歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
朝日が昇り、戦闘が終わった砂漠の大地を照らしている。
再び着陸したアークエンジェルに向かってくる一団がいる。
先ほどの戦闘に介入したレジスタンスらしき自走砲やジープなどだ。
フェイズシフトダウンしたストライクの中から、キラもその一団を見ていた。
助けてくれた事から敵ではないと思うが、ブリッジから機体から降りずに様子を伺うよう指示されている。
そこに、ザフトが撤退した事を確認したムウのスカイグラスパーが帰投する。
アークエンジェルから離れていたムウは、そこで初めてレジスタンスの存在を知らされた。
ブリッジでは、アークエンジェルの前で停車し、こちらを伺っているレジスタンス達の様子が映し出されている。
「味方と判断されますか?」
「銃は向けられてないわね。
ともかく、話してみましょう。
その気はあるようだから。
上手く転べば、色々と助かるわ」
マリューは、ナタルに後を任せてブリッジを出て行く。
レジスタンスと対話を試みるために。
とは言え、武力で抵抗するような荒っぽい者達との交渉なのだ。
護身の為に銃を身に付けて向かう。
護衛の兵士達と共に、銃を持ったムウも合流する。
「やれやれ、こっちのお客さんも一癖ありそうだな。
俺、これはあんまり得意じゃないんだけどね」
そんなムウを見て、マリューは微笑む。
今回は、私が守ることになりそうだ。
コーディネーターとも白兵戦が出来る彼女は、借りを返す良い機会だと思っていた。
マリューとムウが責任者として、レジスタンス達の前に進み出る。
「助けて頂いたとお礼を言うべきなんでしょうかね。
地球軍第8艦隊所属、マリュー・ラミアスです」
「俺達は、明けの砂漠だ。
俺はサイーブ・アシュマン」
日焼けし、がっしりとした体格のいかにも砂漠の民といった男が答えた。
「礼なんざいらんさ。
別にあんたらの為じゃない。
こっちの事情でな」
「砂漠の虎相手にずっとこんな事を?」
探りを入れるムウに意外な答えが返ってくる。
「まさか、いつもならこんな無茶な真似はしないさ。
せいぜい、嫌がらせ程度のもんだ」
「なら、なぜ今回はこんな事を?」
「あんたの顔は、どっかで見た事あるな」
「ムウ・ラ・フラガだ。
この辺に知り合いは居ないがね」
「エンデュミオンの鷹とこんな所で会えるとはよぉ」
即座に自分の二つ名を返してくるサイーブ。
どうやら見た目とは違い、相当な事情通のようだ。
「色々と情報もお持ちのようね、私たちの事も?」
マリューが尋ねると、ほぼ全ての事情を知っているようだった。
第5艦隊の援軍により、第8艦隊に大きな損害を出しつつもハルバートン提督が生き残った事を知る事が出来た。
同時にサイーブが、確実に連合となんらかのコネクションを持っていると確信した。
「力になって頂けるのかしら?」
これだけの情報を持ち、先程の戦闘でこちらを援護して接触して来たのだ。
なんらかの目的があるはず。
「話そうってんなら、まずは場所を変えようか。
俺達のアジトに大天使様を招待しようじゃないか」
彼らとの交渉がどうなるかは判らないが、いつまでもここに留まる訳にもいかない。
しばらくは、彼らとの行動を共にする事にした。
アークエンジェルは、明けの砂漠のアジトに移動し、布や板などを使ったカモフラージュを施されていた。
キラも、その作業をストライクで手伝っている。
「こんなんで、良いんですか?」
「ニュートロン・ジャマーの影響で、排熱を誤魔化して赤外線探査さえどうにかすれば、割となんとかなるんだよ。
レーダーが使えないのは、お互い様だからな」
アークエンジェルは偽装を施すことで、ザフトの監視網から一時的に身を隠す事に成功していた。
アジトに入り、これからの事を交渉しようとしていたマリュー達は、明けの砂漠と連合の予想以上の関係を知り、驚く事になる。
「ようこそ、我らのアジトへ。
ここには、連合から派遣された連絡員もいる。
あんたらにも、なにか指示が来てるかもな」
なんらかのコネクションがあると思っていたが、まさか人員まで派遣されているほど繋がりがあるとは。
「砂漠の民は、あんまり余所者を信用しないと思ってたんだが、あんたらは違うのかい?」
「ふん、連合もザフトも変わらん。
どちらも、俺たちを支配しようとする。
だから、俺たちは抵抗するんだ。
支配はしない、そして、させない。
それが、俺たちの流儀だ」
ムウの言葉に侮辱されたと感じたのか、険しい顔で否定の言葉を紡ぐ。
「たがまぁ、最近の連合は、話が分かるようになって来たからな。
持ちつ持たれつって訳だ」
「へぇ、ギブ&テイクってやつか。
どんな関係なんだい?」
「俺たちは、連合から支援を受けている。
俺たちがレジスタンスとして存在している事が重要なんだとよ。
ザフトの支配が上手く行ってないアピールになるとか言ってたな」
そこで、サイーブは意味ありげにこちらを見る。
「そして、普段、俺たちは嫌がらせ程度にザフトに抵抗しているが、今回は連合からの依頼でザフトの勢力圏に迷い込んだアークエンジェルの救援に来たって訳だ」
当然、それなりの報酬は頂くことになる、そう言って豪快に笑う。
「連合も、ザフトを追い払った後は、国の中の事に関しちゃ不干渉を約束しているからなぁ」
「連合が約束を破ったら、どうするんだ?」
「その時は連合と戦う。それだけだ」
やはり、砂漠の民は熱く激しい気質を秘めているようだ。
戦後の火種にならないよう、誠実に対応しなければ。
そう思い、マリュー達はアジトに足を踏み入れる。
連合からの指示は、既に連絡員に伝えられていた。
「アークエンジェルには、ザフトの追跡を振り切って北上、地中海沿岸に到達してもらいます。
それに合わせてユーラシアの部隊がトルコからアフリカ沿岸まで進出します。
彼らと合流し、そのままトルコに向かってください」
「補給はどうすれば?降下前の戦闘や地上で襲撃を受けた際も、かなり弾薬を使用してしまっています」
「ザフトの勢力圏ですから、輸送部隊を送るのは難しいですね」
「補給も無しで行動しろと?」
「先週、ビクトリア宇宙港を落とされてしまったんですよ。
その対応にも追われているんです」
「ビクトリアが!それじゃあ・・・」
「残りは、パナマだけか」
カオシュンに続き、ビクトリアまで落とされたと言う報告に驚く。
連合に残されたマスドライバーは、パナマのみになってしまったのだ。
「明けの砂漠には、資金を提供しています。
必要な物は、彼らが地元に持つコネクションを利用してください」
「わかりました。サイーブさん、協力をお願いしますわ」
「作戦開始時には、アフリカ及びヨーロッパ戦線で部隊の活動を活発化させて、ザフトの注意を引きつけます。
アークエンジェルに差し向けられる戦力は、小規模なものに出来るでしょう」
その後も、作戦や協力関係について話を進めていくが、そこへザフトにタッシルの町が攻撃されていると急報が入る。
レジスタンスには、タッシルの町の住民も多数、参加している。
アジトに動揺が走り、慌ただしくタッシルへ救援に向かおうとしている。
「落ち着け、半数は残れと言っているんだ!
別働隊が居るかもしれん」
サイーブが、仲間を落ち着かせるために指示を出している。
「さて、どうする?」
「アークエンジェルは動かさない方がいいでしょう。
確かに、別働隊が居るかもしれませんから。
フラガ少佐、行ってくれます?」
「俺が?」
「少佐のスカイグラスパーが一番速いでしょ」
「だよねぇ」
「ソキウス中尉のバルキリーにも出てもらいます。
後ほど、アークエンジェルからも人員を派遣します」
「大丈夫なのか?イレブンは病み上がりだろう」
「熱も下がってますし、本人も大丈夫だと言ってますから」
「キラでも良いんじゃないか?」
「ヤマト少尉には、アークエンジェルの護衛に残ってもらいます」
万が一、別働隊に襲われた場合は、機動力があるスカイグラスパーとバルキリーが救援に戻る。
それまでは、ストライクが艦を守る。
ムウにも、マリューの考えは理解できた。
タッシルへの救援が間に合うかは判らないが、ザフトと戦闘になる可能性を考えれば、戦闘機だけで向かわせるのも危険だ。
だから、バルキリーも出すと言ってくれたのだろう。
スカイグラスパーと戦闘機形態のバルキリーがアークエンジェルから出撃する。
ムウ達がタッシル上空に到着した時、既にザフトは撤退した後だった。
タッシルの町は燃えていた。
「酷いな、これは。町の住民は全滅かな。
こんな作戦、地上に侵攻した初期の頃ならともかく、最近は聞かなかったんだがな」
ムウが上空を旋回しながら呟く。
イレブンから通信が入る。
「町から少し離れた所に、住民と思しき集団を確認」
その報告を聞き、ムウも確認に向かう。
アークエンジェルにムウからの報告が入る
「町は焼かれていたが、住民の生き残りを発見。
と言うより、かなりの人数が生きてるようだ」
その報告に、アークエンジェルからも現地を確認するための人員を送る。
町に到着したサイーブ達が町の住民から事情を聞く。
近くに着陸したムウ達も話を聞くためその場にいた。
長老は、攻撃の前に警告が出されたと話す。
「どう言うつもりだ、虎め!」
「こいつは、前回の戦闘に対するお仕置きかな?」
「相手はザフト屈指の名将ですよ。
それだけのはずがない」
「なら、兵糧攻めだな。
レジスタンスの協力を得るために、アークエンジェルからもかなりの物資を吐き出す必要がある」
「それだけじゃなく、追撃の有無でレジスタンスと連合の関係の深さを測ろうと言う意図もあるかもしれません」
ムウとイレブンの推測を聞いて、黙り込むレジスタンスのメンバー達。
彼らも、砂漠の虎の実力は知っていた。
彼らの推測を否定出来ないのだ。
町の住民に死者はいない。
だが、食糧、燃料、弾薬、全て燃やされた。
これでは、生きていけぬ。
そう嘆く長老にムウが声をかける。
「だが、手はあるだろう。生きていれば」
「そうだな、レジスタンスの活動でザフトからの被害があれば、連合が補填してくれる約束になっている」
「だが、町を燃やされて黙っているのか!」
「そうだ!ここまでされて、黙ってられるか!」
どうやら、レジスタンスの血の気が多い連中が追撃を主張し始めたようだ。
「今は、そんな事より怪我人の手当てが先だ!女房や子供に付いててやれ!」
サイーブが、仲間を説得している。
「そう焦らなくても、復讐のチャンスは直ぐに来る。
アークエンジェルが動き出せば、虎の方から来てくれる!
その時にたっぷりと歓迎してやればいい!」
そう言って、仲間達を抑える。
「連合には約束を果たしてもらう。
俺たちの水瓶を再び満たすために物資を調達しに行く。
その時、アークエンジェルに必要な物も揃えてやれるだろう」
サイーブがムウ達にそう宣言する。
アークエンジェルから派遣された人員達も、町に到着し怪我人の手当てなどをしている。
その様子を確認していたナタルは、怪我をして泣いている子供を見かけた。
子守りは苦手だが、放っておくのも気が咎める。
自分の被っていた制帽を取り、子供に被せてやる。
どうやら、気を逸らすのに成功したのか、泣き止み帽子を触り始める。
微笑みを浮かべ、そう言えばと持っていたシリアルバーを渡してやる。
その様子は、普段、軍人として自分にも周りにも厳しいナタルに、優しい子供好きの一面がある事を示していた。
ふと周りを見ると子供達が集まっていた。
お菓子を与えている所を見て、集まって来たのだろう。
もともと、そんな予定ではなかったので、手持ちはもうない。
「参ったな、そんなには無いんだ」
子供達に泣かれるかもしれない。
だが、真面目なナタルは、正直にもう無いんだと告げる。
そんなナタルの前で、お菓子を貰った子供が包みを破り、食べ始める。
ああっ、みんなの前で食べたら、他の子と喧嘩になる。
そんな心配をするナタルとは裏腹に、その子供は一口食べた後、他の子にシリアルバーを渡した。
その子も一口食べ、次の子に渡している。
その後も、次々とまだ食べていない子供に渡していく。
よく見れば、みんなに行き渡るように一口もだいぶ小さい。
こんな小さな子共達が、お菓子をみんなで分けあえるなんて。
もっとたくさん食べたいと思って当然なのに。
「みんなで分けあえるなんて、えらいな」
ナタルが子供達にそう言って頭を撫でると、子供達は嬉しそうに話始める。
「前にカガリお姉ちゃんが来てくれた時、嬉しい事はみんなで分けあえば、笑顔が増えるって教えてくれたの!」
その言葉にナタルは驚く。
美味しいねと言って笑い合う子供達を見て、彼女の影響がこんな所にも及んでいるとは。
彼女の影響力は、理解しているつもりだった。
だが、こうして直接目の当たりにすると、その凄まじい影響力に自分の認識はまだ甘かったと思わされる。
「まったく、凄い少女だな」
そう呟くナタルを、子供達が不思議そうに見上げていた。
タッシルの町が燃やされたのには、色んな意味があったと思います。
本作では、連合と協力関係の明けの砂漠なので、その関係の深さを探る意図も含めさせました。