歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
連合の欧州反攻作戦からしばらくの時間が過ぎ、ついにザフトがスピットブレイクを発動する時が来た。
ザフトの艦艇やモビルスーツのコックピットで待機しているパイロット達は、作戦開始の号令を待っていた。
しかし、その心に宿るものには違いがある。
宇宙軍に所属している者たちは、生意気なナチュラルに鉄鎚を下してやると息巻いていた。
地上で作戦開始を待っている者たちは違う。
この作戦を成功させ、連合を交渉の席に着かせるのだと戦意を高めていた。
日々増大していく連合の戦力を肌で感じている者たちには焦りの感情があった。
プラント最高評議会議長、パトリック・ザラの声が全部隊に響く。
「この作戦により、戦争が早期終結に向かわんことを切に願う。
真の自由と正義が示されんことを。
オペレーション・スピットブレイクを開始せよ!」
「スピットブレイク発動。
目標アラスカ、ジョシュア」
「ジョシュア、そんな・・・」
「ジョシュアだと!」
「地球軍本部?パナマじゃなかったのかよ!」
「アラスカを攻めろって言うのか!」
「頭を潰した方が、戦争は早く終わるってことだろ」
「面白いじゃないか!
さすがザラ議長閣下、やってくれる」
パトリックが開示した攻撃目標は、事前の予定とは違っていた。
その事に部隊の兵士たちは動揺するが、その作戦の大胆さに優秀な自分達に相応しいじゃないかとやる気になっていく。
(カガリとオーブの存在で連合に有利になり過ぎている。
ここら辺で、連合には痛手を負ってもらわなければな)
ザフト部隊が次々とやる気になっていく様子を見つめながら、クルーゼは心の中で呟く。
連合に余裕があり過ぎる現状は、自分の計画にとって不都合だった。
故に、連合とも繋がっているが今回の作戦について情報を流さなかったのだ。
やる気になったザフト兵達が確認してみると、部隊の配置は最初からアラスカを攻撃できるようになっていた。
パナマ攻撃の噂はブラフだったのだ。
地上軍は、太平洋を北上して空と海からアラスカを目指して進む。
宇宙からも、多数のモビルスーツ降下用ポットが投下されていく。
ここに至って、連合はザフトの狙いがアラスカ本部である事を悟った。
いかにパナマに主力を移動させているとは言え、連合軍の本部なのだ。
生半可な戦力を置いてはいない。
だが、その戦力の大半はビクトリア奪還のための訓練中であった。
守備隊を除く、他の戦力は訓練用の装備だったのだ。
司令部は、ただちに守備隊に出撃命令を出した。
ビクトリア攻略の為に編成されていた部隊が、装備を換装して出撃準備が整うまで時間を稼ぐのだと指示を出す。
待機していたアークエンジェルにも出撃命令が下される。
本部から守備隊と連携してメインゲートの防衛に参加せよと指示が来る。
艦内は慌ただしく戦闘準備に入っていった。
フレイは軍本部から広報の任務を与えられて、アークエンジェルから一時的に離れていた。
イレブンに今回の任務について教えられた時の事を思い出す。
「広報任務?」
「ああ、軍の広報に協力して欲しいとのことだ」
「でも、私は・・・」
「アークエンジェルから転属する訳じゃない。
撮影のために一時的に離れるだけだ。
人事部も本人の希望も聞かずに動く事はないさ」
「それならいいけど。
私はパイロットになりたいのに」
「俺は、お前にはサイと同じように艦の仕事を覚えてもらいたかった」
「私は、パイロットとして役に立てない?」
「そうじゃない。
お前の才能も努力も認めている」
「なら、なんで!」
「お前は俺が欲しかった言葉を言ってくれた。
だから、サイと幸せになって欲しいんだ。
艦に居てくれれば、一緒に守ってやれる」
「イレブンさん・・・」
「すまない、俺の勝手な想いだ。
お前の道は、お前が決めればいい」
そう言って去って行くイレブンの背中に、フレイは切ない視線を向けていた。
写真撮影の後、広報部への転属願いを出すよう説得された事で父親のジョージが手を回して後方勤務にしようとしているのだと気付いた。
転属希望を出す気はないと断ってアークエンジェルに戻ろうとしていた所で基地内に警報が鳴り響く。
ザフトが本部に奇襲をかけてきたと放送もされていた。
アークエンジェルに急ごうとするフレイに声が掛けられる。
アズラエルが呼んでいると言うのだ。
直ぐに向かうように指示される。
ザフトによる奇襲を受けた連合軍本部ジョシュア。
その防衛戦で最初に目覚ましい活躍を見せたのは、意外な事にトールが乗るスカイグラスパーであった。
ランチャーストライカーを装備したスカイグラスパーを駆り、戦場で撃墜されそうになっている味方機を遠距離砲撃で援護して行く。
ドイツでの戦いで実戦を経験し、その後も訓練で自分の持ち味を磨き続けてきたのだ。
「ハンスさんを助けられなかった。
もう、あんな思いはしたくないんだ!」
誰よりも早く味方の窮地に気付き、アグニで敵を牽制する。
撃墜数は多くないが、味方の守備隊の戦闘機が落とされる事は確実に減っていた。
「アークエンジェルの2号機に乗ってるのはルーキーって話だったが、やるじゃないか」
そんなトールの活躍を見て、助けられた友軍の兵士達から信頼できる仲間として受け入れられていく。
メインゲートの防衛に就いたアークエンジェルは、キラ達モビルスーツ隊と共に迎撃戦を始める。
高い火力と防御力を持つアークエンジェルは、周りの艦を守るように前に出る。
当然、ザフトのモビルスーツ達が殺到するが、イーゲルシュテルンの弾幕や対空ミサイルの斉射によって近づく事も難しい。
周りの艦も、アークエンジェルを先頭に陣形を組んで対空砲火の弾幕を効率的に形成している。
その弾幕を越えても、2機のモビルスーツが近づく敵を蹴散らしていた。
ストライクがバルキリーに乗り、空を飛びながら敵を撃墜したかと思えば、グゥルに乗ったジンに飛び掛かり、蹴り落とすことでグゥルを奪って空中戦を始めた。
ストライクを降ろしたバルキリーも、戦闘機とモビルスーツを状況に合わせて切り替えながら戦うことで、ザフトに出血を強いていく。
キラは、アフリカやヨーロッパの戦闘で凄まじい速さで激しい高機動戦闘を行い、バルトフェルド隊と互角の戦いを演じたことから白き雷光と言う二つ名が付けられていた。
二つ名を持つパイロット達の連携に、群がってきたザフトのモビルスーツ達が次々と落とされていく。
ムウもソードストライカーを装備したスカイグラスパーで出撃していた。
守備隊の戦闘機部隊と連携しながら、ザフトの航空戦力と戦っている。
時に、接近戦用の装備のないディンには、懐に入った方が安全だと言うかのようにクロスレンジに飛び込んで行って、対艦刀で両断する。
意図的に機体のバランスを崩して、予測できない機動を行うことで相手を翻弄する。
それがムウの新たな戦い方だった。
その動きが、更に進化していた。
機体のバランスを崩して、相手が予想できないトリッキーな動きをする。
それは無駄な動きでもあった。
相手の予想を外した上で、強引に態勢を立て直して攻撃していたのだ。
今は機動と機動の間にあったぎこちなさが減ってきている。
より滑らかに次の機動に繋がっていく。
バランスを崩した動きが、次の機動への布石になっているのだ。
激しいステップを踏み、身体を左右に振りながらも転倒することなく動作を繋げていくダンスのような美しさすら感じさせ始めていた。
エンデュミオン・ダンスが完成しつつあるのだ。
アークエンジェルとその艦載機達が守るメインゲートは難攻不落の要塞のようにザフトの前に立ちはだかる。
突破の糸口すら与えずに出血させ続けていた。
「ナタル、フルチャージしたゴットフリートを撃ちながら砲塔を旋回させるわ!」
「は?」
「ビームは砲弾と違って反動がないから出来るはずよ!」
「相変わらず無茶ですね、艦長!」
「照準、敵左翼!
発射と同時に砲塔を左に旋回させて!」
「了解!」
「ゴットフリート、なぎ払え!」
アークエンジェルが主砲を発射した。
そのビームはザフトの左翼部隊に突き刺さる。
そこまでなら戦場ではよくある光景だった。
しかし、そのビームは砲塔の旋回に合わせて横方向に移動してきた。
特大のビームサーベルでなぎ払われたようなものだ。
戦艦の主砲なのだ。
モビルスーツなど当たれば一瞬で破壊される。
撃ち終わった後に見えたものは、迫り来るザフトのモビルスーツ達が消えた空だった。
生き残ったザフトの兵士達は、今起こった出来事を理解できなかった。
しかし、彼らは自らを優秀だと自負するコーディネーター。
すぐに適切な判断を下す。
逆に考えるんだ。
メインゲートなど落とさなくていいんだと。
他のサブゲートを落とせば問題ない。
生き残ったモビルスーツ達は後退していった。
アークエンジェルが他の戦場に移動したらメインゲートを再び攻撃するための部隊を残して、サブゲートに戦力を割り振っていく。
そんなザフトの動きを見て、気持ちは分かるとナタルは思っていた。
私でも同じ判断をするだろう。
それだけ、マリューの決断は非常識だった。
確かにフルチャージしたゴットフリートは数秒間ビームを撃ち続ける事が出来る。
だからと言って、主砲を発射しながら砲身を振り回すなど、思いついても普通はやらない。
後ろで陣形を組み、共に対空砲火を形成していた友軍の艦隊もアークエンジェルの行動を見て『うわぁ〜』と言う目で見ていたのだ。
マリューとは敵として戦いたくはないなとナタルは思った。
たとえ同等の艦とモビルスーツ部隊を指揮していたとしても、最初は学んできた戦術で優位を取れるだろうが、理解できないやり方でいつの間にか劣勢になっているビジョンが見える。
アークエンジェルにはマリューの柔軟な発想を実現させる事が出来るパイロットや操舵手がいるのだから。
しかし、ザフトも万全の準備をしてアラスカに攻め寄せたのだ。
メインゲートを落とせなくても、いくつかのサブゲートを落としてジョシュア内部に侵攻していく。
内部でも、守備隊による激しい抵抗が待ち受けていた。
それでも、少しずつ防衛施設を破壊して橋頭堡を築いていく。
中枢に近づくほど抵抗も激しくなるだろう。
サブゲートは狭く、一度に大量の戦力を投入する事は出来ない。
ある程度、味方の集結を待たなければこれ以上の侵攻は難しいのだ。
サブゲート付近の抵抗を排除して、味方が集結出来る場所を確保していく。
そして、十分な数のモビルスーツがサブゲートを通過して、集結したと判断したザフトは、遂に内部施設の中枢に向けて進軍を始めた。
内部施設が視界に入り、攻撃が始まろうとした時にそれは現れた。
巨大な人型が群れを成して内部施設から出撃してきたのだ。
それは、実戦用の装備に換装した連合軍の制式量産型モビルスーツ、ダガーであった。
すぐにザフトのモビルスーツ達と戦闘に入る。
すべての機体がビームライフルとビームサーベルを標準装備しているダガーは高い攻撃力を持っていた。
ジンやディンが主力のザフト部隊は苦戦する事になった。
最初は数が少なかったため優勢であったが、装備の換装を終えた機体が次々と出撃して来たため、時間と共に押し返され始めたのだ。
性能で上回るモビルスーツに数でも圧倒され、ゲートの外にまで退却せざるを得なくなる。
「敵にモビルスーツがいる!
すごい数だ!」
「連合のモビルスーツがあんなに。
くそっ、間に合わなかったか!」
「多数のモビルスーツに攻撃されている!
援軍を!」
連合のモビルスーツ部隊を確認したと言う報告を受けてから、前線の部隊から次々と救援や援軍を求める通信が入ってくる。
もはや認めるしかなかった。
連合は、ナチュラル用のモビルスーツを開発、量産に成功してしまったのだと。
このままでは作戦が失敗してしまう。
「ジャスティスとフリーダムを降下させろ。
敵モビルスーツを排除し、再度ジョシュアに侵攻するのだ!」
命令を受けたアスラン達が大気圏を突破しアラスカに降り立つ。
すぐに、ザフトに攻撃している連合のモビルスーツ部隊と戦闘を始める。
それは、蹂躙とも言える戦いだった。
連合はモビルスーツを開発して間もない。
運用するためのノウハウの蓄積が十分ではないのだ。
ディンやジンと言った旧式機なら性能と数で対抗することが出来たが、超高性能機に乗るエースを相手にするには早すぎた。
フリーダムのマルチロックオンシステムを用いたフルバーストモードによって次々とダガーが落とされる。
ジャスティスも、その驚異的な機動性を活かして敵陣に切り込み、多数のダガーを落としながら陣形を乱していく。
2機の超高性能機の援軍によって勢いを止められ、陣形も乱された事で、再びザフトの部隊に押され始める。
このままでは再びゲート内まで侵攻される。
そう判断した本部は、アークエンジェルの機動兵器部隊と言うエース達を向かわせる。
エースにはエースを当てるのだ。
フレイはアズラエルに呼ばれて、とある格納庫に来ていた。
「やぁ、フレイさん。
待っていましたよ」
「アズラエルさん、なんの用ですか?
今、ザフトの奇襲を受けて大変なんです。
すぐにアークエンジェルに戻らないと!」
「落ち着いてください。
戻っても、フレイさんには機体がないでしょう?」
「それでも!みんなが危険な戦場にいるのに、一人だけ安全な場所になんて居られないわ!」
「アルスター次官が手配した広報の仕事を断ったのは、アークエンジェルを離れたくないからですか?」
「ええ、アークエンジェルには大切な人がいるの。
何の力にもなれなくても、そばで支えたい。
そう思ってしまったんだから仕方ないじゃない!」
「キラ君にOSの改良を依頼していたんですよ」
突然、話題を変えたアズラエルにフレイが戸惑う。
「なんの話ですか?」
「仕事を頼んだんです。
当然、報酬を支払わなければいけません」
そう言って、アズラエルは合図を出す。
照明が点灯し、暗かった格納庫が照らされる。
明るくなった格納庫にはバルキリーが鎮座していた。
いや、通常のバルキリーではない。
形が少し違い、2回りほど大きくなっている。
「アズラエルさん、これは?」
「追加装甲を装備したバルキリー、言うなればフルアーマーバルキリーですね。
ノーマルのバルキリーより遥かに高い防御力があります。
もちろん、ナチュラル用のOSが入ってますよ。
モビルスーツの訓練も受けてましたよね?」
「まさか、これを私に?」
「ええ、軍の方へは話を通しています。
広報の仕事を断ったら、こちらに呼ぶように手配していたんです。
貴女の機体ですよ」
「でも、私は高機動戦闘に向いてるって。
こんな重たい機体じゃ、上手く戦えないかも」
「心配ありません。
追加装甲には強力なブースターも付いていて、機動性はむしろ上がっているそうですよ」
アズラエルの話を聞いている内にフレイの中で希望が湧いてくる。
これなら、みんなの役に立てるかもしれない。
フレイの瞳に強い意志の光が宿る。
「どうやら、覚悟を聞く必要はないみたいですね」
「ええ、この機体に乗ります」
フレイは、アズラエルが用意してくれた機体に乗って戦場へと向かう。
おかしいな、ジャスティスとフリーダムのデビューは次のパナマ戦の予定だったのに。
キャラが勝手に動いてしまった。
他の作家さんたちの言ってたことが本当だったんだと、書く側に回って初めて実感しました。