歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
プラントに戻ったクルーゼは、ザフトの中枢とも言うべきシステムにアクセスして機密データを閲覧していた。
これは、議長であるパトリックと彼が認めたごく少数の人物以外には存在すら知られていないデータだった。
このためにパトリックを助け、信頼を得てきたのだ。
データの中には、ジャスティスやフリーダムと言った核動力機の詳細もあった。
ニュートロンジャマーキャンセラーの情報は手に入った。
ならば、あるはずなのだ。
その力を使った、世界をも滅ぼせるパトリックの切り札が。
そして遂に見つけ出した。
パトリック・ザラが用意している最終兵器『ジェネシス』のデータを。
その詳細を確認し、クルーゼは歓喜していた。
これで人類の歴史を終わらせるピースは揃った。
同時に、やはり人類は滅ぶべくして滅ぶのだと確信していた。
ジェネシスの完成にはまだ時間が掛かるようだ。
無理もない。
カガリやオーブの行動で、非理事国に対して政治、貿易の両面でかなりの譲歩をしなければいけなくなったのだ。
ニュートロンジャマーキャンセラーの情報をブルーコスモス過激派に流すタイミングをよく考えなければならない。
データをコピーし、その場を去ろうとしたクルーゼだが、一つのフォルダ名が目に止まる。
それは、アスランのカルテだった。
何故、機密データにアスランのカルテが入っているのか?
診療データは個人情報なのだから、厳重に管理されるのは分かる。
だが、ジェネシスなどの機密データと同じ場所に入っているはずのない情報だ。
アスランは、以前からおかしいところはあったが、最近は明らかに異常な様子を見せていた。
クルーゼは、アスランのカルテを開いて中の情報を確認した。
それは、クルーゼに過去の記憶を思い出させる、悍ましい内容だった。
アスランに対して行われている、暗示や薬物を使った洗脳の記録だった。
なにより、これはジェネシスなどのデータと共に管理されていた。
つまり、父親であるパトリック・ザラもこれを知っているはずなのだ。
「自分の子供を洗脳して、命令を聞く道具にするか。
血のバレンタインで妻を亡くし、ここまで狂っていたとはな」
「私は狂ってなどいないぞ、クルーゼ」
後ろからパトリックの声がした。
同時に身体に衝撃が走る。
身体から力が抜け、崩れ落ちる。
意識が落ちる直前に見えたのは、銃を構えるパトリックの姿だった。
どうやら自分は撃たれたらしい。
だが血は出ていない。
麻酔銃だったのだろう。
そこまで考えたところで、クルーゼは意識を失った。
時間は少し巻き戻る。
クルーゼと同じく、アスランもプラントに帰還していた。
そして、議長であるパトリックに呼び出されて次の任務を言い渡されていた。
「連合の国力を削り、少しでも時間を稼がなければならない。
軌道爆撃システム『トールハンマー』を使い、連合の工業地帯に戦略爆撃を行う。
お前は、フリーダムと共にその艦隊の護衛に就くのだ。
爆撃を邪魔する者を排除しろ。
分かったな?」
「了解しました。
戦略爆撃部隊を護衛し、邪魔する者は排除します」
アスランは、感情を感じさせない声で淡々と任務を受ける。
「それと、お前とラクスの婚約は解消された。
シーゲル達、穏健派との対立が決定的になったからな。
公式に発表はされていないが、ラクスはもうお前の婚約者ではない。
今後は、会いに行くようなことはするなよ」
「わかりました」
「うむ、医師の診察を受けた後、任務に出発しろ。
下がれ」
「はっ」
アスランは、最後まで表情を変えることなく部屋を出ていった。
そのやり取りを聞いている者がいた。
ニコルが、アスランの様子がおかしいと思い、服に盗聴器を仕込んでいたのだ。
議長にバレれば命すら危ない行為だったが、なんとか気付かれずに済んだようだ。
「やっぱりおかしい。
戦略爆撃なんて民間人を狙う作戦に疑問すら抱かずに従うなんて」
以前なら、最終的に必要だと割り切って従うとしても抗議くらいはするはずだ。
ラクスとの婚約が解消された事に驚きもしなかった。
カガリと言う少女の歌を聴くと頭痛を訴える事と言い、アスランの身に何かが起きている。
「イザークかディアッカが居てくれれば、相談できるのに」
ニコルがこんな事を相談できるほど信頼できて実力がある者は、同じクルーゼ隊に所属していた2人しか心当たりがなかった。
イザークがビクトリアにおいて味方の爆撃で撃墜された事をニコルはまだ知らない。
その後、アスランは医師の診察を受けていた。
「やぁ、アスラン君、それで頭痛の経過はどうかな?」
「先生、やっぱりラクスやカガリの歌で頭痛がするんです」
「それはいけないね。
痛みは、どんな感じなんだい?」
「頭の中で何かが暴れていて、内側から削られるような痛みです」
「そうかい、では、頭の中の何かが暴れないようにしっかりと押さえつけておかないとね。
処置室に行ってカウンセリングを受けてもらうよ。
薬も出しておくから、忘れずに飲んでくださいね」
「はい、ありがとうございます。
ライトマン先生」
処置室でのカウンセリングを終えたアスランが帰っていく。
アスランを見送っていた医師に電話の呼び出し音がなる。
「はい、ライトマンです」
「これは議長閣下。
ええ、アスランの調子は良好ですよ。
歌で洗脳が解けたと言う事象があったようですが、私はそんなヘマはしません。
きちんと対策は取ってます」
「それで、要件はそれだけですか?
えっ、新たな患者を見てほしいと。
わかりました、すぐに伺いますよ」
そう言って、ライトマンは何処かへ向かっていった。
クルーゼが目を覚ました。
どうやらベッドの上で拘束されているようだ。
周りの様子を伺っていると、部屋にパトリックと見知らぬ白衣の男が入ってきた。
「クルーゼ、気分はどうかな?」
「あまり良いとは言えません」
パトリックの問いかけにクルーゼはお座なりに応える。
自分の命はパトリックに握られている。
どこまでバレているのか探らなければならない。
「ふっ、警戒しているな。
心配せずとも、すぐに殺すつもりはない。
君には、まだ役に立ってもらわなければならんのだ」
「それを聞いて安心しました。
私も驚いたのです。
まさか議長が息子を洗脳していたとは」
「人聞きが悪いな、クルーゼ。
教育と言ってもらおうか」
「教育ですか?」
「そうだ、親の言いつけを守る子供は、良い子だろう?」
クルーゼは、パトリックの態度に吐き気がした。
どう言い繕おうと、薬と暗示で自分の言いなりにしているのだ。
かつて自分を作ったアル・ダ・フラガや科学者たちと重なる。
子供は、自分の所有物で好きにしていいとでも思っているのだろう。
だが、その不快感を表に出すのはまずい。
今はパトリックに取り入り、手駒になったと思わせなければ。
「その通りですね。
血のバレンタインで奥方を亡くして、アスランを復讐の道具にしようとしたなどと、ゲスの勘繰りでした」
「ふっふっふ、レノアの事か。
あれの死は役に立ってくれた」
「なっ!」
「おかげで私は妻を亡くしながら、連合に毅然と立ち向かう英雄として支持を集めることが出来た」
「・・・奥方を愛していたのでは無いのですか?」
「愛していたとも。
だが、あの女は堕落してしまった。
月でナチュラルの友人が出来たと言って、ナチュラルとの宥和などを訴えるようになってしまった。
最近では、アスランの教育方針にも口を出してくるようになっていたのだ」
「血のバレンタインに巻き込まれた事は幸運だったと?」
「幸運か、本当に幸運だったと思うか?」
「まさか・・・」
「ふっ、君も疑問には思っていただろう?
あの核攻撃の不自然さに」
クルーゼは、話しながらまずいと感じていた。
何故、自分にここまで話すのか?
「核武装した鈍重なモビルアーマーで我々の厳重な警戒網を掻い潜り、核攻撃を成功させた後も捕捉されずに離脱していった」
「あの悲劇の裏にも議長は関わっていたと?」
「レノアが死んだことで、誰も私を疑う者はいなかったよ」
クルーゼも疑っていなかった。
パトリックの態度すら生温いと思った強硬派の誰かの独断だと推測していた。
パトリックは殺す気はないと言ったが、ここまで話したのだ。
無事に返すつもりもないだろう。
「何故、私にそこまで話すのですか?
これを公表されれば、議長も無事では済みませんよ」
「君が連合とも繋がっている事は分かっている。
その証拠も押さえている」
どうやらすべてバレているようだ。
「君が何を言っても、誰も信じないだろう。
連合のスパイが我々を混乱させようとして流したデマだと思われるだけだ」
「それに、まさか君がコーディネーターですらない、それどころかクローンの失敗作だったとはな」
眠っている間に身体を調べられたのだろう。
出自がバレているのは予想していた。
「君の世界に対する憎しみは、それが原因だったのだな」
だが、自分の世界に対する感情すら見抜かれていたとは思わなかった。
「始めから分かっていたのですね」
「君の、その憎しみに取り憑かれた狂気は気に入っていた」
「私をどうするつもりですか?」
「君にも人形になってもらうのだよ。
その狂気が消えてしまうのは、残念な事だがね。
安心したまえ、地球はジェネシスで焼かれてナチュラルは滅びる。
復讐は、それで満足するのだな」
「あんなもので地球を撃てば、あなたも狂った独裁者だと思われますよ」
「そうはならんさ。
いきなり地球を狙いはしない。
何度も猶予を与えて、それでも戦いを止めない野蛮なナチュラルを前にやむを得ず地球を撃つのだよ」
すでに地球を撃つまでの流れも想定しているらしい。
Nジャマーで通信を阻害し、今まで降伏を受け入れなかった。
なにより、ジェネシスのような兵器を抑止力として使わず、実際に撃つのだ。
そんな軽い引き金を前に連合が黙って撃たれる事を良しとするはずがない。
死に物狂いでジェネシスの破壊に向かうだろう。
パトリックは、自分を狂っていないと言っていたが。
「やはり、あなたも狂っていますよ」
「ふん、理解できんか。
本当に狂っているのは穏健派の愚か者たちのような者を言うのだよ。
奴らは、本気で自分たちを穏健派だと思っている。
最初は、連合を挑発するためにあえて名乗っているのかと思ったくらいだ」
「最近は、正気に戻ったようですが」
「今さら連合との和平など不可能だが、邪魔をされて負けるわけにもいかん。
黙らせるためにラクス・クラインには死んでもらう」
「暗殺などしても、余計にうるさく追求されるだけでしょう」
「彼女は平和を求めて、連合に殺されるのだよ」
ラクスの暗殺は、クルーゼも考えていた。
議長は、それを連合の仕業に見せかけると言うのだ。
ユニウスセブンの時と同じことをしようとしている。
「ライトマン博士、クルーゼの処置は頼んだぞ」
「はい、議長には世話になっていますからね。
完璧に仕上げて見せますよ」
連合とも繋がっていたクルーゼには、その名に覚えがあった。
たしか、連合で違法な人体実験を行い、学会を追放された男の名だったはず。
パトリックは、こんな男まで抱え込んでいたのか。
パトリックが部屋を出ていき、ライトマンだけが残る。
「さて、さっそく仕事に取り掛かろう。
私には、人類の明るい未来のためにやらなければいけない事が山積みだからね」
クルーゼは、存在すら秘匿されたライトマンのために用意された研究所で処置を受ける事になった。
その研究所を出たクルーゼは変わっていた。
しかし、常に仮面を被っている彼の変化に気付く者は誰もいなかった。
悪役達の内部事情も、徐々に明らかになっていきます。
アスランが酷い目に遭ってますが、これはアンチに該当するのだろうか?
次回は間話になります。