歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
この話には、バレルロールのため一部原作の設定と差異があるのでご了承ください。
アークエンジェルは砂漠地帯を抜け、地中海沿岸まで後少しの所まで来ていた。
背後からは、バルトフェルドの追撃が迫っている。
宇宙での運用を想定した万能艦であるアークエンジェルよりも地上をホバー走行する陸上艦の方が速度で勝る為、追いつかれるのは時間の問題であった。
レセップスの主砲を潰した為、遠距離からの攻撃はないが、もうすぐミサイルの射程に捕らえられてしまう。
後方からの攻撃には出来る対処が限られてしまうのだ。
「このまま、沿岸まで到達出来ると思うかしら?」
「難しいですね、後方からの攻撃でエンジン部が損傷すれば速度が落ちてしまいます」
「ここである程度、敵を叩かないと不利になるばかりね」
「敵前で回頭するなんて、隙が大きすぎます!
さすがに撃沈されますよ」
「分かっているわ、進路はこのままで射程に捕らえられたらヘルダートとコリントスで対空防御、敵艦にはバリアントで対応して」
「了解」
「艦載機は出撃後、敵モビルスーツ及び戦闘ヘリから艦の護衛を。
戦闘しつつ海岸を目指します!」
ついに後方のザフト艦がアークエンジェルを射程に捕らえた。
レセップスとヘンリーカーターからのミサイル攻撃が始まる。
アークエンジェルは、後部ミサイル発射菅からヘルダートを射ち出し迎撃しようとするが、撃ち漏らしたミサイルがアークエンジェルに着弾する。
激しい衝撃がブリッジを襲うが、怯んでいる時間はない。
直ぐに艦載機を発進させる。
戦闘ヘリやバルトフェルドのラゴゥを筆頭にバクゥ部隊も出撃し、アークエンジェルとの距離を詰めて来ているのだ。
ストライクとバルキリーがバクゥ達の迎撃にあたる。
バルトフェルドが指揮している以上、そう簡単に数を減らすことは出来ない。
2機のGが戦闘に加わる前に少しでも戦力差を減らさなければ、アークエンジェルを守る事が難しくなるが、バクゥは決して不用意には近づいてこない。
2機で連携して落とそうとするも、ラゴゥが必ずフォローに入る。
アークエンジェルは、コリントスとイーゲルシュテルンでスカイグラスパーと共に戦闘ヘリの排除にあたる。
その間も後方のザフト艦と撃ち合い、スレッジハマーでバクゥへの攻撃も行っている。
「ザフト艦、本艦の右舷側に展開、バリアントの射線が取れません!」
対艦用の大型レールガン・バリアントは、アークエンジェルの左舷に搭載されている。
縦方向に回転可能な為、後方にも撃てるが左右の射角は狭い。
構造上、右舷側には撃てないのだ。
バルトフェルドはそれを見抜き、右舷側からアークエンジェルに攻撃させている。
それに対応しようとすれば、進路が逸れてしまう。
それでは、友軍との合流ポイントから離れてしまう。
ザフトの勢力圏である以上、友軍もいつまでも進出してはいられない。
「さすが砂漠の虎ね、的確に艦を動かしてくる」
キラ達モビルスーツ隊も危機に陥っていた。
バクゥ達を相手に拮抗している状態で、デュエルとバスターが戦闘距離に入ってきたのだ。
バクゥ達が一糸乱れぬ連携をしている中で、デュエル達が入ることで連携が乱れるかと期待した。
だが、低軌道上での戦いとは異なり、デュエルは冷静にバクゥ達の邪魔にならない立ち回りをする。
バスターも、その火力からバクゥを誤射しないよう援護に徹している。
彼らは、砂漠での戦いで役に立てなかった。
それどころか、砂漠に降りただけで碌に動けなくなってしまっていた。
そんな彼らの目の前で、足付きのモビルスーツ達はバクゥと高機動戦闘をして見せたのだ。
相手が自分達を上回る強敵だと認めていた。
バルトフェルドも、そんなデュエル達に合わせる様にバクゥを動かす。
時に射線を開けて、デュエル達に攻撃させる事でキラ達の機体のエネルギーを削らせてすらいる。
エールストライクとバルキリーは、その機動性の高さを活かして常に動き続ける事で撃墜される事を免れている。
しかし、エネルギーは確実に削られていく。
数が多く、連携してくる上に自分達の機体と同等の性能を持つG2機も同時に相手をしているのだ。
バクゥの数を減らさなければ負ける。
しかし、生半可な動きではバルトフェルドが指揮するバクゥ達には通用しない。
だが、キラは出来ると感じていた。
「イレブンさん!バクゥを蹴散らします!」
「キラ!無理に突っ込めば、その隙に付け入られるぞ!」
「大丈夫です!イレブンさんが背中を守ってくれるって信じてますから」
ストライクがバクゥの群れに向かって飛ぶ。
その背中を守るためにバルキリーも続く。
バクゥ達から放たれるレールガンやミサイルを躱しながら更に機体を加速させるキラ。
その迷いのない動きから、イレブンへの信頼が伝わってくる。
キラが次々と行なっている機動パターンは、イレブンが教えたものだ。
自分を信じ、自分が教えた技術を駆使してバクゥ達との距離を詰める。
そんなキラの想いに応えない訳にはいかない。
自分は戦友《ソキウス》なのだから。
強引に距離を詰めようとするストライクの隙を突こうとバクゥ達が群がる。
ストライクの死角を守る様にバルキリーを動かす。
自分が教えているのだ、キラの癖も把握している。
次々と位置を変えるストライクに合わせてバルキリーを動かし、ストライクを死角から攻撃しようとしているバクゥを撃つ。
二人は止まることなくスイッチを繰り返し、視界に入るバクゥに攻撃していく。
バルキリーとストライクは、まるで二重螺旋のような軌跡を描いていた。
2機が駆け抜けた後には、損傷し戦闘力を失った多数のバクゥが残されていた。
それを見ていたバルトフェルドは、あまりに見事なコンビネーションに感嘆の声を上げる事しか出来なかった。
「とんでもない動きだな、技術だけじゃ不可能だ。
よほど相手を信じてなければ出来ないだろう」
「アンディ、熱くならないで、負けるわ!」
多くの仲間がやられて、バルトフェルドが熱くなりすぎないようにアイシャが叫ぶ。
アイシャも2機のコンビネーションを見ていたのだ。
冷静さを欠けば、次の瞬間にも落とされるかもしれない。
それ程、彼らの動きは脅威だった。
幸いにも撃破されたバクゥのパイロット達は、生きている者も多い。
あの高速機動の中でコックピットを狙う余裕までは無かったのだろう。
生き残ったパイロット達に退避を命じて、バルトフェルドはデュエル達と共にイレブン達と対峙する。
「バルトフェルド隊長、指示を!」
イザークとディアッカも、バクゥを蹴散らした2機の動きを見ていたのだ。
数の優位がなくなった今、自分達では有効な手を見出せない。
だから、バルトフェルドに指示を求めた。
「彼らの連携は脅威だ!
だから、分断する。
1機ずつ相手にする方が、まだ可能性がある」
バルトフェルドは、直ぐに指示を出してきた。
確かにそれしかないだろう。
彼らは、1+1が2ではなく3にも4にもなるのだ。
それぞれで相手を引きつける。
各個撃破しかない。
「了解しました。
我々は、ストライクを抑えます。
隊長は、白い機体をお願いします!」
イザークとしては、自分の顔に傷を付けたバルキリーと戦いたいが、そんな個人的な感情で動いていい状況ではない。
自分達は、Gを奪取した事でストライクのデータを詳しく知っている。
だから、自分達がストライクの相手をする事が、この場では最善だと判断したのだ。
もちろん、ストライクのパイロットも容易ならざる相手だと理解している。
だが2機がかりで弱音を吐くような、情けない真似は出来ない。
「ストライクは必ず落とします!」
イザークは強い意志で叫び、ディアッカと共にストライクに向かう。
「ふっ、若いねぇ。
だが、今の君達になら任せられる!」
イザーク達に応え、バルトフェルドもバルキリーに向かう。
モビルスーツ同士の戦闘は、第2ラウンドに入った。
一方で艦同士の戦いは膠着していた。
ムウのスカイグラスパーは、アークエンジェルに群がっていた戦闘ヘリを全滅させた。
今のムウの実力なら、アークエンジェルの対空砲火と合わせれば、それ程の苦労はなかった。
敵艦の足を止めるため、対艦攻撃に向かう。
アークエンジェルもバリアントの射線が取れず、決定打に欠け、じわじわと損傷を受けている状況を打開してくれると期待していた。
レセップスとヘンリーカーターは、前回の戦いでスカイグラスパーが見せた多数のミサイルをすり抜けた動きを覚えていた。
バルトフェルドが名付けたエンデュミオン・ダンスを笑う者は、もう誰もいない。
2隻の艦が全力で迎撃にあたる。
対空ミサイル、対空砲の弾幕、甲板上のザウートですら全ての砲をスカイグラスパーに向ける。
アークエンジェルからのミサイルよりも優先して、ムウのスカイグラスパーを迎撃しているのだ。
さすがのムウも、これでは簡単には攻撃出来ない。
「駄目です、敵の迎撃が激しくスカイグラスパーが近付けません!
このままでは、エンジン部に損傷を受ける恐れも!」
このまま後方から攻撃を受け続ければ、海に出る前に航行不能のダメージを負う可能性が高い。
なんとしても敵艦に大きなダメージを与えなくてはいけないが、ザフト艦はバリアントの射線を避けるように動いている。
無理に射線を取ろうとすればルートを外れる。
その上、警戒している敵艦に当てられるかも分からない。
手詰まりの中、マリューは打開策を考え続ける。
「バルキリーやストライクはどうなっている!」
「バルキリーは敵の隊長機と、ストライクはデュエル、バスターとそれぞれ交戦中!
こちらには来れません!」
頼みのモビルスーツも使えない。
ナタルは自分の頭の堅さを嘆いていた。
この状況を打破する手が思い浮かばない。
代々軍人を輩出する、軍の名門と言われるバジルール家の娘として教育を受けて来た。
周りから優秀だと言われていたが、教科書通りの事しか出来ないと思い知らされる。
「アークエンジェルを空中でバレルロールさせる!
バリアントの射線が取れしだい敵艦に攻撃するのよ」
ナタルはマリューの声で我にかえる。
「大気圏内でバレルロールなんて無茶ですよ!」
「そうね、だから一発で決めてね、ナタル」
そう言って、自分に信頼していると言う目線を向けてくる。
敵わないな、この人には。
こんな奇抜な作戦を思い付く事もそうだが、周りに不安を見せない態度も、部下に対して信頼を示す人格も。
部下としてこの人の期待に応えなければ。
「了解、直ぐに艦内に放送、本艦はバレルロールをする!
バリアントの準備、外すなよ!」
「ノイマン少尉、任せます!」
「了解」
全ての準備が整い、戦艦を大気圏内でバレルロールさせると言う、前代未聞の作戦が開始される。
レセップスとヘンリーカーターのブリッジでは、最初アークエンジェルの行動が理解できなかった。
アークエンジェルが浮き上がる。
そのまま艦体が回転していく。
180度回転して上下が逆さまになった時、アークエンジェルに備え付けられたレールガンの姿が見えた。
常にアークエンジェルの艦体に隠れて見えなかった物が見えている。
まさか!
ブリッジのクルーは、全員が同じ思いだった。
アークエンジェルの常識外れの行動の意味に気付いた時には遅かった。
「射線が取れた!」
「バリアント、てーーー!」
レセップスとヘンリーカーターを照準に捕らえ、バリアントが撃たれる。
レセップスは機関部に被弾、速度が一気に落ちる。
駆逐艦のヘンリーカーターは、さらに大きな被害を受けている。
大きな爆発に包まれ、脱落していく。
航行すら不能になっているようだ。
艦による追撃は不可能になってしまった。
「くっ、ヘンリーカーターに総員退艦の指示を出せ!
レセップスも離脱する。
後は、隊長がモビルスーツを落としてくれる事を祈るしかない」
海岸は目の前まで迫っていた。
アークエンジェルの離脱はもう止められない。
だが、モビルスーツを帰還させなければザフトの勝ちなのだ。
バルトフェルドは、母艦が大きなダメージを負い、アークエンジェルの離脱が不可避となった事を知る。
それ故に、次善の策に移行する。
「イザーク君、ディアッカ君、ストライクにプレッシャーをかけ続けたまえ。
アークエンジェルに帰還する暇を与えるな!」
「っ・・・了解!」
イザークも、直ぐに狙いに気付く。
ストライクを釘付けにしてエネルギー切れを狙うのだ。
母艦に逃げられれば、こちらの負けだ。
今まで以上に激しく攻め立てる。
デュエルを前に出す。
背後を見せれば必ず落とす!
その意思で機体を動かしていく。
「くっ、離脱の隙がない」
キラにも、相手の狙いは分かっている。
だが、簡単には引かせてくれない。
ディアッカは、モビルスーツの離脱を援護しようとするスカイグラスパーの牽制に徹する。
相手を落とせるとは思わない。
それでもイザークやバルトフェルド隊長の邪魔はさせない!
そのために散弾をばら撒く。
持てる火力で弾幕を貼り、近づけない事に全力を注ぐ。
戦闘機を相手に時間稼ぎに徹する。
以前なら屈辱で顔を歪めていただろう。
だが今は、相手がナチュラルだコーディネーターだとかは関係ない。
奴らは強い。
そう認める事が出来ていた。
ディアッカの顔に以前の傲慢さは無かった。
「くっ、近づけない。
キラ達のエネルギーがヤバいってのにストライカーパックの配達にも行けないのか!」
イレブンもまたバルトフェルドに釘付けにされていた。
ガンナーのアイシャが決して逃さないように常に狙いをつけている。
バルキリーを戦闘機に変形させる時の動けない瞬間を狙うつもりなのだ。
「もう勝負は着いただろう!」
「まだだ!君達を落とせば、我々の勝ちなのだからな。
僕らは未来に手を伸ばし続ける。
諦めた奴には届かない、そう言ったのは君だろう?」
「そうか、ならあんたを倒して俺達が未来を手に入れる!」
逃げようとすれば後ろから撃たれる。
ならば前に出る!
アークエンジェルは、海岸に到達していた。
友軍はまだ来ていないが、直に来るだろう。
モビルスーツ達の帰還を待っている。
バルトフェルド達が乱戦に持ち込んだため、アークエンジェルからミサイルなどで援護する事も出来ない。
戦闘開始から、多数のバクゥを相手に激しい高機動戦を行っていたストライクとバルキリーのエネルギーが危険域に近づいているのだ。
モビルスーツを失うかもしれない、それでも今は信じて待つ事しか出来ない。
激しい乱戦を繰り広げていたバルトフェルド達に、レセップスのダコスタから通信が入る。
「隊長、この海域にワルキューレが近づいています。
どうやらオーブに帰る途中のようです」
「・・・そうか、了解した」
バルトフェルドは、そう答えて戦闘を止める。
突然、動きを止めたラゴゥにイレブンはもちろん、イザーク達も驚き戸惑う。
バルトフェルドは、イザーク達にも通信で指示を出す。
「君達も戦闘を止めるんだ」
「何故ですか!ここまで来て」
「歌姫の休戦だよ」
「何を訳の分からない事を!
ストライクは、ここで落とす!」
イザークは、戦闘を続けようとする。
ディアッカも、援護のために機体を動かす。
ラゴゥが発砲した。
そのビームは、デュエルとバスターを掠めていった。
「「なっ!」」
「歌姫の休戦については、後で詳しく説明しよう。
今は指示に従うんだ。
でないと、君達を撃たねばならなくなる」
バルトフェルドの声に本気を感じ取り、動けなくなる二人。
「すまなかったね、アークエンジェルに戻りたまえ。
イレブン君」
「足掻いてみるんじゃなかったのか?」
「これだけは失えない。
ザフト地上軍と地球軍の間に出来た、たった一つの暗黙の了解だからね」
その言葉を聞き、イレブン達は無言でアークエンジェルに帰還していった。
アークエンジェルに近づくユーラシアの護衛艦の姿も確認出来た。
イレブン達が帰還したアークエンジェルは、ユーラシアの護衛艦と共にトルコを目指して海を行く。
アークエンジェルが去った海をバルトフェルドが見つめていた。
沖には歌姫の船ワルキューレが見える。
地中海をスエズに向けて進んでいるのだ。
オーブは、中立国ゆえにザフト、連合双方の勢力圏を避けて公海を通るルートを選ぶ事は理解出来る。
しかし、今回、このルートで帰還しているのは、自分達が乗るシャトルを身を挺して守った者のためなのだろうな。
「やはり、足掻くなら戦い以外の道も探さなくてはいけないかなぁ」
その顔は、イレブン達を討てなかった事を悔やんでいる様には見えない、清々しいものだった。
バルトフェルドは、残存部隊をまとめてジブラルタルに撤退していく。
敵である者を全てねじ伏せ、屈服させる以外の道。
そんな道があるのかもしれない。
彼らを見ていると、そう思えてくる自分がいた。
砂漠の虎編は、これで終了です。
なんだかんだで苦戦させられたアークエンジェル。
バルトフェルドにも頑張ってもらいました。
バリアントは、原作の設定では両舷にありました。
作者の記憶違いですが、この世界では片側にしか付いてません。