歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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オデーサでの時間

 

 

 

 アークエンジェルはユーラシア連邦の基地に入った。

 遂に味方の勢力圏で安全と言える場所にたどり着いたのだ。

 エスコートしてくれたユーラシアの護衛艦と別れ、しばしの休暇の後、直ぐにアラスカに向けて出発すると思われていた。

 しかし、アークエンジェルに蓄積された戦闘によるダメージは深刻であった。

 ヘリオポリスから激戦の連続であり、設備の整った場所で落ち着く事も出来なかった。

 現場の整備員達による応急処置で凌いできたのだ。

 ドックに入って修理を施さなければ戦闘はもちろん、長距離の移動も危険だと判断された。

 アークエンジェルは、トルコの基地よりも更に後方のオデーサ基地にてドックに入ることになった。

 

 アークエンジェルがオデーサのドックに入った事で、アークエンジェルのクルー達はオデーサ基地でしばらく過ごす事になった。

 そこで、棚上げされていたスカイグラスパー2号機のパイロットを選考することにした。

 とは言え、アークエンジェルは人手不足で各部署から専門知識を持った人員を引き抜く余裕はない。

 そのため、ヘリオポリスの元学生達から適性を見て選考される事になった。

 サイ達が適正なしとして撥ねられていく中で、まずトールが適正有りと判定された。

 そして、意外な事にフレイも適性有りと判定されたのだ。

 サイ達は過酷なパイロットの任務を見てきたため心配していたが、フレイはこれで自分にも出来る事が見つかったと喜んでいた。

 ムウは戦闘機でモビルスーツとやり合うなんてベテランでも難しい事を新人にやらせるつもりは無いと言ってサイ達の不安を和らげた。

 もちろん、支援任務でも命の危険がある事は変わらないが軍に志願した以上、そのリスクは背負わなければいけないものだ。

 トールとフレイがパイロット候補生として訓練を受けることに決まった。

 

 

 二人の訓練は順調に進んでいた。

 ムウとイレブンと言う地球軍が誇るエースパイロットが付きっきりで教官をしてくれている。

 同じ0からのスタートで訓練を受けてきたキラも気付いた事を助言していた。

 トールとフレイは、連合軍でも最も恵まれた訓練環境が与えられていた。

 

 

 二人も訓練に集中して取り組んでいる。

 トール達も分かっているのだ。

 ムウ達は簡単な支援任務から始めて行くと言っていたが、戦場には簡単な場所など無い。

 ムウとイレブンと言う二つ名を持つエースパイロット、そんな二人と共に戦って遜色無い活躍を見せるキラ。

 こんな戦力を持つアークエンジェルを簡単な戦場に向かわせるとは思えない。

 ザフトもアークエンジェルに半端な戦力を当ててくるような真似はしないだろう。

 厳しい戦場が待っていると覚悟している。

 その戦場を生き残るために、二人は厳しい訓練に食らい付き、その技量を順調に伸ばしていった。

 

 

 オデーサ基地の食堂に、その日の訓練を終えたトール達がいた。

 

「はぁ〜、今日も疲れたな」

 

「そうね、疲れすぎて食欲も出ないわ」

 

「大丈夫?少しでも食べないと体が持たないよ」

 

 キラが訓練でぐったりしている二人を気遣う。

 

「やっぱ、キラって凄かったんだな」

 

「実際にやってみて、キラ達の大変さが分かったわ」

 

「でも、二人とも頑張ってるよ。

 ムウさん達も感心してた」

 

「そりゃ、アークエンジェルに乗ってて楽な戦いで済むとは思えないし」

 

「少しでも上達しておかないとキラ達に着いて行けないじゃない」

 

 談笑しているキラ達に声をかける者たちがいた。

 

「やあ、君達もオデーサに来ていたんだな」

 

 キラ達が視線を向けるとハンス達が立っていた。

 

「ハンス少佐、それにジョバンニ少尉も。

 二人は、ここの部隊の人だったんですか?」

 

「いや、もともと1小隊4機編成の部隊だったんだが部下を失ってね。

 後方のオデーサで再編中だったんだ。

 補充人員が来る前にアークエンジェルの救援に駆り出されたんだよ」

 

「そうなんですか」

 

 部下を失ったとは死んだと言うことだ。

 ハンスは淡々と語っている。

 戦場では珍しくもない事なのだろう。

 戦争の厳しさを感じて、キラ達の顔が曇る。

 

「二人も亡くなったんですね」

 

「いや、戦死したのは一人だよ。

 もう一人は戦えなくなってパイロットを辞めたんだ」

 

「あいつは、もともとパイロットなんかしちゃいけない奴だったんだ!」

 

 ジョバンニが苛立ちを顕にして毒付いている。

 キラ達は、アークエンジェルでナンパしていた時とは別人の様な態度に驚いている。

 

「ジョバンニさん、どうしたんですか?」

 

 キラ達の戸惑っている顔を見て、ジョバンニは気まずそうに顔を逸らして離れて行った。

 

「すまないな。

 仲間を失って、まだ気持ちの整理が出来ていないんだ。

 あいつはエレーナに惚れていたからな」

 

「エレーナさん・・・ですか?」

 

「彼女は、クライシスで婚約者を亡くしていた。

 復讐のために軍に志願した者達の一人だった」

 

 そう言う者もいる。

 ハルバートン提督から聞いていた事だ。

 それでもキラの心は重くなる。

 アスランがいるプラントにそんな憎しみが向けられているのだから。

 

「エレーナは復讐心が強かった。

 ザフトの兵を殺すために、誰よりも前に飛び出して行く危うさがあった。

 初めてあった時もジョバンニが声をかけて、手ひどく振られていたよ」

 

「婚約者を亡くしたばかりの女性を口説くなんて、デリカシーがないわね」

 

「エレーナもそう言ってジョバンニと衝突ばかりしていた。

 それでも、あいつはエレーナに声を掛け続けた。

 最近は角が取れて、柔らかい表情も見せるようになってきていたんだが」

 

「そうだったんですか」

 

「そんな矢先にエレーナが撃墜された。

 それも、ジョバンニが撃破したと思っていたジンに背後から撃たれてな」

 

「そんな!」

 

「撃破したと思っていたジンに、まだ戦闘力が残っていたんだ。

 しばらくは、あいつも荒れていた」

 

 それは、戦争の中でありふれた悲劇なのかもしれない。

 戦場で発生する多数の死の一つでしかない。

 それでも、身近な人にとっては取り返しのつかない悲しみなのだ。

 

「あいつは自分を責めたよ。

 自分のミスで死なせてしまったと。

 エレーナは戦争なんかしちゃいけなかった。

 平和な場所で、優しく微笑んでいれば良かったんだと」

 

「ジョバンニさん・・・」

 

「私も僚機を守れなかったのは同じだがね。

 幸いにも、私の相棒は片腕を失っただけで済んだ」

 

 キラ達は、戦争の現実を見せつけられた様に感じていた。

 戦争は綺麗事ではない。

 今まで倒してきたザフト兵達も、他の誰かの大切な人だったのかもしれない。

 自分達もそんな憎しみを向けられているだろう。

 戦場で戦うとは、そう言ったものを背負う事だと教えられた気がした。

 

「戦場では決して油断するなよ。

 難しいかもしれないが、最後まで生きることを諦めないでくれ」

 

 そう言って、ハンスは去って行った。

 

 

 その後も訓練は順調に進められた。

 ムウ達、正規のパイロットが集まり、トール達の訓練の進捗状況について話し合っていた。

 

「そろそろ2号機のパイロットを決めなきゃいけないな」

 

「そうですね。

 アークエンジェルの修理も、もうすぐ終わるそうですから」

 

「この後は味方の勢力圏を通ってアラスカに向かうだけじゃないんですか?」

 

「そんな簡単には行かないさ。

 アルテミスからこっち、ユーラシアには助けられっぱなしだ」

 

「なんらかの作戦でユーラシアに借りを返さなければ、大西洋連邦軍の立場がないだろう」

 

「じゃあ、アラスカに行く前にザフトと戦う事になるんですね」

 

「おそらくな」

 

「そんな訳で、パイロットを決めておこうって訳だ」

 

 パイロット達は、トール達の実力や適性について話し合って行く。

 

「トールは、なかなかのセンスを持っているな。

 腕はまだまだだが、成長すれば良いパイロットになるだろう」

 

「フレイは、感がいいですね。

 技量は未熟なのに、たまにヒヤリとさせる動きをしてきます」

 

「へぇ、俺も気になってはいたが、イレブンがそこまで言うほどか?」

 

「ええ、感の良さだけなら、おそらくフラガ少佐以上。

 もしかしたらクルーゼ並みかもしれません」

 

「・・・そんなにか?」

 

 話を聞いていたキラも驚いている。

 確かに訓練中にいい動きをするなと思った事はある。

 それでも、フレイの実力がこれ程認められているとは思ってなかった。

 

「少佐、フレイをパイロットに出来るんですか?」

 

「イレブンさん、それはどう言う意味ですか?」

 

「あ〜、キラ、実はアルスター次官から要請があって、フレイを危険な場所に配置しないように言われているんだ」

 

「それじゃあ、パイロットはトールしかいないじゃないですか!

 フレイは、あんなに頑張っているのに」

 

「キラ、落ち着け!

 負ければ、どうせ死ぬんだ。

 必要ならフレイにパイロットをしてもらうさ」

 

「・・すみません、ムウさん」

 

 

「ずいぶん、面白い話をしていますねぇ」

 

 キラ達の話し合いに別の声が割り込む。

 視線を向けると若い金髪の男が立っていた。

 彼の周りには護衛と思われる青年達がいる。

 イレブンの呟きによって、その正体が明らかになる。

 

「・・・アズラエル理事」

 

 この男こそ、ブルーコスモスの盟主『ムルタ・アズラエル』だった。

 

「この人が、ブルーコスモスの盟主」

 

 キラも、こんな突然会う事になるとは予想していなかったため戸惑っている。

 

「イレブン君、久しぶりですね。

 どうですか?バルキリーの調子は」

 

「いい機体ですよ。

 理事には感謝しています」

 

「それは良かった。

 わざわざ用意した甲斐がありましたよ」

 

「ブルーコスモスの盟主が、まさかイレブンと世間話するために来た訳じゃないですよね?」

 

 ムウが、アズラエルに来た目的を訪ねる。

 

「イレブン君との会話も楽しみではあったんですが、今回はG計画のデータを受け取りに来たんですよ」

 

「アークエンジェルからデータを抽出するのは、ジョシュアの様な設備がある所でないと無理なはずですが?」

 

「だからと言って、アークエンジェルがアラスカに来るまで待ってるだけなんて効率が悪いでしょ。

 今出せるデータだけでも持って帰って、ナチュラル用のモビルスーツ開発を進めておこうと言う事です」

 

 アズラエルは、そう言った後キラに意味ありげな視線を向ける。

 

「それに、イレブン君と共に戦っているパイロットにも興味があったんですよ」

 

 突然、話を振られたキラが戸惑う。

 

「えっと、僕にですか?」

 

「ええ、エンデュミオンの鷹さんの名前は以前から聞いていましたが、君は突然現れて、初めて触れたはずのモビルスーツを実戦で動かした。

 興味を持つには十分過ぎる事実です」

 

「カレッジで似たようなプログラムの勉強をしていて、自分が使いやすいように書き換えただけですよ」

 

「我が社でもコーディネーターを雇ってます。

 コーディネーターなら誰でも、そんな事が出来るなんて思うほど無知ではありませんよ」

 

 アズラエルが微笑みを浮かべながら、キラに近づこうとする。

 護衛の一人が、そんなアズラエルを制する。

 

「理事、あまり知らない人物に不用意に近づかないでください」

 

「やれやれ、オルガ君も堅いですねぇ。

 イレブン君が信用しているなら大丈夫でしょう」

 

「理事、気になっていたのですが。

 彼らはコーディネーターなのですか?

 護衛にしては若すぎる気がしますが」

 

 そんなイレブンの疑問にアズラエルが答える。

 

「ああ、彼らは連合が研究していたブーステッドマンの被験者ですよ」

 

 その答えは非常に物騒なものだった。

 さすがにムウも黙ってはいられなかった。

 

「理事、それは連合が非人道的な研究をしていたと言う事ですか!?」

 

「フラガ少佐、落ち着いてください。

 連合だって、そこまで狂ってはいませんよ」

 

「失礼しました。

 しかし、彼らは?」

 

「クリス・ライトマン博士と言う男が研究の責任者をしていたんですが、連合は彼に騙されていたんですよ。

 人類の未来のために、機能拡張だとか能力開発の研究と言ったまともそうなお題目で研究資金を集めていたんです」

 

「そのライトマン博士とか言う男は、俺たちソキウスを開発していた者達の同類と言う事ですか?」

 

「もっとタチが悪いですね。

 本人に悪意は全くないタイプでした。

 本気で人類の未来のために研究していたんですよ」

 

 だから、僕も騙されました。

 そうアズラエルは続けた。

 

「アズラエルさんも、出資してたんですか?」

 

「ええ、ですから研究の実態に気付いた時には焦りましたよ。

 そんな違法研究に出資していたなんて、とんでもないスキャンダルです。

 ただでさえ、ブルーコスモスを騙るテロでイメージが悪くなってるのに」

 

 そう言って、ため息を吐くアズラエル。

 その姿には、地位の高い者にしか分からない苦悩があると思わせるものだった。

 

「アズラエルさんも大変なんですね」

 

「君は、どうやら話が通じるコーディネーターのようですね」

 

「あなたも、僕が思っていたブルーコスモスのイメージとは違ってました」

 

「勘違いしないでください。

 個人的には、コーディネーターは嫌いですよ。

 僕は商人ですから、話が通じて役に立つなら取り引きくらいはするってだけです」

 

 アズラエルは、国防産業理事を務めるほど社会的地位の高い人物である。

 そんな彼に、ここまで自然に接する事が出来る者は今まで周りに居なかった。

 キラの態度に戸惑いながら、いつも通り皮肉屋な態度を取ってしまうが気にした様子も見せない。

 

 不思議な子ですね。

 

 アズラエルは、自分でも気付かぬ内にキラに対して能力と言った利害関係以外の興味を持っていた。

 

「それで、ライトマン博士は逮捕されたんですか?」

 

 イレブンの問いかけに、アズラエルが話を戻す。

 

「研究内容が脳に異物をインプラントしたり、薬物で強化するような物だと知って、直ぐに当局に通報して研究所に踏み込ませたんですが、全ての資料を持って姿を眩ませた後でした。

 残されていたのは、オルガ君達のような被験者だけでしたよ」

 

「そんな、オルガさん達は大丈夫だったんですか?」

 

「まだ研究の初期段階だったので、なんとか治療可能でした。

 彼らは、クライシス時に犯した犯罪の減刑のために人体実験の被験者になったみたいですね。

 過去の記録が抹消済みだったので、強化された身体能力を活かして僕の護衛として雇っているんですよ」

 

「まあ、帰っても碌な環境じゃないからな、アズラエルのおっさんには感謝してますよ」

 

「やたらとカガリの歌を聴かせようとしてくるのは勘弁してほしいけどね」

 

「君達、さっきまでの他所行きの顔はどうしたんですか?」

 

「理事、クロトとシャニが口を開けばボロが出ることくらい分かってた事でしょう」

 

「彼らが無事に過ごせているのは分かりました。

 それより、ライトマン博士の行方は?」

 

「分かっていません。

 学会には報告してあるので、まともな所は受け入れないでしょうが」

 

 不穏な話題がありつつも会話は和やかに終わり、アズラエルは帰って行った。

 

「何はともあれ、パイロットの選考を続けるか」

 

 アズラエルが来てから話が全く進んでいなかった事を思い出し、会議が再開された。







フレイがパイロット候補生になりました。
そして、ついにアズラエルを出せました。
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