歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ザフト艦隊に突撃を仕掛けた第8艦隊は、完全に足を止められていた。
7隻に及ぶザフトの戦闘艦から放たれる砲撃と未だ20機以上存在するモビルスーツ達に群がられて次々と沈められている。
40隻近くいた艦も100機近くいたメビウスも、半数以下にまで数を減らしている。
G兵器が全てアークエンジェルの撃沈に向かった為、即座に撃沈されるということは減ったが、全滅までの時間が延びただけに過ぎない。
むしろ、アークエンジェルの降下を援護すると言う目的を考えれば、Gを誘引できなかった事は痛恨の事ですらあった。
「敵の指揮官は、冷静に戦力を割り振ったか。
ラミアス大尉、困難な道だが切り抜けてくれ」
自らが生存する道は、すでに閉ざされている。
ハルバートンは、アークエンジェルが降下を成功させる事を祈った。
アークエンジェルでも、激しい戦闘が行われている。
大気圏降下シークエンス中で動くことが出来ないアークエンジェルは、普段のような援護も出来ずにいた。
ブリッジのモニターには、アークエンジェルを守る為にパイロット達が必死に戦っている姿が映されている。
ザフトのGは、クルーゼに指揮されてアークエンジェルの上空を押さえて攻撃している。
デュエルだけは、がむしゃらにイレブンのバルキリーに攻撃を仕掛けているが、そのせいでアークエンジェルや他のパイロット達と分断されてしまっていた。
イレブンの実力ならデュエルを落とすことは可能だが、イザークが後先考えない勢いで攻勢に出ていること、地球の重力の影響が出始める高度まで降りてきた事で時間がかかってしまう。
その間にアークエンジェルが落とされては意味がない。
重力で重くなった機体を動かして、デュエルを相手にしながら、アークエンジェルを攻撃している他の機体にビームやミサイルを撃ち、牽制していく。
キラは、機動性の高いエールストライクで獅子奮迅の戦いをしていた。
絶望的な状況の中で極限まで追い詰められた時、身体の中で何かが弾ける感覚を覚えた瞬間、思考がクリアになり世界から色が消えた。
敵の姿だけが、鮮やかに色付いて見える。
キラの脳が、戦闘に必要な情報以外をカットし始めたのだ。
あれ程、脅威を感じていたアスランの攻撃が遅くなる。
ビームやミサイルの軌道まで、はっきりと見えた。
ストライクは、アークエンジェルを落とそうと攻撃している3機のGの間を飛び交い、攻撃していく。
その鬼神のような強さに、Gのパイロット達は恐怖すら覚えていた。
「なんだ、この動きは・・・キラ、お前はいったい」
「くっ、グレイトだぜ!やっぱ足付きのパイロットは化け物だな」
「そんな、攻撃が当たらない!」
パイロット達の動揺をクルーゼが抑える。
「足付きさえ落とせば、それで終わりだ。
ストライクは一機しかいない、足付きへの攻撃を合わせろ!全ては防げない」
クルーゼの指揮を受けてアークエンジェルに攻撃を集中させる。
クルーゼは、アークエンジェルへの攻撃には加わらない。
シグーの対艦攻撃の火力が低いこともあるが、ムウのゼロを相手にしているため、その余裕がないのだ。
「クルーゼ、やらせはしない!」
メビウス・ゼロに装備されたサブブースターを兼ねる四つガンバレルの内、一つだけ射出して機体のバランスを崩し、不規則な軌道を描きシグーの攻撃を避けていく。
時に二つ、三つと状況に合わせてガンバレルを使う事で、クルーゼの予測すら超える動きを見せている。
重力の影響が出ているはずの高度で、まるで機体にダンスをさせているかのような動きをするゼロ。
ストライクの派手な動きに隠れて目立っていないが、重力影響下の重い機体で、クルーゼのシグーを抑えているムウの操縦は神業と言っていいものだった。
「ムウめ、これ程の成長を見せるとは」
ムウ、キラ、イレブンのパイロット達の成長は凄まじいものだった。
それは、クルーゼの想定したアークエンジェルの戦力を・・・上回るものでは無かった。
どれほどイレブンが妨害しようと、キラが3機のGを相手に立ち回ろうと、ムウがクルーゼの予測を超えた動きをしようと、全ての攻撃を防ぐ事は出来ない。
大気圏突入は、繊細な作業だ。
僅かなミスでも大事故に繋がる。
ザフトは、アークエンジェルを完全に破壊しなくてもいいのだ。
大気圏突入に耐えられないような傷を与えれば、後は地球の大気がアークエンジェルを破壊してくれる。
そして、それはもうすぐ達成される。
「ちっ、限界か!」
大気圏突入能力のないムウのゼロが限界高度を向かえる。
これ以上は、戦闘すら不可能になる為、アークエンジェルに帰還する。
それは、クルーゼのシグーも同様だった。
高度をとり、アークエンジェルから離れるが、最早戦闘の趨勢は決している。
やがて、アークエンジェルの損傷は限界点を超える。
アークエンジェルは、奇跡を起こせなかった。
奇跡は、別の場所から訪れた。
突撃してきた第8艦隊の足を止め、なぶり殺しにする事に夢中になっていたザフト艦隊を後方からビームが襲う。
「後方に艦隊が展開しています!データ照合、第5艦隊。
ユーラシアの部隊です!」
「何故、今まで気付かなかった!」
第8艦隊にチェックメイトをかけ、全滅まで時間の問題と言う状況で油断し、索敵を疎かにしていたのだ。
今更、慌て始めても遅かった。
アークエンジェルがアルテミスを脱出した数日後
ユーラシアの要塞アルテミスに近づく艦隊。
アルテミス陥落の報を聞いて、脱出した部隊を救助する為に赴いたユーラシア軍によって構成される地球軍第5艦隊である。
「周辺の宙域に脱出したアルテミスの部隊は、見つかりませんでした」
「アルテミスの部隊は、脱出出来なかったのでしょうか?もしそうなら、彼らの生存は・・・」
艦隊司令は、部下からの報告を受けている。
アルテミスから脱出してきた部隊を見つけられず、降伏を認めないザフトに全滅させられたのかと不安を漏らす部下達。
「アルテミスを攻撃したザフトは少数だったと聞いている。
生き残りは、必ず居るはずだ」
そんな部下達を励まし、捜索を続けるよう指示する。
「アルテミスの光学映像きます!」
アルテミスに接近した事で、肉眼での確認が出来る様になった。
ブリッジに、アルテミスの様子が映し出される。
その光景に全員が息を呑む。
アルテミスの表層は、まるで内側から爆発したかのようにズタズタに破壊されている。
「これは、酷いな」
「これじゃ、アルテミスにいた奴ら、全滅かな?」
「おい!まだ、内部に生き残りがいるかもしれないだろ」
アルテミスの惨状に動揺するブリッジ。
艦隊司令は、生存者のいる可能性は低いと思いつつも確認のために内部の様子を偵察させる。
偵察部隊から、内部に基地司令を始め、かなりの数の生存者が居ると報告された。
どうやら、表層部は壊滅的損害を受けているが、内部の中枢区画はほぼ無傷だったようだ。
センサーや通信設備が破壊された為、接近する艦隊に気付かなかったらしい。
ブリッジ内に安堵が広がる。
アルテミス司令部
「友軍が来てくれたようですね」
「そのようだな、それもユーラシアが誇る第5艦隊が来てくれるとは」
「そう言えば、司令が後見人をしている者も第5艦隊に所属していましたね」
「ふん、手のかかる小僧だったよ」
そう言う、ガルシア司令の顔は、子を想う親のような表情を浮かべている
「司令も素直じゃないですね」
「何か言ったか?」
副官の呟きを上手く聞き取れなかったガルシアが問いただすが、なんでもないですと流して話題を変える。
「司令、アークエンジェルには後で脱出すると言っていましたが、結局、最後まで残ってましたね」
「奴らの数は少なかった。
それに表層部でミサイルを派手に爆発させたからか、十分な損害を与えたと勘違いして撤退して行ったからな。
逃げる必要などなかっただけだ」
本当に素直じゃないな。
副官は、心の中で繰り返した。
アルテミスにある艦では、全員は乗れない。
脱出の準備は、若い新兵達にさせていた。
もしもの時は、そのまま彼らを脱出させるつもりだったのは、皆が察している。
その後、救助に来てくれた艦隊司令と会談し、今後の方針を決める。
「それでは、第5艦隊はこのままアルテミスに駐留し、表層部を再建するまで護衛の任に着くと?」
「ええ、アルテミスは位置的に重要な拠点ではないですが、損害が表層部だけで早期に再利用出来る状態です。
放棄して、宇宙海賊に占拠されては厄介な事になりますから」
「宇宙海賊か、正直にジャンク屋組合と言ったらどうかね」
「ガルシア司令、彼らは一応、我々の政府が戦時特権を認めた組織ですよ」
「一応な、奴らの中にはまともな者もいるが、海賊と変わらんような奴らが大半ではないか。
戦後、奴らが素直に特権を手放すと思っているのか?」
「その時は、我々が取り締まる事になります。
戦後の失業対策にもなると、ジョークにもなってますよ」
アルテミスは、要塞として再利用する為に表層部の修理を行う。
その間、第5艦隊が要塞防御の任務に着き、アルテミス陥落の情報を得て、物資を漁りに来た宇宙海賊を撃退していく。
アルテミスの修理が順調に進んでいる事に満足気な表情をしているガルシア司令の下に、偵察部隊から情報が送られてきた。
その情報を受け、第5艦隊司令と協議を行う。
「ザフトの大部隊が動いている、ですか?」
「ああ、ナスカ級3、ローラシア級3と言う規模だそうだ」
軍の動きは、その規模が大きいほど察知されやすい。
クルーゼ達は、通常とは大きく異なる編成で動いていた為、ユーラシアの偵察部隊の目に止まったのだ。
「哨戒任務の規模ではないですね。
何か特別な作戦を行う為に移動中と考えるのが妥当でしょう」
「この部隊の進行方向に、第8艦隊が展開している宙域がある」
「アークエンジェルを、合流した艦隊ごと叩き潰す為の戦力だと?」
「その可能性は高い。そして、それは」
「アークエンジェルに乗っているカガリ・ユラも殺されることになる」
「そうだ、今の情勢でザフトがカガリ・ユラを殺せば、連合市民はプラントを滅ぼすまで止まらなくなる」
「大西洋連邦との関係は悪くない。
カガリ・ユラの事も考えれば援軍を出さない訳には行かないですね」
「今から援軍を出して間に合うか?」
「通常の編成では無理でしょう。
これだけの戦力で襲われては、再建中の第8艦隊は長くは持ちません」
「では、どうする?」
「第5艦隊の高速艦だけで救援部隊を編成して向かわせれば、間に合うかもしれません」
「それでは、大した数にはならないのではないか?」
「ですから、ゲシュペンスト隊も出しましょう」
「!!・・・カナードの部隊か」
「ガルシア司令が後見しているパルス特務中尉、彼が隊長を務めるコーディネーター部隊。我が軍の最精鋭ですよ」
「良いのか?第5艦隊の虎の子だろう」
「カガリ・ユラが殺されれば、世界は最悪の方向に向かってしまう。
それに、ザフトはアルテミスを壊滅させたと思っている。
多少手薄になっても、海賊相手なら問題ありません」
こうして、送られる事になった第8艦隊への援軍が戦場に到着した。
ユーラシアの艦隊から艦載機が出撃する。
その先頭には、青い連合カラーのジンが4機。
ユーラシアのコーディネーター部隊である。
その隊長機から、第8艦隊に通信が入る。
「こちら、第5艦隊所属『ゲシュペンスト隊』隊長カナード・パルス。
これより第8艦隊の援護に入る」
その通信を聞いたハルバートンが驚きの声を上げる。
「ゲシュペンスト隊だと!ユーラシア最強と言われている部隊ではないか」
ザフト艦隊を後方から襲撃している友軍を見ながら、ユーラシアのコーディネーター部隊が操っているジンの戦いを見る。
全員が凄腕だと言っていい動きを見せている。
特に隊長機は、別格と言える動きだ。
まさに、ユーラシアのトップガンであった。
「ユーラシアは、虎の子の部隊まで寄越してくれたか。
それに比べて、我々の政府は・・・」
ユーラシアの部隊が自分達の守りを薄くしてまでコーディネーター部隊を送ってくれた事に感謝すると同時に、地上の戦いばかりを重視して、宇宙にコーディネーター部隊を寄越さない大西洋連邦政府に対する不満を漏らす。
「今は、そんな事を考えている場合ではないな」
ハルバートンは状況を思い出し、心に浮かんだ不満をしまい込む。
「全艦、見えているな!ユーラシアの援軍が来てくれた。
あのゲシュペンスト隊まで出してくれたのだ」
まだ生き残っていた艦やメビウスも見ていた。
今も、自分達を助ける為に戦ってくれている。
「我々の為に戦っている友軍に無様を晒すわけにはいかない。
我らの牙はまだ折れていないと、彼らに示すのだ!」
ハルバートンの言葉に生き残り達の目に再び光が戻る。
艦隊の戦力は半数を割っている。
足も止められ、全滅を待つばかりだった。
それでも戦う意志はあった。
もともと全滅の未来しかなかったのだ。
ならば、戦い抜いて死ぬ。
そんな覚悟の兵士たちの前に友軍が来てくれた。
士気が戻る、操縦桿を握る手に再び力が入る。
艦艇も砲身を焼き切る勢いで砲撃を続ける。
第8艦隊が息を吹き返した。
それを見たクルーゼは、自らの策が全て食い破られたことを悟った。
このままでは、帰る艦を失うことになる。
足付きを落としても、自分が死んでは意味がない。
どうせ、カガリの抹殺には届かないのだ。
クルーゼは、この戦いに見切りをつけ撤退を決断した。
状況の変化を受け入れ、策に執着しない。
クルーゼもまた、名将たる資質を持っていた。
「引くぞ、別の艦隊に奇襲を受けている。
留まれば、帰る艦を失う事になる」
「くっ、了解!」
アスランとニコルは、隊長の命令に応えて離脱を始める。
しかし、
「裏切り者め!逃げるなーーー!」
イザークには、クルーゼの指示は届いていなかった。
あくまでもイレブンを狙い続ける。
「おい!イザーク、撤退の指示が出てる」
ディアッカがイザークを止めようとデュエルを追いかける。
そして、彼らの高度は限界点を超えた。
もう重力を振り切って戻って来ることは出来ない。
「仕方ない、我々だけで艦隊の援護に向かうぞ」
「でも、あの二人は!」
「Gには大気圏突入能力がある。地上で友軍が回収してくれるさ」
「ニコル、隊長の言ってることは正しい。今は艦隊の救援が最優先だ」
仲間を見捨てる事に抵抗を見せるニコル。
クルーゼの言葉が正しく、助ける術がないことは分かっているが、感情は納得していない。
それでも、今は母艦を助けに行かなければならない。
ニコルは、隣にいるアスランに視線を向けた。
なぜ、アスランはこんなに直ぐに納得できるのだろう。
クルーゼが戻り、全体の指揮をとった事で秩序だった動きを取り戻し、艦隊は離脱していく。
カナード・パルスの猛攻を受けるも、イージスとブリッツの性能によって足止めし、なんとか無事に逃げ延びることが出来た。
残ったイザークは、重力に捕まり、ろくに動けない状態で、最後までイレブンのバルキリーを狙い射撃を続けていた。
その時、2機の間を非武装のシャトルが横切る。
「なっ!何故シャトルが!」
イレブンは、目の前をシャトルが降下していく光景を見て焦りを見せる。
いつの間にかシャトルの降下ルートまで流されていたのだ。
視線を戻すとデュエルがシャトルを見据えている。
嫌な予感がする。
そして、デュエルがビームライフルをシャトルに向けて構える。
その光景は、イレブンの援護に向かっていたキラにも見えていた。
「やめろーーー!それには、カガリが!!!」
必死にストライクを加速させ、デュエルを止めようとする。
無情にもキラの目の前で、デュエルの引き金は引かれた。
撃ち出されたビームは、真っ直ぐにシャトルへ向かっていく。
もはや、キラのストライクでは届かない。
キラの中に絶望が広がる。
「させるかーーーー!」
諦めていない者がいた。
デュエルがシャトルに向けてライフルを構えた時には動き出していた。
モビルスーツでは間に合わない。
だが、この機体なら出来る!
バルキリーを戦闘機に変形させて、フルスロットルで加速させる。
稲妻のように大気を切り裂き、ビームとシャトルの間に機体を割り込ませる。
バルキリーが被弾し弾き飛ばされた事で、シャトルは無事に降下していった。
バルキリーは、錐揉み回転しながら大気圏を落下していく。
モビルスーツ形態に戻る事で機体の安定を取り戻したが、被弾した所から煙が上がっている。
この状態では、大気圏突入に耐えられるはずがない。
イレブンは、自分の死を悟った。
それでも満足だった。
兵器として造られた自分に、人間らしい心と自由をくれたカガリを守れたのだから。
「イレブンさーーん!」
キラの声に顔を上げると、ストライクがバルキリーに手を伸ばしていた。
被弾したバルキリーを抱えて、前方に盾を構えるストライク。
モビルスーツの推力では、もうアークエンジェルに戻ることは出来ない。
「なんて馬鹿な。なんで来たんだ!もう戻れないぞ」
「そんなの分かってますよ!でも、仲間を助けるのに理由なんてない」
キラの口から、普段自分が言っていた言葉が出てきた。
アークエンジェルが自分達を救うために進路を変更して船体を寄せてくる。
これでは、アークエンジェルも予定の場所に降りれないだろう。
自分の仲間達は、本当に馬鹿で最高の仲間達だな。
そう思い、加熱するコックピットの中で気を失った。
アークエンジェルは、予定の軌道を大きく外れて、地球に降下していく。
書きたい事を全て詰め込んだら、だいぶ長くなりました。
それでも、上手くまとまったかなと思います。
個人的には、ムウの戦闘シーンがお気に入りです。
ガンバレルの新しい使い方が出来たんじゃないかなと思っています。
次回は間話を予定してます。