歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ついに連合が、その総力を持ってプラント本国へと侵攻を開始した。
月本部から本部直属の第1艦隊、東アジア共和国の第2艦隊、ユーラシア連邦の第4艦隊、そして大西洋連邦の第7艦隊の連合艦隊が本隊として出撃。
ボアズを落とした第5艦隊は、別ルートで回り込んで右翼としてヤキンドゥーエを目指す。
アークエンジェルとワルキューレがいる第8艦隊は、左翼としてプラントを目指していた。
本隊と右翼がヤキンドゥーエを攻めて注意を引いてる隙に、可能な限りプラント本国に近づき、カガリ達の歌を届けるつもりなのだ。
プラントの評議会では、ボアズの早期陥落に動揺が広がっていた。
Nジャマーキャンセラーを開発し、自分達だけが核を使える状況に安心していた評議会に焦りが生まれる。
ソーラレイは、判明した位置からではプラント本国やヤキンドゥーエを照射する事は出来ない。
大量のミラーを運用し、その焦点を合わせるために精密な制御も必要になる。
移動のためには、多くの時間と労力が掛かる。
そして、その存在が明らかになり、所在さえ掴めば妨害も簡単だった。
パトリックは、ストライクのパイロットがコーディネーターであった事を始め、自分にとって都合の悪い事は悉く握り潰してきた。
ソーラレイに関する情報も、その脅威だけを喧伝してジェネシスの使用を正当化しようとしていた。
「我々は血のバレンタインに対し、核を封印すると言う平和的な報復を行った。
それに対する答えがこれだ!
核が使えぬなら、太陽光を使った新たな大量破壊兵器を作り出し、使用する。
これはもう戦争ではない、虐殺だ!」
ザフトは、パトリックの指揮の下、徹底抗戦の構えを見せる。
評議会の穏健派と中道派が沈黙を守っていた事も、もはや決定に口出しする事もできないほど影響力を失っているのだと思い、気にもしていなかった。
そして、連合の本隊と右翼がヤキンドゥーエ宙域に迫る。
アークエンジェル達の左翼もプラントに近づこうとしていた。
ザフトの本国防衛部隊は、すべての戦力を持って防衛戦を展開する。
ここがプラントを守る最終防衛ラインだ。
ここを抜かれれば、プラント本国に戦火が及んでしまう。
ザフトが地球軍に対して必死の防戦を繰り広げている。
クライン派によってエイプリルフールクライシスの実態が暴露された事により、地上の事情に興味を持たなかったザフト宇宙軍もプラントの立場の悪さを理解した。
負ければ、死ぬよりも辛い未来が待っているかもしれない。
最早、ナチュラルを下等な猿と見下して自分達の優秀さを誇っている余裕などなかった。
本国のすぐそばまで攻め込まれているのだ。
ここで、力を示して妥協を引き出せなければ、絶望的な未来が訪れてしまう。
決死の覚悟でモビルスーツを駆り、地球軍の艦隊に攻めかかっていく。
しかし、地球軍は圧倒的な物量で攻め寄せて来ている上にモビルスーツも量産、配備している。
開戦当初にあった有利は消えているのだ。
戦線は拮抗し、なかなか艦隊にダメージを与えられない。
その戦場に、左翼の第8艦隊が到着し、歌が流れ始める。
その歌声が、ラクス・クラインのものであった事にザフトの部隊が激しく動揺する。
ラクスは、連合に殺されたのではなかったのか?
何故、連合からラクスの歌声が流れてくる?
評議会の発表と映像は何だったのか?
様々な疑問が、ザフトの兵士達の中に浮かぶ。
ヤキンドゥーエの司令所に入り、指揮を取っていたパトリックも、多くの疑問が浮かんでいた。
何故、ラクスが生きている?
連合にいるのは何故だ?
クルーゼがしくじったのか?
だが、パトリックも一国のトップを勤める者。
すぐに動揺を鎮めて、指示を出す。
「狼狽えるな!
ラクス・クラインは連合に殺された。
あれは、連合が用意した偽物だ!
不愉快な雑音に過ぎん。
Nジャマーの出力を最大に上げろ」
最高レベルのNジャマーの電波妨害によって、ラクス達の歌声が遮断される。
ザフトが使用している秘匿通信に割り込む事は出来ない。
それをするには、ザフトが用いている暗号を解読しなければならないからだ。
妨害によって、国際共通規格で受信が義務付けられている緊急周波数は、その機能を喪失した。
至近距離と言っていいほど近づかなければ、歌が届かないのだ。
しかし、ワルキューレには、その妨害を突き破って歌を届けるための手段が用意されていた。
ワルキューレからミサイルのような物が発射される。
ワルキューレは、非武装の民間船だ。
これは、ミサイルではなくサウンドポット。
ワルキューレからの信号を中継し、増幅させる通信拠点端末だった。
それを戦場にばら撒く事で、妨害を超えて再びザフトの前線部隊に歌が届き始める。
その歌に、前線で戦うザフトの兵士達は苦悩する。
戦場に入ってきて歌うほどの覚悟を見せる者が本当に偽物なのか?
平和を受け入れろと迫る、その歌声は、ザフトの兵士達を苦しめていた。
止めてくれ!
希望を見せないでくれ!
俺達には、裁かれる理由はあっても、許される理由なんかないんだ!
ザフトは、銃を下ろす事が出来ないでいた。
銃を下ろし、降伏した連合の兵士を撃ってきたのだ。
降伏など認めて来なかった。
連合が信じられないのではない。
自分達が行ってきた事で、降伏が許されると思う事が出来ないのだ。
プラントのコロニー内全ての街頭ビジョンに宇宙での戦闘の様子が流されている。
自分達が住むコロニーのすぐ外側で戦争が行われている。
プラント市民達は、戦争が始まって以来、初めて戦争による死がすぐ側まで迫ってきていると感じていた。
パトリック議長が率いるザラ派は、戦争に勝ち、栄光に満ちた未来を約束していた。
なのに、なぜコロニーのすぐ近くで戦闘が行われるほど攻め込まれているのか。
プラント市民達の心に不安とザラ派への不信が芽生え始めていた。
クルーゼは、核動力機『プロヴィデンス』を与えられ、同時期に造られた『リジェネレイト』と共に右翼艦隊の迎撃を命じられていた。
そこで、カナード率いるゲシュペンスト隊と激しい戦闘を繰り広げていた。
リジェネレイトのパイロットがカナードとの戦闘に入っている。
クルーゼは、カラミティ、フォビドゥンの2機の新型機を相手に、プロヴィデンスの性能とドラグーンによるオールレンジ攻撃で互角に渡り合っている。
カナード達を抑えられた事で、右翼は膠着状態に陥っていく。
左翼艦隊の迎撃を任されたアスランとニコルが駆るジャスティスとフリーダムは、地球軍のモビルスーツ部隊を蹴散らして、ワルキューレの直ぐ近くまで到達していた。
二人の前に立ち塞がるのは、今や歌姫の騎士団と呼ばれるアークエンジェルのモビルスーツ部隊だ。
「イレブンとフレイはフリーダムに、キラは俺とジャスティスにあたる。
行くぞ!ワルキューレに近づけさせるな!」
ムウとキラがジャスティスに、イレブンとフレイがフリーダムに、それぞれのエレメントに別れて迎撃する。
機体の性能では、核動力機のジャスティスやフリーダムの方が優れている。
ムウ達は、機体の性能差を連携で埋めていく。
それぞれのパイロット特性に合わせたパックを装備したバルキリーⅡに乗り、パートナーの背中を守り合う。
その後方からトールが乗るモンスターが支援砲撃を行なっている。
さらに後方でアークエンジェルに護衛されたワルキューレからは、今もカガリとラクスの歌が響いている。
戦闘開始からばら撒き続けてきたサウンドポットが、ニュートロンジャマーの妨害を超えて戦場に二人の歌を届けている。
それは、ジャスティスのアスランにも届いていると言う事だ。
「ぐぅぅ、何故?ラクスは死んだはずだ!
なんでそんなとこで歌っている!」
カガリの歌で頭痛を訴えていたアスランは、そこにラクスの歌声が加わった事で、更に酷い頭痛に襲われる。
まるで頭の中で湧き出てくる何かと、それを抑えようとする鎖がせめぎ合っているようだ。
この頭痛を止めるために、あの船を落とさなければ。
アスランは、半ば強迫観念にも似た思いでワルキューレを目指す。
「うああぁぁ、やめろ!その歌をやめるんだ!
頭に響くだろうがぁぁぁ!」
狂乱したアスランの身体の中で何かが弾ける。
世界から音と色が消える。
アスランは、ラクスの歌声すら拒絶して目の前の敵を殺す事だけに集中し始めていた。
頭痛で操縦が乱れていた時とは、明らかに動きが変わった。
より鋭く、より速く、より激しく攻め立てる。
その攻撃は、ムウのエンデュミオン・ダンスですら避けきれない程のものだった。
ムウのバルキリーⅡにジャスティスのビームサーベルが振り下ろされる。
単独なら、ここで撃墜されていただろう。
しかし、キラがフォローに入った事でなんとか無事に離脱する。
「すまん、キラ。助かった」
「気を付けて下さい!
今のアスランは、明らかに普通じゃない!」
ジャスティスの動きは時間と共に更に激しさを増していく。
「くっ!アスランの動き、どこまで速くなるんだ」
ムウとキラの連携を持ってしても、防戦一方になりつつあった。
一方、フリーダムに向かったイレブン達も苦しい戦闘が続いていた。
フリーダムからの砲撃は、マルチロックシステムによって、その一発一発の精度が高く、的確に急所を狙ってくる。
イレブンは、その身体能力の高さを活かした高速機動で避ける。
フレイも、その予知にも等しい感で先読みして躱していく。
だが、フリーダムは核動力によって、火力と機動性を両立させた機体だ。
その砲撃による弾幕と機動性により近づく事も出来ない。
遠距離からの射撃も楽々と躱されてしまう。
戦闘は、膠着状態に陥っていた。
「この火力で、この機動性、やっぱりとんでもない機体ね!
普通の動力じゃないって言うアズラエルさんの予想、当たってるんじゃない?」
「否定する理由は無いが、それだとまずいな。
プラントが核を復活させたって事になる」
「一方的に核が撃たれるかもしれないって事ね」
「なんとしても、この戦争を早く終わらせる必要がある」
「カガリの想いとラクスが生きてる事をプラントに伝えないと!」
「まだ、プラントまでは届かない。
もっと、ワルキューレを進ませなければ」
ラクスがアークエンジェルに訪れた時に聞かされた、穏健派の計画。
ヤキンドゥーエ周辺で戦闘が始まったら、その戦闘の様子とそこで歌っているラクス達の歌をプラント中に流す。
ザラ派が発表した、連合によるラクス暗殺が嘘であることを明らかにするのだ。
そして、穏健派がクーデターを起こして、プラント市民に連合の意志を受け入れさせる。
穏健派のクーデターが成功するかは、プラント市民の支持を得られるかに懸かっている。
そのためには、カガリとラクスの歌声と想いをプラントに届けなければならない。
Nジャマーの妨害によって、カガリ達の歌は、まだプラント本国には届かない。
もっと近づく必要があった。
ヤキンドゥーエ指揮所
「ジェネシス発射準備、照準、地球軍中央の主力艦隊!」
「照準座標入力、ジェネシス発射シークエンス完了」
「議長、発射準備完了しました」
「これが、我らの創世の光とならん事を。
ジェネシス発射!!」
パトリックの号令の下、ジェネシスを覆っていたミラージュコロイドが解除されて、その巨体が姿を現す。
その巨大な構造物から光が放たれる。
それは、美しくも凶悪な光だった。
進路上の全ての物を飲み込み破壊していく。
強大なエネルギーを内包するそれは、止まる事なく突き進み、地球軍中央艦隊の過半数を宇宙の塵へと変えていった。
ついに撃たれたジェネシス。
プラントの立場が更に悪くなりました。