歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

48 / 126
繋がる想い

 

 

 

 ザフトの軌道爆撃は、不完全に終わってしまった。

 デトロイトは被害を受けたものの、損害は軽微に留まっている。

 ザフトとしては、到底満足できるものではなかった。

 プラント本国に戻り、補給と整備を済ませて、再び爆撃に向かうだろう。

 なにせ、連合が誇るアークエンジェルのモビルスーツ部隊を壊滅させたのだから。

 もう、自分達を止めることの出来る戦力はない。

 もし、圧倒的な物量で抑えようとするなら、それはそれで構わない。

 この作戦は、時間稼ぎが目的なのだ。

 連合の戦力を拘束できるなら、作戦目的は達成されるのだから。

 

 

 プラントへの帰還中にニコルがアスランに話しかける。

 

「今回の作戦で、カガリの歌が流れてましたけど、頭痛は大丈夫でしたか?」

 

「ああ、医師の先生に診てもらったし、薬も飲んでいるからな。

 ほとんど頭痛はなかったよ」

 

 アスランは、感情を感じさせない声で応える。

 

 まるで、命令を聞くだけの人形のようだ。

 なぜ、他の人たちは、アスランの様子に疑問を持たないのだろう?

 アスランは、あまり周りとコミュニケーションを取るようなタイプではなかった。

 親しいと言えるのは、クルーゼ隊のパイロットくらいだ。

 だから、周りは感情を見せずに冷静に作戦を遂行するフェイスとしか評価していなかった。

 

「薬ですか・・・

 そのお医者さまは、信頼できるんですか?」

 

「ライトマン先生は、父上に紹介された信頼できる医師だよ」

 

 信頼できる医師が、今のアスランの様子に気付かないはずがない。

 そして、その医師がパトリックの紹介だと言うことに衝撃を受けていた。

 まさか、アスランを洗脳しているのは、父親のザラ議長なのか?

 

「そう言えば、ラクスさんには会ってないんですか?」

 

「ラクスの歌にも頭痛を感じていたから、しばらく会ってないな。

 実は、ラクスとの婚約は解消されているんだ。

 だから、もう会いに行くなと言われている」

 

「婚約を解消すると言うのに、直接会ってお別れもしてないんですか?」

 

「ラクスには悪いと思ってるが、父上からそう言われているんだ。

 仕方ないだろう」

 

(アスランの様子がおかしいとバレないように、ラクスには会うなってことですか)

 

 ニコルの中で、プラント上層部への不信は確信に至っていた。

 

(とりあえず、アスランの薬をビタミン剤か何かとすり替えておきましょう)

 

 ニコルは、アスランのために出来ることを模索していく。

 

 

 

 アークエンジェル

 

 戦いが終わった後、カガリはアークエンジェルに来ていた。

 キラの部屋へと急いでいる。

 戦闘後にワルキューレのスタッフが話しているのを聞いたのだ。

 

 

「まさか、あのアークエンジェルのモビルスーツ部隊が負けるなんてな」

 

「ほとんど壊滅状態だろ?

 どうするんだ、これから」

 

「お前たち!

 キラは?

 ストライクは、どうなったんだ!

 無事なのか?」

 

「いや、俺たちも詳しくは・・・」

 

「グレイスに連絡を!

 すぐにアークエンジェルに向かう!」

 

 キラの無事を確かめようとアークエンジェルに来たカガリは、その格納庫で腕や脚を失うほど破壊されたボロボロのストライクを見た。

 

 キラは無事なのか?

 カガリの心は千々に乱れていた。

 

 キラの部屋の扉を開ける。

 

「キラ!」

 

「えっ、カガリ?」

 

 突然の訪問に戸惑っているキラに構わず、カガリがその胸に飛び込む。

 

「良かった、無事だったんだな。

 ストライクがボロボロで、心配したんだぞ」

 

 その言葉で、キラもカガリが自分の部屋に来た理由を知った。

 

「僕は大丈夫だよ。

 メディカルチェックでも問題なかった」

 

「それでも、負けたんだろ?

 お父様も死んだ。

 この上、キラまで失ったら私は・・・」

 

「心配かけてごめん。

 やっぱり、僕は弱いな。

 カガリには、明るい笑顔でいて欲しいのに」

 

 カガリは、キラは弱くなんかないと思っていた。

 キラは、私の心を簡単に揺さぶってしまう。

 何故だか分からないが、キラの存在をとても近く感じる。

 他人とは思えない。

 大切な人に思えてしまうのだ。

 運命という糸で繋がっている。

 そんな乙女のような思考をしてしまう自分に顔を赤くしてしまう。

 別の意味で顔を上げられなくなってしまった。

 

「カガリ、僕は弱いけど、それでもカガリを一人にしない。

 約束するよ、必ず君のところに帰ってくる」

 

 キラの言葉に、カガリの心を占めていた不安が消え、安堵と喜びが溢れてくる。

 キラは、私を強くも弱くもする。

 なら、私はキラのために強くなる。

 そう心に決めて、顔を上げる。

 その顔には、強い決意が浮かんでいる。

 だが、それは今までの哀しい覚悟の色とは少し違うものだった。

 

「不幸自慢は、もうおしまいだ。

 世界に寄り添ってなんかしてやらない。

 キラを失いたくないんだ。

 だから、世界を私に協力させる。

 そんな歌を世界に叩きつけてやる!」

 

 それは、キラが望んでいた、明るい、太陽のような笑顔だった。

 

「うん、今のカガリの笑顔が、僕は好きだよ」

 

 キラの優しい笑顔と言葉に、カガリは再び顔を赤くしてしまう。

 

(こんなキラだから、ラクスも惹かれたんだろうな)

 

「どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない。

 もう少し、こうしていて欲しい」

 

 カガリは、キラの胸の中でその優しさに甘えていた。

 

 部屋の外では、二人の会話をグレイスが聞いていた。

 

(やるわね、キラ君。

 君の前でなら、カガリは一人の女の子になれる)

 

 クライシスで、カガリに哀しい覚悟をさせてしまった。

 私の言葉では、カガリを止められない。

 だから、どんな危険な場所にでも着いていくと決めた。

 それしか出来なかったから。

 そんなグレイスにとって、キラの存在は救いだった。

 彼なら、幼い頃の、あの太陽のような笑顔を取り戻してくれる。

 

(頑張ってね、キラ君。

 カガリとの仲、応援してあげるわ)

 

 グレイスは、その場をそっと離れていった。

 

 

 

 アークエンジェルの一角で、イレブンとフレイが言い争っていた。

 

「どうして、あんな無茶をしたのよ!

 機体を盾にするなんて」

 

「先に無茶をしたのは、お前だろう!」

 

「私の機体はフルアーマーなのよ!

 あなたには死んでほしくない。

 命を粗末にしないでよ」

 

「それでも、お前を守ると決めたんだ。

 必ず、サイの下に無事に帰すと」

 

「バカ!私が好きなのは、あなたよ!」

 

 イレブンは、その言葉に驚いていた。

 自分は兵器として造られた。

 それは、否定できない事実だった。

 フレイは、そんな自分にそれでも人間だと言ってくれた。

 そんな優しい娘を幸せに出来るのは、サイのような人間だと思っていた。

 イレブンは、自分の想いを自覚していた。

 それでも、フレイにはサイが相応しいと思い、自分の想いに蓋をしていたのだ。

 

「わかってる。

 あなたにとって一番はカガリだって事は。

 だから、私に優しくなんてしないでよ!」

 

 自分の想い人にここまで言わせて、そのままになんか出来なかった。

 

 イレブンはフレイを抱きしめ、さらに言い募ろうとする、その口を自分のそれでふさいだ。

 今度はフレイの顔が驚きで染まる。

 イレブンに、好きな人にキスされている。

 フレイの頭はパンクしてしまって、何も考えられなくなっていた。

 イレブンは、ゆっくり離れていった。

 

「すまない、お前の気持ちに気付いてやれなかった」

 

「いいの、気にしないで」

 

「良くない、確かにカガリを守りたいとは思っている。

 だけど、それは恩人としてだ」

 

 イレブンは、今まで蓋をしていた想いを吐き出した。

 

「俺がそばにいたいのは、お前だ!」

 

 イレブンの言葉に、その想いに、フレイは瞳を潤ませている。

 

「本当に、私でいいの?」

 

「お前がいいんだ」

 

 二人の影が再び近づく。

 フレイは、そっと瞳を閉じた。

 影は一つに重なっていた。

 

「イレブンさん・・・」

 

「イレブンだ。

 お前には、そう呼んでほしい」

 

「・・・イレブン」

 

 そう呟き、フレイはイレブンの胸の中で幸せな気分に包まれた。

 

「サイに謝らなきゃな」

 

「イレブン?」

 

「どんなに罵られても、殴られても、フレイの事では堂々としていたいんだ。

 フレイの横は、もう誰にも、サイにも譲らない!」

 

 そんなイレブンの言葉に、フレイは優しく微笑んだ。

 今度は、フレイの方から影を重ねていった。

 

 

 

 アークエンジェルは、月の地球軍本部に帰還していた。

 搭載するモビルスーツがすべて損傷し、壊滅したと言っていい状態なのだ。

 しばらく任務に就くことは不可能となり、ブリッジは全舷休息となっていた。

 

 人が居なくなったブリッジに二つの人影がある。

 ムウとマリューだった。

 マリューがムウの胸に額を当てている。

 

「無茶をしたわね」

 

「すまないマリュー、だが・・・」

 

「わかってる。

 キラ君たちのために身体を張れないような隊長では、いたくないんでしょ?」

 

「マリュー・・・」

 

「わかってる、わかってはいるの・・・

 でも、あなたまで帰って来なかったら、私は!」

 

 顔を上げたマリューの瞳には涙が滲んでいた。

 マリューは、かつてザフトとの戦いで恋人のモビルアーマー乗りを失っている。

 もう、モビルアーマー乗りと恋人にはならないと誓っていたのに、結局、モビルアーマー乗りのムウに惹かれてしまった。

 

「すまない、これからも俺は、仲間のために無茶をすると思う。

 だけど、必ず生きて戻ってくる。

 俺も、キラ達も、一人も欠けずに生き残ってみせるよ」

 

「そんな奇跡みたいなこと、無責任に言わないで!」

 

「忘れたのか?

 俺は、不可能を可能にする男だぜ」

 

 そんなムウに、マリューは困った人ねと言う表情で微笑む。

 見つめ合った二人の顔が近づき、唇を重ねた。

 

 

「艦長、失礼します。

 少し相談が・・・!」

 

 ナタルがブリッジの扉を開いた先にあった光景に驚いている。

 

「ああっ・・・・・失礼しました」

 

 扉を閉めて、顔を赤くしたナタルが自分の部屋へと戻っていった。

 部屋に戻ったナタルは、まだ動悸を刻んでいる心臓に手を当てていた。

 部屋まで急いで来たからか?

 いや違う、艦内は無重力だ。

 急いだと言っても、走ってきた訳ではない。

 では、予想外の他人のラブロマンスを見てしまったことの動揺がまだ収まってないのか?

 いや、違う!

 ナタルは、そんな愚にもつかない思考を振り払った。

 認めよう、自分の想いを。

 ナタルは、唇を重ね合う二人の姿を見て、初めて自分の想いを自覚していた。

 だけど、自分の想いは叶わないだろう。

 艦長とモビルスーツ部隊の隊長。

 どちらも優秀で、部下からも慕われている。

 美男、美女のお似合いのカップルだ。

 何より、お互いを想い合っているのが伝わって来た。

 自分が入り込む余地などないと感じていた。

 自分の想いに気付いたと同時に失恋してしまったのだ。

 

「はぁ、それでも想うだけなら自由ですよね」

 

 ナタルも自分の想いが、世間一般では横恋慕と言われるものだと分かっている。

 想い合う二人の邪魔をする私は悪役だな。

 自分の想いを表に出せなくても、アークエンジェルの副長として力を尽くせば、想い人の命を守ることに繋がる。

 私は、それでいい。

 そう思って、ナタルはベッドに入った。

 想いは、胸に残り続けている。

 ナタルの口から、切なげに声が漏れる。

 

「マリュー・・・」






恋愛イベントを詰め込んだ回になりました。
この回を見た後、原作のマリューとナタルのやり取りを見て、別の印象を受けてくれたら良いなと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。