歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アークエンジェルからラクスを引き渡された後、イージスはヴェサリウスに帰還した。
ラクス・クラインを保護したまま任務を続ける訳にもいかない為、ヴェサリウスは一度プラントに戻る事になる。
「ラクス、大丈夫でしたか?向こうで何かされたりは」
「アスラン、アークエンジェルの皆さんはとても良くしてくれましたよ」
アスランにとってナチュラルは、母を殺した者達と言う印象が強いのだろう。
ラクスの身を心配する言葉をかける。
ラクスは、アスランがそんな偏見を持ってしまっている事が悲しく、また、アークエンジェルの人達をそんな偏見で見てほしくなかったため否定の言葉を紡ぐ。
「とても優しくて、強い人達でした。
もし、自分達が全滅しそうになったら、私だけでも投降させようとしてくれていたんです。
その時は、私を人質にして戦わせていた事にして、キラにも投降するように言ってました」
「あいつは利用されてるんです!
友達だとか、なんとか・・・あいつの両親はナチュラルだから・・・だから!」
大切な友人だったキラが、自分の手を取らずにナチュラルの友人を取ったことが受け入れられない様子のアスラン。
キラと殺し合うのが辛いのだろう。
「アスラン、キラにとってコーディネーターとかナチュラルとか、そんな事は関係ないんです。
ザフトに攻撃されてるのに、プラント市民の私を自然に受け入れてくれた。
私の正体がラクスだと知った時も、私自身を見て信じてくれた!」
そんなキラだから、ヘリオポリスの友人達を大切に思い、友人達もキラを大切に思っていたのだ。
キラの負担を少しでも軽くしようと、自ら戦いの場に出て行く程に。
「解ってますよ!あいつは、おとなしくて、ぼーっとしてる奴だけど、優しくて、いつも誰かを思いやってた。
あいつに戦争なんて似合わないのに!」
「キラは自分の意思で守ると決めたんです。
少し、カガリさんが羨ましいですね。
あんな風に自分自身を見てくれるキラに、守りたいと思ってもらえるんだから」
「ラクス、あいつは君の事も守りたいと思ってたみたいですが?」
「そうですね、でも、キラが一番守りたいのは、多分カガリさんだと思うから」
やはり、アスランは鈍感なようだ。
ここは、ラクスは俺が守る!みたいな事を言ってほしいのに。
アスランは政略結婚の相手、燃えるような恋は出来なくても穏やかな愛情を育めばいいと思っていた。
でも、キラと出会い、あんな風に自分自身を真っ直ぐ見てくれる人がいると知った。
だから、アスランとの関係も、勇気を持って踏み込もう。
少しずつクライン家の令嬢ではない本当の自分を見せていこうと決めた。
アスランにも変わってほしい。
そんな願いを込めて、この戦争を偏見の目で見ないでほしいと伝える。
「戦争は難しいですね、何と戦っているのか。
アークエンジェルで見てきました。
ナチュラルの全てが敵では無いんです。
そして、地球軍に参加するコーディネーターもいます。
その理由を考えてみてください」
アスランの顔が苦しげに歪む。
直ぐに偏見を捨てる事は、難しいのだろう。
大切な人を失った事のない私では、本当の意味で理解する事は出来ないのかもしれない。
それでも、寄り添う事は出来る。
これから歌う、私の歌が少しでもアスランの力になればいい。
ヴェサリウスの部屋に案内されながら、そんな想いも歌に込めようと思った。
プラントに戻って直ぐに復帰のステージで歌った。
そこで行った、歌姫ラクスと言う虚像《アイドル》を作るために行われていた業界の裏事情の暴露と新しい自分の歌は、賛否両論ありながらも概ね好意的に受け入れられていた。
ステージの後、プロデューサーに勝手な事をしたと謝ったら、逆に謝られた。
今まで縛り付け、型にはめていた。
今日のような歌を歌わせてやれなかったと。
「いいえ、アークエンジェルでカガリさんと触れ合えなければ、こんな風には歌えなかったと思います」
「カガリ・ユラか・・・今のプラントには情報統制が掛けられているんだ。
彼女の事も、その一つだよ」
「私をプラントの歌姫として持ち上げるためですか?」
「当初はそうだった。
我々業界の判断で扱う事をタブーにしていたよ。
だけど、今はプラント上層部が秘匿すると決めた情報の一つになっている」
「それは」
「彼女の行動は、評議会が公表しているプラントの正義に隠された惨状を浮き彫りにしてしまうんだ」
高度な政治的判断が働いているため、業界も従わざるを得ないと申し訳なさそうに言われた。
「すまない、今のラクスになら、カガリ・ユラに挑戦させてやりたいと思っているんだが。
あの歌の怪物と競わせようなんて、以前は考えもしなかったのにな」
「そう思ってもらえて嬉しいです。
私もカガリさんのようになりたい。
あんな風に歌と真っ直ぐに向き合いたいと思って、今日のステージに立ったんです。
だから、もう私のために他の人の夢を潰さないでください」
「そうだな、もうそんな事はしないと約束するよ。
その必要もない、今の君なら名実共にプラントの歌姫になれる」
そう言って、微笑んでくれたプロデューサーに礼を言ってテレビ局を後にする。
クライン邸
クラインの屋敷でのんびりと過ごしている。
今日は仕事も入れてない。
久しぶりにアスランが逢いに来てくれるからだ。
朝からアスランを迎える準備をしていた。
そんな私に、使用人たちも戸惑っている。
以前の私は、令嬢らしく落ち着いた態度で隙を見せなかったのだから。
でも、アークエンジェルでキラと出会い、自然体で相手との距離を縮める姿を見て惹かれた。
アスランは真面目で、政治的判断で決められた婚約者である私にどこか遠慮があった。
私も令嬢の仮面を被って接していたから、二人の距離は縮まる事は無かった。
このままでは、私はアスランではなくキラと共にある事を望んでしまうだろう。
それは、アスランに対して余りにも不誠実だ。
だから、ありのままの私を見てもらう。
恋がしたい、普通の女の子のラクスがいるんだと、アスランに知ってもらうのだ。
分かり合うために、まずは本当の私を知ってもらう。
そして、アスランの事も知りたい。
今日は、その一歩なのだから。
屋敷にやってきたアスランをプレゼントしてもらったハロ達と出迎える。
「いらっしゃいませ、アスラン」
「すみません、少し遅れました」
真面目なアスランは、ほんの少し予定時間が過ぎただけなのに謝ってくる。
そんな気を遣うような関係ではなく、もっと気楽に接してもらいたい。
「あら、そうでした?」
軽い調子で気にしてないと伝えて、近づいていく。
ハロ達も、アスランが来て嬉しいのか纏わりついている。
「これを」
そう言って、持参した花束を渡してくれる。
「まぁ!ありがとう」
もちろん花束は嬉しい。
でも、女性にハロばかりでなく花束をプレゼントしてくれるようになったアスランの変化も嬉しいのだ。
「さぁ、どうぞ」
アスランを屋敷の中に案内する。
その間もハロ達はアスランにじゃれついている。
「これでは、かえって迷惑では?」
自分で作って送ったハロ達の動きに、アスランはもっとプレゼントを考えるべきだったかと少し後悔していた。
「あなただから、はしゃいでいるんですよ。
家に来るのも本当に久しぶりだから」
「あ、すみません」
アスランが申し訳なさそうな顔をしている。
軍務が忙しく、なかなか時間が取れない事は理解している。
それでも、もっと二人の時間を作りたいと言う気持ちを伝えていく。
距離を縮めるために、遠慮はしないと決めたから。
庭のテラスに案内した所で花束を使用人に渡し、お茶の準備を頼む。
ハロ達には、庭で追いかけっこをさせる。
その様子を見ながら、テラス席でお茶を楽しむ。
「追悼式典には戻れず、申し訳ありませんでした」
先日、プラントで血のバレンタインの犠牲者を追悼する為の式典が行われた。
ラクスも参加していたが、アスランは軍務で戻れなかったのだ。
「いいえ、お母さまの分、私が代わりに祈らせてもらいました」
そして、エイプリルフールクライシスの犠牲者の為にも。
ラクスは、心の中でそう付け加えた。
まだ、この事実を口に出す事は出来ない。
プラントの市民達に受け入れる為の準備が出来ていないからだ。
プラント市民の意識改革は、お父様達も協力を約束してくれた。
私も歌で、出来る限りの事をしよう。
「ありがとうございます」
「プラントに戻ったと聞いて、今度は会えるのかと楽しみにしていたんですよ。
今回は、少しゆっくり出来るんですか?」
「さぁ、それは・・
休暇の日程は、あくまで予定ですので」
アスランの答えは、不透明な戦争の行く末を表しているようだった。
「この頃はまた、軍に入る人が増えているようですね。
私の友達も、何人も志願していかれて。
戦争がどんどん大きくなって行くような気がします」
私たちは、間に合うのだろうか。
そんな不安に襲われる。
「そうなのかもしれません」
話題を変えようと、アスランにその後キラとどうなったのか聞いてみた。
「そう言えば、キラは今頃どうしてるのでしょうね。
あの後、キラと会う機会はあったんですか?」
アスランは、低軌道上での戦いを思い出した。
戦争なんて向いてないはずなのに、とんでもない強さを身につけていた。
「あいつは地球でしょう。
無事だと思いますが」
「小さい頃からの友達だったのでしょう?」
「ええ、4〜5歳の頃から」
月にいた頃からの友人だったと、父親に言われてプラントに上がった時も、後から来ると聞いていたのだと話す。
その話を聞いて、ラクスは疑問に思う。
キラの両親はナチュラルだったはず。
プラントは、ナチュラルにとって居心地のいい場所ではない。
あの優しいキラが両親を置いて一人でプラントに来るだろうか?
アスランを納得させる為の優しい嘘だったのかもしれない。
アスランとキラが戦場で戦う、それはとても悲しい事だ。
どうか二人の心が安らかになれる世界になってほしい。
そんな想いを込めて、ラクスは歌い出した。
アスランと、ここにはいないキラのために。
「ううっ!」
呻くような声にアスランを見ると、頭を押さえて顔を歪ませていた。
「どうしたんですか!?アスラン!」
「いえ、すみません。
最近、少し頭痛がするんです。
医者には、戦場でのストレスだと言われました」
「そうだったの、それなら無理をしないでゆっくり休んでください。
会いに来てくれたのは嬉しいけど、アスランの身体が心配だから」
「ありがとうございます。
体調管理も出来ないのは、軍人として恥ずかしいですね」
「キラと戦わなければ行けない事が負担になっているのでしょう。
あなたは軍人である前に、人間なのだから」
休暇中は、ゆっくり休むことにする。
そう伝えてクライン邸を後にするアスラン。
その帰りの車の中でアスランは悩んでいた。
「何故、あのカガリとか言う女の歌だけじゃなく、ラクスの歌でも頭痛がするのだろう?
今までラクスの歌で頭が痛くなる事なんて無かったのに」
アスランは残りの休暇を家で過ごした。
外に出れば、街頭ビジョンからラクスの歌が流れているからだ。
医師から処方された薬を飲んで眠る。
そうして、戦場へと戻って行った。