歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
スピットブレイクを発動し、アラスカに奇襲をかける事に成功したザフトは戦いを優勢に進め、一時はジョシュア内部の中枢部に迫るまで攻め込んだ。
しかし、連合のモビルスーツ部隊の投入が間に合ったため、その性能と数に押し返され、作戦は失敗の危機を迎えていた。
そこで、ザフトは切り札を切った。
ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した核動力機をアラスカに降下させたのだ。
アスランとニコルが操る2機の核動力機、ジャスティスとフリーダムは、その性能を遺憾なく発揮して連合のモビルスーツ部隊を蹂躙していく。
連合のモビルスーツ部隊は、陣形を崩され、組織だった戦闘が出来なくなる。
連合からの圧力が消えた事で、ザフトは体勢を立て直し、ジャスティスとフリーダムが開けた穴から再び攻勢をかけてきた。
ジョシュアには、未だ圧倒的な戦力がある。
しかし、装備の換装をしなければ出撃できないため、戦力の逐次投入になってしまっていた。
整備員達は、必死に換装作業を進めているが戦況の悪化に追いつかないでいる。
連合の司令部は、たった2機で戦況を覆したザフトのモビルスーツに対し、アークエンジェルの機動兵器部隊を向かわせた。
いや、彼らだけではない。
投入できる全ての戦力をこの戦場に向かわせている。
ここがこの戦いの分水領であると理解しているのだ。
圧倒的な性能を示したザフトの新型に、いかにアークエンジェルのエース部隊でも対抗できないと判断していた。
しかし、ここで抑えられなければ負ける。
戦闘の行方は、質と量のどちらに天秤が傾くかに委ねられた。
キラ達は、天秤を量に傾ける起点になる事が期待されていた。
「キラ、相手はザフトの新型だ。
性能では圧倒されるだろうが、なんとか粘るんだ」
「はい、あの2機の注意を引けさえすれば、後は味方がなんとかしてくれます!」
キラ達がジャスティス達に迫る。
アスラン達もストライクとバルキリーに気付き、迎え撃つ。
連合がモビルスーツの量産、配備に成功した以上、ストライクを討つ事には、もうそれほど意味はない。
それでも、ヘリオポリスからずっと追い続けてきたのだ。
目の前に来たストライクを討とうと機体を動かす。
ストライクとジャスティスが交錯し、互いのビームサーベルをシールドで受け止める。
当然のようにジャスティスが打ち勝ち、ストライクが弾き飛ばされた。
「くっ!なんてパワーだ」
「キラ、ここでお前を討つ。
敵を倒せ。
それが父上からの命令なんだ!」
「アスラン!
新型のパイロットは君か!」
ジャスティスが弾き飛ばしたストライクにビームライフルを撃つ。
ストライクは、シールドで受け止めるが、ビームの威力も高くシールドが軋みを上げる。
ストライクのアンチビームシールドでも長くは持たない。
すぐにシールドが砕けてしまうだろう。
このままでは、時間稼ぎすら出来ないと判断したキラは、切り札を切る。
キラの頭の中で何かが爆ぜる。
脳のリミッターを解除したのだ。
ストライクは、ブースターを全開にして動き続ける。
パワーでは対抗できない。
なら、逃げ回るしかない!
ジャスティスの機動性は凄まじく、この状態のキラでも落とされずに逃げ回るのが精一杯だった。
イレブンのバルキリーもフリーダムを相手に圧倒されていた。
圧倒的な火力による弾幕で近づくことも出来ない。
回避に徹するバルキリーを無理に撃墜しようとはせず、冷静に地上のダガー達を撃つことで味方の攻勢を援護している。
このままでは、ザフトに押し切られてしまう。
しかし、強引に距離を詰めて注意を引こうにも、無駄に落とされる未来しか見えない。
ストライクの動きが変わったことから、キラがリミッターを外した事には気付いている。
新型の性能は想像以上だった。
それしか時間を稼ぐ方法がない事は分かる。
だが、戦闘が長引けばキラの脳へのダメージが許容値を超えてしまう。
ムウやトールのスカイグラスパーでは、碌な援護も出来ない。
遠距離からの射撃では、その機動性で避けられてしまう。
しかし、ムウですら距離を詰めれば落とされるだろう。
状況を変えるために、何か別の一手が必要だった。
その一手が戦場に姿を見せる。
フレイのバルキリーが戦場に到着したのだ。
フレイは、アズラエルから教えられていた追加装甲の力を使う。
防御力と強力なブースターによる機動性の向上だけではない。
装甲の下には多数のミサイルが搭載されていた。
フルアーマーバルキリーは、空間制圧用の機体でもあったのだ。
72発にも及ぶミサイルの一斉発射、それは連合のモビルスーツ部隊に襲い掛かるために集まってきたザフトを蹴散らすためには最適な攻撃手段だった。
ジャスティスとフリーダムにズタズタにされ、烏合の衆になってしまった連合のモビルスーツを潰そうと群がっていたザフトを無数のミサイルが襲う。
1機のモビルアーマーから撃たれたとは思えない圧倒的な瞬間火力は、フリーダムのフルバーストすら上回っていた。
多くのモビルスーツが撃破される。
僅かな時間ではあるが、連合のモビルスーツ部隊に掛かっていたザフトの圧力が消えた。
後は、フリーダムからの攻撃を抑えれば、連合が押し返せる。
フレイは、イレブンを援護する為にフリーダムに向かって飛ぶ。
「イレブンさん、援護します!」
「フレイか!
ダメだ!お前の腕では落とされる!
下がっているんだ!」
「いやよ!
私はあなたの背中を守るために、この機体に乗ったんだから!」
「フレイ・・・それでも俺は、お前に死んで欲しくない」
「安心して、フルアーマーバルキリーの防御力は伊達じゃないわ!」
フレイのバルキリーがフリーダムとの戦闘に入ってきた。
イレブンも覚悟を決めた。
フレイは必ず守る!
その為にフレイのバルキリーと動きを合わせる。
2機のバルキリーでフリーダムへと距離を詰める。
フレイの腕では、全ての攻撃を避ける事は出来ない。
それでも、ムウ以上と称された感の良さでルーキーとは思えない動きをしている。
被弾しても、その装甲で防ぎ、反撃する。
1機だけなら、押し切られて撃墜されていただろう。
だが、フレイに恐怖はない。
ここにはイレブンが居るのだから。
イレブンのバルキリーもフリーダムの攻撃を躱し、反撃していた。
フレイのバルキリーが加わった事で、フリーダムからの攻撃密度が低下して反撃の余裕が出来たのだ。
フレイに攻撃する暇は与えない!
イレブンがフリーダムとの距離を詰めて、更に苛烈な攻撃を行う。
フリーダムがフルバーストモードからハイマットモードに移行する。
イレブン達の反撃を受け、回避のために機動性を高めるため、砲身として使用していたウイングをブースターに戻したのだ。
もはや、フリーダムに地上の友軍を支援する余裕はなかった。
地上では、戦力を補充されたダガー達がザフトを押し返し始めている。
激しい高機動戦を行っているジャスティスを前に、キラのストライクは追い詰められていた。
潜在能力を全て解放しても埋められない性能差があった。
だが、ストライクを撃墜寸前まで追い詰めていたジャスティスの動きが突然乱れる。
「なんだ!機体のエネルギーが不安定になっている。
ニュートロンジャマーキャンセラーの出力が安定していないのか?」
その隙を見逃さずにトールのアグニがジャスティスを捉える。
「くっ、しまった!
この機体を奪われるわけにはいかない」
エネルギーが不安定になっている上に被弾してダメージを受けてしまった。
このまま戦闘を継続すれば、機体が停止してしまう可能性もあると判断して、アスランは撤退していく。
ニコルも不完全な機体でこれ以上の戦闘は危険だと思い、ジャスティスに合わせて撤退を開始する。
連合のモビルスーツ達に大打撃を与え、ザフトに優位をもたらしていたジャスティスとフリーダムが撤退したことによって、前線の部隊はこれ以上の戦闘は不可能と判断し撤退を開始した。
ナチュラルとは違い、自分達は指揮官の命令がなくとも正しい判断が出来る。
そんなザフトの思想が、この愚かな撤退を行わせた。
個々の判断で撤退しているため、バラバラに撤退し始めたのだ。
味方の撤退を援護するような組織だった動きはなかった。
当然、連合軍の追撃をまともに受けることになる。
地上軍は、総崩れになった友軍をなんとか援護しようとするが混乱が酷く、自分達で互いに援護することしか出来なかった。
アラスカに侵攻していた部隊は、連合の追撃に多大な犠牲を払いながら撤退していった。
後方にいた潜水母艦や水上艦艇が、逃げてきた部隊の回収のために撤退支援の攻撃を開始したことで、連合の追撃をそこで止める事が出来た。
それでも撤退中に受けた損害は、この作戦における最大の規模になってしまった。
今まで連合に敗北して撤退したことなど、ほとんど無かったため発覚しなかったザフトの組織としての問題が表面化してしまったのだった。
「おのれ、ナチュラルどもめ!
よもや、これ程の戦力が残っていたとは」
「議長、どういたしますか?
地上は無秩序な撤退で混乱していて、被害の規模も分かっていません」
「クルーゼはどうした!」
「先ほど、無事が確認されました」
「ならば、彼から正確な状況を報告させろ!」
「議長閣下、カナーバ議員達が状況の説明を求めて来ています」
「・・・通せ」
スピットブレイクの目標を穏健派に黙ってアラスカに変更した上に作戦に失敗し敗北した事で強硬派を追求しようとするカナーバ達だったが、パトリックに反論される。
「地球連合本部を落とせば、奴らも交渉の席に着かざるを得なくなる。
そうなれば、我らに有利な条件での講和も可能になっていただろう。
穏健派に隠していたのは、お前達が連合に降伏のような条件で講和しようとしていたからだ。
お前達が起こしたエイプリルフールクライシスのせいで我らには勝つしか道はないのだぞ。
それなのに、勝つために戦っている我らを追求すると言うのか!」
自分達が行ったことを自覚していた穏健派の議員達は、パトリックの言葉に何も言えなくなる。
穏健派を自認していた自分達よりも、強硬派と言われているパトリックの方が現実を見ていたことにショックを受けていたのだ。
カナーバ達は、穏健派の復権のための足掛かりを得ることも出来ずに帰ることしか出来なかった。
「議長、ジャスティスとフリーダムは無事に撤退した事が確認されました」
「ユーリか、機体の調子はどうだ?」
「やはり、まだ完全ではないようです。
ニュートロンジャマーキャンセラーの出力も安定していません。
現状では、機体の性能は60%と言ったところでしょう」
「一刻も早くニュートロンジャマーキャンセラーを完成させろ。
戦争を終わらせる最後の希望を完成させるために必要なのだ」
「分かっています。
しかし、非理事国を親プラントに引き込むためにかなりの譲歩が必要になりました。
注ぎ込むことが出来るリソースには限りがあります。
もう少し時間が掛かりますよ」
「少しでも時間を稼ぐ必要があるか。
あの作戦も検討する必要があるな。
ユーリ、ジャスティスとフリーダムの完成も急げ!」
「はっ、全力を尽くします」
パトリックは、この作戦の失敗を取り返すために行動を開始する。
プラントの勝利のために戦う。
そこに嘘はなかった。
そのための手段を選んでいる余裕は、もう無かった。
強硬派に正論で論破される穏健派
まともになっても、過去の過ちがなくなった訳ではありません。