歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
先遣隊との合流後、大西洋連邦事務次官ジョージ・アルスターは娘に会うため護衛の兵士達と共にアークエンジェルに乗り込んで来た。
彼を出迎えるため、主だった士官が格納庫に集まっている。
キラも格納庫にいたため、出迎えの人員の中に入っていた。
挨拶をする艦長達に応えた後、ジョージはアークエンジェルのパイロット達の事を聞いてきた。
命を救われた礼が言いたいと言うジョージの言葉に、マリューはフラガ達を紹介していく。
キラを紹介した時、ジョージの表情が変わる。
「ストライクのパイロットが現地で志願したコーディネーターだと、何故そんな者が野放しになっているのだ」
ジョージが、アークエンジェルのクルーにキラを拘束するよう命令してきた。
突然豹変したジョージに驚くが、共に戦い、仲間として受け入れているアークエンジェルのクルー達は動かない。
大西洋連邦の高官とはいえ、軍に命令する権限はないため、従う義務もないのだ。
命令に従わないアークエンジェルのクルー達に痺れを切らしたのか、護衛の兵士達に指示を出す。
命じられた兵士達は、ブルーコスモス過激派の思想に染まっているのか銃を構えてキラを拘束しようと近づいてきた。
「おっと、キラをどうするつもりだ」
「この艦で勝手な真似はさせない」
ムウとイレブンがキラの前に立ち、兵士達と睨み合う。
格納庫にいた整備員達も、仲間のために取り囲み抗議の視線を向けている。
兵士達は、その様子に怯み、それ以上前に進めなくなる。
「どういうことですか、アルスター次官。
何を考えているのです、味方ですよ」
マリューも艦長として、キラを守るためにジョージに抗議する。
「君達こそ何を考えているのだ。
コーディネーターは危険なのだ、鎖で繋がれていない猛獣が隣にいるようなものではないか!」
「キラ君をどうすつもりですか?」
マリューがジョージの真意を問いただす。
「然るべき場所に連れて行き、然るべき処置を行う。
それまでは、戦闘時以外は監視を付けさせてもらうだけだよ」
これまでの言動から、ジョージがブルーコスモスの穏健派ではなく過激派よりの思想を持っていると分かっている。
そんな男が言う、然るべき処置をキラにさせる訳にはいかない。
ムウ達も整備員達も立ち塞がり、絶対にキラを渡さないと睨みつける。
そんなアークエンジェルのクルー達の様子に、ジョージは物分かりが悪い子供に対するような表情でため息をつく。
ジョージに従っている兵士達は数も少なく手出し出来ないでいるのに、自分の優位を確信しているようであった。
「イレブン・ソキウス少尉、キラ・ヤマトを拘束したまえ。これは『命令』だ」
突然、そんな事を言い出した。
守るためにキラの前に立っているイレブンがそんな命令を聞くはずがない。
だが、イレブンの事情を知っている一部の者は心配そうに彼を見ている。
イレブンは、全ての感情が抜け落ちたような表情でジョージを見た。
ジョージの顔は、全て自分の思い通りになると確信しているようだった。
イレブンは、表情と同じく感情を感じさせない平坦な声で応える。
「アルスター事務次官、その命令を・・・」
そこで、イレブンの目に強い意志が宿る。
「拒否します」
一部以外のクルー達にとって当たり前の回答に、しかし、ジョージは信じられない物を見たような驚愕の表情を浮かべる。
「ば、馬鹿な!ソキウスシリーズは、ナチュラルの命令に逆らえないはずだ。そう造られたはずだ、なぜ洗脳が解けている!」
「パパ、洗脳って何?ソキウスシリーズって、パパ達はソキウスさんに何をしたの!」
フレイの言葉が響く。
ジョージが来ると知ったサイ達が、早く会わせてあげようとフレイを格納庫に連れてきていた。
だが、ジョージの異様な様子に声をかけられなかったのだ。
そして、フレイは全てを聞いてしまった。
命を守ってくれたキラに対する暴言やソキウスを物のように扱う姿は自分が知っている優しい父親と同じ人物とは信じられなかった。
「フレイ!私たちは今、大人の話をしているんだ。
いい子だから下がってなさい」
「いやよ、守ってくれたキラに何をしようとしたの!」
「フレイ、コーディネーターは危険なんだ。鎖が必要なんだよ」
「鎖って何よ!洗脳なの?ソキウスさんにもしたのね」
「違う!私がしたわけじゃない。
戦闘用コーディネーターは、軍が勝手にやったことだ!」
ジョージは、娘に嫌われたくないと全ての責任を軍に押し付ける。
「戦闘用コーディネーター・・・」
「ああ、服従遺伝子を組み込んだのも、教育と暗示でナチュラルへの絶対服従を刷り込んだのも軍がやった事だ」
「なんだよ、それ・・・」
学生達も、事情を知らなかったクルー達も、ジョージの暴露に愕然としている。
「それなのに、何故命令を聞かないのだ。
洗脳が解けたなどと言う報告は受けていない」
ジョージは、理解していなかった。
軍が勝手にやった事だと言ったが、報告を受け、その運用に関わっている以上、自分も同罪だということを。
そんなジョージにイレブンが声をかける。
「アルスター次官、どうやら貴方はアズラエル理事から信用されてなかったようですね」
「何、理事がどうしたと言うのだ」
「俺達ソキウスの洗脳が解けている事を教えられていなかったのでしょう?」
「理事は知っていたと言うのか!何を考えているのだ盟主殿は」
「アズラエル理事は、俺の洗脳がカガリ・ユラの歌で解けた事を知り、他の兄弟達を集めて聴かせてみたりしてましたよ」
「馬鹿な、盟主自ら鎖を切るような真似を・・・」
自分の行動を所属する組織のトップに否定されたジョージは項垂れる。
ジョージの切り札であるイレブンへの『命令』が不発に終わり、ブルーコスモス派の兵士達と共に元いた艦モントゴメリに収容されていく。
フレイは父親に反発し、しばらく顔も見たくないと言い放ちアークエンジェルに残った。
ジョージが去った後の格納庫は、沈黙に包まれていた。
その空気の中、最初に声を出したのは事情を知っていた者の一人、ムウだった。
「悪かったな、イレブン。
次官が命令した時、一瞬とは言えお前を疑ってしまった。
命令を聞いちまうんじゃないかって」
「フラガ大尉がそう思うのも仕方のない事です。
洗脳が解けたとは言え、ナチュラルの役に立ちたいと思う価値観は残ってますから」
「コーディネーターのキラより、ナチュラルの次官を優先しちまうかもって思った自分が情けないぜ」
「ソキウスさん、パパが言ってた事、本当なんですか?」
フレイがイレブンに問いかけた。
自分にとって優しい父親が、本当にそんな酷いことをしていたのか。
「確かに、俺は軍が開発した戦闘用コーディネーター『ソキウスシリーズ』その11番目の個体、イレブン・ソキウスだ」
「いいのか、イレブン。無理に話すことはないんだぜ」
「かまいませんよ、別に隠してるわけじゃないですから」
本当に気にしてない様に振る舞うイレブンの声に嘘は感じられない。
やはり、父親が言っていた事は事実なのだろう。
フレイは泣きながら謝る。
「パパが・・・ソキウスさんに酷いことを、ごめんなさい」
「君が謝る事じゃない。
俺達の事も、アルスター次官だけの責任って訳でもないだろう」
「それでも、パパのした事は・・・やっぱり間違ったことよ」
フレイは、アークエンジェルでカガリと言う歌姫を間近で見て、周りの人達が成長していく様子を見てきた。
フレイ自身も影響を受け、成長していた。
以前なら父親の言う事を何の疑いもなく信じて、受け入れていただろう。
「カガリさんの歌ってやっぱり凄いんですね。
ソキウスさんの洗脳も解いてしまうなんて」
泣いているフレイを慰めながら、サイがイレブンに声をかける。
「ああ、カガリ・ユラの歌には救われたよ」
「そうなのか?確かに歌は人の心に影響を与える魔法だと思っているが。
私の歌に、そこまで都合のいい力はないと思うのだが」
フレイと共に来ていたカガリがそう言う。
自分の歌に、そこまで特殊な力が備わっているとは思えなかったからだ。
「カガリさん、貴女の歌で救われたのは事実です。
もちろん、聴いた瞬間、洗脳が解けたなどと言う物語の様な展開ではなかったですが」
「そう言えば、俺もその辺りのこと詳しく聞いた事はなかったな。
どういう経緯で洗脳が解けたんだ?」
「俺は、過激派の上官の命令で戦場を転々としていました。
どの戦場でも、カガリの歌が聞こえてきましたよ。
最初は、気にもしてなかったですが」
イレブンは、坦々と語っていく。
最初はブルーコスモス所属のコーディネーターで、過激派の上司の命令を感情がない機械のように遂行していく自分を、周囲の兵士達も訳ありだと遠巻きにしていた。
それでも、戦場で何度もカガリの歌を聴いていると、いつの間にか足を止めて聴く様になっていた。
「カガリの歌に反応する様になった俺に、戦車隊の男が嬉しそうにカガリの歌のデータをプレイヤーごと渡してきたんです」
「布教活動ってやつか」
「ええ、その男は熱狂的なファンだったようで、何度もカガリの素晴らしさを聞かされました」
「それって、洗脳を別の洗脳で上書きされてるだけじゃ」
トールが思わず口を挟んでしまう。
「そうかもしれない。戦闘時以外は、カガリの歌を聴いて過ごす様になっていたよ」
「そこは、否定しないんですね」
「その後、何度目かの戦闘の時に、その男がいる戦車隊から救援要請が入った。
回り込んで来たモビルスーツの攻撃を受けていると。
その時、初めて命令を無視して救援に向かった。
戦車隊の陣地に着いた時には、既に壊滅状態だった。
俺に歌のデータをくれた男もやられていたよ」
「そんな」
「我を忘れてザフトに襲いかかっていた。
気がついたら、ザフトのモビルスーツを破壊していた。
帰還後、命令無視を咎められて洗脳が解けてる事に気付いたんだ。
ナチュラルが助けを求めていたため、体が勝手に動いたと報告したら、上官は、洗脳の影響がこう言う形で出たのだろうと納得していた。
その報告を受けたアズラエル理事に呼ばれて、問い正された事でバレてしまったが。
理事は面白がって、他のソキウスでも試していたよ」
「なんだか、ブルーコスモスの盟主ってイメージと違うな」
「本人に言わせると、風評被害も甚だしいとのことらしいです」
「ソキウスさんは、ブルーコスモスの盟主と親しいんですか?」
「理事はカガリのファンで、カガリの歌で洗脳が解けた俺を気に入ったらしい。その後は、理事が後ろ盾になってくれている」
「そこから先は、友軍を守り続けてきたわけだな。
ピンチの仲間を助けるためにどんな危険な戦場にも飛び込んで行く。
そうして付いた二つ名が最良の戦友」
「最良の戦友、それがイレブンさんの二つ名」
「そうだ、敗戦を誤魔化すために付けられた俺のエンデュミオンの鷹よりも、よっぽど価値がある」
「そんな大した事はしてませんよ。
隣で肩を並べて戦っている戦友を守るのは、当然のことです」
「その当然の事に命をかけ続けるのは、誰にでもできる事じゃないさ」
「イレブンさんも、やっぱり凄い人だったんですね」
そんなパイロット達のやり取りを見ながら、フレイは悩んでいた。
パパが酷いことをしていたのに、この場にいる人達は誰一人、私を責めるような目を向けてこない。
それは、イレブン達が辛いはずの過去を何でもない様に話しているからだ。
それだけじゃない、サイ達も、アークエンジェルの人達も、今も私の横で自然に寄り添ってくれているカガリの歌で強くなったからだ。
「私も、強くなりたい」
フレイの中にも本当の強さが芽生え始めていた。
難産でした。
ジョージが暴露するまでは、直ぐに書けたのですが、
イレブンが過去を話す流れに自然な形で持って行くのが難しい。