歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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間話:光の人

 

 

 

 クリス・ライトマンは、裕福な家庭にコーディネーターとして産まれた。

 両親は優しく、周囲の者たちから尊敬される人格者でもあった。

 クリスは、両親からコーディネートによって得られた才能を世のため、人のために使って欲しいと言われて育った。

 クリスも優しい自慢の両親の期待に応えようと努力を重ねていく。

 このまま、優しく優秀な大人に育つと思われた。

 事実、周囲の人々は彼を優しい優等生だと思っていた。

 しかし、その内面は静かにゆっくりと両親の期待とは違う方向に変質していった。

 

 世界では、コーディネーターとナチュラルの確執が問題になっていた。

 学校では、コーディネーターの生徒がその生まれと能力をひけらかし、周りを見下すことでナチュラルの生徒の反感を買っている。

 ナチュラルの生徒たちにも、嫉妬からコーディネーターに陰湿な嫌がらせを行う者がいた。

 世界でも、その構図は変わらなかった。

 各分野で優れた業績を残しながら、コーディネーターである事を鼻に掛けて周りの顰蹙《ひんしゅく》を買うような態度を取り、テロの標的にされていた。

 

 そんな世界を高い知性と理性を持つ子供が見て、どう思うだろうか。

 

 何故、自分以外のコーディネーターたちはナチュラルを見下すなんて酷い真似ができるのだろう?

 能力の低いナチュラルたちが可哀想じゃないか。

 自分が持つ能力を世界のために役立てるために、今は隠さなければいけない。

 そう思い、クリスは見せる実力を秀才と言われる程度に抑えていた。

 

 クリスは天才だった。

 ライトマン家は裕福ではあったが、そこそこのコーディネートが出来る程度でしかなかった。

 だが、コーディネート技術自体が不完全で不安定なものなのだ。

 どれほど高い金を払って最高のコーディネートを施しても、期待通りの成果が保証されるわけではない。

 逆にそこそこのコーディネートでも、ナチュラルと同じように天才が生まれることもある。

 コーディネーターは、平均値がナチュラルよりも上にあるだけなのだ。

 クリスが持つ才能は、まさに奇跡と呼ぶべきレベルにあった。

 

 そんな天才児が、不完全で不安定な世界を見ながら成長していく過程で、理想の世界を思い描くようになる。

 それは、生まれや才能で差別されない世界。

 全ての人々が、優れた能力を持つことが出来る世界。

 そんな世界を実現させるために、自分の実力を隠し、必要な能力を得るために努力を重ねていった。

 

 

 大人になったクリスは、その理想を実現させるために行動していく。

 人が持つ可能性の追求。

 能力の拡張や開発と言った技術の研究を始めたのだ。

 誰もが安全に高い能力を付与できるなら、今、問題になっているコーディネーターとナチュラルの確執を解決する糸口になる。

 軍や警察は、コーディネーターの兵士や犯罪者を相手にする事を考えなければならない。

 財閥系の者たちも、宇宙開発をコーディネーターに頼らなければいけない現状を変えるかもしれないと期待をよせた。

 それぞれの立場、事情から出資が行われていく。

 

 それは、クリスの能力の高さもあったが、何よりもその人柄のおかげでもあった。

 クリスの性格は穏やかで、明るく、人当たりも柔らかかった。

 そんな男が、本気で理想の世界を語るのだ。

 誰もが才能を超越した超人的な能力を持つことが出来るなら、今ある問題の多くを解決できる。

 彼自身がコーディネーターであるにも関わらず、コーディネーターの優位を否定する未来だった。

 そんな彼が目指す未来は、きっと素晴らしいものだろう。

 誰もが、そう信じていた。

 

 

 ライトマン研究所

 

 ベッドの上で拘束された者たちが、苦痛にのたうち回っている。

 人体実験の被験者となったオルガたちである。

 彼らは、薬物による肉体強化の実験データを取られていた。

 薬物が切れた事による禁断症状に苦しんでいるのだ。

 

 そんなオルガたちの様子をクリスは涙を流しながら見ていた。

 

「苦しいかい?

 分かるよ、辛いよね」

 

 クリスは、苦しみもがくオルガたちに優しく話しかける。

 

「でも、君たちの献身が世界の明るい未来に繋がるんだ。

 君たちの罪は浄化されて、世界中の人々が感謝するだろう。

 君たちは英雄だよ」

 

 オルガたちは、そんなクリスを憎しみの籠った目で睨みつける。

 

 何が明るい未来だ!

 何が英雄だ!

 

 俺たちの献身だ?

 こんな事は聞いてない!

 俺たちは、クライシスを生き延びるために犯罪行為に手を染めていた。

 逮捕され、刑に服している時に減刑と引き換えにある実験の被験者に志願しないかと提案された。

 研究の責任者も信頼できる男だと聞いていた。

 実験に参加すれば過去のデータは消され、新しい身分が与えられる約束だった。

 少し実験のデータ取りに付き合って、新しい身分で再出発できると思っていたのに。

 俺たちは騙されたんだ!

 そう思い、世界の全てを憎むようになっていた。

 

「君たちの犠牲は無駄にはしない。

 約束するよ、必ず理想の世界を作ってみせる!」

 

 クリスのその言葉で、この苦しみが死ぬまで続くのだと理解し、オルガたちは絶望した。

 その苦痛は、研究の実態に気付いたアズラエルが当局を研究所に踏み込ませるまで続くのだった。

 

 幸いにもアズラエルが気付くのが早かったため、なんとか治療可能な段階で保護する事ができた。

 彼らは、自分たちを助け出してくれた上に、今後の身の振り方まで世話してくれたアズラエルに感謝し、彼の下で部下として働く事を選択することになる。

 

 

 

 

 クリスは当局の動きに気付いて、研究資料を待って逃亡していた。

 学会も追放された。

 連合では、もう研究を続けることは出来ないだろう。

 クリスは嘆いていた。

 

「何故、世界は理想を理解できない人たちばかりなのだろう?

 科学の発展のために犠牲は避けられない。

 今までもそうだったじゃないか」

 

 クリスも、自分がマッドサイエンティストと言われるような事をしている自覚はあった。

 研究を進めるために人体実験をしていたのだ。

 犠牲になるのは人の命。

 軽いわけがない。

 罪悪感で涙し、眠れぬ夜もあった。

 それでも、これは理想の世界のために必要な事だ。

 こんな辛い事、誰にでも出来るものじゃない。

 

「だけど、私になら出来る。

 いや、私にしか出来ないんだ!

 私が理想の新世界を作ってみせる!」

 

 世界に向けた、自分の理想を目指して進み続けるという宣言だった。

 そして、その宣言に応える者がいた。

 

「素晴らしい意志の強さですね。

 その理想、私たちの下で目指してみませんか?」

 

 突然、見知らぬ男に声をかけられた。

 追われる立場のクリスからすれば、警戒して当然の事態である。

 しかし、クリスはこの展開を予測していた。

 

「やあ、待っていたよ。

 いつか接触してくると思っていたんだ」

 

 クリスの意外な返答にも、男はにこやかに応える。

 

「ほう、我々の行動を予測していたと?

 確かに私はプラントのザラ派から派遣された者です」

 

「ああ、そんな表向きの答えは必要ないですよ。

 あなた方はあらゆる組織に入り込んでいるけど、決して歴史の表舞台には出てこない。

 組織としての名前すら無いんじゃないかな?」

 

 クリスの言葉に男の表情から笑みが消える。

 

「・・・どうやって私たちの存在にたどり着いたのです?」

 

「歴史を注意深く見ていれば分かるよ。

 歴史の転換点と言えるような時に、普段からは考えられない行動をする者や突然方針を変える者がいる。

 歴史のキーマンと言える者の周辺に入り込んで、思考を誘導する事で歴史をコントロールしてきた。

 言うなれば、影の演出家と言ったところかな?」

 

「そこまで話して、我々に消されるとは思わないのですか?」

 

「思わないよ。

 私に声を掛けたのは、ザラ派に梃入れする必要があるからでしょう?

 穏健派をコントロール出来なくなってきたと言った所ですか?

 私は、あなたたちの意を汲むことが出来るのですよ」

 

「・・・いいでしょう。

 確かに、私の独断であなたを処分する事は出来ません。

 私たちの意思決定がどこで行われているのか、私にも分からないのですから」

 

 クリスは、ザラ派からの誘いに乗ると言う形でプラントに上がった。

 

 

「お前が報告にあった科学者か?」

 

「ええ、こんな私を拾っていただき、ザラ国防委員長には感謝しています」

 

「ふん、非人道的な研究をして学会を追放されたらしいな」

 

「科学の発展のための犠牲を理解できない人が多くて。

 嘆かわしいことです」

 

「私は、そんなくだらぬ感傷に興味はない。

 結果を出せ!

 求めるのはそれだけだ」

 

「わかりました。

 では、必要な被験者を用意してください」

 

「プラントの市民権を求めてザフトに志願した者たちを回そう。

 開戦までプラントに付かなかった愚か者たちに相応しい役割だ」

 

「ありがとうございます。

 必ず結果を出すとお約束しますよ」

 

 部屋を出て行くクリスを見送りながら、パトリックは不快げに顔を歪めた。

 

「狂人め!

 だが奴の能力は確かだ。

 せいぜい役に立ってもらおうか」

 

 こうして連合では完成させられなかった生体CPUの研究をプラントで続けていく事になる。

 ザラ派のトップを後ろ盾にした事により、研究はより過激な、より残酷な実験が行われていく。

 その被験者には、クライシスによって地上に吹き荒れた反コーディネーター感情による迫害から逃れてきた者たちが選ばれた。

 家族のためにプラントの市民権を求めて志願した者たちだ。

 彼らは訓練中に事故死、あるいは作戦中に戦死したと家族に伝えられる事になる。

 地獄への道は善意で舗装されていると言う言葉がある。

 彼らを地獄に叩き落としたのは、クリスの純然たる100%の善意だった。

 犠牲になった人たちも、今は辛くとも、自分が作る理想の新世界を知れば分かってくれるだろう。

 そんな世界の礎になれた事に誇りを感じるはずだ。

 クリスは、本気でそう思っていた。






クリス・ライトマンの性格は、何も知らない人からは善人に見えます。
本人も、本気で世界を良くしようと思ってます。
やってる事は最悪ですが。
良かれと思って、悲劇を撒き散らしていくタイプですね。
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