歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
「ナスカ級3、ローラシア級4、グリーン18、距離500、会敵まで15分!」
接近するザフトの部隊に気付いた第8艦隊は、そのあまりの規模に驚愕していた。
メネラオスのブリッジで報告を聞いたハルバートンは、その部隊の規模からザフトの目的を理解する。
「奴らの狙いは、我々の文字通りの全滅か」
軍事的には、全滅とは部隊として行動が取れなくなる程の損害として、部隊の30%を失った状態を言う。
しかし、ザフトの規模からそんな生易しいものではない、最後の一隻まで沈めると言う意志を感じる。
だとすれば、離脱しようとする艦も狙われるだろう。
民間人の乗るシャトルも危ない。
ザフトは、アークエンジェルに民間人がいると知りながら攻撃してきたという報告を受けている。
非武装のシャトルだからと見逃す事はないだろう。
「全艦に迎撃態勢をとらせろ。陣形を乱すな!」
第8艦隊は、戦闘準備を始める。
ハルバートンは、シャトルを無事に下ろす方法を模索しながら、艦隊の指揮を取る。
アークエンジェルの格納庫でザフト襲来の知らせを聞いたムウは、その規模に顔をしかめる。
「やはり来たか、クルーゼ。しかも狙いは俺たちの全滅か」
「シャトルだけは、なんとしても守らなければいけませんね」
イレブンも、悲壮な決意を滲ませる。
そこに、ノーマルスーツを着たキラがやってきた。
「キラ、お前、なんで降りなかった!」
「これが、僕が出した答えです。
僕が望む未来にたどり着くために、今はカガリ達が乗るシャトルを守ります。
アークエンジェルを降りるのは、今じゃない!」
「キラ・・・わかった、死ぬなよ!」
ムウ達は、キラが自分で未来を選んだのだと知り、仲間として受け入れた。
ブリッジでも、除隊を許可し艦を降りたはずのサイ達が入ってきた事にマリュー達が驚いていた。
「あなた達、なぜ?」
「彼らが自らの意思で志願して、私が許可しました」
「ナタル、彼らは・・」
「中立国の民間人・・と言いたいのでしょう?
艦長、それは彼らの覚悟に対する侮辱ですよ」
「艦長!俺達はみんな、この戦争や世界と向き合うと決めて残ったんです」
「まだ、はっきりとは見えてないけど、私達が進むべき道を見つけるために残るんです!」
「あなた達・・・わかりました。
直ぐに戦闘が始まるわ、席に着きなさい!」
マリューは彼らの覚悟を知り、一時的に協力を申し出てくれた守るべき民間人から、共に戦う仲間へと認識を変える。
サイ達は、それぞれの席に着き、アークエンジェルの運航を手伝っていく。
志願したばかりのフレイには出来ることがないため、ミリアリアの隣の席に着き、戦場やブリッジの様子を目に焼き付けるように見つめる。
自分に出来ることを探すために。
そこに繋がるパイロット達からの通信。
そこには、メネラオスに送り出したはずのキラがいた。
「キラ、お前、なんでそこに!」
サイ達が驚きの声を上げる。
「サイ達が僕の話を聞かずに行っちゃったんじゃないか。
僕も残るつもりだったんだよ」
「でも、向こうにはキラの昔の友達が!」
「うん、それでも、僕には望む未来があるんだ。
そこにたどり着くためなら、アスランとだって戦うよ」
キラの静かな決意に、サイ達は何も言えなかった。
迫り来るザフトの艦隊からモビルスーツが出撃してくる。
その数、奪取されたGを合わせて40機近くに達していた。
絶望的戦力差の戦いが始まる。
襲撃を予測していたムウは、ハルバートン提督に上申してメビウス隊の指揮権を貰っていた。
艦隊全体で100機近いメビウスが配備されている。
ジン1機を相手にするのにメビウス3機が必要と言われているが、それは開戦当初の話。
ベテランや十分な訓練を積んだパイロット達が多くいた頃の事だ。
第8艦隊は再建中で、パイロットは新兵ばかり。
正直、5倍の数は欲しいところだ。
メビウス隊に一撃離脱を指示して、危ない味方を援護するために戦場全体に感覚を拡げていく。
想定以上にメビウス隊は善戦している。
100機近い数による一撃離脱戦法は、ザフトにとっても手を焼くものだった。
モントゴメリのメビウス隊の存在も大きかった。
たった一度の戦闘で、驚くほど変わり成長する兵士がいる。
彼らにとってザフトとの戦闘とは、多数の犠牲の上でなんとか生き残れると言うものだった。
ムウの指揮で戦い、損害を抑えて生き残ったことが彼らに自信と落ち着きを与えていた。
もちろん、操縦や戦闘の技術が飛躍的に上達などしていない。
だが、撃墜されそうになっている味方のフォローに入る事が出来る視野の広さを手にしていた。
それでも艦艇やメビウスは次々と落とされ、数を減らしていく。
ブリッツとバスターが暴れ回っているからだ。
ブリッツはミラージュコロイドを駆使して、一撃離脱に撤するメビウスを奇襲で落としていた。
隙を見て、エンジン部を破壊するなど艦艇も沈めている。
バスターも特性の異なる2門のライフルで、離脱しようとしているメビウスを落としている。
時に、2つのライフルを連結させる事で高い火力を持つ、超高インパルス長射程狙撃ライフルで艦艇を貫き、爆散させる。
2機のGに艦隊は食い荒らされ、数を減らしていく。
その度に、対空砲火は薄くなり、メビウスによる妨害も低迷していく。
イレブンは、バルキリーの戦闘機形態でクルーゼのシグーの下へ向かった。
クルーゼに指揮を取らせると、ムウが指揮していても損害が増大してしまう。
モビルスーツに変形して、シグーと交戦を開始する。
バルキリーのスペックはストライクに匹敵する。
前回の対決時の経験から操縦技術が向上した事もあり、シグーを相手に優位に戦うことが出来ている。
ここでシグーを落とせば、他の仲間を救援に行ける。
イレブンは早る心を抑える。
技量はまだクルーゼの方が上、機体性能で僅かな有利を得ているだけ。
決着を急げば、足元を掬われ撃墜されるかもしれない。
確実にここで仕留める、そのために冷静に戦うのだ。
しかし、その戦いに割り込む機体が一つ。
他のGに少し遅れて出撃してきたデュエルである。
ストライクやゼロと共に足付きから出てきた見慣れぬモビルアーマー、その機体がモビルスーツに変形したことで、自分の顔に傷を付けたジンのパイロットだと確信したイザークがバルキリーに攻撃を仕掛ける。
「この、裏切り者が!傷が疼くだろうが!!」
「デュエルか、もう戦線に復帰してくるとは」
イレブンは2機を相手にする事になり、劣勢となる。
救いは、デュエルのパイロットが激昂しているため連携が取れていない事だ。
「やれやれ、イザークにも困ったものだ」
クルーゼも、イザークには狂乱を抑えてもらいたいが単独では撃破されていた事を思い、イザークに合わせる形で戦っていく。
キラも戦場でアスランのイージスに拘束されていた。
本気で殺しにかかるイージスは、キラに想像以上の重圧を与えていた。
次々に沈められる味方の姿を見て、援護に行きたいがアスランの攻撃に対処するだけで精一杯で、そんな余裕はなかった。
近付けば両手両足のビームサーベルを使い、機体を回転させるように斬りつけてくる。
離れれば、正確な射撃で追い詰められ、モビルアーマーに変形して主砲のスキュラを撃ってくる。
イレブンの教えを受けていなければ、既に撃墜されていただろう。
「これが、アスランの本気」
「キぃぃラぁぁぁああ!」
今までとは、うって変わった激しい攻撃に押されていく。
激しい攻防が続く中、損傷し戦闘力を喪失した艦が艦隊から離脱する。
だが、回り込んできたザフトの艦隊が離脱中の艦に砲撃を行い撃沈する。
「くっ、離脱中の艦を、やはり一隻も逃がすつもりはないか!」
その光景を見たハルバートンは、この状況で民間人を乗せたシャトルを出しても撃墜されると確信した。
なんとかしなければならない。
アークエンジェルに通信を繋げる。
「ラミアス大尉、アークエンジェルは艦隊を離脱し、大気圏降下シークエンスに入るのだ!」
「しかし閣下、奴らの狙いは艦隊の殲滅です!
このタイミングで離脱しても囮にはなりません」
「今ならば、アラスカは無理でも味方の勢力圏には降りれるだろう。
囮はアークエンジェルではない、我々だ!」
「なっ、閣下!!」
「君達がストライクとG計画の全てのデータを持ってアラスカに入れば、それは明日の力となる。
我々がここで全滅しても、続く者達がいれば無駄ではない」
「それでも、この戦力差ではアークエンジェルにも十分な戦力を向けて来るかと!」
「民間人のシャトルを出した後、我々は残存艦艇全てでザフト艦隊に突撃をかける。
上手くすれば一矢報いる事も出来るだろう」
マリューは、ハルバートンの考えを理解した。
残存する全艦艇で突撃する事でアークエンジェルに振り分けられる戦力を少しでも少なくする。
そして、突撃への対処とアークエンジェルの撃沈を同時に行わなければいけない状況を作る事でシャトルの安全を確保しようというのだ。
ザフトの追撃を振り切って降下出来るかは、アークエンジェルにどの位の戦力を当てて来るかしだい。
だが、第8艦隊は確実に一隻残らず全滅するだろう。
ここで尻込みするようでは、提督の部下は名乗れない。
「了解しました。閣下の御心と共に必ずアラスカに届けます」
「ふっ、頼もしくなったものだな、マリュー・ラミアス」
「部下は上司に倣うものですから」
二人は微笑みを浮かべて通信を切る。
自らがすべき事を成すために。
ハルバートンはシャトルの発進を指示した後、残存艦艇に通信を繋げる。
「民間人を乗せたシャトルの発進を確認後、残る全ての艦でザフト艦隊に突撃をかける。
明日の勝利のために、今、諸君の命を私にくれ」
残存していた艦艇も全滅は避けられない事を理解している。
ならばシャトルを守るために突撃する事に否はない。
次々と受諾の返信が返ってくる。
「皆、不甲斐ない指揮官で済まぬな」
シャトルがメネラオスを離れた。
「全艦、突撃ーーーー!」
ハルバートンの号令で、艦隊の全てが最大戦速でザフト艦隊に向かって突き進む。
生き残っているメビウス達も、艦隊に取りつこうとするモビルスーツ達に攻撃し、突撃を援護していく。
提督との通信を切ったマリューは、即座に指示を出す。
「本艦はこれより艦隊を離脱。
大気圏降下シークエンスに入ります。
フラガ大尉達には、アークエンジェルの直衛に戻るよう指示を出して」
「了解」
アークエンジェルのブリッジは、慌しく動き始める。
この艦での大気圏降下は、初めて行うもの。
誰にも経験などないのだ。
各フェイズの手順を確認しながら、出来る限り早く進めていく。
「パイロット各機へ、フェイズスリーまでには戻れ。
バルキリーとストライクは、スペック上では大気圏突入能力を有しているが、試した者はいないんだ。
中がどうなるかは分からんぞ」
「「「了解」」」
パイロット達もこれしか手がない事を理解していた。
シャトルの安全とアークエンジェルの降下を成功させるために命を捧げる提督達の覚悟に応えるため、アークエンジェルへと向かう。
その様子を見て、クルーゼもハルバートン提督の思惑を見抜く。
「見事だな、シャトルまでは手が回らないだろう。
だが、足付きは逃さんよ」
ヴェサリウスに突撃してくる艦隊への対処を任せると通信を送り、自らは、4機のGと共にアークエンジェルへ攻撃をかける。
既に足付きの戦力は把握している。
奇跡でも起こらない限り、確実に全滅させる事が出来るだろう。
低軌道上の戦いは最終局面へと突入していく。
始まってしまった絶望的な状況。
アークエンジェルは、この戦況を乗り切る事が出来るのか!
調子に乗ってザフトの戦力増やしすぎました。