歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
キラ達は、ザフトの軌道爆撃を阻止して、ワルキューレを守り切る事も出来た。
アークエンジェルに帰還したキラ達を、艦のクルー達も歓声を上げて迎え入れた。
前回は、壊滅状態で帰ってきた。
パイロット達の中から死者が出てもおかしくなかった。
特にパイロット達と関わりの深い整備士達は、心配し、無事に戻ってきてくれと祈っていた。
パイロットが生きて帰れるように、万全の整備をしている。
それでも、帰らぬ者達が出てしまう。
それが、戦場なのだ。
アークエンジェルのクルー達が、任務の達成とパイロット達の無事に笑顔を見せている中でアズラエルだけが難しい顔をしていた。
そんなアズラエルの様子に気付いたキラが声を掛ける。
「どうしたんですか?アズラエルさん。
なんだか難しい顔をしてますけど」
「いえ、ザフトの新型について考えていたんですよ」
「あの機体についてですか?」
「あの2機、核を使ってるんじゃないかなと」
「か、核ですか!」
アズラエルの言葉に、周りのクルー達も息を呑む。
「あれほどの出力、普通の動力じゃ不可能です」
「理事は、ザフトがNジャマー・キャンセラーを開発したと思っているのですか?」
「確証はありませんが、Nジャマーは彼らが開発した技術です。
それを無効化する技術を持っていてもおかしくはないでしょう」
「もし、それが本当なら不味くないですか?」
「ええ、もし核の封印を解いているなら不味い兆候です。
核をチラつかせて、連合に譲歩を要求してくれるなら、とりあえず安心できるんですが。
核の封印を解いて、それを隠しているなら、実際に使うために用意しているってことですよ」
プラントが暴走しているのではないか?
以前から、そう思えるような行動は見られた。
連合との交渉を求めているようには思えない戦略や作戦が多すぎる。
プラントの目的が独立を勝ち取ることなら、その行動が明らかにおかしいのだ。
多くの者が感じている、この戦争の違和感。
プラントは、本当に核の封印を解いたのか?
封印を解いたのなら、それをどう使うつもりなのか?
そんな未来への不安がキラ達の心に影を落とす。
「戦争終結を急がなければ、まずい事になるかもしれませんね。
プラント本国に向けた侵攻計画を前倒しする事になるかもしれません」
「プラント本国にですか?」
キラの顔が曇る。
これが戦争だとは理解している。
それでも、民間人に被害が出るような作戦は行いたくない。
「キラ君、忘れたんですか?
僕たちは、オペレーション・ミューズを行っているんですよ」
「アズラエルさん、じゃあ!」
「ええ、今のカガリさんの歌には凄いパワーを感じます。
その歌をプラント市民に叩きつけに行くんですよ」
アズラエルの言葉で、クルー達は今回の作戦で流れていたカガリの歌を思い出す。
傲慢なまでに力強い意志を感じさせる歌。
そこには、以前の痛々しい哀しさを感じなかった。
キラがカガリを支えて、強くしたのだろう。
アークエンジェルのクルー達は確信していた。
そんな事が出来るのはキラしかいない。
かつての哀しい歌より、今の歌の方が好きだ。
だから、プラント市民に無理矢理にでも聴かせてやる。
俺達と一緒に新しい明日を目指す仲間に引き入れるために。
何故だろうか?
哀しい歌よりも、今の歌の方が世界に届く。
そう信じることが出来た。
その思いは、アークエンジェルだけのものではなかった。
行動を共にしている第8艦隊の兵士達はもちろん、世界中の人々に広まりつつある。
戦場でのカガリの歌は、世界に配信されていた。
プラントの市民だけを説得するのでは不十分だからだ。
プラントと寛大な条件で講和する。
それは、連合が大幅な譲歩をすると言う事だ。
それを受け入れるように地球の市民達も説得しなければならない。
プラントやザフトの犯した罪は許されざるものだ。
それでも、戦争を終わらせるためには乗り越えなければならない。
地球の市民達はカガリの歌で、そんな強さを持ちつつあった。
哀しい歌を止め、望む未来へと踏み出そうとする強さを見せつけたカガリ。
そんなカガリに地球の人々が応えようとしていた。
だからこそ、歩みを緩めるわけにはいかない。
プラントが何をしようとしているのかは分からない。
だが、世界を再び絶望や憎しみで染めることは許さない。
連合は、プラント本国に向けて打って出ることを決めた。
この戦争は、最終局面に入ろうとしていた。
プラント
穏健派がプラントが世界から憎しみを受ける立場であると言う情報を公開した事は、プラント市民に衝撃を与えていた。
戦争について深く考えることもなく、戦時中でも豊かな生活を維持していたプラント市民にとって受け入れ難い事実だった。
血のバレンタインの犠牲者は、およそ24万人。
クライシスで犠牲になった者は、10億に近いと言う。
それも、理事国だけではない。
中立国や親プラントに引き込んだ国にも犠牲者は出ている。
コーディネーターによって構成されるプラントこそが最も優れた国だと信じていた市民達は、自国の立場の悪さを嘆いていた。
支持していたはずの穏健派を責め、強硬派を支持するようになってしまったのだ。
プラントと言う箱庭に引きこもり、自分達が優れた存在だと教え込まれ続けてきた事で、宇宙の化け物と呼ばれても仕方ない異形の精神性を持つに至っていた。
それでも、変われない訳ではない。
強硬派が言うように戦争に勝っても、世界からの憎悪の視線は変わらない。
このままではいけない。
そんな想いも、市民の中に生まれつつあった。
ラクスの歌に支えられ、その動きはゆっくりとではあったが、少しずつ広まっていこうとしていた。
しかし、プライドに凝り固まった彼らにとって、自らの非を認める事は難しい事だった。
連合によるラクス暗殺の報を受けた時、楽な方へと流されてしまった。
自分達だけじゃない。
連合も非道な事をしているじゃないか。
彼らは、再び連合を非難して、自らの罪から目を背けていた。
連合によるラクス殺害の映像が公開された事で、プラント市民たちは激昂していた。
連合を許すな!
奴らに正義の鉄槌を!
そう叫ぶ彼らの姿にパトリックは満足していた。
そんなパトリックが、軌道爆撃艦隊の護衛任務から帰還したアスランの報告を受けていた。
「連合は、アークエンジェルに新型モビルスーツを配備していました。
性能はジャスティスに及びませんが、数が揃うとすぐには撃破できません」
アスランは、相変わらず感情を感じさせない平坦な声で報告している。
報告を受けたパトリックは、爆撃作戦も潮時だと感じていた。
このまま作戦を続けても、連合の戦力を拘束する事はできないだろう。
連合にボアズ侵攻に向けた動きがあるとの報告もある。
事実、ユーラシア連邦を中心とした艦隊が、ボアズ攻略のために出撃準備を始めていた。
「軌道爆撃作戦は終了する。
今後は、本国の防衛にあたれ!」
「は!」
アスランが退室していく。
その後ろ姿を見送ったパトリックの顔に、焦りの色はなかった。
「時間稼ぎは成功した。
ラクス・クラインの死で環境も整った。
連合が本国にまで迫れば、あれを撃つことに誰も反対はできまい」
誰もいなくなった議長の執務室に、パトリックの笑い声が響いていた。
同じ頃、ニコルは再びディアッカと会っていた。
「アスランが洗脳されてるのは間違いありません。
薬をすり替えたら、またカガリの歌で頭痛を訴えるようになりました」
「やっぱりか、お前が言ってたアスランの主治医クリス・ライトマンって医者を調べてもらった。
こいつはヤバイ。
連合で違法な人体実験をやって、学会を追放されていた」
「そんな人をプラントは受け入れたんですか!」
「ああ、親父も嘆いていた。
穏健派がまともになったと思ったら、今度は強硬派が暴走してるって」
「ラクスさんが殺されたのが痛いですね。
これでは穏健派が動けません」
「そのラクスの件も、きな臭いぜ」
「どう言う意味ですか?」
「ラクスの船が落とされる映像、誰が撮影したんだ?」
「えっ、護衛の艦じゃないですか?」
「そこがおかしい。
護衛対象が撃たれてるのに、守るために戦ってる様子がないんだ。
連合の艦が近くにいるのに、展開してるはずのモビルスーツの姿がない」
「本当だ!映像には、ザフトはもちろん、連合のモビルスーツの姿もない!」
映像の中のシルバーウインド号は、無抵抗で撃たれているように見えた。
連合の艦にも護衛のモビルスーツが展開していない。
撮影しているザフトの護衛艦がいるのに、モビルスーツの配備に成功した連合がそれを出さないなんてあり得ないはずだ。
「今思えば、血のバレンタインもおかしいんだ。
ユニウスセブンが核攻撃された時、その映像がリアルタイムでプラント中に流されていた」
「まさか、あれもプラントが仕組んだって言うんですか!」
「落ち着け、ニコル。
残念だが、その可能性は否定できない」
「そんな、この戦争で、プラントに正義なんてあるんでしょうか?」
「俺にも分からないさ」
二人は、プラントの進んでいる道が間違っていると思い、暗い顔をしてしまう。
ラクスの死によって、アスランを救うための希望も一つ消えてしまった。
「ラクスさんの歌なら、アスランを救えるかもしれないと思っていたのに」
「薬はすり替えたんだろ。
なら、後はカガリの歌に期待するしかないな。
戦場で歌ってるんだろ?あの歌姫さん」
「ええ、まるで連合がカガリ・ユラのために動いてるみたいでした。
艦隊のザラ派の人達にすら、連合との和平が可能なんじゃないかと思わせる光景でしたよ」
「ラクス殺害がプラントの自作自演なら、目的は連合との和平を阻止するためだろう。
和平の道を閉ざそうとしているってことは、戦争に勝つために核を撃つつもりなのかもな。
お前たちの機体、核で動いてるんだろ?
穏健派も動いてるみたいだが、市民達がラクスの仇を討てと騒いで聞く耳を持たない」
今は、プラントが一方的に核を撃てる状況だ。
評議会の中でも、核による一発逆転を図るしかない。
そんな空気が流れ始めている。
「僕達は、どちらかが滅びるまで戦わなきゃいけないんでしょうか?」
「そんな未来はごめんだな。
ラクスが殺されても、穏健派は諦めてないみたいだ。
親父が、その真意を探っている」
「まだ、諦めるのは早いってことですね」
「ああ、少しでもマシな未来にするために足掻かなきゃな」
クルーゼ隊の同期のパイロットで、今も生き残っているのは3人だ。
その内の一人、アスランが大変な目にあっている。
なんとか助けようと、ニコル達は行動していく。
「俺も親父を手伝って、ザラ派の内情を探っておく。
お前もアスランのこと、絶対に諦めるなよ」
「わかってます。
アスランは必ず助けて見せます!」
カガリと言うナチュラルの少女にすべてを託すなんて情けない真似はできない。
自分達に出来る事はすべてするんだ。
どんな小さな事でもいい。
それが、未来へと繋がると信じて、彼らは歩みを進めていく。
月面、プトレマイオス・クレーター
連合の宇宙軍を統括する場所である月本部に、とあるゲスト達が訪れていた。
「ようこそ、プトレマイオス基地に。
歓迎しますよ」
「ありがとう。
これからの計画の概要は、秘匿通信で既に聞いていると思うが」
「ええ、この戦争を終わらせるために、決断をしていただいた貴方には感謝しています」
「あのパトリックがこのまま引き下がるとは思えない。
一刻も早く、プラントを押さえて交渉の席に着かせなければな」
「すでに連合軍が動いています。
後はこちらに任せてください」
ゲストの一人が進み出て、月本部の者達に要望を伝えた。
「わかりました。
アークエンジェルには、ムルタ・アズラエル氏が乗艦しています。
それでもよろしければ、シャトルを用意しましょう」
新たなゲストがアークエンジェルに向かった。
さまざまな勢力が自らの願う戦後に向けて動いている。
世界の流れは、さらに加速していく。
プラントに核復活の疑惑が浮かんだ事で展開はさらに加速していきます。
最後のゲスト達は、誰なのか?
次話を乞うご期待!
バレバレかもしれませんが(笑)