歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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欧州反攻作戦3

 

 

 

 バルトフェルド隊がリスクを背負って戦闘速度を上げ、キラ達もそれに応じた事で、周囲とは次元の違う速度で互いのモビルスーツが飛び交う空間が出来上がっていた。

 しかし周辺の部隊も、その戦いに見とれている暇はなかった。

 互いのエース部隊の動きの凄まじさに触発され、更に激しく苛烈に戦闘の主導権を巡って戦っている。

 

 そんな中で、アスランの焦りは頂点に差し掛かろうとしていた。

 地上に降下する前、父親であるパトリックから言葉を掛けられていた。

 

「私は、今回の選挙で評議会の議長となった。

 この戦争に勝つために、アスラン、お前には英雄になってもらう。

 お前のための新しい機体の準備も進んでいるのだ。

 それを受け取るのに相応しい戦果を上げてこい!」

 

 そう言われて地上に送り出されたのだ。

 この戦場で、何としても戦果を上げなくてはならない。

 父の理想は、俺がストライクを討つことだろう。

 だが目の前で行われている戦闘に入って行っても、足手まといになるだけだ。

 ストライクを討ったとしても、仲間の足を引っ張ったと言われるようなものでは十分な戦果にはならない。

 

 だから、ユーラシアでその名が轟いている銀狼をターゲットにしたのだが、地上での戦いは宇宙とは勝手が違っていた。

 銀狼の地上での戦い方が巧みで、一つ間違えればこちらが落とされるほど苦戦している。

 周辺の部隊は、連合の物量に押されて損害が目立ち始めている。

 戦線を維持できなくなり、崩壊してしまう前に撤退を決断しなければならない。

 残された時間は少ない。

 

 追い詰められたアスランの中で何かが弾ける。

 極限まで高まっていた焦りが消え、今まで経験した事がないほど集中が研ぎ澄まされていく。

 戦場の動きが遅く感じる。

 これなら、今まで出来なかったリスクの高い機動も問題なくこなせる。

 

 イージスが足のビームサーベルを展開して蹴り上げる。

 ハンスは、なんとか反応して回避するが避けきれずに装甲が削られてしまう。

 イージスの動きが変わった事に気付き、バルトフェルド隊と同様に勝負をかけてきたのだと判断した。

 

「動きが激しくなれば、それだけ隙が出来るはず!」

 

 突然の蹴り技に、大きく距離を取ったためにバランスを崩したイージスへの反撃は出来なかったが、次の隙は逃さない。

 ハンスも集中してイージスの攻撃を捌き、反撃の隙を待つ。

 イージスが前に出て猛攻を仕掛ける。

 次々と繰り出される攻撃にハンスも必死に対応して行くが、その動きの速さに付いていくのが精一杯で反撃の余裕がない。

 両足のビームサーベルでの攻撃も織り混ぜているのに、凄まじい早さで態勢を立て直して次の攻撃に繋げていく。

 

「なんて動きだ!

 反撃の隙がない」

 

 ハンスは防御に専念することしか出来ない。

 ジョバンニもハンスの窮地に援護に行こうとするが、ニコルのブリッツがそれを阻止する。

 

「アスランの邪魔はさせません!」

 

「くそぉ!邪魔なんだよ!」

 

 ハンスの下に向かおうとするジョバンニと、それを阻止しようとするニコルの間でも激しい斬り合いになる。

 

 そして、その時は訪れた。

 ハンスのバルキリーが一瞬の隙を突いてビームサーベルで斬りかかる。

 当たらなくとも距離を取る事は出来る。

 ハンスはそう思っていた。

 だが、その隙は誘いだった。

 アスランはイージスを跳躍させて回避、同時にバルキリーの上で機体を体操選手のように回転させてポジションを取る。

 あまりにアクロバティックな動きにハンスも対応出来ない。

 イージスはそのまま空中でモビルアーマーに変形して、その4本のクローでバルキリーに組み付き拘束する。

 主砲のスキュラから光が漏れ始める。

 このままバルキリーを主砲で撃ち抜こうとしているのだ。

 

「ちっ、拘束されて動けない!」

 

「隊長ーーー!」

 

 ブリッツに阻まれて救援に行けないジョバンニが絶望の叫びを上げる。

 

 このままバルキリーが撃ち抜かれるだけかに思われた。

 

 その時、バルキリーに組み付いたイージスの後部、スラスター部分にビームが突き刺さる。

 強力なビームにイージスのスラスターは一撃で破壊され、フレームまでひしゃげている。

 ハンスの危機を察知したトールの援護射撃だった。

 

 

 だが、そんなトールの攻撃すらアスランの殺意を止める事は出来なかった。

 スラスターが破壊され、コックピットは機体の損傷を知らせるアラームが鳴り響いている。

 それでもアスランは表情を変える事なくスキュラの引き金を引いた。

 ボロボロのイージスからスキュラが放たれる。

 至近距離から放たれたビームは、バルキリーの装甲を一瞬で貫通し、爆散させる。

 

「そ、そんな・・・隊長?」

 

 ジョバンニは、目の前の光景を理解できなかった。

 トールの援護射撃でハンスは助かったと思っていたのに、あの状態からイージスが撃ってくるなんて。

 ジョバンニの脳裏にエレーナが撃墜された時の光景が蘇る。

 スラスターを撃ち抜かれ、フレームも歪んだのかモビルスーツにも戻れないまま動けなくなっているイージスを見る眼に憎しみが宿る。

 

「イィィィージスゥゥゥゥ!!」

 

 ジョバンニのジンが、ビームサーベルを構えてイージスに向かって走る。

 憎しみのままに、殺意を剥き出しにして襲い掛かろうとしていた。

 

「やらせない!

 アスランは僕が守る!」

 

 ブリッツが横から割り込む。

 ランサーダートを右手に持ち、ジョバンニのジンに向けて突き出す。

 

「邪魔をするなぁぁぁぁ!」

 

 ジョバンニも立ちはだかるブリッツに構えたビームサーベルを突き出す。

 

 二つの機体が交錯し、互いの武器が相手の機体に突き刺さる。

 そして、両者の機体が沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョバンニとニコル、二人の結果を別けたのは僅かな差だった。

 横から割り込み、迷う事なくランサーダートを突き出したニコルと狙いを直前でイージスからブリッツに変えたジョバンニ。

 その差が、攻撃が命中した場所の違いとなって現れた。

 

 ジョバンニのジンはコックピットを貫かれていた。

 そしてニコルのブリッツは、コックピットを僅かに外れていたのだ。

 

「い、生きてる。

 でも機体の制御ユニットがやられてる」

 

 コックピットを逸れたビームサーベルは、ブリッツの制御ユニットを貫いていた。

 戦場の真ん中で機体を動かす事が出来なくなったのだ。

 

「ニコル、無事か?」

 

 そこに、アスランの通信が繋がる。

 

「アスラン!僕は大丈夫です。

 でも、ブリッツを動かすことが出来ません。

 アスランは?」

 

「イージスも動けない。

 フレームも歪んだのかモビルスーツに戻る事すら出来ないようだ」

 

「でも、生き残れて良かったです」

 

「安心するのはまだ早い。

 機体を自爆させて、戦場を脱出するんだ」

 

「機体を自爆ですか?」

 

「イザーク達がストライクの破壊に成功しても、イージスやブリッツを連合に回収されては意味がないだろ」

 

「あっ、そうですね」

 

 こうして、二人は自分達の機体の自爆装置を作動させて脱出する。

 

 

 ハンス達との通信が途絶し、機体の信号も途切れた。

 その後、イージスとブリッツが自爆した事は、アークエンジェルでも把握していた。

 トールからも助けられなかったと報告が入っている。

 ハンス達の戦死を認めるしかなかった。

 

 ハンス達の死は、キラに衝撃を与えた。

 今までも守りきれずに友軍が死んでいった事はあった。

 だが同じアークエンジェルに所属し、艦内でも親しく話した仲間を亡くした事は、それまでとは全く違うものだった。

 それは、ここが戦場でトール達も死ぬ可能性がある事を改めて突き付けられたように感じた。

 

「くそっ!もうこれ以上、誰も死なせるもんか!」

 

 キラの中で何が弾ける。

 キラの集中が極限状態に入った。

 既にキラ達とバルトフェルド隊は、周りの部隊とは一線を画する速度で戦っている。

 そんな中で、キラのストライクが更に速度を上げてバクゥに向かっていく。

 

「キラ!」

 

 その速度に、イレブンすらフォローが間に合わない。

 

 突然、速度を上げて飛び込んで来たストライクにバクゥも不意を突かれたが顔に装備したビームサーベルで斬りかかる。

 機体が交錯しようとした瞬間、ストライクがバクゥの頭を蹴り上げる。

 ただでさえ速かった戦闘速度を更に上げた状態でビームサーベルが付いているバクゥの顔を蹴り上げたのだ。

 それは、一歩間違うとビームサーベルで自分の足を切り落とす結果にもなりかねなかった。

 凄まじい状況判断の早さと機体制御の精密さだった。

 

 ストライクは、そのまま後方に一回転してバクゥと向き合う。

 地面を背にして、蹴り上げたバクゥに向かってライフルを構えていた。

 上空のイザーク達からはバクゥがブラインドになってストライクを狙えない。

 地上のバルトフェルド達も、急に速度を上げたストライクに援護の位置取りが間に合わなかった。

 ストライクのビームがバクゥの胴体部を貫く。

 バクゥはそのままストライクを飛び越えていき、その先で爆発する。

 

「カークウッド!!」

 

 ストライクはスラスターを吹かして機体を起き上がらせて、そのまま次のバクゥに向かっていく。

 

「なんて速さだ!

 各機、距離を取れ!」

 

 ストライクが次のバクゥに襲いかかるが、ラゴゥや他のバクゥ達の援護が間に合い、なんとか距離を取る事に成功した。

 そこからのストライクの機動は凄まじかった。

 バルトフェルド隊が逃げに徹する事で、なんとか撃墜される事だけは免れているのだ。

 

「イザーク!ディアッカ!

 クルーゼ隊の二人を回収して離脱するんだ!」

 

「隊長達を置いていけと言うんですか!」

 

「心配するな!

 ストライクの動きは凄まじいが、暴走しているのだろう。

 バルキリーとの連携が取れていない。

 離脱するくらいならなんとかなる!」

 

「しかし!」

 

「周りを見たまえ!

 友軍が維持していた戦線が崩れ始めている。

 今、撤退しなければ壊走もあり得るんだ!」

 

 周りの部隊の損害も無視できない大きさになっていた。

 連合の攻勢に抗いきれないようになってきたのだ。

 

「くっ、了解!

 隊長達も無事に帰ってきてください!」

 

 イザーク達は機体から脱出していたアスラン達を回収し、後方に撤退して行く。

 バルトフェルド隊も連携しながら徐々に撤退を開始していた。

 

「キラ!しっかりしろ!

 ザフトは撤退を始めている。

 俺たちの勝ちだ!」

 

「はぁはぁ、イレブンさん」

 

「キラ・・・」

 

 バルトフェルド達が撤退した後、イレブンが突然驚異的な能力を見せたキラの様子を確認する。

 キラの様子から、おそらくリミッターを外してしまったのだろうと考えた。

 脳のすべての機能を解放して戦闘に集中していたのなら、キラの脳にかなりの負担が掛かっているはずだ。

 人間の脳が普段その機能のほとんどを眠らせているのは、その負荷に耐えられないからだ。

 自分の命に危険が迫った時、それを回避するために短時間だけ発揮される。

 そんな力を戦闘で使用すれば、確かに大きな力になる。

 だが、脳に取り返しのつかない傷を受けるリスクもあるのだ。

 こんな暴走のように使っていては危険だ。

 なんとか制御できるようにしなければ。

 イレブンは、これからの訓練にリミッターのオン・オフの制御も取り入れなければと考えながら、取り敢えず、今は勝利を喜ぼうとキラに声をかけた。

 

 

 ザフトは、この戦闘で連合の攻勢に抗い続ける事が出来ずに戦線を大きく後退させてしまう。

 後方でイタリア方面からの部隊と合流し、更に防衛力を強化し、ジブラルタル防衛の専念する事になる。

 これは、ザフトが攻勢から守勢に回った事を示していた。






キラが初めて経験する仲間の戦死は、ハンスたち編入組になりました。
トールには、まだ役目があるのでここで死なせる訳にはいかなかったんです。
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