歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
連合軍は、欧州反攻作戦でヨーロッパ戦線を大きく押し上げることに成功。
ドイツ地方を奪還した。
しかし、銀狼ハンスを筆頭に多くの犠牲も出していた。
ザフトは、イタリア方面も放棄してスペイン地方に戦力を集中、ジブラルタル基地を中心に強固な防衛体制を整えていた。
連合も、これ以上の侵攻は無謀だと判断。
反攻作戦を終了し、次の作戦に向け戦力の再編に着手。
ヨーロッパにおいて、連合とザフトは再び睨み合いへと移行した。
それは、両陣営の動きが止まったという事ではない。
ザフトは、ストライクの破壊に失敗した事で、スピットブレイクの準備を加速させていた。
連合も、予想されるパナマ侵攻に対する備えとして、大西洋連邦の主力をパナマ基地に移動させる。
更に、奪われたビクトリア宇宙港の奪還のための戦力の編成も同時に行っていた。
両陣営の準備が終われば、状況は再び激しく動くことになるだろう。
今の膠着状態は、嵐の前の静けさと言うべきものだった。
アークエンジェルは作戦終了後、ヨーロッパを離脱。
イギリス、カナダと連合の勢力圏を通り、アラスカの連合軍本部『ジョシュア』に到着した。
「ようやく、ここまでたどり着いたわね」
「連合本部から通信、第7ドックに入るよう指示が来ました」
「了解と返信して、本艦は第7ドックに移動します」
ドックに入ったアークエンジェルは、直ぐにコンピューターからデータの抽出作業に移る。
これまでの激戦で蓄えられたストライクを始めとしたモビルスーツの戦闘データは、連合が開発している制式量産型モビルスーツの完成度を更に高める事になるだろう。
本部のサザーランド大佐から、アークエンジェルのブリッジに通信が入る。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアス少佐。
なかなかの戦歴だな。
まずは、長きにわたる歴戦の労をねぎらう。
ご苦労だった」
「はっ、ありがとうございます」
「とは言え、こちらも予想されるザフトのパナマ侵攻に対する準備で忙しい。
アークエンジェルは、現状のまま、しばらく待機してもらう」
「待機ですか?」
「ああ、我が軍の主力はパナマに移動している。
現在ジョシュアは、ユーラシアの部隊がビクトリア奪還のための部隊の編成と訓練を行なっている」
「先程、移動中に見えたモビルスーツ部隊ですか?」
「そうだ、先行量産型試作モビルスーツ、プロトダガーだ。
ナチュラル用のOSも、ほぼ完成している」
「もうそこまで開発が進んでいるなんて」
「うむ、アズラエル理事がオデーサで回収したデータで進めていたのだ。
今、アークエンジェルから抽出しているデータで、制式機の完成度は更に高いものになるだろう。
今後の指示は追って示す。
休暇でも取って、ゆっくりするといい」
「了解しました」
地球軍本部に入り、アークエンジェルのパイロット達は久しぶりの休暇で身体と心を休めようとしていた。
オデーサでは、アークエンジェルがドックに入っていた時も、トール達パイロット候補生の教導や自分達の訓練であまり休めなかったのだ。
「いや〜、久しぶりにゆっくり出来そうだな。
昇進して上がった給料も、やっと使う機会が来た」
「そうですね、俺は他の兄弟達がどうしてるか確認してこようと思います」
「キラ達は、この辺に知り合いはいないだろうが、サイ達とゆっくり見て回ればいい」
「はい、後でサイ達と話してみます。
ムウさんも、イレブンさんも、ゆっくり休んでください」
「と言っても、本部の近くには遊ぶところは無さそうだなぁ」
「まあ、軍人相手にする酒場とかが多いな」
「俺たちが楽しめるとこあるかなぁ?」
そんなパイロット達に声をかける男がいた。
「すみませんね、休暇の邪魔をする事になりそうです」
パイロット達が視線を向けると、そこにアズラエルがいた。
「理事、なんでここに?」
「理事って、あのブルーコスモスの盟主!?」
「ああ、トールとは初めてだったな。
理事がオデーサにデータを回収するために来た時に、少し話したんだ」
「あの時、話していたパイロット候補の一人ですか。
よろしくお願いしますよ、トール君」
「は、はい!」
トールも、突然の重要人物との出会いに動揺している。
「それで理事、休暇の邪魔をすると言うのは?」
「実は、キラ君に依頼したい事がありまして」
「僕にですか?」
「ええ、連合のモビルスーツ、そのナチュラル用OSのブラッシュアップをお願いしたいんですよ」
「ナチュラル用のOS!
もう完成してたんですか?」
「連合にいるコーディネーターの技術者達にも頑張ってもらいました。
プロトタイプが完成して、既に実機で試験中です」
「外にいたモビルスーツ達のことか。
あれにはナチュラルが乗っていたんだな」
「それなら、もう必要ないんじゃないですか?」
「ストライクのOSも確認させてもらいました。
うちの技術者たちも感心していました。
僕は、キラ君の技術を高く買っているんです。
君が改良すれば、更に性能の高いOSになると思うんですよ」
「えっと、そう言われても」
「もちろん、それなりの報酬は用意しますよ。
それに、僕は国防産業理事です。
軍にも、それなりの影響力があります。
色々と便宜を図ってあげることも出来ますよ?」
「キラの好きにすれば良いんじゃないか?
休暇と言っても、ここじゃ出来ることも限られるし、時間はあるだろ」
「そうですね。
どこまで出来るか分かりませんが、やるだけやってみます」
「決まりですね。
いやぁ、引き受けてくれて良かったですよ。
報酬は期待しててください」
こうして、キラはモビルスーツのナチュラル用OSの改良に取り組む事になった。
連合は、新しい剣、モビルスーツの量産に着手して、更に戦力の増強を図っていた。
アークエンジェルのデータとキラのOS改良によって、その剣は更なる鋭さを得ようしていた。
ザフト、ジブラルタル基地
連合の欧州反攻作戦において、ザフトは敗北し、戦線を大きく後退させていた。
その敗戦を誤魔化すためか、プラントは、その戦闘の中で多くの有力な部隊やパイロットを撃破したと戦果を喧伝していた。
銀狼ハンスとその僚機を撃墜したアスラン達もその内の1つであった。
ヨーロッパ戦線のエースを撃墜し、機体を損ねながらも機密保持のため自爆させて生還を果たした英雄として讃えられている。
機体を失ったアスランとニコルは、プラント本国に呼び戻され、宇宙に上がろうとしていた。
「ふん、お前達が特務隊になるとはな」
「えっと、すみません」
「イザーク達の方が厳しい戦いをしていたのにな」
「ストライクを落とせなかったんだ。
結果を出せなかった事に言い訳なんかしないさ」
「イザーク・・・」
「先に行って待っていろ!
今度は、俺の部下にしてやる。
それまで死ぬんじゃないぞ」
イザークなりの激励なのだろう。
アスラン達は確かに戦果を上げたが、それは半分以上、敗戦を誤魔化すためのプロパガンダだと理解している。
一番の激戦を戦ったイザーク達に後ろめたさを感じていたアスラン達に顔を上げろ、前を向けと背中を押しているのだ。
「ああ、わかった、イザーク」
「宇宙で待ってますね」
ビクトリア行きの航空機に向かおうとした時、それまで黙っていたディアッカが声をかける。
「アスラン、ニコル、地上の戦いで見て、聞いて、感じた事を宇宙の連中に伝えてくれ。
俺たちの戦いを無駄にするなよ」
「ディアッカ・・・ああ、決して無駄にはしないと約束するよ」
「ディアッカも元気で」
待機している航空機へと向かいながら、アスランは小さく呟く。
「そう、決して無駄にはしない。
敵を倒して、必ずこの戦争に勝つんだ」
航空機の前で、クルーゼが待っていた。
スピットブレイクの準備で忙しくしていたが、その準備が終わったため、地上に降りてきたのだろう。
「クルーゼ隊長」
「ご苦労だったな、二人とも」
「いえ、ストライクを落とせませんでした」
「それでも、君たちは銀狼ハンスを落とした。
ドイツの名家、力ある家にコーディネーターとして生まれながら、プラントを裏切り地球軍に付いた銀狼を討った君たちを、本国も高く評価しているようだ」
「そんな」
「君たちは本国に戻り、最新鋭機を受領する事になる。
トップガンだな」
アスラン達は、ビクトリアのマスドライバーで宇宙に上がり、プラント本国に帰還した。
すぐに議長であるパトリック・ザラの下に出頭し、フェイスの証を授けられる。
「君たちには、これから新型機、ジャスティスとフリーダムを受領してもらう。
この機体を敵に鹵獲されることは許されない。
もし、戦場で撃破された時は、必ず機体を自爆させろ。
万が一、奪われたなら、パイロット及び接触したと思われる人物、施設すべての排除にあたれ」
「接触したと思われる人物、施設までをも排除ですか?」
「そうだ、X09Aジャスティス及びX10Aフリーダムは、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した機体なのだ」
「「なっ!ニュートロンジャマーキャンセラー!」」
そのパトリックの言葉にアスラン達は衝撃を受けた。
「何故、そんなものを!
プラントは全ての核を放棄すると」
「勝つために必要になったのだ。
あのエネルギーが!」
「勝つために核を使うなんて・・・」
「ニュートロンジャマーキャンセラーは、君の父上、ユーリ・アマルフィが開発したものだ」
「そんな、父さんが!」
「彼も分かっているのだ。
負ければ、今より暗い未来が待っていると。
近頃、シーゲルが余計な事をし始めている。
負けに等しい条件で講和をしようなどと言い出したのだ!」
「シーゲルさんがですか?」
「シーゲルは既に議員ではないが、カナーバらに強い影響力を有している。
奴らが妙な事をしない内に、この戦争を勝利で終わらせなければならぬのだ」
「それでも、核を使うなんて!」
「もうよせ、ニコル!
直接、核を撃つ訳じゃない。
連合も、モビルスーツを配備しようとしているんだ。
強力なモビルスーツが必要だと考えるのは、おかしい事じゃない」
「アスランはそれでいいんですか?
血のバレンタインで、お母さんを亡くしたんでしょう?」
「だから、これ以上の犠牲を出したくないんだ」
「アスラン・・・」
「納得したなら、機体の受領に向かえ。
次の任務に備えておくのだ」
「「はっ!」」
アスラン達は、新たな剣を手に戦場に戻って来る。
プラントは核の封印を解いて、強力なモビルスーツを手に入れたのだ。
その力で何を成すのか。
地上で押し返されつつある戦況をどのように変化させるのだろうか。
プラントは、この戦争を勝利に導くための策謀を進めていく。
アークエンジェルがジョシュアに到着して、しばらく経った頃、フレイに軍の広報任務が与えられた。
「アルスター2等兵に広報をですか?」
「彼女の志願の時の言葉を聞いたのは君だろ?
アルスター事務次官の娘でもある彼女の言葉は、多くの人々の心を打つだろう。
その志願動機と共にな」
その言葉に、艦長達はこの任務が誰に用意されたものかを察した。
「彼女の活躍の場は、前線でなくて良いのだよ。
後日、撮影スケジュールなどと共に命令書が届くだろう」
そう言って連合軍の広報官は帰っていった。
「やれやれ、次官も諦めてなかったか」
「2号機のパイロットにトールを選んだ事で、自分の要請が通ったと勘違いしてるんでしょう」
「正式な命令なら、撮影で艦を一時的に離れるのは仕方ないな」
「フレイには俺から伝えておきます」
「いいのか?撮影の時に転属するよう説得されるかも知れないぞ」
「それは、フレイが決める事ですよ」
「まぁ、そうなんだが、お前がフレイの事を気にかけてる様だったからな」
「フレイも仲間です。
気にかけるのは当然では?」
「やっぱ堅いねぇ、お前」
イレブンはブリッジを出て、今回の任務について伝えるためにフレイの下へ向かった。
「アイツは俺が欲しい言葉を言ってくれた。
後方に居てくれれば、俺が守ってやれる」
イレブンの呟きは、誰にも聞かれる事なく消えていった。
フリーダムのパイロットは、ニコルになりました。
そう簡単に最新鋭機の盗難なんて出来ません。