歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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いよいよ、地上編へと入ります。


僅かな休息

 

 

 

 地上への降下に成功したアークエンジェルは、僅かな休息の時を過ごしていた。

 地上に降下後、イレブンは医務室に担ぎ込まれる。

 バルキリーのコックピットは、危険な温度を示していた。

 直ぐに軍医によって懸命な治療が施されるが、艦の医務室では出来る治療に限界がある。

 イレブンは、生死の境を彷徨っていた。

 

「出来る限りの治療はした。

 後は、ソキウス少尉の生命力に賭けるしかないな」

 

 治療後、イレブンを心配して様子を見に来たキラやサイ達に軍医が現状を話す。

 

「そんな、僕達に何か出来る事は無いんですか?」

 

 イレブンは、今も医務室のベッドで苦しそうに呻いている。

 

「今は、とにかく水分を与えて、身体を冷やすしかない」

 

「それなら、私がします」

 

「フレイ、なら俺も手伝うよ」

 

「ううん、みんなは休んでて。

 さっきの戦闘で疲れてるでしょ。

 私は何も出来なかったから、この位の事はさせて」

 

「・・・わかったよ。

 でも、俺たちが休憩したら交代するから、フレイも休めよ。

 ソキウスさんが回復までどのくらいかかるか分からないんだ」

 

「うん、ありがとう、サイ」

 

 フレイがイレブンの眠るベッドの横に座り、冷たい水で冷やしたタオルで身体を拭き、時おり水を飲ませる。

 その様子を見て、サイ達は医務室を出て行く。

 大気圏を突破して、地上に降りたアークエンジェルのチェックや戦闘後の艦載機の整備等で艦内は慌ただしく動いていた。

 サイ達もブリッジでの作業に掛かりきりで、やっと一息ついた所なのだ。

 フレイの厚意を受け取り、身体を休めてから交代しようと部屋に戻っていく。

 そんな中、キラは思い詰めた様子でイレブンを見ていた。

 

「イレブンさんが倒れた今、僕がアークエンジェルを守らなきゃ」

 

 そう呟き、医務室を後にする。

 

 

 アークエンジェルの艦長室では、マリューとムウが地図を見ながら今後の事を話し合っていた。

 

「ここがアラスカ、そして、ここが現在地。

 嫌なところに降りちまったねぇ。

 見事にザフトの勢力圏だ」

 

 地図のアフリカを指し示して、現状を話すムウ。

 

「仕方ありません・・・あのままストライクとバルキリーを失う訳には行かなかったのですから」

 

 マリューは、思い出していた。

 大気圏の中で、シャトルを庇って被弾したバルキリーが落下していく姿を見た時、イレブンの生存を諦めてしまった。

 あの時、キラだけが諦めなかった。

 アークエンジェルに戻れなくなるにも関わらず、躊躇なくイレブンを助けに向かった。

 何故来たと咎めるイレブンに、答えたキラの言葉が胸に突き刺さる。

 

「仲間を助けるのに理由なんてない!」

 

 仲間のために、どんな危険な戦場にも飛び込んでいく。

 そんなイレブンを尊敬し、信頼していた。

 キラの行動が、そんなイレブンに重なる。

 それに比べて自分はどうだ?

 何もせずに諦めようとしていた。

 自分は間違ったのだ、ならば正せばいい。

 

「本艦とストライク、バルキリーの突入角に差異!

 このままでは、降下地点が大きくズレます」

 

「キラ!ソキウスさん!戻れないの?艦に戻って!」

 

「バルキリーは損傷してるし、モビルスーツの推力では・・・もう・・」

 

 ブリッジにも諦めが広がりつつある。

 ハルバートン提督から託されたものを失うわけにはいかない。

 それはストライクだけじゃない、仲間のために死地にすら飛び込んでいく意志。

 

「艦を寄せて!アークエンジェルのスラスターならまだ・・・」

 

「!・・了解、ストライクとバルキリーの下に艦を寄せろ、甲板に着艦させるんだ!」

 

 ナタルが即座に具体的な指示を出す。

 彼女もまた、私と同じ想いを抱いていたのだろう。

 大気圏の中で軌道変更を行った事で、ストライクとバルキリーを救うことには成功したものの、降下地点は大きく逸れ、アフリカ北部に降りる事になった。

 しかし、後悔はない。

 軍医から、イレブンは生命の危険すらある状態だと報告があった。

 損傷したモビルスーツでの大気圏降下は、それだけイレブンの身体に負荷をかけていた。

 あの時、少しでも躊躇っていたら、すでにイレブンの命はなかったかもしれない。

 ナタルが迅速に対応してくれて良かった。

 今、私がすべき事は、イレブンの回復を信じて進むべき道を決める事。

 

「とにかく、本艦の目的、目的地に変更はありません」

 

 ストライクとG計画のデータをアラスカ本部に届ける。

 それが、第8艦隊が全滅を覚悟して切り拓いてくれた道なのだから。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ、ハルバートン提督から託されたのですから」

 

「なら、OKだ。

 それに、ハルバートン提督も無事かもしれないしな。

 あの時、別の艦隊が援軍に来ていた。

 たぶん、ユーラシアの艦隊だろう。

 規模までは、確認してる余裕はなかったが」

 

「そうでしたわね」

 

 あの時、援軍が来てくれなかったら、第8艦隊もアークエンジェルも確実に沈んでいた。

 その後の戦闘がどうなったのかは分からないが、提督が生きている可能性もあるのだ。

 

「さてと、ちょっとイレブンの様子を聞いて、俺は寝るよ。

 あんたも寝な。

 艦長がそんなクタクタのボロボロじゃ、どうにもならないぜ」

 

 そう言って艦長室を出て行くムウを見送り、気を遣わせてしまったなとマリューは思った。

 エンデュミオンの鷹の名は、以前から聞いてはいた。

 アークエンジェルの機動兵器部隊の隊長として、想像以上の腕を見せてくれたが、それ以上に精神的な柱としてパイロット達やアークエンジェルのクルー達を支えてくれた。

 今の会話も、思い詰めた私を心配してくれていた。

 最後に敢えて隙を見せ、気怠げにしていたのも、私が気兼ねなく休めるようにだろう。

 

「ありがとう」

 

 部屋を出て行った男への感謝を呟き、疲れを癒すためにシャワールームへと向かう。

 

 各々が身体を休め、次なる戦いに備える。

 アークエンジェルは、ザフトの勢力圏に降下したのだ。

 ザフトが何もしてこない筈がない。

 事実、ザフトの手がアークエンジェルに迫ろうとしていた。

 

 

 数日後、砂漠の中で身を潜めるように動かないアークエンジェルを双眼鏡で見つめる兵士の姿があった。

 

「どうかな?噂の大天使の様子は」

 

 コーヒーを片手に問いかけてきた上司に答える。

 

「は、依然何の動きもありません」

 

「地上はNジャマーの影響で、電波状況が滅茶苦茶だからなぁ。

 彼女は未だスヤスヤとお休みか」

 

 砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドは、手にしたコーヒーを飲み、部下のマーチン・ダコスタに告げる。

 

「さあ、戦争に行くぞ」

 

「隊長、いつも作戦前にコーヒーを飲みますね。

 何か意味があるんですか?」

 

 ダコスタが以前から気になっていた事を尋ねる。

 

「この戦争は苦いものだ。

 だからコーヒーの苦味で誤魔化しているのさ」

 

 エイプリルフールクライシスの被害を目の当たりにしてきた地上軍にとって、この戦争は自国の正義を信じて戦うものではない。

 プラントが生き残るために、自分達の家族や大切な人が明日も生きていける世界にするために、正義などないと分かっていながら、相手を屈服させるために勝たなければいけないものなのだ。

 

 後方で待機していた部隊に出撃の命令を下す。

 

「これより、地球軍新造艦アークエンジェルに対する作戦を開始する。

 目的は、敵艦及び搭載モビルスーツの戦力評価である」

 

「歌姫の騎士の・・・でありますか?」

 

 宇宙の友軍からの報告とヨーロッパに降下したシャトルに乗っていた民間人へのインタビュー映像から、ザフトがカガリ・ユラが乗っているシャトルに発砲し、アークエンジェルの白い機体が、その身を盾にして守ったことが分かっている。

 そのため、アークエンジェルの白い機体のパイロットは、歌姫の騎士と呼ばれ有名になっている。

 宇宙のザフト軍がやらかしたことで、地上軍の地球での立場がまた悪くなっていた。

 そんな歌姫の騎士が乗っているアークエンジェルに襲撃をかける事に抵抗を感じているのだ。

 

「被弾して大気圏に突入したんだ。

 普通に考えれば、生きていたとしても戦闘に出られるコンディションではないだろう」

 

 今回の戦いでは、ストライクとエンデュミオンの鷹が乗る機体が相手になるだろうと部下に伝える。

 弱っている騎士《ナイト》を叩くのが目的ではないのだ。

 そう言って、部下達の戦意を保つ。

 

「では、諸君の無事と健闘を祈る」

 

 古来から少しづつ形造られてきた、戦争のルールや暗黙の了解。

 そう言ったものをプラントは壊してしまったのだ。

 勝たねば未来はない。

 バルトフェルドもまた、悲壮な決意で戦場に立っていた。

 

 

 アークエンジェルでは、トールとミリアリアがブリッジに向かって歩いていた。

 今夜の当直は、この二人が担当だった。

 医務室の前を通った時、イレブンの様子が気になり、中を覗いてみると、フレイがまだ意識が戻ってないイレブンの世話をしていた。

 冷たい水で冷やしたタオルを絞り、汗を拭いている。

 自分にはまだ軍務がないからと、誰よりもイレブンの世話を買って出ている。

 艦の雑用を積極的にこなしているのも見ていた。

 

「フレイ、変わったよね」

 

「ああ、そうだな」

 

「前は、お父さんの影響を受けてて、キラのことすらあんまり好きじゃないみたいだったけど」

 

「今は、相手を見て判断しようとしてる」

 

「私たち、ブルーコスモスとは違うって思ってた。

 だけど、世界を知らなかった。

 知ろうともしてなかった」

 

「ヘリオポリスにいた頃は、そんな事にすら気付かなかったな」

 

 自分達が進むべき未来は、どんな形なのだろう?

 今はまだ見えない、だけど必ず見つけてみせる。

 そんな決意を胸に、ブリッジに入って当直を交代する。

 

 交代前のブリッジでは、Nジャマーの影響について話していたようだ。

 

「Nジャマー、撤去出来ないんですか?」

 

 話を聞いていたトールが聞いてみたが、地中深くに打ち込まれていて、数も分からない、その上、効果範囲も広い、そんな物の撤去は無理だと答えが返って来た。

 

「でも、死者が5億人を超えて、まだまだ増えてるんでしょ?」

 

「ああ、6〜7億人くらいになっていると予測されている」

 

「どうにか出来ないのかな?」

 

「これでも、カガリやオーブのおかげでだいぶマシになってるんだぜ。

 それがなきゃ、10億は超えてたって話だ」

 

「特に高効率太陽光発電パネルの技術を無償で開放したのが大きいな。

 その技術は、このアークエンジェルにも使われてるんだ」

 

 自分達の国が、カガリを中心にさまざまな人道支援をしている事は、知識としては知っていた。

 こうして、億単位の人命を救っていると言う具体的な話を聞いて、祖国を誇りに思うと共に、やはり、ぬるま湯に浸かっていたのだと思う。

 今まで知らなかったことを知ることが出来た。

 この艦でなら変わることが出来る。

 トール達は、改めてそう思った。

 

 その時、アークエンジェルのセンサーが異常を捉え、ブリッジに警告音が鳴り響く。

 

「本艦、レーザー照射されています」

 

 索敵を担当していたチャンドラ2世の叫ぶような報告で、ブリッジの雰囲気は一変し、戦闘態勢に移行していく。

 

「照合、捉敵照準と確認!第二戦闘配備発令!繰り返す、第二戦闘配備発令!」

 

 アークエンジェル内に警報が鳴り響き、クルー達が即座に持ち場へ向かう。

 ムウやキラも格納庫へと走る。

 

 砂漠の夜を、戦闘の光が照らそうとしていた。






イレブンを助けるために、アークエンジェルの救助が早かったので、キラは普通に動けてます。
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