歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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砂漠の虎と言う男

 

 

 

 タッシルの町を焼いた後、撤退しているザフト軍の中にジープに乗ったバルトフェルドがいた。

 

「隊長、もっとスピード出しませんか?

 追撃されますよ」

 

 ダコスタの言葉に、憂鬱そうに答える。

 

「運命の分かれ道だな。

 自走砲とバクゥじゃ勝負にもならん。

 向こうも、それは承知しているだろう」

 

「それを待って、壊滅させるんじゃないんですか?」

 

「レジスタンスを潰すのに、そんな策は必要ないだろ。

 連中が追撃して来なければ、町の損失をどうにかする伝手があるって事さ」

 

「伝手ですか?」

 

「それだけ、連合との関係が深く、信頼関係が築けてるって事だ」

 

 バルトフェルド本人は、追撃があった方がありがたいと思っていた。

 ここで、明けの砂漠が暴走する程、連合との関係が深くなければ、それは付け入る隙になる。

 だが、バルトフェルドの思いは裏切られ、追撃の気配はなかった。

 

「やれやれ、嫌われ者は辛いねぇ」

 

 ザフトの立場では、地上の勢力と信頼関係を築く事は出来ない。

 政治的な譲歩や貿易で優遇する事で、なんとか親プラントの立場を表明させているに過ぎない。

 戦場で、ザフト以外の国の軍隊が共に戦ってくれる事はない。

 実態は、せいぜい好意的中立のようなものなのだ。

 バルトフェルド達は、戦闘になる事なくレセップスに帰還した。

 

 

 明けの砂漠と共にナタルを始めアークエンジェルのクルーが数名、バナディーヤに向かう。

 ザフトのバルトフェルドとも取り引きしている男から必要な物資を買い付ける為である。

 そのメンバーの中にフレイの姿があった。

 この機会に、荷物も持たずにアークエンジェルに乗ったサイ達の為に、町で手に入れる事が出来る日用品の買い出しも行おうと言うのだ。

 バルトフェルドが支配するバナディーヤで、兵士として疑われにくい元学生の中から選ばれた。

 サイ達は、イレブンの看病や艦の雑用を精力的にこなしている姿を見て、一番年下なんだから久しぶりのショッピングで気晴らしをさせてやろうと送り出していた。

 

「まったく、みんな気を遣いすぎよ!だいたい、買い出しなんだから、好きなものを買えるわけでもないのに」

 

 サイ達の気遣いをありがたいとは感じていても、子供扱いされているようで、素直に受け取ることが出来ない。

 そんなフレイの様子を見ているのは、護衛として付いて来たイレブンであった。

 護衛の人選でも一悶着あった。

 

「護衛は、キラ君でどうかしら?キラ君も大変だったし、気晴らしが必要だと思うのだけど」

 

「ちょっと待ってください、艦長!

 ヤマト、お前、格闘技の経験は?」

 

「えっと、ないですけど」

 

「なら、喧嘩をしたことは?」

 

「いえ、暴力とか嫌いだし・・・」

 

 さすがにナタルが何を言いたいのか理解したキラやサイ達。

 護衛に暴力や荒事が苦手な者を付ける。

 艦長も、さすがに無茶な提案だったかと苦笑いしている。

 

「この辺の男は、荒っぽい者が多いですから。

 アルスターに声をかけて、強引に誘うような事もあり得ますよ」

 

「ごめんなさいね、キラ君。

 気晴らしは、また今度にしてもらえるかしら」

 

「はい、気にしないでください」

 

 キラも苦笑していた。

 こんな経緯で、護衛には看病してもらった礼も兼ねてイレブンが選ばれたのだ。

 二人の関係は、オーブから観光で来た先輩、後輩と言う設定で買い物に行くことになった。

 まあ、軍での関係を考えれば、まるっきりの嘘ではないので演じやすいだろう。

 

「ソキウスさんも、付き合わせちゃってごめんなさい」

 

「イレブンでいい。

 世話になったんだ、気にしないでくれ」

 

「でも、看病は他のみんなもしてたのよ。

 私は、他に仕事がなかったから多かっただけで」

 

「それだけじゃない。

 お前は、俺に兵器じゃない、人間だと言ってくれた」

 

「そんなの、他の人もみんな思ってるわよ」

 

「そうだな。

 だけど言葉にして言ってくれたのは、お前が初めてだ。

 だから、ありがとう」

 

「そっ、そう、わかったわ。イレブンさん、行きましょう!」

 

 優しく微笑むイレブンの顔を見て、フレイは胸を高鳴らせてしまった。

 

(う〜、あの笑顔で不意打ちは反則よ!)

 

 こうして、二人はバナディーヤの街へ買い出しに向かった。

 

 

 サイーブ達は取り引きの相手、連合、ザフト双方と商売をしている男、アル・ジャイリーと向き合っていた。

 この男も、かなり情報通らしい。

 タッシルが焼かれた話だけではなく、アークエンジェルの状況も見抜かれているようだ。

 

「俺たちの水瓶を枯らす訳にもいかんからな」

 

「ええ、もちろん、同胞は助け合うもの。

 ザフトとは違う特別料金で対応させてもらいますとも」

 

 そう言って出された金額は、かなり高額であった。

 これでも、ザフトよりは優遇されていると言うのだから、ザフトの物資調達の苦労が分かると言うものだ。

 

 調達した物の確認をしているクルー達は、それが軍の純正品である事に気付いて、複雑な表情を浮かべる。

 自軍でも物資の横流しをしている者がいるのだ。

 

「呆れたな、何処から流れて来たんだか」

 

 ナタルも、その事実に呆れるしかない。

 連合軍の規模は大きい、中にはそういう者もいる。

 そう理解は出来るが、戦争中にそのような行為に手を染める者たちとは仲良く出来そうにない。

 割高ながらも、無事に取り引きを行うことが出来た。

 これなら、アークエンジェルは戦える。

 

 

 フレイ達も、買い出しを終えてカフェで休憩を取っていた。

 

「ふう、だいたい揃ったわね。

 ちょっと疲れちゃったから、少し休憩しましょう」

 

「ああ、そうだな。軽く何か食べよう」

 

 護衛兼荷物持ちとして付いて来たイレブンも、普段とは違う疲れを感じていた。

 女性の買い物に慣れていないイレブンは、訓練などとは違う疲れに戸惑っていた。

 ムウから、女性の買い物は疲れると聞いていた。

 だか、自分もそういう疲れを感じるのかと新鮮さも感じていたのだ。

 

 しばらくすると、注文した品が来た。

 

「この辺りの名物で、ケバブと言うそうだ」

 

「へぇ、初めて食べるわ」

 

「カガリのおすすめはチリソースらしい」

 

「そうなんだ、そう言えば世界救済ツアーでこの辺りにも来てたわね。

 カガリのおすすめなら、私もチリソースにしようかな」

 

「あ〜いや待った!ちょっと待った!」

 

 二人の会話に、突然割り込んで来る男が一人。

 

「ケバブにチリソースなんて、何を言ってるんだ!

 このヨーグルトソースを掛けるのが常識だろうが。

 いや、常識と言うより、何と言うか、そう、ヨーグルトソースを掛けないなんて、この料理に対する冒涜だよ!」

 

 派手なアロハシャツの男が、よく分からない主張をしてくる。

 このままだと碌な事にならないな。

 そう判断したイレブンは、妥協案を出す。

 

「なら、俺はチリソースを掛けるから、フレイはヨーグルトソースにすると良い。

 俺のを分けてやるから、両方食べ比べればいいだろう」

 

 特殊な生まれで、軍でも男所帯だった事もあり、女性と齧り付くような食べ物をシェアする意味を理解していなかった。

 フレイは、普通の感性を持つ女の子だったので顔を赤くしてしまう。

 その様子は、まさに初々しいカップルのようだった。

 

(なんだか、普通の観光客のカップルみたいだな。勘が外れたかな?)

 

 バルトフェルドもそう思っていた。

 このまま何もなければ、お互いにこれから殺し合いをする事になるとは気付かずに別れていただろう。

 

「しかし、凄い荷物だね。パーティーでもやるの?」

 

「いえ、実は友人達と観光に来たんですけど、買い出し役を押し付けられてしまって。

 それで後輩のフレイが気を利かせて手伝ってくれているんですよ」

 

 バルトフェルドは、隣でまだ顔を赤くしながらケバブを食べているフレイを見た。

 

 (彼氏の方は鈍感か、彼女も苦労しそうだな。)

 

 そんな風に思っていた所に、自分達の座る席への殺気に気付いた。

 即座にテーブルを蹴り上げる。

 建物の屋上からロケットランチャーが発射される。

 幸い狙いは逸れて、別の建物に着弾したが、街中は突然の爆発にパニックになった。

 複数の男達が、マシンガンを乱射しながら突撃してくる。

 口々に青き清浄なる世界と言うブルーコスモスのスローガンを叫ぶ男達。

 バルトフェルドは、自分に対するテロだと判断し、周囲に伏せていた部下に排除を命じる。

 

 イレブンは、バルトフェルドと同じく殺気に気付き、蹴り上げられたテーブルの影にフレイを引き込む。

 フレイがケバブのソースやお茶を被ってしまったが、気にしている場合ではない。

 街中でマシンガンを乱射している男達を見て、ブルーコスモス擬きだと判断する。

 周りのザフト兵達が対処しているが、死角から飛び出して来た男に対処が遅れる。

 このままでは、フレイに弾が当たるかもしれない。

 そう判断し、テーブルの影から飛び出し、銃で男を撃ち殺す。

 事態が収束し、目の前で起きている事に呆然として座り込んでいるフレイを立ち上がらせる。

 視線の先には、兵士達に指示を出しているアロハシャツの男がいる。

 正体は予想できる。

 男が帽子とサングラスを外した事で、予想は正しかったと知る。

 

「アンドリュー・バルトフェルド」

 

 イレブンの呟きに、隣のフレイも相手が敵の指揮官である事に気付く。

 

 バルトフェルドは、二人に明るく声をかけて、迷惑を掛けたお詫びにと家に誘ってくる。

 イレブンの動きを見て、正体を確信したのだろう。

 顔は笑っているが、目が笑っていない。

 逃す気はないようだ。

 さっきまでの茶番は、もう通用しないだろう。

 バルトフェルドの招待を受けて、同行する。

 

 

 バルトフェルドに続いてザフトの本部になっている建物に入ると、女性が出迎えた。

 

「アイシャ、彼女を頼むよ。

 お茶とソースを被ってしまってね」

 

「あらあら、ケバブね」

 

 そう言って楽しそうにフレイを連れて行く。

 今のところ、危害を加える気はないようだ。

 油断はしないが、ここで暴れるのは下策だろうと、フレイに従うように告げる。

 

 先に部屋に入ったバルトフェルドは、コーヒーを入れていた。

 

「どうかな?僕はコーヒーにはこだわっていてね」

 

「悪くないですね、俺も詳しくはないですが」

 

「それは良かった」

 

 部屋に飾ってあるエビデンス01のレプリカを見ながら、物思いに耽るバルトフェルド。

 

「なぜ、これを羽クジラと呼ぶのかねぇ?君はどう思う」

 

「さぁ、考えた事もありません」

 

「何にせよ、これも厄介な代物だよね。

 こんな物が見つかっちゃったから、希望というか、可能性と言ったものが出て来ちゃったわけだし」

 

 バルトフェルドは、真剣な表情で続ける。

 

「人はまだもっと先へ行ける。

 プラントのコーディネーター達の根っこの部分だ」

 

 バルトフェルドが言いたい事が、なんとなく分かる気がする。

 プラントと言う大きなに流れの中にあり、その中で必死にもがいているのだろう。

 そこにフレイがドレス姿で戻って来た。

 おとなしい色合いのシンプルなデザインだが、フレイの少女としての魅力を引き出している。

 その姿から、選んだ者のセンスの良さが窺える。

 それを見たイレブンも、思わず称賛の言葉が洩れる。

 

「キレイだな・・・」

 

「えっ!あ・・・・ありがとう」

 

 いつも父親と参加していたパーティーで言われている言葉と同じだが、下心や打算と言った物が含まれない純粋な言葉に、思わず顔を赤くしてしまう。

 バルトフェルドは、二人の様子を微笑ましく見ながら、フレイの分のコーヒーも出してきた。

 

「ドレスもよく似合うねぇ、というか、そう言う姿も実に板に付いてる感じだ」

 

「・・・ありがとうございます」

 

 そう言えば、フレイは事務次官の娘。

 いい所のお嬢さまだったな。

 そう、イレブンは思い出していた。

 

「君もそう思わないかな?モビルスーツのパイロット君」

 

「なっ、なんで、その事を!」

 

 フレイがカマ掛けに引っかかってしまう。

 

「はっはっは、あまり素直なのも考えものだなぁ」

 

「あっ」

 

 フレイも、引っ掛けられた事に気付いた。

 こちらを申し訳なさそうに見ている。

 

「気にしなくていい、どうせバレていた」

 

「君は、どちらのパイロットなのかな?ストライクか、それとも歌姫の騎士の方か」

 

「歌姫の騎士?」

 

「おや、君達は知らないのか。

 シャトルの乗員が話していたよ。

 白い機体が身を挺して守ってくれたと」

 

 イレブンを見つめるフレイの様子から、どうやら彼は騎士のようだ。

 

「この戦争にはルールも暗黙の了解もない。

 プラントが壊してしまったからね」

 

 そう言って、バルトフェルドは棚から銃を取り出す。

 銃口をイレブン達に向けてくるが、殺気はない。

 それが分からないフレイは、怯えて震えている。

 イレブンは、フレイを守るために前に出て、背中に隠して安心させる。

 

「どうすれば終わらせる事が出来る?

 僕たちザフトは、どこまですれば生き残れる?」

 

 地上でのザフトの立場は厳しい。

 ほぼ全ての国から嫌われていると言ってもいい状態だ。

 バルトフェルドも、それは解っているのだろう。

 絶望すら滲ませた、悲壮な覚悟が感じられる。

 

「この戦争がどうすれば終わるのか、それは判らない。

 少なくとも、プラントの市民達が変わらなければ無理だろう」

 

「そうだろうねぇ、今の評議会を支持し続けている間は負けなど受け入れないだろうな」

 

「地球軍も貴方たち地上軍も、カガリの歌で変わった」

 

「外の世界を拒絶している、今のプラント市民に届くと思うかい?」

 

「世界を変えようと歌っているのはカガリだけじゃない。

 アークエンジェルでカガリと触れ合った事で、ラクス・クラインもプラントを変えるために歌う決意をしていた」

 

「ラクス・クラインにカガリ・ユラと同じ事が出来ると言うのか」

 

「さぁな、だが諦めた奴には出来ない。

 それだけは確かだ」

 

 その言葉を聞き、バルトフェルドは表情を緩め、銃口を外した。

 

「その通りだな。

 僕も望む未来を手に入れるために足掻いてみよう。

 君と話せて楽しかったよ。

 良かったかは、まだ分からんがね」

 

 バルトフェルドは銃を棚にしまい、部下を呼ぶ。

 

「帰りたまえ、次に会うのは戦場だな」

 

 砂漠の虎と呼ばれる男と出会い、その想いを知った。

 分かり合えるかもしれない相手と殺し合う。

 それが戦争なのだとイレブンとフレイは知ったのだ。

 それでも戦うだろう、自分達にも譲れない想いがあるのだから。






バルトフェルドとの問答でした。
地上軍の現状を理解しているので絶望感たっぷりです。
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