歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アスランとニコルは、ルール地方の爆撃任務を終えてプラントに帰還していた。
トールハンマーは改良されたとは言え、ニュートロンジャマーの影響下では、やはり命中精度に問題がある。
そのため、かなりの数を投下しなければ効果を期待できないのだ。
連合の第5艦隊の妨害を受けて、護衛部隊も無傷ではない。
補給と修理を行わなければ、次の任務のために出撃することは出来なかった。
すべての準備が終わり、出撃が間近に迫った頃に、ニコルは地上から上がってきたディアッカと会うことが出来た。
そこで、イザークが宇宙軍の攻撃で撃墜された事を知った。
「そんな、イザークが!」
「やっぱり聞かされてなかったか」
「どうしてそんな事を、司令部は何を考えているんでしょうか?」
「分からないが、今のプラントは上に行くほどまともじゃない気がする」
「ディアッカ、実はアスランの様子もおかしいんです」
「アスランが?
あいつは、もともとおかしかっただろ」
「茶化さないでください!
本当にどんどんおかしくなっているんです」
ニコルの切羽詰まった様子に、かなり深刻なのだと分かり、ディアッカもふざけるのはやめた。
「ニコル、具体的にどうおかしいんだ?」
「感情の起伏がどんどん無くなっています。
それに、非人道的な任務に対しても疑問を持たなくなってきました。
後、理由は分からないですが、カガリ・ユラの歌を聴くと頭痛がするみたいです」
「カガリの歌で頭痛?」
ディアッカはその話で、地上で聞いたある噂を思い出し、顔をしかめた。
「あくまで地上で聞いた噂だが、カガリの歌には洗脳を解く力があるらしい」
「洗脳をですか?」
「ああ、ブルーコスモスに洗脳されていたコーディネーターの兵士を救ったって話だ」
「まさか、アスランは議長の息子ですよ!
洗脳なんて出来るはずが・・・」
「それも含めて親父に探ってもらうよ。
親父は中道派だし、評議会で情報部門を統括してるからな」
ニコルは驚いていた。
ディアッカが評議会議員の父親に頼んでまで、プラントの現状を知ろうとしている事に。
自分は、最近までプラントやザフトがおかしい事に気付かなかったのに。
ディアッカは、いや、多分イザークも、地上で色々なものを見て、戦いの技術だけじゃなく、人間としても成長していたんだ。
「お前も、アスランの周りで何か変化がないか探っておいてくれ」
「はい、相談に乗ってくれてありがとうございました」
「よせよ、同じクルーゼ隊だったんだ。
アスランの事は頼んだぞ。
もう、仲間を失うのは嫌だからな」
「任せてください。
ディアッカも気を付けて」
ディアッカと別れて、ニコルはアスランと再び出撃していった。
プラントから大規模な艦隊の出撃が確認された。
その進軍ルートから、目標はデトロイトの工業地帯だと判明。
第8艦隊に出撃命令が下った。
「今回の作戦で、俺はキラとエレメントを組む。
イレブンはフレイと組んでくれ。
トールは、ランチャーバルキリーで後方から俺たち4人の援護だ」
「「「「了解!」」」」
この部隊でモビルスーツの操縦に習熟しているのはキラとイレブンの二人だ。
その二人と、最近モビルアーマーから乗り替わったムウとまだ技量が未熟なフレイをそれぞれ組ませることで戦力を均衡化したのだ。
トールのバルキリーはランチャーパックが装備された支援用の機体になっている。
「第5艦隊からの情報で、アラスカで確認された新型機も護衛部隊にいたそうだ。
同じ機体なら、2機で掛かれば抑えられる。
そいつらを抑えていれば、後はダガー隊がザフトの軌道爆撃を阻止してくれる」
「僕たちは、時間を稼げばいいんですね?」
「ああ、ワルキューレの護衛もあるから爆撃阻止のための攻撃にまで参加する訳にはいかないだろ」
「俺たちは新型を抑えることに集中すればいい。
ザフトも艦隊の護衛があるんだ。
ワルキューレを攻撃する余裕はないだろう」
「よし、会敵まであまり時間もない。
それぞれの機体で待機だ」
第8艦隊も、ザフトの爆撃を阻止すべく出撃していく。
第8艦隊が迎撃ポイントに到着した時、ザフト艦隊がデトロイトへの爆撃コースに入ろうとしていた。
すぐに第8艦隊が攻撃を仕掛ける。
第8艦隊の艦艇から次々とダガーが出撃していく。
艦隊後方のアークエンジェルからもキラ達が出撃。
さらに後方にワルキューレが展開している。
「オペレーション・ミューズ、開始します!」
戦場にカガリの歌が流れ始める。
戦略爆撃を行なっているザフト艦隊は、その殆どがザラ派、いわゆるコーディネーター至上主義者たちで構成されている。
戦意も高く、ナチュラルの民間人の被害など気にしない者ばかりだった。
それでも、戦場にカガリの歌が流れ始めた事に驚愕している。
いや、ザラ派だからこそ驚いているのだ。
自分たちの派閥の手でオーブは焼かれ、代表のウズミも殺されている。
それでもカガリの歌は、恨み言ではなかった。
流れてきたのは平和への願いを込めた歌。
戦いを止めて、分かり合うための一歩を踏み出そうと言う想いが伝わってくる。
プラントでは、穏健派がクライシスの実態や地球の各国との関係を公開していた。
知れば知るほど、和平など無理だと思ってしまう。
それほど、プラントの立場は悪かった。
そんな自分たちに、カガリは和平を求めたのだ。
衝撃だった。
なぜ、そんな事が出来る?
俺たちが憎くないのか?
いや、憎くないわけがない。
その感情を飲み込んででも、平和が欲しいのだ。
これ以上、自分と同じ思いをする者が出ないように。
強硬派の者たちにすら、その想いは届いていた。
だが、それを受け入れるわけにはいかない。
穏健派が起こしたクライシスだけではないのだ。
自分たちも、多くの非人道的な行いをしてきた自覚はある。
血のバレンタインで家族や大切な人を失った者だけではない。
むしろ、そんな者は少数派だ。
多くは、見下していたナチュラルに同胞を殺されたと義憤に駆られ志願していた。
実際に戦場に出てみれば、モビルスーツの性能で簡単にナチュラルを落とせた。
優秀な自分達が下等なナチュラルを躾けてやらなければ。
そんな考えがエスカレートしていった。
だが、気づけば連合がモビルスーツを開発し、戦場が宇宙に押し戻されつつある。
自分達がしてきた事が重くのしかかってきた。
銃を下ろす事は出来ない。
連合に屈すれば、どんな報復をされるか分からない。
プラントでは、コーディネーターは優秀で理性的な種族であり、ナチュラルは下等で野蛮な種族だと教えられてきた。
きっと自分達が想像も出来ないような残酷な方法で復讐される。
プラントは完全に支配され、もう、独立など夢見ることも出来なくなるだろう。
ナチュラルを野蛮だと信じているが故に絶望に染まっていた。
カガリの歌も、想いも、連合が勝つために利用している。
ザフトの兵士達には、そう見えていた。
第8艦隊のダガー部隊が、ザフト艦隊に攻撃を仕掛けている。
しかし、護衛のジャスティスやフリーダムに次々と落とされ、艦隊にたどり着けないでいた。
そこにキラ達、アークエンジェルのモビルスーツ部隊が到着した。
アラスカの時と同じ構図だった。
彼らが新型2機を抑えている間にダガー部隊が、ザフト艦隊へ攻撃を掛ける。
しかし、護衛はジャスティス達だけではない。
ダガー部隊は、ジンやシグーと激しい戦いを行いながら、ザフト艦隊を目指して進んでいく。
キラとムウがジャスティスに、イレブンとフレイがフリーダムへと向かう。
トールは、後方から支援に回った。
キラ達は、アスラン達を抑えることが出来ると思っていた。
ジャスティスやフリーダムの性能がアラスカの時のままだったなら、そうなっていただろう。
だが、ジャスティスとフリーダムは、実戦で得たデータをフィードバックし、ニュートロンジャマーキャンセラーも完成した事で、本来予定されていた性能を発揮出来るようになっていた。
ジャスティスがその機動力で距離を詰め、ストライクにビームを撃つ。
ストライクが持つアンチビームシールドは、その一撃で砕けてしまった。
アラスカの時は、数発は耐えられそうだった。
それが、たった一発で破壊されてしまったのだ。
「なっ、ビームの威力が上がっている?」
「キラ、気を付けろ!
機体の性能がアラスカの時とは段違いだ!」
キラ達も、ジャスティスの性能が大きく向上している事に気付いた。
キラは、すぐに切り札を切る。
キラの中で何かが弾ける。
感覚が研ぎ澄まされ、深く戦闘に集中していく。
それでも対応できない。
アラスカの時ですら撃墜寸前まで追い詰められていたのだ。
本来の性能を完全に引き出す事が出来るジャスティスの前に一方的に押されてしまっていた。
ムウも、必死にストライクを援護するが、モビルスーツに乗り替わったばかりで、リスクのある機動を取ることも出来ずにいた。
トールのバルキリーからアグニによる支援攻撃も行われているが、その機動性から捉えることが出来ない。
キラが調整した狙撃プログラムのお陰で、トールの支援攻撃の精度は実力以上に高い。
だが、敵の動きを予測して未来位置にビームを撃つと言った事が出来るほどの実力はない。
圧倒的に経験不足なのだ。
それでも、ストライクをなんとか援護しようとアグニを向けて撃ち続けるが、ジャスティスの反撃を受けて、アグニを右腕ごと破壊されてしまう。
トールは、まともな援護を出来なくなってしまった。
そして、ついにジャスティスの攻撃がストライクを捉えた。
ジャスティスのビームがストライクの右脚を撃ち抜いていた。
右脚を失ったストライクは、それでもビームライフルを構えてジャスティスを撃つが、ジャスティスは躱しながら距離を詰める。
すれ違いざまに、今度はビームライフルを持っていた腕を切り飛ばしていった。
ストライクは、残った腕でビームサーベルを構える。
普通に戦っては勝てない。
向かってくるジャスティスにカウンターを狙っているのだ。
ストライクとジャスティスが交錯する。
凄まじい速度で向かってきたにも関わらず、ジャスティスはストライクのビームサーベルをも躱していた。
ビームサーベルの下を掻い潜り、残った左脚も切り落としていく。
もうストライクには、ほとんど戦闘力は残っていなかった。
ジャスティスが、とどめを刺そうとストライクに迫る。
そこにムウのバルキリーが割り込む。
ムウは、キラを守るために必死にジャスティスと切り結んでいた。
モビルスーツに乗り替わったばかりだが、その直感とエンデュミオン・ダンスと呼ばれる独特の機動で回避していく。
しかし、キラすら一方的に落としたジャスティスを前にすぐにボロボロにされていく。
装甲は削られ、四肢はストライクと同様に斬り飛ばされていく。
それでも引けない、後ろには自分以上にボロボロのストライクがいるのだから。
一方、フリーダムに向かったイレブンとフレイも絶望的な戦闘をしていた。
完全に性能を発揮する事の出来るフリーダムは、その火力でイレブン達を圧倒していた。
イレブンとフレイが必死に距離を詰めて攻撃しようとするが、その弾幕と機動性に追いつく事も出来ずに一方的に撃たれ続けていた。
イレブン達のバルキリーはダメージが蓄積されていき、このままでは何も出来ずに撃墜されてしまう。
「イレブンさん、私が全速で突っ込んで攻撃を引きつけるわ!」
「駄目だ、危険すぎる!
こいつらは、アラスカの時とは違うんだぞ!」
「私のバルキリーはフルアーマー。
だから、これは私の役目よ!」
「フレイ!」
フレイが追加装甲の防御力を信じて、フルスロットルでフリーダムに向かう。
ニコルも、突撃してきたフレイの機体に火力を集中させた。
完全なフリーダムの火力は高く、想定以上のダメージを受けてしまう。
フルアーマーの装甲すら貫通して、フレイのバルキリーはダメージを負っていく。
そこまでしても距離を詰めることは出来なかった。
フリーダムは、ただの砲戦型モビルスーツではない。
核動力の有り余るパワーを用いた、火力と機動性を両立させた機体なのだ。
追加装甲がボロボロになり、中の機体が剥き出しになっていく。
とどめの砲撃がフレイの機体に迫る。
そこに割り込み、盾になる機体が一つ。
イレブンのバルキリーだ。
フレイを守るために、フリーダムの砲撃をまともに受けている。
すぐにフレイの機体以上にボロボロになってしまう。
そこに更なる追撃が加えられた。
イレブンが死んでしまう。
フレイにはそんな事、受け入れられなかった。
「イレブンさんは、私が守る!」
フレイの機体から追加装甲を前方にパージして盾にする。
追加装甲がフリーダムの砲撃で爆発した。
その爆発を目眩しにして、イレブンのバルキリーを抱えながら後退していく。
フリーダムからの更なる追撃はなかった。
ダガーの機体性能は、ジンやシグーよりも高い。
キラが改良したOSも、素晴らしい性能を発揮した。
ダガー部隊は護衛部隊を突破して、ザフト艦隊に取り付く事に成功していた。
ザフト艦艇が次々と損傷して、離脱を余儀なくされる。
もはや、デトロイトを爆撃する所ではなかった。
艦隊司令部は、すぐにジャスティス、フリーダムに救援を要請した。
ジャスティス達は、すでにアークエンジェルのモビルスーツ部隊を壊滅させている。
手が空いたのなら、早く戻ってきて艦隊を守れと命令を出したのだ。
「爆撃の邪魔をする者は、排除しなければ」
アスランのジャスティスが、ムウやキラにとどめを刺す事を止めて艦隊の方に戻っていく。
ニコルも、ザフト上層部に疑念を抱いている。
艦隊の救援要請を無視してまで、アークエンジェルのモビルスーツ部隊を撃墜するほどの戦意はなかった。
ジャスティスとフリーダムが引いた事で、キラ達の命はなんとか助かった。
それでも、すべての機体が甚大なダメージを負い、壊滅状態にまで追い詰められてしまった。
デトロイトへの爆撃も完全には阻止できなかった。
戻ってきたジャスティス達にダガー部隊が蹴散らされ、残っていた艦艇にトールハンマーの投下を許してしまったのだ。
しかし、ザフトにとっても不満の残る結果だった。
ダガー部隊に取り付かれ、多くの損害を出してしまった事で、十分な数のトールハンマーを投下出来なかったのだ。
デトロイトへの爆撃は、中途半端に終わってしまった。
ザフトは、再び来るだろう。
今度こそ、デトロイトを壊滅させるために。
それを止める力は、今の第8艦隊にはないのだから。
完全体のジャスティスとフリーダムには勝てなかった。
そして、元クルーゼ隊も、いろいろ動いていきます。