歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アークエンジェルの艦載モビルスーツの現状は、惨憺たる有り様だった。
ほとんどの機体が大破又は中破している。
一番損害が軽いトールのバルキリーさえ、片腕を失っていたのだ。
早く戦力を回復するため、機体の補充を要請していたが司令部の動きは鈍かった。
「提督、機体の補充はまだなのですか?」
マリューは、艦隊の司令官であるハルバートン提督に機体の催促をしていた。
最悪、ダガーでも良いので回して欲しいのだ。
戦力がまったく無い状態を脱したい。
それは、艦のクルー達の総意だった。
「ラミアス少佐、機体の用意が出来たと報告が来ている。
近日中にアークエンジェルに搬入されるだろう」
「本当ですか!
ありがとうございます。
ですが、時間が掛かりましたね」
「それについては、すまないと思っている。
君たちが、ああまで一方的に打ちのめされるとは思ってなかったのだ。
動揺するのも仕方あるまい。
エース部隊とは、そう言うものだ」
「それは、すみません。
我々の力不足でした」
「なに、対抗できる機体を用意できなかった我々にも非はある。
新しい機体が到着するまで、もう少し我慢してくれ」
「はい」
しばらくして、アークエンジェルに新たな機体が搬入された。
新しい機体は、あの男と共にやってきた。
「やあ皆さん、久しぶりですね」
「理事、やっぱり暇なんですね」
「イレブン君、そのやり取り、前にもしましたよ」
また、アズラエルがやって来た。
「君たちのために新型を用意してきた僕に、感謝しようとは思わないんですかねぇ?」
「えっ、新型なんですか?
アズラエルさん、ありがとうございます!」
カガリを守るための力を欲していたキラにとって、アズラエルの配慮はありがたいものだった。
「え、ええ、どういたしまして」
キラに素直に感謝された途端に戸惑うアズラエル。
いつも、その社会的地位の高さから嫉妬の感情が入った視線ばかり受けているのだ。
純粋な感謝を向けられるのには慣れていなかった。
「さて、さっそく機体を見てもらいましょう」
周りのクルー達の生暖かい視線に耐えきれずに、アズラエルが強引に話を進める。
アークエンジェルの格納庫に4機のバルキリーが搬入された。
以前のものより、シルエットが洗練されているように見える。
「我がアズラエル財閥が開発した新型モビルスーツ、VMS-02バルキリーⅡです。
バルキリーの性能を全体的に向上させた機体になりますね。
いやぁ、開発が間に合って良かったですよ」
「4機ですか?
アークエンジェルのパイロットは5人ですが」
「残りの1機は、別の機体です。
もうすぐ搬入されますよ」
搬入されてきた機体は、巨大な爆撃機のように見えた。
バルキリーのほぼ2倍の大きさに達する巨人機だった。
「り、理事、この機体は?」
「XVMS-03です。
あまりのコストと馬鹿げた性能に、試作機1機作られた時点で量産は見送られました」
「VMS!
これがモビルスーツに変形するんですか?」
「ええ、そうですよ。
まあ、これだけ大きいので機動性はないと思ってください」
「そんな機体が役に立つのですか?」
「使い方次第ですね。
なにせ、この機体1機で通常のバルキリー10機分のコストが掛かってますから」
「じゅ、10機分ですか」
「その代わり、性能もぶっ飛んでますよ」
アズラエルは楽しそうに話しているが、続きを聞くのが怖い。
それでも聞かない訳にはいかないのが辛い所だ。
「爆撃機形態では、強力なビームとミサイルがメイン武装になります」
「それなら、ランチャーバルキリーとあまり変わらないんじゃ?」
トールの疑問の声に、アズラエルが笑みを浮かべる。
「まあ、そうなんですが。
この機体の真価は、モビルスーツに変形した時なんですよ。
爆撃機の時にスラスターだった部分が、迫り上がって背負い式レールキャノンの砲身になるんです」
全員の視線が機体後部のスラスターに向けられる。
機体の大きさに見合ったサイズだ。
あれが砲身になる?
「その威力は、アークエンジェルのバリアントに匹敵します。
それが4門ですね」
「「「「「「はあ!?」」」」」」
アークエンジェルのバリアントは、対艦用の大型レールガンだ。
直撃すれば一発で敵艦を撃破することすら可能な威力がある。
そんな物をいくら大型とは言えモビルスーツに、それも四つも積んだと言うのだ。
「あまりの威力に反動もでかくて、撃つならアークエンジェルの甲板にでも接地して射撃態勢、まあ機体が後方に吹っ飛ばないように固定板を展開してもらうことになりますね」
「この機体は、明らかにトールの専用機だな」
「やっぱり、そうですよね」
「お前以外は、みんな高速機動戦闘を得意としてるからなぁ」
「トール君に適性があると聞いて、この機体を持ってきたんですよ」
「そうですか、そう言えばこの機体の名前を聞いてなかったですね。
なんて言うんですか?」
「実は、正式名称が決まってないんです。
作られたのが試作機だけですから」
「じゃあ、名前はどうするんですか?」
「一応、開発コードとしてモンスターって呼ばれてますけど、パイロットになる君が決めていいですよ。
そうですね、ケーニヒ・モンスターなんてどうです?」
「いや、さすがに自分の名前を付けるのはちょっと。
モンスターでいいです」
「そうですか、いい名前だと思ったんですけどねぇ」
こうして、アークエンジェルのパイロット達に新しい機体が届けられた。
4機のバルキリーⅡには、それぞれのパイロットの適正に合わせた追加装備のパックも用意されていた。
ムウには、エンデュミオン・ダンスと呼ばれる変則機動を活かすためにスラスターを増設し、機体制御の自由度を上げるスラスターパックが用意された。
キラには、得意の高速戦闘を行うためにバルキリー用のエールパックだった。
イレブンとフレイは、本人達の希望で追加装甲のアーマードパックの装備が決まった。
ここに、トールのモンスターを加えて、アークエンジェルの機動兵器部隊は再び戦うための新しい翼を得ることが出来た。
プラント
評議会議長、パトリック・ザラの前にアスランとクルーゼが立っていた。
「アスラン、軌道爆撃作戦は順調だな?」
「はい、邪魔をしてきた敵のエース部隊は壊滅させました。
今後は、大部隊を用いなければ阻止は出来ないでしょう」
アスランが感情を感じさせない声で答える。
「ならばいい。
引き続き爆撃艦隊の護衛を続けるのだ」
「了解しました」
「さて、クルーゼ、お前にも役に立ってもらおう」
「なんなりと申し付け下さい」
「ラクス・クラインの暗殺だ」
「わかりました。
近々、ユニウス7の遺体回収事業の事前調査を兼ねて、鎮魂歌を捧げるために向かうと聞いています。
そこで、船を沈めましょう」
クルーゼからも感情は感じられなかった。
アスランと並ぶ姿は、まるで人形が並んでいるかのような印象を受ける。
その様子に、パトリックは満足そうにしている。
「うむ、しっかりと映像を撮ってくるのだ。
攻撃している艦艇を連合の物に差し替えて公表するのだからな」
「はっ、お任せ下さい」
二人が命令を遂行するために部屋を出て行った後に、一人の男がパトリックの前に現れる。
「見事なものですね。
あれほどの洗脳技術は、私たちも持っていませんよ」
「ふん、カガリ・ユラとラクス・クラインの歌声で、お前達の手駒は激減しているのだろう?
貴様達の思考操作を解除してくれた事に関しては、ラクス・クラインに感謝している」
「これは手厳しい。
ですが、そのラクスを抹殺するのでしょう?」
「これ以上は、邪魔でしかないからな」
「やはり、あなたは恐ろしい人だ」
「我らや穏健派を裏から操っていた、お前たち程ではあるまい」
「カガリやラクスの歌で、もうコントロールは出来ませんよ。
議長とは、目的が一致しているから協力関係を結べたのです。
もう思考を誘導する必要もないのですから、そう警戒しないで欲しいものですね」
「信頼してほしいなら、私の役に立ってみせろ」
「わかりました、今の我々に出来るのはライトマン博士に技術を提供する事くらいですが」
「それでいい。
さっさと仕事に掛かれ」
男も部屋を出て行った。
「ふん、信頼など出来るはずなかろう。
思考操作が解除された時の僅かな違和感から、奴らの組織までたどり着ける者がどれだけいる事か」
パトリックは、ラクスの歌で自分の心が変化した僅かな違和感から、自分の思考が操作されたものだと気付いたのだ。
そこから歴史の裏に潜む、名前すらない組織の存在にまでたどり着いた稀少な存在だった。
パトリックは、その組織の末端を見つけ出し、協力関係を結ぶ事に成功していた。
「カガリとラクスの歌によって、名前の無い組織《ネームレス》の影響力は激減している。
奴らが動けない今が好機なのだ。
ナチュラルを滅ぼし、我らコーディネーターが支配する世界を創ってみせる」
パトリックもまた、思考を操られた者だったのだ。
それでも、アスラン達を洗脳して手駒にしている。
その在り方は、彼がネームレスと呼んだ組織と大差のないものだった。
アークエンジェル
キラ達に新型モビルスーツを届けに来たアズラエルは、そのまま機体のアドバイザーとしてしばらく艦に残る事になった。
当然、彼の護衛であるオルガ達3人も共にアークエンジェルで生活する事になる。
「君たち、カガリさんの歌は聴いてますか?」
「理事、なんでそんなに俺たちにカガリの歌を聴かせたがるんですか?」
アズラエルは、事あるごとにカガリの歌を聴かせようとしてくる。
その態度は、好きなアーティストの布教とは思えないほど真剣に思えた。
オルガ達は、アズラエルの真意を知りたかったのだ。
「そうですね、護衛の君たちには知っておいてもらいましょうか。
カガリさんの歌声には、洗脳を解く力が有るんですよ」
「理事、それは本気で言っていますか?」
アズラエルが言い出した事は、俄には信じがたい事だった。
音楽のセラピー効果などと言ったレベルではない力が有ると、アズラエルの表情や口調は示していた。
なぜ、アズラエルはそんな事を確信しているのか?
「僕も、いつの間にか洗脳されてたんですよ。
カガリさんの歌で解除されましたが」
「なっ、理事がですか?」
それは、さらに信じがたい事だった。
アズラエルの社会的地位はトップに近い。
そんな者を洗脳するなんてあり得ない。
オルガ達は、そう思ってしまった。
「実際には、洗脳と言うほどのものではないのかもしれません。
多分、僕の場合はコンプレックスの肥大化と言った所でしょう。
もし、カガリさんの歌を聴いてなかったら、君たちを兵器として使ってでもコーディネーターを滅ぼそうとしていたかもしれません」
「いったい誰がそんな事を?」
「分かりません。
ですが、世界の裏で暗躍してる者達がいる。
それだけは確かでしょうね」
「理事が俺たちに歌を聴かせようとするのも」
「ええ、あなた達は人体実験の中で洗脳処置をされている可能性もあるんです。
今は大丈夫ですが、マインドコントロールに掛かりやすくなっているかもしれません。
実際に洗脳処置を受けていたソキウスシリーズにも試してみましたが、カガリさんの歌には確かな効果がありましたよ」
「わかりました、カガリの歌を聴くようにします。
俺たちも、ある日突然、理事を襲うような事はしたくありません」
「そうしてください。
普段の君たちは、信頼してますから」
アズラエルは、そんな危険のある自分達を信じて側に置いてくれていた。
改めて、感謝と忠誠を誓う。
そして、決して洗脳などに負けないと決意していた。
トールを死なせなかった理由は、この名前ネタを書くためでした。
ケーニヒと言う名前から、かなり初期から予定してました。
トールがワンオフの専用機に乗る事になった一方で、キラ達は新型とは言え量産機で戦います。
数と連携が連合のやり方ですから。
そして悪役サイドも、最終決戦に向けて、動きが激しくなってきました。