歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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新たな仲間

 

 

 

 ユーラシアの第5艦隊がボアズ攻略のため出撃していく。

 アークエンジェルが所属する第8艦隊は、引き続きザフトの軌道爆撃に対応するため待機となった。

 ボアズを攻略し、ヤキンドゥーエへと駒を進めるまでは軌道爆撃を警戒しないわけには行かないからだ。

 連合も、再度の軌道爆撃の可能性は低いと判断している。

 だからと言って、無防備な姿を晒せば、その隙を見逃すような真似はしないだろう。

 しばらくは、月周辺で警戒態勢を維持しつつボアズ攻略を待つ事になる。

 

 

 そんな中、アークエンジェルに月基地からシャトルが訪れた。

 VIPが向かっていると連絡を受けていたアークエンジェルは、主だったクルーがシャトルを出迎えていた。

 そのシャトルから降りてきた者の姿を確認し、マリュー達は驚いていた。

 月基地からの訪問者は、ラクス・クラインだった。

 

「ラクスさん、あなたが何故ここに?」

 

「お久しぶりです、マリューさん。

 ここに来たのは、もちろん戦争を止めるためです」

 

 マリュー達は、ラクスからプラントの情勢を聞かされた。

 強硬派がラクスの船を撃沈し、それを連合の仕業だと公表した事で、プラントの民意は徹底抗戦に傾いてしまっている。

 事前にザラ派の中からリークがあったため、ラクスは難を逃れて脱出する事が出来た。

 穏健派は、戦争を終わらせるためにクーデターを画策しているが、現状では市民の支持を得られず失敗に終わるだろう。

 そのため、穏健派は、強硬派がラクスを暗殺し、連合にその罪を被せた事を利用しようとしていた。

 プラントに戻り自分の生存を伝えて、ラクス暗殺が嘘だと明らかにすれば、強硬派は市民の支持を失い、穏健派によるクーデターを成功させる事が出来るはず。

 そのためにアークエンジェルを頼ったのだ。

 

「お願いします、プラント本国に向かうなら私も連れて行って下さい。

 戦闘の邪魔にならないようにしますから」

 

 マリュー達の答えは決まっていた。

 本当に、なんで歌姫とは、こんなに背追い込もうとするのだろうか?

 カガリと言い、ラクスと言い、もう少し大人を頼ってほしい。

 遠慮なんか要らない、頼っていいのだと示さなければ。

 

「わかりました。

 でも、ラクスさんが乗るのはアークエンジェルじゃない方がいいわね」

 

「えっ、でも・・」

 

「落ち着いて、ラクスさん。

 この艦隊には、カガリさんの船、ワルキューレが同行しているの」

 

「カガリさんが!」

 

「ええ、オペレーション・ミューズ。

 カガリさんが歌う平和の歌をプラントに・・・いいえ、世界に叩きつける作戦よ」

 

 ラクスは、カガリの行っている事を聞いて驚いていた。

 プラントでは情報統制がされていて、連合や地球の動きが伝わって来ていない。

 戦場でカガリの歌を聴いたのは、軌道爆撃に参加した部隊のみだ。

 プラント市民達に歌を届ける。

 オペレーション・ミューズは、これからが本番だった。

 

 そこにラクスの歌も加えようと言うのだ。

 地上と宇宙の歌姫。

 ナチュラルとコーディネーター。

 彼女達が手を取り合い、共に歌う姿は、平和を望む連合の、いや世界の想いを雄弁に語るだろう。

 世界を変えるために、ビームやミサイルが飛び交う戦場に入って行って、その真ん中で平和の歌を歌う覚悟はあるかと問われたのだ。

 

 ラクスの答えは、決まっていた。

 その顔に、確かな覚悟を宿してワルキューレに向かうラクスの後ろ姿を見送りながら、アークエンジェルのクルー達は、必ず守ると言う意志を固めていた。

 

 

 

 ラクスからプラントの情勢を聞いて、分かった事がある。

 それは、パトリック・ザラが率いる強硬派に和平の意志がないと言う事だ。

 核を復活させた疑惑もあるのだ。

 早くザラ派を追い落として、穏健派に復権してもらわなければ手遅れになるかもしれない。

 そんなクルー達の思いを更に掻き乱すような事をアズラエルが言い出した。

 

「やれやれ、ラクスさんの暗殺を連合の仕業にしましたか。

 血のバレンタインで味を占めたんでしょうね」

 

「なっ、理事!

 あれはブルーコスモスの過激派の仕業では?」

 

「アークエンジェルの皆さんまで、そんな認識だったんですか?

 確かに実行犯は、過激派かもしれません。

 やりそうな男に心当たりもありますし」

 

 アズラエルは、ワイングラスを片手に膝の上に猫を乗せるような貴族趣味の男を思い浮かべていた。

 

「でも、過激派だけで、あんな事出来ませんよ。

 ザフトが防衛網に穴を開けて、その情報を過激派に流す位はしていないと不可能です」

 

 それは、ザフトの上層部にしか出来ない事だ。

 そして、言われてみれば納得しか出来ないのだ。

 核攻撃の実行犯の正体は、今も不明だ。

 プラントは、連合に実行犯の引き渡しを要求してきた。

 つまり、モビルアーマー1機で、ザフトの防衛網の奥深くまで侵入し、核攻撃を成功させた上に無事に離脱したのだ。

  

 地球連合軍は、血のバレンタインを受けて自軍の核の管理状況を徹底的に調べた。

 当然の事だ。

 厳重に管理されている核を一部の将校が勝手に持ち出して、実際に使用されたなど、事実であれば軍の統制を揺るがす事態だ。

 その結果、連合が管理している核に紛失している物はなかった。

 つまり、当時プラント近海で戦闘していた連合艦に核が積まれていたのなら、それは外部から持ち込まれた物だと言う事だ。

 そして、他のモビルアーマーが殲滅される中、この核搭載機だけは戦場を突破してユニウスセブンに到達した。

 いくつもの偶然が重なった結果である可能性もゼロではない。

 

 たまたま、ザフトの戦闘部隊が核搭載機だけを取り逃した。

 たまたま、プラントの防衛網に穴が開いていた。

 たまたま、その核搭載機がその穴のルートに入った。

 たまたま、核攻撃後も見つからずに逃げる事が出来た。

 

 連合の公式見解が、プラントの自作自演だと言うのも無理はなかった。

 

 この戦争の裏で蠢く者たちがいる。

 何者かは分からない。

 それでも、血のバレンタインやラクス暗殺を企てて、戦争を激化させようとしているのは間違いない。

 それを止めるためには、プラント市民達の目を覚まさせるしかない。

 カガリとラクスの歌に、世界の未来が託されていた。

 

 

 

 ワルキューレに移動したラクスは、久しぶりにカガリと会っていた。

 

「カガリさん!お久しぶりです」

 

「久しぶりだな、ラクス!

 話は聞いてるよ、大変だったみたいだな」

 

「いえ、カガリさん程ではないです」

 

 そう言ってラクスは暗い顔をする。

 プラントを出た事で、ザフトがオーブで行った蛮行を知ったのだ。

 彼女が飲み込んだ苦悩は、どれ程のものだろう?

 悲しみで心が張り裂けそうだった。

 

「ラクスが気にする事じゃない。

 プラントの市民全員が知っていた事でも、望んでいた事でもないだろう」

 

「ザフトがした事は、許されない事です。

 カガリさんは、それでもプラントのために歌ってくれている」

 

 ザフトがオーブを焼いた事で、ラクスはカガリに負い目を持っていた。

 だが、カガリにとって、ラクスはこれから共に歌う仲間なのだ。

 そんな負い目など持っていて欲しくはない。

 

「気にするな。

 プラントのために歌ってる訳じゃない。

 不幸自慢は、もう辞めたんだ」

 

 カガリは、明るい笑顔で話す。

 

「私は、私が望む未来のために歌っている。

 私の望みを、歌で押し通すんだ」

 

 誰かのためにじゃない、自分の望みを叶えるために歌っている。

 そんな強い意志が伝わってきた。

 

「カガリさんも、変わったんですね。

 今のカガリさんの方が、親しみを持てて好きですよ」

 

 以前のカガリは、多くを背負おうとするあまり、自らの望みや感情を出すことを抑えていた。

 欲望を抑え、覚悟を持って誰かを救う道を行く姿は、誰からも眩しく見えていた。

 しかし、それは超然とした、近寄りがたい姿でもあった。

 誰もがその姿に憧れ、見上げる中で、そんなカガリの心に触れて、変えた者がいたのだ。

 今のカガリからは、人間味を強く感じる事が出来る。

 こんな事が出来る者の心当たりは、一人しかいない。

 

「キラが、カガリさんを変えたんですね?」

 

 それは、疑問というより、確認に近い問いだった。

 

「ああ、キラが私の心を守ってくれた。

 ラクスがいない間に、キラと親しくなるのはフェアじゃないのは分かっている。

 でも、キラに側にいてほしい。

 そう思ってしまったんだ」

 

「実は、アスランとの婚約が解消されました」

 

「なら、お前もキラを・・」

 

「今は、そのつもりはありません。

 アスランとの関係に決着を付けるまでは」

 

「そうなのか?」

 

「はい、アスランは、自分で何かを決めることは苦手みたいでしたが、その分、他の人の言葉を素直に受け止める真面目な人でもありました」

 

 ラクスの顔が不満と悲しみに曇る。

 

「軍務が忙しいらしく、しばらく会えていなかったけど、婚約が解消された時にさえ来てくれなかった。

 アスランらしくないって思ったんです。

 もしかしたら、私の暗殺計画をリークしたのはアスランなのかもしれない。

 それで、自分には会う資格がないと思い詰めているんじゃないかなと思って」

 

「これから向かう戦場に、アスランもいるだろう。

 歌に想いを乗せてぶつければいい」

 

「でも、今はプラント市民の皆さんに目覚めてもらわないと」

 

「同じ事だよ。

 こうなってほしい。

 そんな想いを歌にしてぶつけるんだ。

 なら、全部込めればいいじゃないか」

 

「随分と欲張りになったんですね」

 

「傲慢で欲張りなくらいじゃなきゃ、世界に自分の想いを押し付けれないだろ」

 

「そうですね」

 

 ラクスの顔に笑顔が戻る。

 不思議だ。

 かつてのカガリの姿には、憧れと共にどこか遠くにいるように感じていた。

 でも、今の明るい笑顔を浮かべるカガリの姿には、隣に立って、一緒に前へと進みたいと思わせるパワーを感じる。

 

 プラントとザフトは罪を重ねてきた。

 その立場は、絶望的と言ってもいい。

 それをどうにかするために自分達は動いてきた。

 それでも、世界の人々がそれを受け入れてくれなければ意味はない。

 正直、無理かもしれない。

 ラクスすら、そう思っていた。

 それほど、プラントにとって虫のいい話なのだ。

 そんなラクスが、カガリの姿から希望をもらった。

 カガリが一緒に歌ってくれるなら、絶望から戦って勝つしかないと思っているプラント市民に希望を与える事が出来る。

 

 そして、アスランの事も背中を押してくれた。

 後回しにしなくていいんだと。

 

「私は、けっこう重い女みたいです。

 私を振るなら、直接会いに来なさい。

 それまで、諦めてなんてあげない。

 アスランが何処にいようと、この想いを歌で届けて見せます!」

 

「あいつはヘタレっぽい雰囲気があったし、それくらいが丁度いいんじゃないか?」

 

 そう言って、二人は笑い合った。

 

 

 新たにラクスを仲間に加えたアークエンジェルの下に、ボアズ陥落の報が届いた。

 それは、アークエンジェルとワルキューレがプラント本国に向かう時が来た事を意味していた。






バレバレでしたが、ラクスは生きていました。
ザラ派を裏切って、穏健派に情報を流したのは誰なんでしょうね。
これでW歌姫による最終決戦に入って行けます。
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