歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
オルフェ・ラム・タオは部屋で一人、テレビを見ていた。
テレビにはラクスが映っている。
彼の顔に表情はなく、その内心は伺えない。
それでも彼はずっと見ていた。
「オルフェ・・・」
部屋に入ってきた女性が声を掛ける。
「イングリットか・・・シュラ達は?」
「皆、すでに訓練場に集まっています」
「そうか、なら私も向かうとしよう」
そう言って、オルフェはイングリットの横を通り過ぎ、部屋を出ようとする。
「オルフェ!」
イングリットがオルフェの背中に向かって叫ぶ。
その表情には苦悩が浮かんでいる。
「なんだ?」
「ここ最近、明らかに訓練過剰です。
少しは身体を休めないと!」
ダン!
イングリットの声を遮るようにオルフェが壁を叩く。
「言いたいことはそれだけか?」
「でも、オルフェ!」
「だまれ!シュラ達の誰か一人でも弱音を吐いたか!?」
「いいえ、でも私は皆の身体が心配で」
「なら、お前は我らに屈辱を与えられたままでいろと言うのか!
我らはアコード、コーディネーターすらも超えた種なのだぞ。
母上の覇道をお支えすることこそ我らの使命。
出来損ないどもに負けたままでいられるか!
今度こそ勝つのは私達だ!」
イングリットの言葉を切って捨て、オルフェは今度こそ部屋を出て行った。
「オルフェ・・・」
ラクスが映っているテレビを見た
その瞳には激しい敵意が宿っていた。
「ラクス、貴女は・・・敵です。
貴女がいなければ、オルフェがあんなにも思い悩むこともなかった。
私は絶対に認めない」
イングリットもまた、オルフェに続いて部屋を出て行った。
オルフェ達が訓練場に着くと、シュラ達はすでに汗を流し、息が上がっていた。
どうやら先に訓練を始めていたらしい。
全身から流れ落ちている汗の量が訓練の激しさを物語っている。
だが、その瞳には疲労を感じさせない猛々しさが宿っていた。
飢えた獣を連想させる、勝利を渇望する戦士の瞳だ。
「オルフェか・・・先に始めさせてもらった。
構わないな?」
「ああ、もちろん。
その目を見ればわかる。
だいぶ練り上げているようだな」
「次は勝つ。
勝負の最中にあのような破廉恥な妄想をする奴に負けるわけにはいかんのだ」
「悔しいのはシュラだけじゃないわよ」
「そうだ。
俺達もまた屈辱に塗れている」
「前回、負けたのは慢心があったからだ。
敵の強さを認めず、下等種と侮った。
同じ失敗を繰り返すつもりはない」
シュラ以外の者達も同じように目をギラつかせている。
「頼もしいな。
決戦の時は近い。
さらに研ぎ澄ませていくぞ。
今度こそ我らアコードの真価を見せつけてやるのだ!」
「「「「了解!」」」」
リベンジに燃える彼らは、激しい訓練に没頭していく。
かつての屈辱を晴らし、栄光をその手に掴むために。
ついに決戦の時が来た。
対峙するは、最強と認めた者達。
オルフェを先頭にフォーメーションを組んだアコード達の表情は張り詰めていた。
そこにかつての余裕はない。
彼らも崖っぷちなのだ。
アコードとは、コーディネーターを超える種として生み出された。
今回も負けてしまえば、アコードとしての存在意義に関わる。
「行くぞ!」
オルフェの号令で全員が両手にビームサーベルを持ち、何時でも動けるように構える。
対峙する敵も同様に構えを取る。
自分達と同じようにフォーメーションを組み、自信に満ちた動きは練度の高さを伺わせる。
やはり強い。
勝てるか?
いや、弱気になるな。
我らはブラックナイトスコード。
誇り高きアウラ陛下の親衛隊だ!
両陣営が同時に動いた。
両手のビームサーベルを振り回す。
もちろん、出鱈目に振り回しているのではない。
この戦場で自分の意思を具現化しているのだ。
オルフェの動きに他のアコード達も合わせる。
心で繋がることが出来る彼らの連携には一糸の乱れもない。
そんなアコード特有の能力を使った連携にあろうことか相手は対抗してみせた。
彼らは心が繋がっていないはずなのに、まるで一つの生命体であるかのように動きを合わせている。
くっ、心で繋がっている我らと遜色のない連携だと!?
だが、この程度は想定内だ。
アコードの力はこんなものではない。
どこまで着いて来れるかな?
オルフェ達がギアを上げる。
動きはより激しく、より複雑になっていく。
相手もそれに対応して動きを変える。
戦いは更なる高次元へと突入していった。
シュラは戦いの中で意識を高揚させていた。
最強だと認めた男が自分の動きに着いてくる。
いや、少しでも気を抜けばこちらが置いていかれる。
それ程に相手の動きにはキレがあった。
そうだ。
それでこそ俺が認めた男。
奴らの中でお前こそが最強だ。
その時、シュラが
この感覚には覚えがある。
前回はこれで動揺して負けてしまったのだ。
それはシュラの予想通り全裸の女性のイメージであった。
おのれ!
やはり破廉恥な妄想を!
だが、わかっていれば動揺などしない。
何より、こんなふざけた男に負けてたまるかーーー!
シュラが単独で前に出る。
ここで主役が変わった。
今まではオルフェを筆頭に完璧な連携を行っていた。
その中ではシュラもその一部でしかなかったが、今は違う。
ともすれば独断専行とすら言える単独での突出。
瞳に浮かべる強い意志と相まって、まるで物語の主人公のようだ。
少なくとも、この場でスポットライトを浴び、すべての注目を集めているのはシュラだった。
そんなシュラの想いに好敵手も応える。
その男もまた単独で前に出て
シュラがすべての潜在能力を解放する。
アコードの仲間達すらも置き去りにするほど速く、激しい動きを魅せる。
「どうだ、これが俺の力!
これこそがアウラ陛下の親衛隊ブラックナイトスコードだ!」
「確かに速いな。
だが、それだけがすべてじゃない!
俺達にだって譲れないものがあるんだ!」
身体的な能力差から動き自体はシュラの方が速い。
だが、男はシュラに負けてはいない。
動作の一つ一つに意味があり、指先にまで神経を通わせているかのような丁寧かつ繊細な動きは正に芸術的ですらあった。
二人の戦いは拮抗し、周囲の者達を魅了していく。
二人の舞を永遠に見ていたい。
そう思わせるほど見事な戦いだった。
どれ程そう思おうと、この世に永遠はない。
戦いの終わりは始まった時と同じく、唐突に訪れた。
彼らが敬愛し、守ると誓ったアウラがその場に姿を現したのだ。
彼女が出陣した以上、私情を優先するわけにはいかない。
「どうやらここまでのようだな」
「ああ、ここで手打ちだな」
「勘違いするなよ。
母上に対して破廉恥な妄想をするような男など決して認めん。
親衛隊は唯一、我らブラックナイトスコードのみだ!」
「そう、つれないことを言うな。
我々はアウラ様の覇道を支え、彼女を(芸能界の)頂点に押し上げる同士ではないか」
「言ってろ。
お前達など必要ない。
必ずそれを証明してみせる」
そう言ってシュラは隊列に戻る。
男もまた、仲間達の下に戻った。
すでに相手を見ていない。
彼らの視線の先には、ステージに立つアウラの姿があった。
「皆の者、妾に傅くのじゃーーーー!」
アウラのライブが始まった。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!
アウラ様ーーーーー!!!」
集ったファンの歓声が上がる。
その歓声を背に、自分達こそがアウラの親衛隊であると鎬を削った男達が競い合った技を披露する。
手に持つは、かつてサイリウムと呼ばれ、現在ではその見た目からビームサーベルと呼ばれているアイドル応援グッズ。
それを両手に持ち、身体全体を使い、激しく踊る。
それは推しに捧げる神聖なダンス。
伝説にのみその名を残す『オタ芸』であった。
ブラックナイトスコードはアウラ帝の親衛隊の座を守ることが出来るのか?
それは分からない。
ただ、アウラの子供達であると言う立場に胡座をかいているわけにはいかない。
それだけは確かなことだった。
これで劇場版のエピソードも終わり、完全に完結しました。
アウラとブラックナイトスコードが世界に進出してカガリやラクスと覇を争うことになるのか?
それはこれからの彼らの頑張り次第ですね。