歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
プラントから、再び艦隊が出撃した。
目的地は、前回と同じくデトロイト。
今度こそ、デトロイトを壊滅させるのだと言う意志を持って宇宙を進んでいく。
当然、その動きは連合も察知している。
第8艦隊が、迎撃のために出撃する。
新たな翼を得たアークエンジェルに期待が掛かっていた。
もし、今のアークエンジェルでもザフトの新型を抑えられなければ、連合は大部隊を用いて多大な犠牲を出しながらの力押しでしか爆撃を阻止できない事になる。
次こそはデトロイトを守ってみせる。
そんな決意を持ってダガー隊が出撃していく。
キラ達も、新たな翼で出撃していく。
バルキリーⅡは、いい機体だった。
それでも単独では、ジャスティス達には勝てないだろう。
だが、一人で勝てなくてもいいのだ。
数と連携で戦う、それが連合のやり方なのだから。
ザフト艦隊も迎撃に来た第8艦隊を確認した。
「前回と同じ規模だと?」
前回、爆撃を阻止し切れなかったにも関わらず、連合は戦力を増強させていない事に疑問を抱いていた。
「侮ったか?
ならば、今度こそ爆撃を成功させてやる!」
連合の艦隊には、今回もアークエンジェルがいる。
敵のエース部隊を撃破しなければ、ジャスティス達が艦隊の護衛に専念できない。
前回は、それで失敗したのだ。
同じ轍は踏まない。
「ジャスティスとフリーダムを先行させろ!
まずは、アークエンジェルのモビルスーツ部隊を撃破する。
それまで、艦隊は距離を取って防御に徹する」
ザフト艦隊は、爆撃コースに入らず防御陣形を取った。
爆撃コースに入っていないため、今回は艦隊機動に制約はない。
護衛のモビルスーツ部隊も展開して、向かってくるダガー隊の迎撃に専念している。
ダガー隊は、守りを堅めたザフト艦隊に取り付くことが出来ず、攻めあぐねていた。
その宙域に音楽が流れ始める。
「またか、彼女には悪いが連合に屈するなど出来ない。
我々は、プラントの未来のために戦いを止めるわけには行かないのだ」
「世界よ!私の歌を聴けーーーーー!」
そして、カガリの歌が始まった時、ザフトは前回以上の衝撃を受ける事になった。
カガリの歌が、そこに込められた想いが、大きく変わっていた。
世界に寄り添って、その痛みを共に背負うから、一歩を踏み出す勇気を持ってほしい。
以前は、そんな想いが伝わってきた。
あくまで、相手が自分の意思で前に進むことを促す歌だった。
今、流れている歌は違う。
私には、望む未来がある。
そこにたどり着くために。
世界よ、私に協力しろ!
今よりいい明日へ進むために。
前へと踏み出せ!
そこには、相手が勇気を持つまで、痛みを共に背負うと言った自己犠牲の色はなかった。
前へと進め!足を踏み出せ!
そう、背中を押すような。
いや、もはや後ろから突き飛ばして、無理矢理前へと進ませるような。
暴力的とすら言えるほどの力強い想いを叩きつけてくる。
その歌は、アスランに再び頭痛をもたらしていた。
「何故だ?
薬はちゃんと飲んでいるのに、また痛みが!」
その薬はニコルによって、よく似たサプリの錠剤にすり替えられていた。
アスランが再びカガリの歌に頭痛を訴えたことで、ニコルは、あの薬とライトマンと言う医師がアスランをおかしくしている事を確信していた。
「痛い、痛い・・・この歌を止めなければ。
歌うのを止めろ!頭に響くんだよ!」
アスランが、ジャスティスをワルキューレへと加速させる。
「あっ、アスラン!」
ニコルもアスランを追う。
ニコルには、ワルキューレを落とす意志はない。
積極的にアークエンジェルのエース達を倒す気にもなれなかった。
アスランが無事に帰れるように、その背中を守る事だけに集中していく。
ジャスティスが、立ち塞がるダガー達を蹴散らしながらワルキューレに迫る。
護衛のアークエンジェルが黙って見ているはずもなく、ワルキューレの前に出る。
その前には、キラ達が展開して立ち塞がっている。
前回は、負けた。
すべての機体が損傷し、壊滅寸前まで追い詰められてしまった。
でも、アズラエルが新しい翼を用意してくれた。
必ずカガリを守ってみせる!
そんな強い意志を持って、アスラン達と再びぶつかった。
キラは、戦い始めてすぐに違和感を覚えた。
前回は、冷徹と言っていいほど冷静にこちらを追い詰めてきた。
それなのに、ジャスティスの動きが乱れている。
アスランの操縦が頭痛で乱れているのだ。
だからと言って、楽な戦いになっているわけではない。
「アスラン!
なんでワルキューレを、カガリを狙うんだ!」
アスランは、多少強引にでもワルキューレに向かおうとしてしまう。
カガリが乗るワルキューレを守るために、その進路に割り込み、注意を自分達に向けなければならない。
何より、新型のバルキリーⅡとは言え、核動力機のジャスティスの性能には大きく劣る。
ムウと2機掛かりで、なんとか抑えているのだ。
「キラに頼ってばかりなんて、大人の立つ背ないでしょ。
意地があるんだよ、大人には!」
ムウも果敢にジャスティスの前に出る。
エンデュミオン・ダンスも進化を続けている。
モビルスーツに乗り替わった事により、その機動は、よりダンスに近いものに変わっていた。
機体各部のスラスターだけではない。
腕や脚を動かす事で発生する慣性モーメントすら利用した姿勢制御を行い、アスランの攻撃を回避していく。
「くっ、ちょこまかと、邪魔をするな!
あの船を落としに行けないじゃないか!」
アスランの焦りの声を聞いて、ニコルはカガリの歌声に洗脳を解く力があると言う噂は本当だったと確信した。
洗脳が進み、ほとんど感情を失っていたアスランに焦りという感情が戻って来ている。
アスランは、ラクスの歌にも頭痛がすると言っていた。
彼女達になら、アスランを救う事が出来るかもしれない。
ニコルの中で、ワルキューレから流れてくるカガリの歌声がアスランを救う希望になっていた。
アスランが落とされないように、自分が相手にしているバルキリー達をアスランの方に向かわせないための攻撃しか行わなくなっていた。
ニコルのフリーダムに積極的にこちらを落とそうとする意思がない事には、イレブン達も気付いていた。
だからと言って、放置も出来ない。
距離を詰めようとすれば、砂漠の逃げ水と言われる引き撃ちでフリーダムを捉える事が出来ない。
だが、キラ達の援護に行こうとすると、距離を詰めて牽制してくる。
ワルキューレの護衛があるため、フリーダムを追い続ける事も出来ずに膠着状態に陥っていた。
戦場に響くカガリの歌とキラ達の戦いに、ザフトの兵士達は思い違いをしていたのではないかと感じていた。
連合がカガリの想いを利用しているのではない。
まるで、カガリに連合の方が協力しているようではないか。
目の前で、ワルキューレを守るために連合が体を張って戦っている。
ジャスティスとフリーダムは、優勢ではあるが攻めきれないでいる。
今も、連合のダガー隊を相手に防戦を続けているが、ジャスティスとフリーダムはすぐには戻れそうもない。
このまま、爆撃コースに入っても作戦を成功させる事は出来ない。
むしろ、ジャスティス達を抑えられている自分達が壊滅的被害を受けるだろう。
そんな戦いの中で、トールのモンスターが第8艦隊の最前列まで移動していた。
キラ達がジャスティス達を抑えることが出来ている。
なら、自分は爆撃を阻止しようと戦っているダガー隊の援護をすれば良い。
この戦いは、敵を倒すのが目的じゃない。
ザフトが爆撃を成功させるのか?
連合が阻止できるのか?
そう言う戦いなのだ。
なら、必要なのはジャスティス達に勝つ事じゃない。
トールのモンスターがモビルスーツに変形していく。
バルキリーのように素早く変形は出来ない。
ゆっくりと爆撃機形態からモビルスーツへと変わっていく。
モビルスーツへ変形したモンスターが第8艦隊の先頭に配置されたドレイク級の甲板前方に着地した。
すぐに固定板を展開して、射撃態勢を取らせる。
背負ったレールキャノンの巨大な砲身が4門、ザフト艦隊に照準を合わせていく。
まだ、ザフト艦隊とは距離がある。
一撃で撃沈するような直撃は期待できないだろう。
それでもいいのだ。
ザフト艦隊に損傷を与えて、その防衛網に穴を開けるのが目的なのだから。
モンスターの両腕から対艦ミサイルが発射される。
それに続いて、レールキャノンも発射された。
その大口径砲が生み出す反動は、モンスターが固定板で固定されて尚、ドレイク級の甲板を捲り上げながら後退させる程だった。
そのレールキャノンの砲撃は、脅威的な威力を見せつけた。
掠っただけでも大きな被害が出ている。
モビルスーツによる砲撃とは思えない威力にザフトは驚愕していた。
その砲撃で撃沈された艦は出なかった。
しかし、陣形は乱されてしまった。
護衛のモビルスーツ部隊も回避行動を取っていたため、防衛網に穴が開いてしまっている。
その穴を起点にダガー隊に押され始める。
ザフトも認めざるを得なかった。
作戦は失敗した。
ジャスティス達を抑えられた時点で負けが決まってしまっていたのだ。
ザフト艦隊の司令官が撤退命令を出す。
撤退を意味する信号弾を撃ち出して、ザフトは防御陣形を維持しつつ後退を始めた。
「アスラン!
撤退命令です。
艦隊に戻って、撤退支援を行わなければ!」
「ぐうぅぅ、撤退・・命令。
命令には、従わなければ」
「アスラン・・・ええ、今は命令に従いましょう」
ジャスティスとフリーダムも、撤退するザフト艦隊に戻っていく。
(必ず、アスランを救ってみせる。
期待してますよ、カガリ・ユラ!)
もう戦争の行く末やプラントの未来よりも、目の前のアスランを救いたい。
そんな想いが、ニコルの心を占めていた。
撤退するザフト艦隊の兵士達は、カガリの歌と彼女を守ろうと必死に戦う連合の姿を見て衝撃を受けていた。
カガリの歌が、連合すら変えてしまったのだろうか?
もしかしたら、まともな条件で講和が出来るかもしれない。
強硬派の者達にすら、そんな思いを抱かせるほどカガリの歌声は力を持ち始めていた。
作戦は失敗した。
だが、連合とまともな和平を結べるかもしれない。
そんな希望を抱いて帰還したザフト艦隊にもたらされたのは、連合によるラクス・クライン殺害の一報だった。
プラントの街頭ビジョンに映像が映し出されている。
それは、連合の艦がビームを撃ち、ラクスが乗っている民間船シルバーウインド号が撃沈される映像だった。
「ラクス・クラインは、彼女は、ユニウスセブンで今も葬られる事なく漂っている被害者達へ鎮魂歌を捧げようとしただけでした。
ですが、連合はそれすら許さなかった。
彼女の平和を願う想いを、連合は最悪の形で裏切ったのです!」
街頭ビジョンには、繰り返しシルバーウインド号が撃沈される映像が流され、エザリア・ジュールの演説が続いている。
それを議長室のモニターでパトリックが見ていた。
背後にはクルーゼが立っている。
「よくやった、クルーゼ。
これで、プラント市民は和平など受け入れなくなった。
穏健派も黙るだろう」
「いえ、命令に従ったまでです」
クルーゼが感情のない声で答える。
モニターを見ながら満足気にしているパトリックの後ろにいるクルーゼの口元には僅かな笑みが浮かんでいた。
自分の痛みを飲み込んで、世界に寄り添っていた以前の歌が月だとすると、自分の望む未来を示して、世界に叩きつける今の歌は太陽かなと思ってサブタイトル付けました。