歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
連合がビクトリア基地を奪還して、マスドライバーの修理がもうすぐ終わるという頃。
ザフト宇宙軍による軌道爆撃でドイツの工業地帯、ルール地方が壊滅的被害を受けたと言う報告が入った。
ビクトリアで使われた兵器の改良型が使用され、ビクトリアの時よりも命中精度及び攻撃密度が高まっていた。
ザフト艦隊の動きを察知した連合宇宙軍第5艦隊が爆撃の妨害を行うも、ジャスティス、フリーダムの2機を筆頭とする護衛部隊を突破できず、爆撃の阻止に失敗していた。
カナード・パルスに与えられていた新型モビルスーツ『ハイペリオン』は、高い防御能力を有するが、反面、継戦能力が乏しく、ザフトの新型2機を相手に長時間戦い続けることが出来なかったのだ。
連合は、ザフトの狙いが工業地帯を破壊することで国力を削ることだと分かっているが、地球全ての工業地帯に迎撃部隊を配置することは不可能だ。
よって、強力な護衛部隊がいるザフト艦隊を攻撃することで爆撃を阻止するしかない。
今や連合屈指のエース部隊に成長していたアークエンジェルに白羽の矢が立つのは当然の流れだった。
「君たちアークエンジェルには宇宙に上がって、再建が成った第8艦隊に復帰してもらう。
以後は、ザフトの軌道爆撃阻止作戦に従事する事になる」
「第8艦隊に復帰ですか?」
「そうだ、第8艦隊もようやく艦隊定数を回復し、慣熟訓練も終了したことで戦力化の目処が立った。
宇宙艦隊へのダガーの配備も進んでいる」
マリューはその答えを聞き、ハルバートン提督がようやく満足な戦力を得ることが出来たのだと安堵していた。
「それに伴い、アークエンジェルには宇宙用の機体としてバルキリーが追加配備される。
ムウ・ラ・フラガ少佐、トール・ケーニヒ少尉の両名は、機種転換訓練を実施しておくように」
「了解しました」
トールとフレイは肩書きから候補生が取れて、正式なパイロットとして認められた。
同時に階級も少尉へと昇進している。
アークエンジェルは当初、G兵器5機の運用を想定されていた。
今、ストライク及びバルキリー4機と機種は異なるが5機のモビルスーツという予定されていた戦力が整ったのだ。
万全な戦力を用意されたアークエンジェルは、本来の所属である第8艦隊に復帰し、戦場を宇宙へと移すための準備を始めた。
マスドライバーの修理も終わり、アークエンジェルが宇宙へと上がる日が迫った頃に、またアズラエルが訪ねてきた。
「やあ、皆さん、宇宙に上がる準備は順調ですか?」
「アズラエル理事、暇なんですか?」
「そんな訳ないでしょう。
忙しい中、時間をとって来てるんですよ。
イレブン君も遠慮と言うものが無くなってきましたね」
アズラエルが何度もアークエンジェルを訪れている事で、もはや顔馴染みの仲間のような扱いになっていた。
本来、アズラエルは国防産業理事だ。
VIPとして扱われる立場だが、その気安い態度に気を悪くするどころかアークエンジェルの緩い雰囲気を気に入っていた。
(普段はこんなに和やかなのに、戦場に出ればエース部隊として凄まじい戦果を上げるんですよね)
「まったく、せっかく情報を持ってきてあげたと言うのに」
アズラエルは相変わらず皮肉屋な態度を取ってしまうが、キラとのやり取りでアークエンジェルのクルーたちにも根はいい人だとバレている。
これがツンデレキャラなのだなと生温い目で見られているのだ。
「それで、理事が持ってきた情報というのは?」
このままでは話が進まないと思ったナタルがアズラエルに先を促す。
「連合が新たな作戦の発動を決定しました」
「新たな作戦、ですか?」
「と言ってもアークエンジェルや第8艦隊の行動に大きな変更はないですよ」
「それでも理事が情報を持ってきたって事は、我々にも関わって来るのでしょう?」
「その通りです。
カガリさんが、オーブ政府を通して連合に要望を上げてきたんですよ。
連合各国は、その要望を受諾して新たな作戦プランを採択しました」
「カガリが!」
「新たな作戦名は、オペレーション・ミューズです」
「オペレーション・ミューズ?」
「ええ、ミュージックの語源となった音楽の女神の名を冠する作戦ですよ」
「明らかに、カガリの嬢ちゃんが中心になりそうな作戦名だな」
「カガリさんと今やウズミ代表の形見となったワルキューレが、ビクトリアのマスドライバーで宇宙に上がります」
「カガリは、また戦場で歌うつもりなんですね」
「連合が寛大な条件で講和する意思があると示すために、連合軍の作戦に同行して歌ってもらうんです。
今のザフトやプラントは、連合の言葉を信じてくれないでしょう。
ですが、ザフトに国を焼かれ、父親まで殺されたカガリさんが、それでも憎しみや怒りを抑えて和平を願う平和の歌を歌えば、連合が本気で平和を望んでいると分かってくれるかもしれない」
「また、カガリにすべてを背負わせるんですか?」
「そんな訳ないでしょう!
連合の上層部だって分かってるんです。
今まで一人の少女の悲痛な覚悟に縋っていた。
そんな情けない事を続けたいと思うような人は、多くはないですよ」
そう言うアズラエルの顔には、アークエンジェルのクルーたちがカガリの強さの意味に気付いた時と同じ苦悩が浮かんでいた。
「カガリさんに頼らなくていい世界を作るためにカガリさんに頼る。
情けない作戦なのは分かってますけど、それでも世界を変えようと連合は本気で思っているんです。
ワルキューレの護衛には、アークエンジェルが就くことが決まっています。
連合屈指のエース部隊である皆さんに任せます。
必ずカガリさんを守り抜いてください」
そう言ってアズラエルが頭を下げる。
アズラエルのような世界のトップに近いVIPが、一戦艦のクルーに過ぎない自分たちに頭を下げて頼んでいるのだ。
その事実が、連合の上層部の意志を雄弁に語っていた。
「任せてください。
カガリさんは、必ず無事に帰してみせます!」
アークエンジェルのクルーたちは覚悟を決めていた。
カガリに頼らなくていい世界にするために、まずは戦争を止めなければいけない。
追悼式典で歌うカガリを見てから、そう思って出来ることを続けてきたのだ。
連合の上層部も同じ考えだと知った。
いや、上層部だけじゃない。
地球の人々が、カガリ一人に頼るのを辞めようとしている。
カガリだけに歩かせるのではない。
みんなで一緒に進んでいくのだ。
カガリに新しい明日を見せるために、必ず守ると心に決めてアークエンジェルは宇宙に上がった。
軌道上、第8艦隊
アークエンジェルは第8艦隊に合流し、ハルバートン提督に着隊の報告を行っていた。
「アークエンジェルは第8艦隊に復帰。
以後は、提督の指揮下に入ります」
「うむ、アークエンジェルの復帰を歓迎しよう。
アークエンジェルを降下させた時は、もう共に戦うことはないと思っていた。
だが、こうして轡を並べて戦える日が来た」
「私も提督の無事を聞いて安堵しておりました。
共に戦える事を嬉しく思います」
「作戦の詳細については聞いているな?」
「はい、カガリ・ユラ・アスハ及び彼女が乗るワルキューレの護衛ですね」
「そうだ、たった一人の少女に頼る情けない作戦だが、望む明日へと進むために守り切らなくてはならない」
「覚悟はあります。
どれほど傷付いても、微笑みを浮かべて前に出て守ろうとする彼女を。
もう、そんな哀しい姿を、ただ見ているだけなんて出来ません」
「本当に逞しくなったな。
君が艦長だったからこそ、アークエンジェルは連合屈指のエース部隊に成長できたのだろう」
「いえ、私の力など些細なものです。
クルーやパイロットたちが支えてくれたおかげです」
「部下に好かれ、信頼されるのも艦長としての資質だ。
自信を持っていい。
君こそがアークエンジェルの艦長に相応しい」
「提督、ありがとうございます」
アークエンジェルが宇宙に上がって間もなく、ワルキューレもビクトリアから宇宙に上がってきた。
艦隊の指揮官であるハルバートン提督への挨拶を済ませた後、護衛のアークエンジェルに通信を繋げた。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。
第8艦隊にようこそ」
「ワルキューレ船長、グレイス・オオタです。
よろしくお願いします。
貴艦には、カガリがお世話になりましたね。
後ほど、本人と伺わせていただきます」
「いいえ、カガリさんには助けられてばかりでした。
クルー一同で歓迎させてもらいますわ」
グレイスは、元々カガリのマネージャーだった。
クライシスで行方不明になった際、食料がなくなり飢え死にの危機が迫った時に自らの腕を切り落としてまでカガリを守った。
その報告を聞き、ウズミも感謝していた。
そんなグレイスだからこそ信頼できると、カガリのために造られたサウンドシップ・ワルキューレの船長を任されたのだ。
カガリが危険な場所に行くなら、必ず一緒に行くと誓っていたグレイスも船長の任を喜んで引き受けた。
もちろん、船の運航は専任のスタッフが行なっている。
マリューとグレイス、共に本職が別にありながら事情により一隻の船のまとめ役としてトップに立った者同士のシンパシーがあったのだろう。
二人が親しくなるのに時間は必要なかった。
カガリがアークエンジェルを訪れた。
メネラオスのシャトルで地球に降りるため、アークエンジェルを離れてから、それほど時も経っていないのに随分と懐かしく感じる。
あれから色々な事があったからだろう。
アークエンジェルの艦内で久しぶりにキラと会っていた。
あの頃より、随分と逞しくなっているようだが自分を真っ直ぐに見つめる瞳には、変わらない優しさがあった。
地上でも激戦を潜り抜けていき、白き雷光と言う二つ名を付けられるまでになった。
そんなアークエンジェルとストライクの活躍は、オーブにまで届いていた。
それでも、キラの心が優しさを忘れないでいてくれた事が嬉しかった。
「キラ、無事で良かった」
そう言って透き通るような笑顔を見せるカガリ。
キラはなにも言わずに、そんなカガリを抱きしめていた。
「えっ、キラ?」
突然のキラの抱擁に戸惑う。
キラの事は憎からず想っていたので、別に不快ではなかった。
むしろ、キラの優しさに包まれているようで心地良くすらあった。
だが、キラの意図が分からない。
「カガリは初めて会った時から、いつも他の人のために背負ってばかりだね。
今も、いっぱい背負ってる。
君自身の怒りや悲しさを押し殺さないで。
せめて、僕の前でくらいは、なにも背負わないでいてほしい」
「・・・キラ」
「あの時、君の心が僕を守るって言ってくれたよね」
カガリは自分らしくなく大胆になってキラの頬にキスしていた事を思い出した。
「あっ、あれは!」
「だから、僕に君の心を守らせて欲しいんだ」
「キラ・・・」
カガリは、キラの気持ちを理解した。
自分の世界を変えたいと言う覚悟を否定しないでいてくれた。
その上で、父親を失った事を悲しみ、その死を悼む事ができる場所になりたいと言ってくれているのだ。
やっぱりキラは、私をただの女の子としてしか見ていない。
ただのカガリに寄り添ってくれるキラの心が有難かった。
カガリは、キラの胸の中で声を押し殺して泣いていた。
もう、一人で泣かせなんてしない。
キラは、自分の胸で震えながら静かに泣くカガリを抱きしめ続けた。
今は、まだ何も背負わなくていいと言えるほど、僕は強くないけど。
世界中の人たちが、僕が望んでいる世界を目指してくれるようになった。
だから戦うよ。
君をその未来に連れていくために。
そんな二人をイレブンとフレイが見ていた。
「いいの?」
フレイがイレブンに問う。
「いいさ、カガリの心に寄り添うことが出来るのは、キラだけだろう」
「イレブンさんは、自分の手でカガリを守りたがると思ってた」
「確かにカガリを守りたいと思っている。
でも、側で守るのはキラの方がいい。
キラになら、安心して任せられる」
そう言って、優しい顔をするイレブン。
そんなイレブンの表情に、フレイは一瞬辛そうな顔をしてしまう。
イレブンが、その生まれから周りに遠慮している所がある事には気付いていた。
兵器として作られた自分より、キラの方がカガリに相応しい。
そう思って自分の心に蓋をしているのだろう。
カガリに自分の気持ちを伝えた方がいい。
イレブンの為を思うなら、そう言うべきだった。
結局、フレイの口からその言葉を出す事は出来なかった。
私は、卑怯で意気地なしね。
このまま、キラとカガリの仲が上手くいけばいいと期待してしまっている。
なにが気持ちを伝えた方がいいよ!
私も自分の気持ちを伝えることが出来ないでいるのに。
強くなりたいと思ってた。
なのに自分の中の想いを自覚して、その想いが大きくなればなるほど怖くなってしまう。
イレブンがカガリの所に行ってしまうんじゃないか。
カガリがイレブンを受け入れてしまったらどうしよう。
そんな事を考えてしまう自分が嫌になる。
このままここにいると自分がどんどん嫌な娘になっていってしまうと思い、その場を離れた。
イレブンが離れていくフレイの背中を心配そうに見つめていた。
マクロス風な人間関係にするつもりなので、原作のようなドロドロな感じにはしないつもりです。