歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ザフトがパナマのマスドライバーを破壊したことにより、連合は全てのマスドライバーを失い、月基地は早々に干上がってしまうかに思われた。
これまでのプラントの行動から、水や食料と言った生活物資を月基地に輸出してくれるとは考えにくい。
むしろ、飢えと乾きで死んでいく地球軍の様子を嬉々として見ているだろう。
しかし、それを黙って見ていない国があった。
オーブが、水や食料、酸素などの人道上必要な物資に限りマスドライバーの使用を許可したのだ。
連合の首脳部は、再びオーブに深く感謝すると共にビクトリア奪還の準備を進めていく。
プラントは、そのオーブの発表に反発、直ちに連合への支援を停止するよう要求してきた。
オーブは血のバレンタイン以降、プラントに対しても人道的見地から水や食料などの輸出を行ってきた。
今回の件も、プラントに行ってきた事と同様の処置であると伝えた。
しかし、プラントはオーブの主張を認めず、重ねて連合にマスドライバーを使用させないよう要求。
この要求が受け入れられない場合は、オーブが地球連合に参加したものと見なすと通告してきた。
オーブは外交交渉で事態の解決を図るが、プラント側は黙殺。
ザフトによる武力行使を避けることは、非常に難しいと言わざるを得ない状況になっていた。
連合、アークエンジェル
そんなプラントの動きを見て、キラ達は憤っていた。
「このままじゃ、ザフトにオーブが。
なんとか出来ないんですか?」
「ごめんなさい、キラ君。
オーブは中立を貫くと言って、連合からの援軍も拒否しているの。
私たちの立場では、どうする事も出来ないわ」
「そんな、カガリを守るために戦うことも出来ないなんて」
「そうでもないですよ」
そう言って入ってきたのは、やはりアズラエルだった。
「理事、どう言うことです?」
アズラエルは、アークエンジェルに何度も訪れているので、いまさら驚きはしない。
そんな事より、アズラエルが言っていたことの方が気になっていた。
カガリのために何か出来ることがあると言うのだ。
「現在、連合軍がビクトリア奪還の準備をしているのは知ってますよね?」
「ええ、それが?」
「ザフトがオーブを攻めようとしているのは、連合にマスドライバーを使われたくないからです」
「それじゃあ・・・」
「連合がビクトリアを取り戻せば、オーブは連合にマスドライバーを使わせる必要がなくなる。
ザフトがオーブを攻撃する理由もなくなるって訳です」
「ビクトリア奪還作戦にアークエンジェルも参加すると言うことですか?」
「ええ、軍への根回しは終わっています。
後は、アークエンジェルの皆さん次第ですよ」
「マリューさん!」
「キラ君、落ち着いて!
もちろんアークエンジェルも参加します。
みんなも良いわね?」
「OK、あの歌姫さんとオーブを助けるために動かない連合軍はいないさ」
「カガリを守るために戦えるなら、どんな戦場にだって向かいますよ」
ムウとイレブンが真っ先に同意する。
他のクルー達も口々に賛成していく。
「みんな、ありがとうございます」
その様子にキラ達オーブ出身者は、オーブがこんなにも愛されている事を感じて嬉しく思うと同時に、どんな形であっても手を差し伸べようとしてくれる仲間達に感謝していた。
「連合各国が急ピッチで準備をしています。
特にユーラシア連邦は、かなり無理をして計画を前倒しにしようと頑張ってますよ」
「そうなんですか」
「ですから、あなた達も出撃準備はしっかりしておいてください」
「任せてください」
アークエンジェルは、再びアフリカの地に戦いに行くための準備を始めた。
あの時は、ザフトの勢力圏から脱出するために戦っていた。
しかし、今回は違う。
オーブを助けるために。
ザフトによるオーブ攻撃の理由をなくすために戦いに行くのだ。
ザフト、ジブラルタル基地
本国の決定を聞いて、バルトフェルド達は不満を漏らしていた。
「なんだってオーブに手を出すかな?
宇宙の連中は」
「大丈夫なんですか?
地上の情勢が分かってない奴らが、またやらかさないと良いですけど」
「まあ、今回はマスドライバーの破壊が目的だからな。
オーブは小国だし、マスドライバー施設周辺での戦闘で収まるだろう」
「宇宙のおバカさん達が余計なことしそうだけど」
「アイシャ、僕も信じてはいないがパナマで睨み合いにまでなったんだ。
宇宙軍もさすがに自重するだろう」
「ジブラルタルとしては、どうするんですか?」
「さすがに賛成は出来ないな。
本国に対して、今回の作戦に反対を表明する予定だ」
オーブを攻撃しようとするプラントの姿勢は、ザフトの中でも大きな動きをもたらしていた。
アラスカ戦やパナマ戦で地上に降下してきた部隊は、そのほとんどがカーペンタリア基地に移動していた。
そのため、ほとんどの人員が地上軍で編成されたままであったジブラルタル基地がオーブ攻撃に反対を表明した。
宇宙軍が多数派を占めるようになったカーペンタリア基地ですら、地上軍として戦ってきた派閥が今回の本国の方針に不満を持ち、抗議の声を上げている。
だが、その声はザフトの上層部には届かなかった。
地上軍は戦闘意欲が低く、戦場で裏切る可能性すらあると思われ、宇宙軍所属の部隊がオーブ攻撃の主力を務める事になる。
地上軍は、主力を補助する程度の規模のみが出撃し、残りは基地の防衛部隊として残される事になった。
この決定が、後に大きな悲劇をもたらす事になるのだが、地上軍にその決定を覆す力がない以上、避ける事のできない運命だった。
オーブ連合首長国
プラントから言い掛かりにも等しい要求を突き付けられたため、オーブ政府は必死の外交努力を行っていた。
しかし、プラントの実権は既に議長となったパトリック・ザラを首班とする強硬派に握られていて、その努力も虚しく失敗に終わりそうだった。
それでも、国民のために努力を止めるわけにはいかない。
ザフトに攻撃されれば、たとえ相手の目標がマスドライバーだとしても、戦闘に巻き込まれて犠牲になる民が出てしまうだろう。
オーブ代表ウズミも、戦闘を回避しようと努力を続けていた。
以前はオーブの理念を守ることに固執していた。
しかし、カガリと共に人道支援を行う中で、世界が変わり始めたことを感じていたウズミは、理念のためではなく世界の未来のために中立を貫こうとしていた。
ザフトに攻められれば、マスドライバーを守り切ることは出来ないだろう。
しかし、連合の援軍を受けるわけにはいかない。
娘から、ラクス・クラインがプラント市民の意識を変えようとしていることを聞いていた。
伝わってくるプラントの穏健派の行動にも変化がみられた。
その結果、穏健派は弱腰だと見られてパトリック・ザラが率いる強硬派に実権を奪われてしまったが、穏健派が隠していた戦争の実態を少しずつプラントの市民達に知らせているようだった。
プラント市民の意識が変わり、連合との和平を望んだ時に架け橋となれる中立国の存在は絶対に必要なのだ。
カガリの存在が、ウズミにそのビジョンを見せていた。
地上軍と連合との間でなら、今すぐにでも和平の仲介が出来るだろう。
それほど、両陣営から信頼と尊重を受けているのだ。
これからプラントが変わっていくかもしれないのだ。
今、連合の助けを受けてしまえば、自分たちの声がプラントに届かなくなってしまうかもしれない。
国民に出るであろう被害をやむを得ない犠牲として受け入れようとしている自分を国民は恨み憎むだろう。
そんな国民の想いを受け止めなければ。
覚悟を決めていたウズミにカガリが声をかける。
「お父様、プラントからの返答はどうなっていますか?」
「カガリか、あまり芳しいとは言えぬ。
会談の要請も却下された。
返事は行動で示せと」
ウズミの返事にカガリの顔が曇る。
「私たちの存在は、プラントにとってそれほど目障りなのでしょうか?」
「プラントが考えていた戦略の邪魔になっているのは確かだろう。
エネルギー危機で連合の国力を奪い、その混乱から立ち上がれぬ内に勝利を決めてしまう。
その計画を根本から覆してしまったのだから」
ウズミは、優しい顔でカガリを見る。
「確かにこの戦いの後、私は国民から恨まれ憎まれるだろう。
お前がクライシスに巻き込まれて行方が分からなくなった時、失いたくないと思い行動した私は、政治家としては失格なのだろうな。
それでも後悔はしていない」
「そんな、お父様ほどオーブを愛し、守ってきた人はいません!」
「カガリよ、そなたの存在が未来を照らす光になる。
これから出る犠牲者たちの遺族の恨みや憎しみは私が背負う。
お前は、プラントと連合が分かり合うための歌を歌えばよい」
カガリは、ウズミの顔に確かな決意を見た。
オーブの国民に痛みを強いる、この道を行くと決めたのだ。
すべての責任を背負い、それでも膨大な人命を奪い、今もなお、奪い続けているこの戦争を止めようと。
「わかりました。
私もオーブを守るために歌います」
「カガリ、何をする気だ?」
「ザフトの宇宙軍には、非人道的な行いをする者もいるのです。
そんな者たちが、オーブの民に手を出すかもしれません。
だから、その時は私が歌ってそんな者たちの注意を引きます」
「危険すぎる!
これから先の未来のために、そなたはここで死ぬわけにはいかぬのだぞ!」
「お父様、我が身可愛さのために逃げ隠れするような者の声を世界が聞いてくれるでしょうか?
何より、私がそうしたいのです。
お父様だけに背負わせたくありません」
「・・・この頑固者め」
「お父様の娘ですから」
「わかった。
市街地にも防衛のための部隊を配置せねばならぬのだ。
万一の時は、そなたを囮にして市街地に入ってきたならず者を市外に引き寄せる手筈を整えておこう」
「ありがとうございます、お父様」
(そなたには、好きな歌だけを楽しそうに歌っていてほしかったのだがな)
そんな娘の顔を見ながら、ウズミはそう思っていた。
オーブもまた、ザフトの侵攻に備えて防衛準備を進めていく。
磨いてきた剣を飾っていられる時は、終わってしまったのだ。
自らを守るために、その剣を振るおうとしていた。
短編と違い、立場上、キラは直接オーブを助けには行けません。