラは彼らの推しになったのだった。
ああ、これだ。
私の求めるものはここにあった。
アウラは観客から向けられる熱い視線と声援に心を高揚させていた。
ここには自分を侮る者も、憐れむ者もいない。
私をこんなにも暖かく受け入れてくれた。
ここが私の運命だったんだ。
その後、アウラは日本地区に拠点を移し、芸能活動をスタートさせる。
日本地区では珍しい金髪美少女と言う特性もあり、順調に人気を獲得していくのだった。