歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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カガリの奇跡

 

 

 

 食堂で挨拶を交わしたユーラシアのパイロット達との交流を兼ねてムウが話を振る。

 

「俺たちが有名ねぇ。

 そう言うあんたも有名だぜ。

 銀狼ハンスさん」

 

 ハンスもまた、二つ名を付けられる程のパイロットだったのだ。

 

「おや、あのエンデュミオンの鷹にそう言ってもらえるとは光栄だな」

 

「銀狼ですか?」

 

「ヴォルフシュタイン家の紋章に銀色の狼の意匠が使われてるからだ。

 そう大した意味はない」

 

「貴方はバルキリーに乗っている。

 アズラエル理事と何か関係があるのでは?」

 

 イレブンも気になっていた事を聞く。

 アズラエルの性格から考えて、バルキリーはソキウス達のために作られた機体だろう。

 可変機は扱いが難しい。

 戦闘機とモビルスーツ、両方の適性が必要になってくるのだ。

 十分な訓練期間が取れない今は、よりシンプルな機体が量産機として採用される筈。

 なら、バルキリーは少数生産の高級機と言う位置付けになる。

 アズラエルから、そんな機体を渡されているコーディネーター。

 二つ名を付けられたエースという事を差し引いても、何らかの繋がりがあるのだろう。

 

「それほど親しい訳でもないが、私もブルーコスモスに所属していてね」

 

「貴方も、イレブンさんの様に何か事情があるんですか?」

 

 キラの問いかけに、ハンスは否と答える。

 

「ソキウスの様な事情を背負っている訳じゃない。

 私の家は、ドイツの名門と言われている家柄でね。

 その関係でブルーコスモスに籍を置いているのだよ」

 

「そうなんですか」

 

「不思議そうだな。

 もともと、ブルーコスモスは金持ちが世間からの嫉妬を躱すために作った環境保護活動を行う慈善団体だ。

 過激派と言われてる連中の方が少数派なんだ」

 

「じゃあ、世界中でテロ行為をしているのは・・」

 

 トールも疑問を口にする。

 

「街中でロケットランチャーをぶっ放したり、マシンガンを乱射する様な連中が環境保護活動をしていると思うか?」

 

「・・・いえ」

 

「宗教界の権威が失墜してしまった時に、経済界の有力者が揃っているブルーコスモスがコーディネート技術に反対を表明したからな。

 反コーディネーターの代表格に祭り上げられてしまったんだ。

 テロを起こすような連中は、ほとんどが勝手に名前を使ってるだけの偽物だよ」

 

「へぇ、じゃあフェッリさんもブルーコスモスなんですか?」

 

「ジョバンニでいい。

 俺は普通の一般人だよ。

 クライシス直後の反コーディネーター感情が吹き荒れてた時に、保護を求めて軍に入ったんだ」

 

「そう言う人、多いんですか?」

 

「クライシスの被害を受けて復讐の為に志願した奴もいたし、かなりの数になるな。

 コーディネーターに対する風当たりが強くて、プラントに渡った連中もいたけど」

 

「やっぱり、地球はコーディネーターにとって住みにくい場所になってたんですね」

 

「最初の方は、コーディネーターってだけで信用されなかったからな。

 前線で捨て駒同然に扱われたりしてたよ」

 

 思った以上に地球のコーディネーターの扱いは酷かったと聞いてキラ達の顔が曇る。

 

「それでも、地球軍で戦っているんですね」

 

「アズラエル理事が軍に働きかけて、コーディネーター達をまともに運用出来る部隊に配置するようにしてくれたからな」

 

「イレブンさんの後ろ盾になってくれてるし、なんだかブルーコスモスに対する印象が変わりそうですね」

 

「本人は、地球連合のために闘おうって言っているんだから有効に使わなきゃもったいないでしょ、って言っていたが、プラントに住むコーディネーターの行いで窮地に陥った地球のコーディネーターをブルーコスモスの盟主が守ってくれているんだ。皮肉なものだな」

 

 会話が一段落したところで、ハンスが話を戻す。

 

「カガリの話の途中だったな」

 

「そう言えば、ハンスさんが話してくれるって言ってましたね」

 

「ああ、ずっと地上で戦ってきた私たちの方が詳しいだろう」

 

 そう言ってハンスがムウから話を引き継ぐ。

 

「世界中の人々が、クライシス後からのカガリの生き様を知って衝撃を受けたところまで話したんだったな」

 

「ええ、連合に対するカガリの影響力は、なんとなく分かりました。

 でも、ザフト地上軍がカガリを尊重する理由が、まだ分からなくて」

 

「カガリは、その後も世界各地を巡っていった。

 カガリの行動が世界に広まるに連れて、各地の民衆達も歓声を上げて迎え入れる様になっていったよ」

 

 自分達と同じ苦しみを味わい、財産を投げ打って少しでも多くの人々を救おうとするカガリ。

 そんなカガリと行動を共にして様々な支援を行ってくれるオーブに対する連合市民の好意は高まるばかりだった。

 

 当然、ザフトも当初は面白くなかった。

 自分達でエネルギー危機を引き起こして、安価にエネルギーを輸出する事を条件に親プラントの立場を表明する事を非理事国に求めていた。

 そのあからさまなマッチポンプに、他に救いが無ければ各国も内心を押し殺して、その手に縋るしかなかっただろう。

 だが、オーブがエネルギー危機を解決する技術を無償で公開してくれた。

 その上、各国が頭を痛めていた市民達の暴動も、カガリが各地を巡って歌で市民の心を癒すことで鎮圧してくれている。

 ザフトの立場は非常に悪くなっていた。

 恩着せがましく、エネルギー支援をしてやるから傘下に入れなどと言う要求に屈する国は激減した。

 ザフトの地上侵攻計画は、オーブとカガリの行動で大きく狂わされたのだ。

 

 プラントは、血のバレンタインの報復として核を封印するためにNジャマーを開発したと言っているが、それを信じている国はない。

 そんな開発力と生産力があるなら、もうとっくに戦争はプラントの勝利で終わっているからだ。

 血のバレンタインからクライシスまでの僅かな時間で、Nジャマーを開発して地球全域に散布する程の数を生産するのは不可能だ。

 Nジャマーの投下は最初から計画されていたのだろうと世界は認識していた。

 

 プラントの狙いは、エネルギー危機を引き起こして連合の国力を削り、エネルギーを餌に非理事国を味方につける事だったのだろう。

 その計画が大きく頓挫し、非理事国を親プラントの立場に引き込むために様々な譲歩が必要になったのだ。

 

「ユーラシアも救われた。

 カガリを保護する為だろうが、オーブはユーラシアに最大の支援を行ってくれていた。

 カガリの歌で市民達の暴動も収まり、早期に治安が回復していった。

 そのおかげで、今回のアークエンジェルの脱出支援にも来ることが出来たんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「クライシスの混乱が長引いていたら、態勢を立て直せずにザフトに今以上に戦線を押し上げられていただろう。

 ドイツやイタリアを落とされたが、東欧で踏ん張っていられたのは、カガリとオーブのおかげだ。

 でなければ、アフリカまで救援に行けなかっただろう」

 

「カガリの影響がそんなところにまで出ているんですね」

 

「そう言う事情でザフト地上軍のカガリとオーブに対する心情は最悪に近かった。

 カガリは、ザフト支配下の地域にも赴いて支援の手を差し伸べようとしたが、ザフト側が拒否。

 ザフトの勢力圏に入ろうとしたワルキューレに攻撃して追い払ったんだ」

 

「この状況でそんな事したら・・」

 

「ま、当然のようにザフト勢力圏で反ザフトの大暴動が起きた。

 あの頃はまだ地上軍もナチュラルに対する蔑視が酷かったから、武力で鎮圧しようとしていた」

 

「そんな事、カガリが黙って見ているはずがない」

 

「その通りだな。

 暴動を鎮圧するためにザフトが向かっている都市にワルキューレも向かっていった。

 サウンドシップの機能をフルに使って、カガリの歌を流しながら」

 

「それって、ザフトとオーブの間で戦争にならないの?」

 

「カガリは、オーブ軍の護衛を付けずにワルキューレ単独で向かったんだ」

 

「ええ!よく無事だったわね」

 

「親プラントを表明した国々も、ザフトがカガリを殺してしまえば、自国の民も含めて地球全てが敵になると理解している。

 カガリの身に何かあったらザフトに宣戦布告すると公表していたんだ」

 

 反ザフトの暴動が起きている都市を前に、武力で鎮圧に来たザフトがワルキューレを発見した。

 カガリに危害を加えると、苦労して親プラントに引き込んだ各国が離反してしまう。

 ワルキューレを沈めることは出来ない。

 だが、これ以上好き勝手されるのも許せない。

 だから、ザフトは艦砲で威嚇射撃を行った。

 船に当たらなくとも、周囲に着弾する砲撃に護衛もいない民間船は逃げていくだろうと思っていた。

 だが、ワルキューレは止まらない。

 周囲に砲弾が降り注ぐ中、真っ直ぐ都市に向かっていく。

 ザフトに焦りが生まれる。

 このままワルキューレに都市に入られたら、ザフトはいい笑い物だ。

 そんな感情が働いたのか、砲弾の一発がワルキューレを掠めてしまう。

 ザフトの指揮官は焦ってしまった。

 プラント陣営に引き入れた各国との関係が崩壊してしまうかもしれない。

 カガリの無事を確かめようと、ヘリにワルキューレの詳細な映像を撮らせる。

 ヘリから送られてくるリアルタイムの映像を確認した時、指揮官や幕僚達は信じがたい光景を目にした。

 ワルキューレの甲板上に作られたステージに立つカガリの姿だった。

 周りに砲弾が降り注ぐ中で、怯む事なく歌い続けている。

 砲弾がワルキューレを掠めた時に、かなりの衝撃があったはずだ。

 それでもワルキューレは逃げる事なく都市へと向かい続ける。

 カガリもステージを降りない。

 その映像を見た全てのザフトの兵士達の心に衝撃を与える。

 砲撃の音が止まっていた。

 そして音楽とカガリの歌声だけが響いている。

 

 この時、ザフトの兵士達は初めてまともにカガリの歌を聴いたのだ。

 

 荒れ果てた瓦礫の中で、それでも人は力強く立ち上がれる。

 だから、今、争いを止めよう。

 どうか、見守っていて欲しい。

 側に寄り添っていて欲しい。

 そして、助けを求められたなら、手を差し伸べる事が出来る貴方でいて欲しい。

 

 それは、暴動を起こした市民達のみに向けられた歌ではなかった。

 市民達に銃口を向け、制圧しようとしていたザフトに向けたメッセージも込められていた。

 

 ワルキューレは都市の目の前で停止した。

 そして、ザフトに通信を送る。

 この都市に対して人道支援を行いたいので許可を求めると。

 ここに至って、ワルキューレはザフトに譲ったのだ。

 これから行う人道支援は、ザフトの意向でもあるのだと言う形を作ってくれた。

 カガリの歌に込められたメッセージのままに、ザフトに手を差し伸べて欲しいと願ったのだ。

 

 ザフトは、その手を差し出した。

 カガリが都市に入る事を認めたのだ。

 暴動を起こした市民達に、自分のためにザフトと争い、命を落とさないで欲しいと説得して、暴動を平和理に納める事に成功した。

 その後、ザフトはカガリ・ユラの人道支援を受け入れると発表した。

 カガリが赴く場所とその移動ルート上で、ザフトは攻撃を控えるようになる。

 連合は、最初からカガリの船に攻撃する意志などないため自然と休戦のような形になっていった。

 

「こうして、後に歌姫の休戦と呼ばれる非公式な取り決めがザフト地上軍との間で出来たんだ」

 

「凄いですね、カガリが地上でそこまでしていたなんて」

 

「一個人の為に軍が休戦するなんて、他にあるんですか?」

 

「西暦時代に紛争地帯で中立のジャーナリストが撃たれて負傷した際に、国外の病院に搬送するために空港付近で僅かな時間だけ休戦が成立したことがある」

 

「そんな事があったんですね」

 

「当時は、世紀の休戦だって話題になっていたらしいが、小さな国同士の紛争で世界各国からの要請があっての話だ。

 世界規模での戦争で、外部からの圧力も無しに両陣営から尊重されて休戦になるのは人類史上初だろう」

 

「まさに奇跡の休戦だな」

 

 キラ達は、カガリが地上でどれ程の事を成し遂げて来たのかを知った。

 自分達は、覚悟を持って世界と向き合おうと歩いてきた。

 それでも、あの歌姫の背中はまだまだ遠いようだ。

 だからと言って前に進む事を止めるつもりは無い。

 カガリに連れて行ってもらうのではない。

 自分達の足で、望む未来にたどり着くのだ。

 そんなキラ達の様子を見て、ハンスやムウは彼らの未来を守らなければと感じていた。

 

 

 

 同じ頃、イザーク達も同じ話をバルトフェルドから聞かされていた。

 

「・・・ジブラルタルの連中があんな目を向けてきていたのは、俺がシャトルを撃ったからか」

 

 自分が銃口を向け、引き金を引いたシャトルに乗っていた者が世界にどれ程の影響力があったのかを理解したのだ。

 

「歌姫の騎士に感謝しないとな。

 もしシャトルを落としていたら、連合はプラントを滅ぼすまで止まれなくなっていただろう」

 

「話を聞いてると、今でもプラントの未来はヤバいって感じだけどねぇ」

 

 ディアッカも、クライシスの惨状と地球各国との関係を聞いて、たとえ戦争に勝っても針の筵だと思っていた。

 

「少しでもマシな未来にするために足掻いてみようと思ってね。

 プラントでもラクス・クラインが市民達を変えようとしているらしい」

 

「バルトフェルド隊長・・・俺も、変われると思いますか?」

 

 既に変わり始めているんだがなぁ。

 真剣な声で聞いてくるイザークの顔を見たバルトフェルドはそう思った。

 

 宇宙から降りてきた時のナチュラルを見下す傲慢さはなくなり、未来を見据えて現実を受け止めようとする漢の顔があった。

 

「諦めた奴には出来ないな」

 

 だから歌姫の騎士の言葉を送った。

 彼らが、これからも諦めずに進んでいけるように。






歌が上手いから、感動して相手の心を変えてしまうコメディではなく、リアルな世界を歌で変える為に、歌に説得力を持たせるにはこのくらいしなきゃいけないかなと思いました。
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