歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
クルーゼは、足付きからラクスの歌が流れ始めた事で戦闘を停止せざるを得なかった。
ラクス・クラインが何故、どのタイミングで足付きに乗るような事になったのか?
様々な疑問が浮かぶが、同時にこの状況をどう利用するかを考えていく。
「アデス、まずは足付きに映像通信を送れ。何にせよ、ラクス・クラインの状況を確認しなければ始まらない」
(ラクス・クラインが足付きに乗っている。さて、ザフトの連合に対する敵対心や憎しみを煽るためにはどうするか)
「艦長、ナスカ級から映像通信が来ています」
アークエンジェルのブリッジでは、どうするべきか迷いが生まれている。
ラクスの歌声を流した以上、ザフトから確認の通信が入る事は予想できた。
本物のラクスが歌っているのなら、通信を繋げても問題ないが、歌っているのはミーアだ。
繋げれば偽物とバレてしまう、だが、応じなければ、いずれ歌声はデータか何かで本物は乗っていないと判断して戦闘を再開するだろう。
「どうするんだよ、通信繋げたらバレちゃうだろ」
「戦闘は止まったけど、これからどうするかとか考えてなかったわ」
学生組も、この後の展開を考えてなかったため、どうすればいいのか分からないでいる。
そこにミーアが声をかける。
「マリューさん、繋いで下さい」
ミーアが自ら正体をバラすと言ってくる。
「ミーアさん、それではあなたの立場が悪くなるだけで、また戦闘が始まってしまうかもしれないわ」
「大丈夫です、信じてくれませんか?」
歌で戦闘を止めた意味が無くなり、ミーアの立場だけが悪くなる。
そんな心配をするマリューに、それでも通信に出ると言う。
マリューは、そんなミーアに戸惑い、思わずカガリに視線を向ける。
カガリは、その視線を受けて何も言わずに頷く。
カガリが大丈夫だと判断している。
何かは分からないが、彼女がそう思うだけの何かがあるのだろう。
「ミーアさん、本当にいいのね?」
「はい、お願いします」
アークエンジェルがザフトからの通信に応える。
ヴェサリウスのブリッジに足付きにからの映像が映し出される。
艦長席に座る女性士官の隣に二人の少女が立っている。
状況から考えて、この二人が歌っていたのだろう。
金髪と茶髪の少女達だった。
片方は、アルテミスでも歌っていた少女だろう。
だが、どちらもラクス・クラインの髪とは違う色だった。
「偽物だと?」
ヴェサリウスの映像データを共有したモビルスーツのパイロット達も彼女達の姿を確認する。
当然、アスランもその映像を見てキラに食ってかかる。
「どう言う事だ、キラ!ラクスに声が似ているだけの偽物を使って、俺たちを混乱させる。それが地球軍の戦い方か!」
キラは何も言い返せない、実際別人が歌っていたのだから。
ミーアが歌ったのは、お父さんを心配していたフレイの為だろう。
このままではミーアのプラントでの立場が悪くなると心配するキラは、ミーアを擁護しようとする。
「彼女は、ミーアはただ戦闘を止めたかっただけだ」
「ミーア、それがラクスの歌を利用しようとした女の名前か」
「違う!アスラン、彼女はそんな子じゃない。優しくて、戦いで誰かが傷つくのが嫌なだけなんだ」
アスランとキラの回線に別の声が割り込んで来る。
それは堂々とした威厳すら感じさせる声だった。
「アスラン・ザラ、髪の色が違うだけで婚約者の顔も判らないのですか?」
突然、見知らぬ女に名前を呼ばれ戸惑うアスランを前に、ミーアは手を頭に持っていく。
その茶色の髪を掴み、取り外した。
茶色の髪はウィッグだったのだ。
その下から隠されていた本来の髪が姿を現す。
それは美しいピンクブロンドの髪だった。
「ラクス・・・」
その髪を見てラクスだと認識し、呆然とするアスラン。
他のザフトの兵士達も同じだった。
ラクスの歌が流れて、足付きにラクスが捕らえられているのかと思ったら、通信に出た姿は髪の色が違う別人だった。
婚約者のアスランが別人だと言ったのだから、そう信じたのだ。
だが、その髪は変装用のウィッグで、本当に本当は本人だった。
そんな目まぐるしい展開に混乱してしまっていた。
「ミーアが、ラクス?」
キラも同じ様に呆然としている。
ブリッジの学生組も同じだ。
むしろ、直接目の前で見ている分、衝撃も大きかった。
「え、本物のラクス?じゃあミーアって何?」
「じょ、常識的に考えたら、お忍びの時に使う偽名じゃないか?」
「設定凝りすぎでしょう!ラクスの歌マネそっくりさんとか、本人なんだからそれは似てるでしょうよ」
「てことは、俺たちに言ってたプラントでの活動とか全部ウソ?」
今までミーアと築いてきた関係が偽物だったのか、そんな不安が学生達の中に生まれる。
「黙っていてごめんなさい、でもミーアとして活動してることは本当なの。
ミーア・キャンベルは、クライン家のお嬢様と言う仮面を外して、素の自分でいられる様にプラントの友人が用意してくれた身分なんです」
ラクスは、自分に良くしてくれた学生達に誤解されたままでいたくなかった。
だから、黙っていた自分の事情を全て話す。
「僕らがミーアを好きになったのは、ミーアがいい娘だったからだ。本当の名前がラクスだとしても、友達なのは変わらないよ」
キラのあるがままに受け入れる性質がここでも発揮される。
学生組も、キラのこういう所に何度も救われた事がある。
だから、キラが受け入れるなら『まぁ、いいかな』と言う雰囲気になっていた。
その様子を見ていたカガリは、キラの本当の力を理解する。
ミーア、いやラクスと学生達の間に亀裂が入るかと思っていたが、キラがあっさり埋めてしまった。
このままではラクスが悲しむと思い、仲介に入ろうとしていたが必要なかった。
キラの本当の力は、パイロットとしての能力とかプログラミングの技術とかそう言うものじゃない。
人と人を繋ぐ力、ファーストコーディネーター、ジョージ・グレンが提唱した調停者とは、こういう者を言うのかもしれない。
このやりとりは歌を流すために繋いでいたオープン回線で連合、ザフトにも聞かれていた。
どうやらラクスは拘束されている訳ではない、そもそもラクスと認識されてすらいなかった様だと両陣営が理解した。
たが、その会話を理解していない者がいた。
別の世界線では、その場の勢いに流される主体性がないと言われている男。
「キラ!ラクスを人質にするなんて、これが地球軍の本質だ。
分かっただろう、ナチュラルに肩入れする価値なんてない」
キラはアスランの言葉に唖然としていた。
お前は今まで何を聞いていたんだと。
マリューも、こんな言いがかりに流石に黙っていられなかった。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。
我々は、彼女がラクス・クラインであると認識していませんでした。
よって、彼女を人質にする意図はありません。
先程の歌も、本人が申し出たものです」
アスラン以外の全員が理解しているであろう事を、改めて宣言する。
アスランの言葉をそのままにしておけばプラントやザフトの品位に係わる。
クルーゼが、不本意ながらもアスランのフォローに回る。
「確かに知らなかったのだろう。だが今は?アスランが先走ってしまったが、彼女がラクス・クラインだと知った君達は、我々に何を要求する?」
アスランの言葉は、この先の展開を読んでのことにしておく。
クルーゼは、部下の性格を把握している。
単に興味のない話を聞き流していただけだろうと理解しているが、他のザフトの兵士達は、さすが赤服だと納得している。
マリューも、答えを返さなければならない。
カガリが地上で示し、アークエンジェルでも示し続けてきた覚悟。
その覚悟に触れて、勇気を持って一歩を踏み出したラクス。
そんな2人の前で無様は晒せない。
「地球軍は、ザフトとの一時的な休戦を提案します。
レーダー範囲ギリギリまで距離を取り、両者の中間でラクス・クラインの身柄の引き渡しを行う。
ただし、迎えには非武装のイージスが来る事、それが条件です」
マリューは、歌姫達を見て微笑みかける。
「これでどうかしら?」
「ありがとうございます。婚約者の顔も覚えてない男が迎えなのは不満ですが」
ラクスの返しに、ブリッジで笑いが起きる。
「キラ君に送らせるわ。プラントに戻っても元気でね」
「私もあなた達の無事を祈ってます」
「ラクス、決めたんだな」
「はい、周りが求めるクライン家の令嬢としての歌じゃない、私自身の想いを込めた歌を歌います。
たとえ許してもらえなくても、路上で一人でも聞いてくれる人がいるなら歌い続けます」
カガリに自分の想いを伝える事が出来れば満足だった。
カガリの様になりたいと。
「そうか、私も負けていられないな」
自分は想像以上に認められていたようだった。
負けていられない対等な相手。
そんな風に言ってくれた。
なら、その期待に応えなければ。
アークエンジェルで胸に宿した覚悟を持って、ラクスはプラントへ帰ることになる。
「そう言えば、カガリさんはラクスが正体をバラした時、全然動揺してなかったな」
「今思うと、前から知ってた素振りだったわね」
「ラクスから聞いてたんですか?」
学生達が気になった事をカガリに聞いてみる。
「いや、聞いてないよ。でも歌を聴けば分かるさ、本人かどうかなんて」
「アークエンジェルで歌ったの、ラクスのとは全然違う曲だったのに、やっぱりカガリって凄いのね」
ザフトにとっても受け入れない理由がないものだった。
自国のトップの娘がいると判明した艦に攻撃するなら、本国に許可をもらうか、本国が納得する理由が必要だ。
それを休戦すれば引き渡すと言っている。
引き渡しを行うには当然、戦闘を止める事になる。
実質的な条件は、イージスが迎えに行く事だけだが、彼は婚約者だ。
妥当な人選と言える。
むしろ彼を置いて、誰が行くのか。
さすがにクルーゼも、この提案を受けない訳にはいかなかった。
両陣営の中間地点でイージスとストライクが向き合っている。
双方のコックピットが開き、互いに相手の姿を視認する。
「ラクス、何か喋って。君だって事を教えないと」
「アスラン、お久しぶりですわ」
アスランにもわかる様に、普段家にいる時の口調で話す。
アスランも、自分が知るラクスの口調に納得して母艦に連絡を入れた。
「どうしたんですか?キラ」
「いや、普段の喋り方もいいけど、お嬢様みたいな喋り方も可愛いなって」
「えっ、キ、キラ、何を言ってるんですか!」
「あ、ごめん、本当のお嬢様だったよね」
「いえ、そうではなく・・・もういいです」
「その、ラクス・・・」
キラとラクスの気安いやり取りに、アスランは戸惑っていた。
「ああ、ごめんアスラン。ほらラクス、向こうへ」
「はい、キラも元気で」
ラクスは、キラに別れを告げてアスランの待つイージスのコックピットに行く。
ラクスをコックピットに入れたアスランが、キラに呼びかける。
「キラ、お前も来い」
「アスラン、僕は行けないよ。アークエンジェルには、守りたい人達が居るんだ」
「そうか、なら次は俺がお前を討つ」
どうやらアスランは、ついにキラの説得を諦め、戦う事を覚悟した様だ。
「アスラン、僕もだ」
キラも覚悟する。
今までの様には、もう行かないだろう。
本気で殺しに来るイージスは、手強い相手になる。
ラクスの引き渡しが終わり、イージスとストライクが帰還しようとしたタイミングで、クルーゼのシグーが出撃してきた。
休戦は、期限を定めていないラクスを引き渡すためのもの。
それが終わった以上、攻撃してもなんら問題ない。
そんな理屈で戦闘を再開しようとしていた。
クルーゼの性格を知っているムウも、イレブンと共に出撃する。
予想外の戦闘再開にキラもアスランも戸惑っている中、再びラクスが強い口調で話し出す。
「クルーゼ隊長、やめてください。プラント議長、シーゲル・クラインの娘がいる場所を戦場にするつもりですか?」
「ラクス・・」
アスランは、今まで見たことのない父親の権力を利用するラクスの姿に驚きを隠せない。
本当に自分が知っているラクスなのだろうか。
クルーゼも、こうはっきりと言われては戦闘継続を諦めるしかない。
艦のクルーには、ラクスのシンパが多い。
ここでラクスの身の安全を蔑ろにすれば、自分の立場が危うくなる。
それでは、計画に支障が出てしまう。
カガリと接触した事で、今後厄介な存在になりそうなラクスの抹殺も考えなければ、そう思いながら撤退を了承する。
ザフトが撤退を開始した事を確認し、キラは安堵のため息をつきアークエンジェルに帰還する。
帰ってきたキラに、ムウ達が声をかける。
「ご苦労だったな、キラ。フレイの親父さんも俺たちも無事だ。上出来だぜ」
「ムウさん、でも救えなかった艦もあった」
「キラ、俺達は神さまじゃない。守れなかった事を嘆くなら強くなれ、少しでも多くの命を救う事が出来るように」
「イレブンさん・・・」
失われた命を想い、沈んでいた空気を変えるため、ムウが明るい声で話題を変える。
「それより、キラもやるなぁ。婚約者の前でラクスの嬢ちゃんを口説くなんて」
「何を言ってるんですか、僕はそんな事してませんよ」
「いや、あれは口説いていた。ラクスの嬢ちゃんも満更じゃない感じだったぜ」
「フラガ大尉、こいつは分かってないですよ」
「あ〜天然ジゴロってやつか」
「ちょっと、ムウさん、イレブンさんも、僕が友達の婚約者に手を出すような人間に見えるんですか!」
「その気はないんだろうが、結果としてそうなりそうっていうか」
「あのアスランとか言う男は、デリカシーが無さそうだったからな。その内フラれるかもしれない」
「そうなれば、何の問題もないな」
「ちょっと二人とも、話を勝手に進めないでくださいよ!」
人の死に触れて、ストレスを溜め込み壊れていく兵士は多い。
キラも戦場に立っているのだ。
自覚していなくても、徐々に心が蝕まれている。
だから、ムウ達はいじり、じゃれ合う事で仲間の心を守るのだ。
先遣隊との合流を行う事は出来た。
アークエンジェルの救援が間に合わず一隻が沈み。
守り切れずに大破し、航行不能になった艦の生き残りを救助して、生き残ったモントゴメリと共に第8艦隊の本隊が待つ宙域へと向かう。
ミーア・キャンベルは、常に仮面を被って生きているラクスを心配した友人が用意した身分になります。
ラクスに色々教えていた情報通の友人が、影響を与えて世界を分岐させたキーマンの二人目です。