歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
パトリックは、スピットブレイクの失敗を取り戻すべくパナマ攻撃を強行した。
アラスカでの敗北の傷は癒えていない。
しかし、連合の国力が復活した以上、時間を掛ければ不利になるばかりだ。
今までの情報から、現在のザフトの戦力でパナマを占領する事は不可能だと判断。
パナマのマスドライバーの破壊を目標とした。
しかし、マスドライバーは巨大な施設だ。
一部を破壊しただけでは、すぐに修理され復旧してしまう。
だからと言って通常戦力でちまちま攻撃していては、連合に押し返されてしまうだろう。
ザフトは、強力なEMP兵器『グングニール』の使用を決断。
前線の部隊に、グングニールの投下ポイントの確保を命じる。
侵攻するザフト部隊は、胸に抱く思いは違えど必死に戦っていた。
地上軍は、この戦いに勝って、次こそ和平を勝ち取るのだと決意している。
宇宙から降下して来た部隊は、アラスカでの敗北の屈辱を晴らすのだと気炎を上げている。
だが、どちらの兵士達も理解している。
開戦当初のような、楽な戦場などもう何処にもないのだと。
連合は、圧倒的な物量を持つ上にモビルスーツまで配備してしまったのだから。
ザフト艦隊の司令部では、指揮官とクルーゼが作戦について話していた。
「しかし、これだけの戦力でパナマを落とせだなどと、本国も無茶を言う」
「仕方ありますまい。
アラスカで調子に乗った、奴らの足元をすくっておかねば、議長もプラントも危ない。
宇宙への門を閉ざし、奴らを地球に閉じ込める。
そのためにも、パナマのマスドライバーは潰しておかねば」
「グングニールは?」
「予定通りです」
「問題はこちらだな。
降下までに目標地点を制圧できるかね?」
「アラスカでの雪辱を晴らすと皆、息巻いております。
ジャスティスとフリーダムも作戦開始と同時に投入される予定です。
出来るか出来ないかではないのです。
するんですよ」
アラスカでの敗北から間を置かずにパナマに攻め込んだことで、再び連合の不意を突くことに成功したが、もともと連合もパナマを攻撃されることを想定して準備していたのだ。
アラスカの時ほどの有利は取れなかった。
それでも戦線を押し上げていく。
作戦の初期からジャスティスとフリーダムが投入されているからだ。
まだ不完全な機体とは言え、連合から奪取したG兵器の技術をも取り込んだ核動力機は、凄まじい性能を発揮していた。
アラスカでの実戦で得たデータもフィードバックされ、少しずつ機体の完成度も上がっている。
連合の抵抗が激しいポイントを回り、友軍がグングニールの投下ポイントを確保できるよう援護していく。
連合もダガー部隊を投入するも、ジャスティスとフリーダムに押され守勢に回ってしまう。
それでも防御陣形を固めて、ジリジリと後退しながら遅滞戦闘に努めていた。
機体のエネルギー切れかパイロットの疲労を待ち、反撃のチャンスを窺っているのだ。
通常の戦闘なら正しい判断だっただろう。
しかし、今回の戦闘ではザフトに利する結果になった。
ザフトの目的は、マスドライバーやパナマ基地にたどり着く事ではなかった。
グングニールの投下ポイントを確保する事なのだから。
それを知る術のない連合の判断を責める事は出来ない。
彼らは、自分達が知る情報の中で最善を尽くしているのだ。
そして、遂にザフトは目標地点の確保に成功した。
宇宙からグングニールの投下が始まる。
戦闘開始から複数回に渡って、投下ポットでモビルスーツを降下させていた。
それ故にグングニールの投下も、新たな戦力を援軍として送り込んで来たのだと思って見逃してしまった。
地上に投下されたグングニールをザフトのジンが操作して起動準備を始める。
周りの部隊はグングニールの操作の邪魔をされないよう、連合軍を近づけさせないように必死に戦っている。
アスランとニコルも連合軍の目をグングニールから逸らすために、戦場を飛び回り派手に戦っていく。
そして、ついにグングニールが起動した。
パナマのマスドライバーを囲むように配置されたグングニールから強力な電磁波が放出される。
その電磁波は、互いに共鳴し増幅された事で巨大なマスドライバーのレールにすら影響を及ぼし破壊していく。
そんな電磁波の影響を受けて、連合軍の機材が無事に済むわけがない。
連合軍の兵器や機材もこう言った攻撃を想定して、ある程度のEMP対策はしているが、想定をはるかに超える出力であったため耐えることが出来なかった。
電子機器で動くすべての兵器や機器が動かなくなった。
火薬で弾を撃ち出す機銃のような機械式のもの以外は役に立たなくなってしまった。
それはモビルスーツも例外では無かった。
通信機器が停止して、指揮系統が消滅した。
前線の兵器類も、ほぼすべてが電子制御で動いていたため沈黙。
トーチカに備え付けられた銃座などの一部を除いて抵抗すら出来なくなっていた。
連合軍は戦う手段を失ったため、それぞれの部隊の判断で投降していた。
そう、投降してしまっていた。
歌姫の休戦が成立するようになって以降、地上軍の行動が常識的になっていた事で、連合の中でも投降が選択肢になるほど地上軍に対する信用が回復していたのだ。
だが、アラスカに続きパナマ戦でも多数の宇宙軍の部隊が降下して来たことで、主力の大半が宇宙軍所属の兵士達になっていた。
彼らは、宇宙で捕虜など取っていなかった。
敵に降伏するよう呼びかけた事すらなかったのだ。
地上に降りて来ても、当然その認識に変化はない。
動かなくなった兵器から降りて、手を上げて降伏の意思を示す連合の兵士達の姿に嘲笑を向ける。
モビルスーツの手に持つ武器が彼らに向けられた。
そして、虐殺が始まる。
動けなくなって、パイロットが外に出る事すら出来ないでいるダガーのコックピットを至近距離から機銃で撃ち抜いていく。
手を上げて抵抗していない連合軍兵士にも、機銃での攻撃が加えられた。
モビルスーツに装備された武器は、本来、戦車や戦闘機などの兵器を攻撃するための武器なのだ。
生身の人間を相手に使うのは、オーバーキルが過ぎる。
撃たれた兵士達は、原型すら残らぬほど粉々に砕け散り、肉片へと姿を変えていった。
「あっはっはっは!
いいザマだな、ナチュラルのおもちゃども」
「ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!」
「アラスカでやられたハンナの仇だ!」
もはや、軍事作戦ではない。
彼らは顔を醜悪に歪めて、抵抗できない相手に個人的な復讐を行っていた。
戦場のあちこちで、モビルスーツに蹂躙される生身の連合軍兵士たちの悲鳴が響く。
そんな宇宙軍の蛮行に黙っていられない者達がいた。
今日まで地上で戦い続けてきた地上軍の兵士達である。
目の前で行われている宇宙軍の蛮行に対する怒りで頭がどうにかなりそうだった。
必死に戦い、やっとパナマを落としたのに。
こんなことをして連合の怒りを買い、和平交渉が台無しになってしまったら、なんの意味もないじゃないか!
地上軍の兵士達は、行動を起こしていた。
抵抗できない連合兵士に銃を向けて撃とうしている宇宙軍のジンを体当たりで吹き飛ばす。
連合軍の兵士たちの前に出て盾になる。
ついさっきまで友軍として共に戦っていた相手に銃を突き付ける。
「なんのつもりだ!
お前ら、裏切るつもりか!」
「お前たちこそ、何を考えているんだ!
こんな愚かなことをして、連合に譲歩させる交渉が台無しになったら、勝った意味がなくなってしまうだろうが!」
「貴様ら、ナチュラルの肩を持つのか!」
「ナチュラルごときに臆したのか?」
戦場で宇宙軍と地上軍による、ザフト同士の睨み合いが発生していく。
宇宙軍の兵士たちは、ナチュラルの虐殺を楽しんではいたが友軍と殺し合いがしたい訳ではない。
一触即発の雰囲気が漂うが、小競り合い程度で膠着状態に陥っていく。
その間に連合の兵士たちに撤退する様に、地上軍が呼びかけていった。
宇宙軍も、地上軍が盾になって立ちはだかっている以上、戦場から退避していく兵士たちを攻撃できなかった。
そんな地上の混乱を空から見ている者たちがいた。
アスランとニコルである。
ニコルは、友軍の余りに惨忍な行為に憤りを覚えていた。
こんな行為は理性的なコーディネーターたる自分達には相応しくない。
そう思い、アスランに声をかける。
「アスラン、僕たちも行って止めましょう!
こんな残酷な行為を許してはおけません」
「ニコル、なにを言ってるんだ?」
「えっ?アスランこそ何を言ってるんですか!
目の前で行われている事が見えてないんですか?」
「特に変わった事はないじゃないか。
なんで地上軍の連中は、あんなに怒ってるんだ?」
「ア、アスラン・・・どうしたんですか!
何を言ってるんです!分かっているんですか?」
「ニコル、お前だってやっていた事じゃないか。
宇宙で歌っていた民間人ごとアークエンジェルを落とそうとしていただろ?」
「なっ!」
「武器を持たない民間人は殺していいのに、武器を捨てた軍人は殺しちゃダメなのか?」
アスランは、本当に不思議そうな顔でニコルに聞いてくる。
ニコルには、そんなアスランの様子を気にしている余裕はなかった。
周りがすべて異常であれば、自分が異常な事に気付けないものだ。
今は、地上軍が理性的な行動をしているから宇宙軍の残忍さに気付くことが出来た。
自分が宇宙で、目の前で蛮行を行なっている彼らと同じことをしていた事に気付いてしまったのだ。
今まで、ザフトが地球軍に対して降伏勧告をしているところを見たことはなかった。
地球軍が最後の一隻になろうと抵抗を止めないことに疑問すら抱かなかった。
彼らが野蛮なナチュラルだから、最後まで戦うことを止めないのだろうと思っていたのだ。
そんな自分の思考に恐怖すら感じる。
いつからこんな風に考えていたんだろう?
プラントに蔓延する思想は、ニコルにすらナチュラル蔑視を刷り込んでいた。
地上でザフト同士が睨み合いをしている状況に、司令部は撤退命令を出した。
このままでは、同士討ちが発生しかねない。
マスドライバーの破壊には成功している。
これ以上、ここに留まっている意味はない。
時間が経てば、パナマへの救援部隊が到着してしまうだろう。
作戦が成功した以上、ここに留まり戦力を無駄に消耗することはザフト全体に対する裏切りだと言って、宇宙軍と地上軍、双方に武器を納めるよう勧告する。
宇宙軍は、ナチュラルに対する鬱憤を晴らせなかった事に不満だったが、撤退の命令が出された以上は従わなければならない。
バカな行為を行わないように地上軍に見張られながら、ザフトはカーペンタリア基地に撤退していった。
パナマの生き残りからこの話が広まり、やはりプラントやザフトは話が通じない宇宙人《宇宙の化け物》だと言う地球側の認識が強くなってしまった。
反対に、宇宙軍の蛮行を止めて、連合軍の兵士を庇った地上軍に対する評価は上がっていた。
やはり、彼らは変わったのだと。
彼らとなら話し合うことが出来る。
彼らのような者達がプラントの実権を握ってくれれば、戦争を早期に終結させる事も出来るだろうに。
連合各国は、彼等がプラントの主流派ではない事を嘆いた。
地上軍と宇宙軍の確執がついに表面化する回でした。
ここから、後半に向けて物語が大きく動いていきます。