歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
プラントに戻ったラクスは、直ぐにプラント全土に生放送されるステージで歌うことになった。
ラクスは病気で体調を崩して、しばらく療養していたことになっていた。
これは、回復したラクスの復帰のステージとして用意されたものである。
何も言わずにいなくなり、しばらく行方不明になっていたのに、何のお咎めもなく即復帰のステージが用意されている。
やはり、自分は特別扱いされている。
その裏でどれ程の夢を目指したアイドル候補達が踏みにじられて来たのだろうか。
もう、その事実から目を逸らさないで向き合うと決めて、ここに立っているのだ。
プロデューサーには、歌の前に迷惑と心配をかけたプラントの皆さんに想いを語りたいと話を通している。
ここで、全てを話して新しい一歩を踏み出すのだ。
アークエンジェルで得た覚悟を胸に、ラクスはステージに上がる。
「プラントの皆さん、心配をかけてごめんなさい。
今日は、みんなに話したいことがあって、少し時間をもらいました。
実は、みんなに隠していた事があります。
私はラクス・クラインとして以外にミーア・キャンベルと言う名前でも芸能活動をしていました。
ミーアとして活動し、ラクスがどれほど特別扱いされていたのかを知りました。
ラクスがプラントの歌姫であるために、どれほどの人達の夢や希望を踏みにじってきたのかわかりません。
でも、偽りの歌姫である私とは違う、本物の歌姫カガリ・ユラの歌を聞いて、やっと私も現実と向き合う勇気が持てたんです」
ラクスが突然業界の裏側を話し始めた事でスタッフ達は動揺している。
この放送は生放送であるためカットは出来ない。
だからと言ってクライン家の令嬢に乱暴な真似も出来ない。
プラント市民が見ている中で、強引に押さえつける事も出来ずにいる間もラクスは話し続けている。
「私が踏みにじってきた人達のために出来る事、それは彼らが納得できる歌を歌えるようになる事しか思いつきませんでした。
だから、私は歌います。
クライン家の令嬢として大人達が求める歌ではない、私自身の想いを込めた歌を。
だから・・・」
ラクスは、カメラの向こうにいるプラント市民達を強い意志を宿した瞳で見つめる。
「私の歌を聴けーーー!」
その叫びと共に音楽が流れ始める。
それは、予定されていたラクス・クラインの曲ではなかった。
スタッフとして働いている友人に頼んで、アークエンジェルで歌ったミーアの曲に差し替えてもらっていたのだ。
他のスタッフ達の混乱に拍車が掛かる。
突然、予定にない暴露が始まり、生放送であるが故に強引な事も出来ない内に曲が始まってしまったが、その曲も予定のものではなかったのだ。
これはもう、放送事故として止めるしかないのではないかとプロデューサーが決断しようとしていた。
だが、ラクスの歌が始まり、別の意味でプロデューサーの動きが止まる。
ラクス・クラインをプラントの歌姫にするために、多くの才能ある若者達からチャンスを奪ってきた。
それでも、この業界で生きているのだ、プロデューサーも音楽を愛する者の一人だった。
今のラクス・クラインの歌を止めてしまっていいのか?
明らかに以前の歌とは質が違う、自分の想いを歌に乗せている。
自分達の過ちに気付かされた。
これまで、ラクスをクライン家の令嬢と言う枠にはめ、窮屈そうに歌わせていたのだと理解したのだ。
カガリ・ユラに関する情報は、プラントではタブーになっていた。
あの歌姫を知れば、ラクスが霞んでしまうと思ったからだ。
だが、今、目の前で歌っているラクスならどうだ?
直ぐに並び立つのは無理だろう、潜ってきた修羅場が違う。
だが、今のラクスになら挑ませてやりたいと思ってしまった。
あの凄まじい覚悟で歌う怪物に、いつか届くのではないか。
そう思わせる可能性をラクスの歌から感じてしまっていた。
もう、誰もラクスの歌を止めようとする者はいなかった。
この生放送を見ている者達の中には、当然スターを目指して努力し、それでもチャンスを与えられる事なく埋もれている者達もいた。
噂にはあったラクス・クラインのためのライバル潰し、それを本人が認めている。
やはり、自分達は不当にチャンスを奪われてきたのかと言う憤りもあった。
それでも、ラクスの勇気を認めない訳には行かなかった。
生放送で業界の裏側を暴露したのだ。
いかにラクス・クラインと言えども、明日から仕事を干されてもおかしくない暴挙だ。
自分がその立場なら同じ事が出来るだろうか?
トップスターの地位が約束されている中で、それを投げ捨てるような真似が。
そして始まった歌によって、彼らはラクスを認めた。
自分の実力に自信がある者ほど、ラクスを認めていない者が多かった。
親の七光り、権力で得た地位、そんな風に思っていた。
実際、ラクスの歌がそれほど特別だとは思えなかったのだ。
今日までは。
彼らも音楽で生きようとする者達、歌を聴けば分かる。
どれだけの覚悟と想いで歌っているのかなんて。
潰されるのは、ライバルになると思われているからだ。
この歌に張り合えるようにならなきゃ、被害者だなんて恥ずかしくて名乗れない。
もっと上手くなってやる。
彼らの中に決意の炎が燃え上がる。
ラクスは、カガリを目指すだけではない。
彼らから、追いかけられる立場にもなったのだ。
業界に詳しくないプラントの一般市民からも、ラクスの勇気と歌は好意的に受け入れられた。
元々、ラクスの歌が好きだった事もあり、ミーアとして作った歌も別の魅力を見せてくれたと評判になった。
以前の歌の方が好きだと言うファンもいたが、以前の曲も捨てた訳じゃないと知り、それなら変わらず応援すると言ってくれた。
この放送を見ていたシーゲル・クラインは、娘にクライン家の令嬢としての仮面を被り続ける事を強いていたのだと知り、父親としての不明を恥じていた。
ラクスがしばらく友人の所に泊まって新曲について考えたいと言い出した時も、たまにお泊まり会をしている友人の家だと聞いていた。
男親しかいない家では話せない事もあるのだろうと許可したが、しばらくするとラクスのマネージャーから連絡が取れないと報告があり、その友人の家に問い合わせた。
まさか、偽名を使ってヘリオポリスに行っていたとは思わなかった。
ヘリオポリスが崩壊したと聞いた時は、許可など出すのではなかったと後悔した。
オーブが公表した救助者の名簿にラクスが使っていた名前は無かった。
ラクスの死を受け入れられなかった私を気遣い、マネージャーが病気で療養している事にしてくれた。
心の整理が付けば、ラクスの死を公表するつもりだった。
だが、娘は帰ってきてくれた。
敵ではあるが、ラクスを保護してくれた連合の艦には感謝している。
同時に娘としっかり分かり合っていれば、こんな事にはならなかったのかもしれないと思う。
「ラクスと話し合わなければいけないな。
私も父親として、娘と向き合わなければ」
ラクスと話し、歌を政治的に利用していたことを謝罪した。
これからは、自分の望む歌を歌えばいい。
そう言って、娘に父親としての愛を伝えていく。
ラクスもまた心を開き、素の自分を見せるようになった。
そして、アークエンジェルに乗った経緯を、そこで何を見て、聞いて、感じたのかを話していく。
それはシーゲルの価値観を崩すものであった。
自らを穏健派だと自認しているシーゲルにとっては、自己の否定に等しい。
だが、ここで拒絶してしまえば、娘は二度と心を開いてくれないだろう。
娘の話を聞き、受け止める。
ヘリオポリスの犠牲者達の家族も、ラクスを喪ったと思った時の私と同じ絶望を感じているのだろう。
今まで、ナチュラルが何を感じているのか気にしたこともなかった。
私たちが優しく言って聞かせてやっているのに、ナチュラルは聞く耳を持たないと嘆いてばかりだった。
相手の立場で物事を考えるという事をしてこなかった。
地球のナチュラルの立場から、今までの自分の行いを考えていく。
どれほど辛くとも、プラントを背負う立場にいるのだから、逃げる訳にはいかない。
この日を境に、シーゲルを筆頭とした穏健派が変わり始める。
自らの行いでプラントの立場がどれほど危うくなっているのかを自覚して、その後始末を付けるための方法を模索していくことになる。
ラクスの歌も変わっていく。
カガリの様に魂を込めて歌う。
プラントの人々が意識を変えるきっかけになれればいいと。
今まで避けてきた、情熱的な恋の歌やアップテンポな歌などにも挑戦していく。
その歌の中に自分の想いを込める。
相手と分かり合うために、まずは知るところから始めようと。
歌がプラント市民の心を変えていく事が出来るのか、それは分からない。
それでも歌い続ける。
聴いてほしい人達がいて、聴いてほしい想いがある。
なら歌わずにはいられないのだから。
地上と宇宙に、二人の歌姫の歌声が響いていく。
その歌声が、この世界にどんな影響を与え、どう変わっていくのか。
それは、誰にも予想することはできない。
ただ、ここに歌声で世界よ変われと訴えつづける二人目の歌姫が産まれた。
ラクスが紡ぐ本当の物語は、今日から始まるのだろう。
クライン家の令嬢の仮面を被り続け、それが自分の本質だと思い込んだ先が、デスティニーでの「戦ってもいいのです!」に繋がるんじゃないかなと思ってます。
この世界における分岐点は、素の自分を保てたことになります。
本来、ミーアと言う芸名を名乗るはずだった娘にしわ寄せが行ってしまいましたが。
彼女は、すでに自分以上に歌真似の上手い人がいるので、ラクスの歌真似を武器に芸能界に入る事はありませんでした。
次回からは、いよいよ地上編です。