歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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オーブが焼かれた日

 

 

 

 キラ達がビクトリア奪還のために出撃した頃、時を同じくしてザフトによるオーブ侵攻が開始された。

 ザフトはアラスカで敗北し、パナマでもかなりの損害を受けていたが、それでも小国のオーブには十分すぎるほどの戦力で攻め込んできていた。

 戦力の大部分も宇宙軍所属の部隊で編成されているため戦意も高い。

 最初にオーブ全域に向けてミサイル攻撃を行い、オーブ軍がその迎撃を行なっている間にモビルスーツ部隊が上陸しようと進軍していく。

 その進路は、標的であるマスドライバー施設があるカグヤ島でも軍事の中心地であり国防本部やモルゲンレーテがあるオノゴロ島でもなかった。

 オーブの首都があるヤラファス島にまっすぐ向かって来ていた。

 

 

 オーブ、国防本部

 

「ザフト軍、ヤラファス島に向かっています!」

 

「なんだと!

 何を考えているのだ、ザフトは!」

 

「落ち着け!

 国民の避難状況はどうなっている?」

 

「民間人のシェルターへの避難は、まだ完了していません!」

 

「それに、シェルターと言っても、モビルスーツに直接狙われれば持ちませんよ」

 

「まさか民間人がいる市街地を最初に狙ってくるとは」

 

 国防本部内は、想定していなかった事態に混乱している。

 戦闘中にザフトの一部が市街地に手を出す可能性はあると思っていた。

 だが、まさか最初に市街地を狙うとは、それも主力を向かわせてくるとは考えていなかった。

 

 オーブ代表として軍を指揮するために国防本部に入っていたウズミは、その状況を見て決断を下した。

 

「皆、落ち着かれよ。

 こうなってしまっては致し方ない。

 カグヤとオノゴロの防衛は放棄する!」

 

「なっ!

 よろしいのてすか?代表」

 

「もともと守り切れないと思っていたのだ。

 今は、一刻も早くヤラファスに防衛部隊を向かわせる必要がある」

 

「しかし、本部があるオノゴロ島もですか?」

 

「もし市街地が襲われたら、カガリが歌を流してザフトを引きつける手筈になっている」

 

「カガリ様が!」

 

「ザフトの一部が暴走した時の備えだったが、主力が向かってきてしまった。

 カガリに付けた戦力だけでは持たないだろう」

 

「カガリ様もザフトの主力を相手にそんな無茶はしないのでは?」

 

「あの娘が目の前で国民が撃たれているのを見て、黙っていられると思うのか?」

 

「!!」

 

 その場にいる全員の脳裏にカガリの姿が浮かぶ。

 困っている誰かを助けようと全力で走り続ける姿を見てきたのだ。

 あの娘ならばやるだろう。

 その結果、自分が死ぬと分かっていても。

 

「カガリが自分を囮にしようとしているのだ。

 我々も、それに応えねばな」

 

「そうですね。

 本部ががら空きになれば連中もこっちに来るかもしれません」

 

 こうして、オーブ軍はマスドライバーと国防本部の防衛に当てていた戦力をすべてヤラファス島の市街地防衛に向かわせた。

 

 

 

 ザフト、司令部

 

 オーブ侵攻の指揮を取っていたクルーゼは、オーブ軍の動きを見て計画通りに事が進んでいる事に満足していた。

 

「オーブは罠に掛かったようですな」

 

「軍中枢やマスドライバーの守備隊が市街地防衛のために向かっています」

 

「これで軍の中枢もがら空きになった。

 邪魔なオーブ首脳陣にも退場してもらおう」

 

 ザフトの作戦が次の段階に入るのを見ながら、クルーゼは心の中で昏い喜びを感じていた。

 

(ふっ、容易いものだな。

 こうまで簡単に踊ってくれるとは)

 

 クルーゼは宇宙軍に噂としてそっと囁いていた。

 ラクスを差し置いて歌姫を名乗るカガリとオーブ首脳陣が、さんざんザフトの邪魔をしていた。

 ザフトの地上侵攻が上手く行ってないのも、アラスカでの敗北も、そのせいなのだ。

 地上軍も奴らに骨抜きにされて信用できなくなってしまった。

 

 そんな噂に、宇宙軍のオーブとカガリに対する敵対心は膨れ上がっていった。

 パナマで地上軍に邪魔されてナチュラルに対する鬱憤を晴らせなかった事も影響していたのだろう。

 故に、市街地に到達したザフトの主力は凄惨な光景を作り出す事になった。

 

 ディンが上空から逃げ遅れて通りを走っている家族連れを見つけた。

 その家族に銃口を向けて、人に使用するには大きすぎる銃弾が撃ち出された。

 両親と幼い娘が粉々に砕かれて肉片へと変わってしまう。

 そんな光景が市街地のあちこちで見られた。

 

 オーブ軍も国民を守り避難させようと必死に抵抗している。

 ヘリオポリスで連合とモビルスーツを共同研究していたため、オーブも制式量産型モビルスーツ『アストレイ』の開発、配備に成功している。

 OSもそのルートでキラが改良したバージョンの物が提供されていた。

 それでも小国オーブが用意できる数はたかが知れている。

 その上、主戦場にならないと思われていた市街地に攻め込まれているのだ。

 この惨劇を止める力はなかった。

 

 惨劇を止めたのは力ではなく、歌だった。

 市街地のすべての街頭モニターにカガリの姿が映る。

 公共のスピーカーを通してカガリの声がオーブ中に響く。

 

「ザフトよ!

 お前たちが本当に殺したいのは私だろう!

 私の歌が、お前たちにとって邪魔で目障りなんだろう?

 私はこれからも歌い続けるぞ。

 止めたいのなら、私を殺しに来い!」

 

 そして流れ始める音楽。

 カガリのオーブ国民達を守るための戦いが始まった。

 カガリが居るのは、市街地から離れた第3放送局のスタジオだった。

 その情報もモニターで公開される。

 

 ザフトの動きが変わった。

 無秩序に虐殺を行っていたモビルスーツたちが一斉に第3放送局がある場所に向かって移動を開始した。

 それは、この戦いでカガリを殺す事が目的だと認めているような行動だった。

 

 ザフトのモビルスーツたちが市街地を離れ、カガリがいる場所へと向かう。

 そのモビルスーツたちの前に、カガリを守るためにオーブ軍のアストレイたちが立ちはだかる。

 激しい戦闘が開始される。

 オノゴロやカグヤに配置されていた部隊も到着し始め、戦闘に加わった事で第3放送局はなんとか守られていた。

 それでも無傷とはいかない。

 着弾の衝撃で建物が激しく揺れる。

 モニターの中でカガリが歌っているスタジオが揺れている事が分かる。

 それでもカガリは歌い続ける。

 

 そんな光景を複雑な心境で見ている者がいた。

 フリーダムに乗っているニコルである。

 民間人の少女一人を殺すために群がるザフトの兵士たち。

 その姿に、この戦争で自分達は本当に正しいのかと疑問に思う。

 この戦いの目的はマスドライバーを破壊する事だ。

 目の前の光景から逃げるように、マスドライバーの破壊に向かおうとアスランに声をかけようとしたが。

 

 アスランのジャスティスが動き始めた。

 銃口をオーブ軍に向けて、アストレイを撃ち抜く。

 カガリが居る第3放送局に向かっていく。

 当然、カガリを守ろうとアストレイが迎撃するが、その性能差で撃破されていく。

 それでもカガリに近づけさせまいと、必死に食らいついてくるオーブ軍。

 

「ええい、邪魔をするな!

 あの歌を止めなきゃ、頭が痛いんだよ!」

 

「アスラン!

 どうしたんですか!」

 

 アスランの異変にニコルも気付く。

 頭痛を訴えながら、狂ったようにオーブ軍に攻撃しているジャスティスを見る。

 アスランの様子は、明らかに異常であった。

 

「アスラン、止めてください。

 この作戦の目的はマスドライバーの破壊ですよ!」

 

「ニコル?

 そうだ、命令はマスドライバーの破壊だったな」

 

「そうですよ!

 あの歌で頭痛がするなら、早く離れてマスドライバーの破壊に行きましょう」

 

「ああ、命令を遂行しなきゃいけない」

 

 ジャスティスとフリーダムは、その場を離脱してマスドライバーのあるカグヤ島に向かった。

 

 

 カグヤに向かっていたのは彼らだけではなかった。

 補助戦力として同行していた地上軍たちだ。

 彼らは、必死にカグヤを目指していた。

 宇宙軍がオーブの市街地で始めた蛮行に、絶望で目の前が真っ暗になった。

 カガリがその身を囮にしたことで市街地での虐殺は終わったが、なんの救いにもならない。

 今は、カガリ・ユラが狙われているのだ。

 ザフトがカガリを殺してしまえば、もはや和平への道はなくなってしまう。

 いや、もう遅いのかもしれない。

 それでも、絶望に打ちひしがれている時間はない。

 自分達の数は少ない。

 パナマの時のように宇宙軍を止めることは出来ない。

 だからマスドライバーに向かう。

 作戦目標を達成してしまえば戦闘を終わらせることができる。

 一刻も早くマスドライバーを破壊するのだ。

 宇宙軍がカガリを殺してしまう前に。

 

 皮肉な事に、ザフト上層部から戦意が低いと評価された地上軍が最も必死に作戦を遂行しようとしていた。

 

 

 

 ザフトを挑発し、自分を狙わせる事に成功したカガリの下に、オノゴロやカグヤから戦力が次々と加わって行く。

 その数から、カガリはオノゴロとカグヤの防衛を放棄したのだと分かってしまった。

 自分が狙われたのだ。

 なら、オーブ代表であるウズミも狙われるだろう。

 事実、ザフトは主力の一部を防衛本部があるオノゴロに向かわせていた。

 そんな本部からカガリの下に通信が繋がる。

 画面にはウズミが映っていた。

 すでに本部は攻撃され、炎で包まれつつある。

 それでもウズミの顔は穏やかだった。

 

「お父様!

 はやく避難してください!」

 

「無駄だ。

 すでに本部は包囲されている。

 私を逃す気はないだろう」

 

「そんな、何故すべての部隊を寄越したのですか!

 少しでも守備隊を残していれば・・・」

 

「オーブの民が撃たれている時に、我が身を守るための戦力を惜しむことなど出来ぬよ」

 

 自らの死を覚悟したウズミの穏やかな声に、カガリは涙を流す。

 この会話が今生の別れであると理解したのだ。

 

「すまぬな。

 そなたには重荷を背負わせてばかりだった」

 

「そんな、お父様が気に病むことではありません。

 私が望んでした事です!」

 

「もう、アスハの娘として生きる必要はない。

 そなたの幸せを願っておるよ」

 

 ウズミは、アスハの娘として、なんでも背負い込みすぎるカガリを心配していた。

 そんなカガリに、それでも多くを背負わせてしまった自分の不甲斐なさも自覚しているのだ。

 少しはカガリ自身の幸せにも目を向けてほしい。

 カガリとの最後の会話で浮かぶのは、そんな想いばかりだった。

 

「お父様、私はアスハの娘として生まれて幸せでした!」

 

「そうか、私もそなたの父で幸せであったよ」

 

 ついに本部が完全に炎に包まれた。

 通信機器も限界に達して通信が途切れてしまう。

 

「お父様ーーーー!」

 

 炎の中に消えたウズミの姿に、カガリは悲痛な声を上げる。

 それでも、まだ攻撃は続いているのだ。

 周りでは、せめて敬愛するカガリだけは守ろうとアストレイたちが必死に戦っている。

 カガリが顔を上げる。

 涙が溢れてきて止まることはない。

 それでも、自分を守り死んでいくオーブ軍の姿を見て、守られてばかりではいられない。

 守りたいと思ったのだから。

 再び歌が始まる。

 それはライオンが誇り高く生き抜く姿を歌う曲だった。

 どれほど厳しい自然を前にしても、怯まず敢然と立ち向かっていく姿を讃える歌。

 生き抜いて、大切なものを守ってみせると叫ぶ。

 それは、まるでオーブの獅子ウズミ・ナラ・アスハに捧げる歌だった。

 あなたの意志を継ぎ、オーブを守ると言う誓いの歌。

 その歌で、周りで戦うオーブ軍の士気は最高潮にまで高まる。

 

 その歌に込められた意志は、カガリを殺そうとしていたザフトすら怯ませていた。

 何故、この女は恐れないんだ。

 頑丈とは言え普通の建物の中に居て、自分を殺そうとしている者たちに攻撃されているのに。

 その凄まじい意志の強さに圧倒されつつあった。

 だが、コーディネーターとしてのプライドがナチュラルの少女を相手に気圧されたなどと認めることは出来なかった。

 動きに精彩を欠いているものの、ザフトも再びカガリを殺すために戦い始める。

 戦力ではザフトが圧倒している。

 オーブ軍の本部を破壊した部隊も、やがて合流するだろう。

 どれほど強い意志を示そうとも、カガリの死はすぐそこまで迫っていた。

 

 そこに全周波数で通信が入る。

 

「オーブのマスドライバーは破壊した。

 作戦目標は達成されたんだ!」

 

「これで作戦は終了のはずだ!

 司令部、早く撤収命令を出せ!」

 

 回り込んでマスドライバーに向かっていた地上軍とアスラン達の手によってオーブのマスドライバーの破壊が完了していた。

 地上軍たちは作戦が終了した以上、速やかな撤退を司令部に要求していた。

 それでも司令部の動きは鈍い。

 上層部の思惑では、さんざんザフトの邪魔をしてきた者たちを排除したいのだ。

 しかし、表向きの理由は達成してしまった。

 パナマでも同じ理由で撤収を命じている。

 司令部も、上層部の思惑と現実との間で板挟みになっていた。

 

「何をしているんです!

 早く撤収を指示しなさい。

 これ以上の戦闘で無駄な損害を出すのは、ザフトに対する反逆に等しいですよ!」

 

 そこにダメ押しとなるフェイスになったニコルの声が響く。

 フェイスは、一般の兵士とは別格の権限が与えられている。

 そのフェイスの意向なのだから名目も立つ。

 司令部も重い腰を上げ、撤収の指示を出した。

 

 クルーゼは、またしてもカガリ抹殺に失敗したことを残念に思っていたが、十分な成果を上げたことに満足していた。

 

「楽しみだよ。

 国を焼かれ、父親を殺された君は、それでも希望の歌姫でいられるかな?」

 

 カガリを殺せなかったが、オーブ国民の虐殺や代表のウズミの死は世界を激昂させるだろう。

 戦争は激化して、プラントは追い詰められていくのだ。

 そして、追い詰められたプラントは必ず暴発する。

 

(プラントに戻り、パトリック・ザラが用意している切り札を探らねばな。

 世界を破滅させるために利用するには、詳細を知っておかなければならない)

 

 ザフトは作戦終了を宣言し、撤退していった。

 多くの悲劇を生み出したオーブ侵攻は、こうして終わりを迎えた。






クルーゼ(ナチュラル)の掌の上で転がされてる強硬派(コーディ)たちでした。
ちょっと理性無さすぎじゃないかと思いましたが、原作でもこんなもんだったかなと。
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