歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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カガリの軌跡

 

 

 

 歌姫の休戦が成立し、パイロット達がアークエンジェルに戻ってきた。

 沖から近づいてくるユーラシアの護衛艦の姿が見える。

 

「パイロット各機、帰還しました!」

 

「このまま沖に出てユーラシアの護衛艦と合流、トルコ方面に向かいます」

 

 ユーラシアの護衛艦に近づくと、甲板上に2機のモビルスーツが待機していた。

 1機は連合カラーのジンだが、もう1機はバルキリーだった。

 ユーラシアのバルキリーから通信が入る。

 

「こちら、ユーラシア連邦軍所属ハンス・ヴォルフシュタイン少佐。

 アークエンジェルの脱出支援の為に派遣された」

 

 30歳前後の白人男性がブリッジのモニターに映し出される。

 MSに乗っているという事は、この男もコーディネーターなのだろう。

 

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス少佐です。

 貴軍の協力に感謝します」

 

「惜しかったな、歌姫の休戦がなければ俺たちが砂漠の虎を討ち取れてたのに」

 

 ハンスの僚機から軽いノリの声が割り込む。

 モニターに別枠でジンのパイロットも映り込む。

 イレブンと同じくらい、20前後と言ったところの若い男が映る。

 

「わかりませんよ、こちらのモビルスーツのエネルギーは危険域に入っていました。

 休戦がなければ、あなた方の到着前に落とされていたかもしれません」

 

 ナタルがそう簡単な状況ではなかった事を伝える。

 

「ひゅー!アークエンジェルは、艦長だけじゃなく副長も美人さんなんだな。

 そっちのクルー達が羨ましいぜ!」

 

「ジョバンニ!すこし黙っていろ」

 

「うっ、わかりましたよ、隊長」

 

「すまなかったな、軽い性格だが悪い奴ではないんだ」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 マリューは、コーディネーターにもこんなに軽い男がいるのだなと思いつつ、気を悪くする程の事でもないとハンスに答える。

 

「では、このままトルコの基地までエスコートしよう」

 

 アークエンジェルは、ユーラシアの護衛艦にエスコートされ地中海を進んでいく。

 

 

 アークエンジェルの格納庫では、帰還したパイロット達がお互いの無事を確認し、安堵していた。

 

「無事にザフトの勢力圏を抜ける事が出来ましたね」

 

「まあ、まだ味方の勢力圏に入った訳じゃないが、歌姫の休戦が成立した訳だし、トルコまでは安全だろう」

 

「歌姫の休戦ですか、本当に戦いを止めるんですね」

 

「初めて見るなら、信じられないのも仕方がないさ」

 

「それより、ユーラシアの艦にいたモビルスーツ、片方はバルキリーだったぜ」

 

「そうですね、アズラエル財団が独自に開発した機体ですから、理事と繋がりがあるのかもしれません」

 

「どんな人達なんでしょうか?」

 

「やっぱり気になるか?」

 

「ええ、まぁ」

 

 キラにとっては、初めてイレブン以外の地球軍に所属しているコーディネーターとの接触になる。

 イレブンは特殊な生まれでブルーコスモスに所属していた。

 先程の通信から、彼らが自分と同じ一般的なコーディネーターだと思い、気になっていたのだ。

 

「友軍なんだ、トルコまでの間に顔を合わせる事もあるだろう」

 

「そうですね、なんだか楽しみです」

 

 

 パイロット達が食堂に入ると、サイ達が歌姫の休戦の話題で盛り上がっていた。

 

「話には聞いていたけど、本当に戦いが止まるんだな」

 

「この目で見たけど信じられないわ」

 

「だよな〜、人道支援してた連合はともかく、ザフトにも認められてるのはなんでなんだろう?」

 

 そんなサイ達にキラが声をかける。

 

「ただいま」

 

「お、キラ!おかえり。

 無事で良かったよ」

 

「エネルギー、やばかったもんね」

 

「休戦できて良かったな」

 

「うん、そうだね」

 

「ホント、カガリには感謝だよなぁ」

 

「この海域にカガリの船が近づいて来てるって情報が入ったら、急にザフトが戦闘を止めたんだから驚いたよ」

 

「僕も信じられなかったよ。

 向こうの隊長機が戦闘を続けようとしたデュエル達に威嚇射撃してまで止めてたくらいだし」

 

「いったい何をしたら、こんな事が出来るようになるんだろうな?」

 

 そんな話をしているキラ達にムウが声をかける。

 

「キラもそうだが、お前らもあんまり詳しく知らないみたいだな」

 

「ええ、ヘリオポリスでは報道されてる事くらいで、後はネットの噂とかで聞くだけなんで、どれくらい本当の事なのか分からなかったんですよ」

 

「なら、少し話してやるよ。

 歌姫の休戦が成立するようになった経緯ってやつを」

 

 ムウがカガリがクライシス後にユーラシアで保護された後の軌跡を語り始める。

 

「ユーラシアから帰国して直ぐに、あの歌姫さんはオーブ軍に全面協力を取り付けて、クライシスの被害が大きい所を中心に支援物資を届ける慰問ライブツアーを行うと発表したんだ」

 

「そこは知ってます、ウズミ代表がそのツアーにアスハ家の資産で建造した『サウンドシップ』ワルキューレを提供するって事で騒ぎになったやつですよね」

 

「ああ、世界的に有名だとは言え、一介の歌手の為になんでそこまでするのかって話になった。

 そこでカガリ・ユラがアスハ家の令嬢だって公表した訳だ」

 

「あれでウズミ代表のイメージ変わったよね。

 娘のために船一隻用意してたんだから、親バカなところもあったんだって」

 

「各国も、そんなところを見て親しみを感じたらしい。

 理念一辺倒の頑固なだけの男じゃないってな」

 

「へぇ、国のトップも、たまには隙を見せる事でいい結果に繋がる事があるんですね」

 

「そうだな、その会見でカガリの後ろに立ってたマネージャーの存在も大きい。

 彼女は、左腕が肘の上辺りから無くなっていた」

 

「噂では、食料が無くなった時にカガリのために切り落としたとか」

 

「その噂に対しては否定も肯定もしていないが、それが逆に噂が本当だって示しているんだ。

 違うなら否定すればいいだけだからな」

 

「・・・たしかに」

 

「ここから先は、俺もそこまで詳しい訳じゃない。

 戦争が始まってから、地上に降りる機会は多くなかったからな。

 地上勤務の知り合いや地上での戦いが多かったイレブンから聞いた話だ」

 

 

 世界は原子力発電が主流になり、太陽光などの自然エネルギーは非効率だとマイナーな研究分野になっていた。

 そんな中でクライシスは、世界を凄まじい地獄に変えた。

 そんな地獄に叩き落とされた人々の心に、同じ地獄を経験したカガリの歌だから届いたのだ。

 

 一国のトップを担う家の娘、お姫様が人肉を食べなければいけない過酷な状況を生き延びていた。

 そんな娘が、再び地獄に戻って手を差し伸べるのだ。

 ただの裕福な資産家がする慈善事業とは訳が違う。

 

 カガリは、ワルキューレで被災地に直接乗り付けて、支援物資や太陽光発電ユニットを提供した。

 だが、もともと被害が大きく暴動や略奪が横行していた地域であったため、民衆達は支援物資やエネルギーを囲って争い、暴動へと発展してしまった。

 せっかく助けが来たのに、人々は互いに傷つけ合ってしまっている。

 それだけ、クライシスの傷痕が深く、他の誰かを信じられなくなっていたのだ。

 

 ワルキューレの甲板上は、特設のライブステージになっている。

 音響装置や巨大スクリーンも備え付けられていた。

 世界で唯一のサウンドシップと言われる所以である。

 カガリは、そのステージに上がって暴徒達の前に姿を晒して歌った。

 その時はまだ、カガリもまた、彼らと同じ地獄を生き延びたと言う事は知られていなかった。

 ステージの上で歌うカガリの姿に、暴徒達は苛立ちを感じた。

 地獄を知らない子供が、自分達を救おうと思い上がっている。

 そう思った暴徒達の中から銃を撃つ者たちがいた。

 その銃弾の一つがカガリの肩を撃ち抜く。

 これで世間知らずの小娘は、泣いて船の中に逃げ込むだろう。

 もう、怖くて外には出てこれなくなる。

 そう暴徒達は思っていた。

 

 しかし、カガリはステージを降りなかった。

 オーブの軍服を模した純白のステージ衣装を紅く染めて、それでもカガリは歌い続ける。

 その姿に感じていた苛立ちが消えて、歌が耳に入ってくるようになる。

 その歌に込められた想いが届き始めたのだ。

 

 どんな絶望からでも、人は立ち上がれる。

 地獄の中で犯した罪で自暴自棄にならないで。

 罪を犯した弱さを受け入れよう。

 その罪が許されるまで、寄り添って支えるから。

 だから、自分を傷付けないで。

 人は、乗り越える勇気を持てるのだから。

 

 そんなカガリの想いが歌に乗って暴徒達の耳に届く。

 どうして、この娘の歌は自分達の心をこんなにも揺さぶるのだろう。

 争いは止まっていた。

 銃を向けている者も、もういない。

 誰もが涙を流して、ステージを見つめていた。

 歌で暴動を鎮圧したのだ。

 

 その後、カガリは肩に包帯を巻いて支援物資の配給も手伝っていた。

 自分を撃った者たちの中に入っていって、食料を配っているのだ。

 現地の人々は、その姿に何を思うだろうか。

 

 カガリは見返りを求める事もなく、次の目的地に向かっていく。

 オーブ軍を引き連れて、財産を投げ打ってエネルギーと食糧を届けて、歌で心まで救って、何も求めずに去っていく、次の救いを待っている人々の下へ。

 

 そんな姿を見せつけられた人々が感謝を捧げない訳がない。

 地域によっては、女神のように信奉されている。

 

「この話は世界中に衝撃を与えた。

 もちろん、ザフトの支配地にもな」

 

「そこから先は、私が話そうか」

 

 突然、食堂に聞き慣れぬ声が響く。

 皆が振り向くと、食堂の入り口にハンスが立っていた。

 

「なに、有名なエンデュミオンの鷹と最良の戦友の顔を見てみたいと思って挨拶に来たんだよ」

 

 そう言って食堂に入ってくる。

 その後ろからジョバンニも続いている。

 

「あんたはユーラシアのバルキリーに乗っていた」

 

「ハンス・ヴォルフシュタイン少佐だ。

 ハンスでいい」

 

「ムウ・ラ・フラガ少佐、俺もムウでいいぜ」

 

「イレブン・ソキウス中尉です」

 

「あっ、キラ・ヤマト少尉です」

 

 パイロット達が挨拶を交わしている中、ユーラシアのもう一人のパイロットは・・・

 

「ねぇ、君かわいいね!名前はなんで言うの?」

 

 ジョバンニは、フレイに声をかけていた。

 その様子にハンスは、またかと眉間を押さえる。

 

「えっ、えっと・・」

 

 フレイも突然のナンパに戸惑っている。

 隣にいるサイも迷っていた。

 今のところ名前を聞いているだけで乱暴な事もしていない。

 婚約者として強く言うべきだろうか?

 しかし、フレイから婚約の事は忘れてくれと言われている。

 まだ婚約者だとはっきり言い切れる立場でもないのだ。

 フレイに危険があれば身を挺して守っただろうが、相手はフレンドリーな態度を崩さないでいる。

 

 そんな困惑している二人の前にイレブンが割り込む。

 

「やめておけ、この娘には婚約者がいる」

 

「なんだよ、堅いねぇ。

 女性に声をかけないなんて、その女性に対する侮辱に等しいだろ。

 そんな事は、俺の中に流れるイタリアの血が許さないんだよ!」

 

「お前はコーディネーターだろう。

 遺伝子を調整しているんだ。

 血がどうとかは関係ないはずだが」

 

「何を言ってる、遺伝子なんかで何が決まるって言うんだ!

 これは、先祖から受け継がれてきた魂なんだよ!」

 

「ジョバンニ、その辺にしておけ。

 まだ挨拶も終わってないだろう」

 

 ハンスが仲裁に入る。

 隊長に言われて、さすがにジョバンニも引き下がる。

 

「ユーラシア連邦軍所属、ジョバンニ・フェッリ少尉」

 

 敬礼しながら挨拶を返すジョバンニ。

 そんなジョバンニを見ながら、コーディネーターにもいろんな人がいるんだなとキラは思っていた。







初めてのオリキャラ登場です。
原作では出てこなかったコーディネーター部隊です。
今後は、ミーアの正体のようなオリ設定が増えていくと思います。
最終的には、原作から全く違う世界になる予定です。
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