歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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哀しい強さ

 

 

 

 オーブに侵攻したザフトは撤退していった。

 後に残されたのは、破壊された街並みだった。

 最初に市街地を狙われて、オーブ軍はマスドライバーと国防本部の防衛を放棄して、すべての戦力を市街地の防衛にあてた。

 ザフトにとって、市街地を守るために囮となったカガリだけでなく、オーブ代表ウズミも目障りな存在だった。

 その隙を見逃さずに国防本部も破壊され、ウズミ代表は炎の中に消えていった。

 ザフトの一部が回り込んで来てマスドライバーを破壊した事で作戦は終了し、撤退していったが、それがなければカガリを殺すまで市街地での戦いは続いていただろう。

 

 

 そこまでされながら、今回の戦闘での犠牲者を追悼する式典を開くと発表した記者会見の場において、カガリはザフト及びプラントへの報復や宣戦布告は行わない、オーブは今後も中立を貫くと宣言した。

 

 さすがにこれにはオーブ国民からの非難が殺到した。

 市街地を攻撃され、多くの一般人がザフトに殺されていたのだ。

 それなのに遺族達が怒りと憎しみで振り上げた拳を叩きつける場所を与えないと言うのだ。

 行き場を失った拳と感情は、その発表を行ったカガリに向かってしまった。

 カガリが国民に愛されていたからこそ、その感情は憎悪へと変わってしまう。

 連日、カガリや行政府に対するデモが発生した。

 カガリが国民の前に姿を見せると、凄まじい罵声と共に靴や生卵を投げつけられていた。

 それでも、カガリと行政府は粛々と追悼式典の準備を進め、式典当日を迎えた。

 

 式典会場に作られた壇上に漆黒のドレスを身に纏ったカガリが上がる。

 オーブ国民は復讐を否定したカガリに不満を持っていたが、追悼式典で騒ぎを起こすほど不謹慎ではなかった。

 今は、カガリが捧げる鎮魂歌《レクイエム》と共に犠牲になった大切な人達を悼もう。

 そう思い、壇上のカガリを見つめる。

 

 カガリの歌が始まった。

 

 大切なあなたと、こんな別れが来るとは思っていなかった。

 もっとあなたとの時間を大切にすれば良かった。

 それでも、あなたと出会った喜びを忘れない。

 あなたと過ごした時間は幸せでした。

 思い出を胸に抱いて生きていきます。

 怒りも悲しみも、きっといつか飲み込むことが出来るから。

 今、悲しみに打ちひしがれていても、立ち上がって前に進めるようになるまで見守っていてください。

 その時に、私の中のあなたには微笑んでいてほしい。

 

 壇上で涙を流しながら歌うカガリの想いが伝わってくる。

 それを聴いたオーブの国民達は、涙を止めることが出来なかった。

 会見で報復を行わないと宣言した時、なぜ行政府の人間ではなくカガリが話していたのか?

 カガリは、行政府の中で公的な職についている訳ではない。

 行政府に招かれて、式典で歌を捧げる立場だ。

 本来なら会見に出る必要すらないのだ。

 

 それなのに自分達はカガリに非難をぶつけてしまった。

 カガリは、一言も反論せずに受け止めていた。

 復讐で自分達の手を血で染めてしまわないように。

 憎しみや悲しみを飲み込む事が出来るまで、カガリがその感情を受け止めるためだったのではないか?

 カガリを責めていれば、大切な人を守れなかった自分の無力さを嘆くこともない。

 今なら分かる。

 自分では受け止めきれない負の感情をカガリにぶつけることで楽になっていたのだと。

 彼女自身も、あの戦闘で父親のウズミを亡くしているのに、オーブ国民の怒りと憎しみを一人で受け止めようとしているのだ。

 国民からどれほど非難されようと、一言も反論せずに、人々が再び立ち上がって前に進む事が出来るようになるまで、その身に受け止め続けようとしている。

 まだ16歳の少女の哀しいまでの覚悟に、オーブ国民達は自分の不甲斐無さに絶望すら感じていた。

 なぜ、自分達は、彼女がこんな哀しい覚悟をしなければいけないほど弱いのだろう。

 このまま彼女にすべてを背負わせていいのか?

 そんなはずない!

 いいわけがないだろう!

 ザフトやプラントへの怒りや憎しみが消えたわけじゃない。

 だが、カガリにこんな哀しい覚悟をさせた自分達の弱さに、それ以上の怒りを感じていた。

 

 この日から、オーブの国民も変わっていく。

 どうすれば、カガリのような哀しい覚悟をする者がいなくてもいい世界に出来るのか。

 そんな未来を本気で考えるようになる。

 カガリとオーブの行政府が人道支援を行い、世界中の好意と尊敬を集めている事に優越感を持っていただけで、戦争について余りにも無関心だった平和ボケした国民の姿は、もう何処にもなかった。

 

 

 

 

 ビクトリア基地、アークエンジェル

 

 オーブで行われた追悼式典の様子はテレビで放送されていた。

 アークエンジェルのクルー達も食堂に集まって、モニターで見ていた。

 会見で、カガリが復讐を否定してからの一連の流れも皆が把握していたのだ。

 その場にいる全員が暗い顔をしている。

 今まで、凄いと思い、有り難がっていたカガリの強さの本質に気付いたのだ。

 それが哀しい強さだったと言うことに。

 わずか16歳の少女が、これ程までの強さを持たなければいけない世界の在り方に疑問を感じてしまった。

 

「僕は、間に合わなかった。

 カガリが何も背負わずに、好きな歌を歌える未来が欲しかったのに。

 また、こんな哀しい覚悟をさせてしまった」

 

 キラが涙を流しながら想いを口にする。

 それは、初めて語ったキラが目指していた未来だった。

 この言葉を聞いたサイ達も驚いていた。

 キラが、こんなにも明確な望む未来を見つけていたことに。

 自分達は向かうべき未来の姿を、世界との向き合い方をまだ見つけられずにいるのに。

 キラだけが、望む未来の姿を明確に描いていた。

 

 いや、それだけじゃない。

 世界中がカガリの強さを称賛している中で、キラはカガリが強くなくていい世界を望んでいたのだ。

 どこにでもいる、普通の女の子として生きる事が出来る世界を。

 

 国家元首の娘でありながら絶望の中を生き抜き、同じ絶望の中にいる人々を救い続ける希望の歌姫。

 そんな、カガリが放つ強烈な光に目が眩んでいた。

 キラだけが、その光の中にいるカガリと言うただの少女としての姿を見てあげる事が出来ていたのだ。

 

 キラの人の本質を見る事が出来る力。

 それが、とんでもなく凄い事なのだと理解できた。

 自分達にそんな事は出来なかった。

 

 キラが立ち上がり、食堂を出ていこうとしている。

 

「キラ、どこに行くんだ?」

 

「シミュレータールームに行きます。

 僕は、まだカガリに強くなくていいと言えるほどの強さがないですから」

 

 ムウの問いかけに、キラはそう答えて出ていく。

 そんなキラの後ろ姿を見送り、食堂は沈黙に包まれる。

 ムウとイレブンが視線を交わし、立ち上がる。

 

「フラガ少佐?ソキウス中尉も何を?」

 

「あんな姿を見せられて、じっとしていられる訳ないだろ。

 俺たちもシミュレータールームに行くよ」

 

「今は、身体を動かしたい気分なんです」

 

 そう言って二人も食堂を出ていく。

 

「キラが凄いって思った事は何度もあった。

 同じパイロットになって、より凄さを理解できたと思ってた。

 でも違った。

 キラの本当の凄さは、そんな所じゃなかったんだな」

 

「そうね、私たちも行きましょうか」

 

 トールとフレイも後に続いていく。

 パイロット組が全員食堂を出ていった。

 

「キラの本当の凄さか・・・」

 

 パイロット達がいなくなった食堂は静けさに包まれていたため、サイの呟きがよく響いた。

 

「私たち、今までカガリの強さに憧れて、強くなりたいって思ってた。

 でも、私たちが本当に手に入れなきゃいけないのは、キラみたいな強さじゃないかな?」

 

「カガリみたいな、傷ついても、傷ついても、流れる血を拭いもせずにみんなの前に立って守ろうとする娘に強くなくていいんだって言える強さか」

 

 サイ達の会話に周りのクルー達の心にも火が灯る。

 16歳の少女の強さに憧れる?

 そんな情けない大人だった自分を否定する。

 少女が強くなくていい世界に変えるのだ。

 

 クルー達の心が変化していた。

 今までは仲間を、大切な人を守る。

 そのために戦争を終わらせようと戦ってきた。

 もう、それだけでは満足できない。

 今の世界の形に疑問を持ったのだ。

 今よりいい未来に向けて走り始めよう。

 憎しみも、悲しみも、乗り越えていく。

 カガリが背負う暇なんて、もう与えない。

 俺たちの背中を見せるのだ。

 

 もう、誰もじっとしていられなかった。

 皆が立ち上がり、食堂を出ていく。

 目指す未来のために、世界を変えるために、何が出来るのかを考えながら。

 

 

 

 ジブラルタル基地

 

 ビクトリアから撤退したバルトフェルドも、ジブラルタル基地の休憩室のテレビでオーブの追悼式典を見ていた。

 休憩室には、アイシャやディアッカも同じテレビを見ている。

 

「たまらんねぇ、こうまで自分の弱さと情けなさを自覚させられるとは」

 

「宇宙の連中は、オーブでもずいぶんとやらかしてくれたみたいですね。

 カガリが復讐を否定してくれたけど。

 ビクトリアでも、味方ごとマスドライバーを破壊しようとしやがった」

 

「ディアッカ・・・」

 

「イザークは、宇宙の連中の攻撃から部下を、仲間を守ろうとして死んだんだぞ!」

 

「落ち着いて!あれで仲間を失ったのはあなただけじゃないわ」

 

「・・・分かってます」

 

「マスドライバーを破壊しようとして使ったあれは、トールハンマーと言うらしい」

 

「そんな事より、これからどうするんですか?」

 

「ジブラルタルの司令も、今回の宇宙軍の蛮行には愛想が尽きたようだ。

 ジブラルタル基地は、ザフト及びプラントから離脱。

 連合と単独講和のための交渉を始める」

 

「なっ!プラントを見捨てると言うのですか!」

 

「プラントに家族や大切な人がいる者は、事前にカオシュンから宇宙に上がる予定だ。

 君もそうしたまえ」

 

「隊長はどうするのですか?」

 

「僕は、連合に和平交渉を求める使者として向こうに赴くつもりだ」

 

「隊長はジブラルタルの最強戦力、最も連合に損害を与えた者の1人じゃないですか!

 危険すぎます!」

 

「それでも行かねばならない。

 僕の首で、彼らの溜飲が少しでも下がって和平交渉が進展してくれるなら本望だ」

 

「私も一緒に行くわよ」

 

「アイシャ、君まで着いてくる必要はない」

 

「1人で生きろと?

 そんな事するくらいなら死んだ方がマシね」

 

「君もバカだな」

 

「なんとでも」

 

「・・・なら、付き合ってもらおうか」

 

 隊長達の覚悟にディアッカは何も言えなかった。

 

「それに、プラントにとっても希望になるかもしれない。

 この交渉が成功すれば、連合との和平が可能だとプラントにも示せる」

 

「意味があるんですか?」

 

「ザフトの中にはクライシスを起こした以上、まともな和平が出来ないと絶望して戦っている者も多いんだ。

 穏健派も、最近は自分達のやった事を自覚したようだ。

 交渉の糸口さえ掴めば、和平も夢ではないと思ってくれるかもしれない」

 

「それって結局、今の評議会をどうにかしなきゃいけないって事ですよね」

 

「そうだな。

 強硬派をどうにかするのは、宇宙の穏健派に期待するしかない」

 

「隊長、俺は宇宙に上がります。

 評議会で議員をしている親父と話さなきゃいけない」

 

 バルトフェルドは、ディアッカの顔に新たな覚悟を感じた。

 イザークの死の悲しみと怒りを乗り越えて、未来のために行動しようとしているのだ。

 

「そうか、健闘を祈るよ」

 

 

 こうして、ジブラルタル基地はプラント、ザフトからの離脱を宣言。

 独自に連合との和平交渉を求めた。

 

 連合は、これを承認。

 ジブラルタル基地と和平交渉を開始することになる。

 使者として赴いたバルトフェルドの勇気を称賛し、無事に帰還させた事でジブラルタルは、交渉に希望を持つ事が出来る様になった。

 

 宇宙軍が多数を占めるカーペンタリア基地は、ジブラルタルの決定に反発。

 しかし、ジブラルタルとは距離があり、連合軍と対峙している中でジブラルタルに手を出す余裕はなかった為、裏切り者と非難する以外の動きは取れなかった。

 

 

 世界はカガリの放つ光の本質が哀しい強さだと気付き始めた。

 今まで称賛し、讃えていたカガリの行動。

 世界の人々は、その意味に気付かなかった。

 カガリが16歳の少女だと言うことに。

 そんな少女に行わせなければいけない事だったのだろうか?

 16歳の少女にこれほど過酷な道を歩ませる世界に、このままではいけないと言う想いが広がっていく。

 世界はカガリの歌で再び変わり始めた。

 クライシス後にカガリが歌い始めた時よりも、さらに激しいうねりを持って。

 こんな哀しい強さのいらない、新しい未来を求めて。






ようやく歌姫達が活躍するフェーズに入りました。
カガリの背負い込みすぎる性に世界が気付き始めたといった所です。
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