歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ジェネシスの光で、地球軍の主力艦隊の過半数が宇宙に消えた。
その光景に連合の軍人達は呆然と見ている事しか出来なかった。
本隊の過半数を失ったことで、混乱と動揺が広がる。
サザーランド大佐が指揮を取るドミニオンが、臨時の旗艦となり艦隊の指揮系統を再構築していく。
しかし、受けた衝撃が大きく、残存艦隊の動きが鈍い。
ワルキューレでも、ジェネシスの光を見て衝撃を受けていた。
そんな中、カガリが声を上げる。
「グレイス、ワルキューレを前に出せ!
プラントに歌を届けるために、もっと近くでサウンドポットを展開させなければ」
「カガリ、無茶よ!」
「わかっている!
それでも、あの光を二度と撃たせてはならない!」
「カガリ・・・」
グレイスは、カガリの顔を見て悟った。
これは止められない。
こんな覚悟を決めた顔が見たかった訳じゃない。
けれど、今の世界にはカガリの強さが必要なのだ。
カガリが何も背負わなくていい世界にするために、今はカガリの強さに頼らなければならない。
自分の不甲斐なさに血が出る程強く手を握り締める。
今はカガリのために出来る事をしよう。
「アークエンジェルに連絡を!
ワルキューレを前進させるわ!
サウンドポットをプラント周辺まで展開させます。
映像班も準備しておいて!」
ワルキューレが前進を開始する。
カガリとラクスの歌も再び流れ始める。
それは、アークエンジェルを含む全ての地球軍に頭を殴られたかのような衝撃を与えた。
あんな、まだ子供のような歳の少女達が前に進んでいる。
自分の不甲斐なさに絶望すら感じる。
このままではいられない。
少女達に頼りっぱなしで、なにが軍か!なにが大人か!
艦隊の指揮系統が再構築されていく。
上からの命令など待っていられない。
近くの艦と連絡を取り合い、少しでも早く体勢を立て直すのだ!
押されていた戦況が、再び拮抗し始める。
アークエンジェルのモビルスーツ隊も、ジェネシスの光に恐怖していた。
予想とは違った形だが、あれは間違いなく核の力を使っているだろう。
その引き金を引く指の軽さに恐怖していたのだ。
あれは人類を滅ぼす事が出来る光だ。
パイロット達はそれを理解していた。
「アスラン!あれがプラントの意思なのか!?
分かり合えるかもしれない存在を全て消した先にある、孤独な世界が君達が望む未来だと言うのか!」
「・・・・」
そんなキラの悲痛な声も、外部からの情報を遮断して戦闘に集中しているアスランには届かない。
「アスラン・・・」
そんなアスランの様子をニコルも悲しげに見つめている。
そして、ニコルは気付いてしまった。
「ミラーが動いている!」
ジェネシスが発射された事で、光を収束させるため使われボロボロになっていたミラーが外され、新しいミラーが設置されようとしていた。
「そんな!これ以上どこを撃つつもりなんですか!」
ニコルは、パトリックにここまでさせるナチュラルへの憎しみが悲しかった。
アスランを洗脳したのは、ほぼ確実に父親であるパトリックだろう。
自分の息子を道具にしてまでナチュラルに復讐したかったのか?
復讐のために戦っている者は、きっとパトリックだけじゃない。
自分達が目指していた未来は、本当に素晴らしいものなのだろうか?
そんな想いがニコルを動けなくしていた。
そんなニコルの耳に音楽が届いた。
顔を上げるとワルキューレが再び前進を始めていた。
カガリとラクスの歌も始まる。
ニコルには、その光景が先程のジェネシスの光よりも、よほど輝いて見えた。
それでも、二人の歌声はアスランに届かない。
二人の歌声でも足りないと言うのか?
ニコルの瞳に覚悟が宿る。
二人で足りないと言うのなら、僕も歌う!
アスランのジャスティスにオープン回線を繋げて、歌姫達の歌に合わせて歌い始める。
突然歌い始めたフリーダムのパイロットにキラ達が戸惑う。
しかし、その歌はアスランに劇的な効果をもたらした。
「うぅ、なんで、何故ニコルまで歌うんだ!」
今まで、キラの言葉やラクスの歌にも反応しなかったアスランが我に帰る。
そして再び頭痛がアスランを襲う。
ニコルの歌が、カガリやラクスの歌よりもずっと激しい頭痛をもたらしていた。
「ぐぁあぁぁ!ニコル、やめるんだ!」
ラクス達が歌っていた時より、激しい反応を示すアスラン。
ニコルは、より想いを込めて力強く歌う。
本当のアスランを取り戻してほしい。
それがどんなアスランでも構わない。
父親の言いつけを守る人形のようなアスランは、もう見たくない。
その様子に、キラ達もフリーダムのパイロットがアスランを救おうとしているのだと理解した。
アスランの側に彼を大切に思ってくれる仲間がいてくれた。
キラは、安堵と共に様子を見守る。
アスラン、正気に戻って!
ニコルの歌で、今までにない程アスランの頭の中で湧き出てくる何かが暴れ回る。
それを抑えようとする鎖も、より強く締め付けようとしていた。
それは、未だかつてない苦痛を与え、アスランを追い詰める。
「うああぁぁあぁ!やめろ、ニコル!
やめてくれーーーー!!!」
ジャスティスがその手のビームサーベルをフリーダムのコックピットに突き立てる。
あまりに突然の事に、キラ達も反応出来なかった。
「あっ、ああ・・・」
アスランも自分のした事を受け入れられないでいた。
「アス・ラン・・僕の・・う・た・・・届・て」
突き立てられたビームサーベルは、ニコルの身体を焼き尽くしていった。
ニコルは、最後までアスランが救われる事を祈りながら歌っていた。
そんなニコルの最後の言葉を聞いて、アスランの中で暴れていたものが、今までとは桁違いに暴れ始める。
アスランも、それを止めようとは思わなかった。
「ニ・・コル、うわぁぁぁああぁーーーー!」
アスランの頭の中の鎖が砕け散った。
沈黙するジャスティスを見ながら、動けないでいるキラ達。
アスランの心は、どうなってしまったのだろうか。
自分を救おうとしてくれた者を自らの手で殺してしまったのだ。
その心の痛みを思うと、キラは胸が張り裂けそうになる。
アスランが大切な友人なのは変わらない。
「キラ、オレにとって最も大切なのはお前じゃなかった。
ラクスの事も、政略結婚の相手として遠慮があったんだな」
アスランが、ゆっくりと自分の中で整理をつけるように話始める。
「オレにとって一番大切な絆は、いつも隣にいて、戦場で背中を守り続けてくれたニコルだった。
そんな事に、自分の手で壊してしまうまで気付かなかったなんて、馬鹿だな、俺は」
「アスラン・・・」
「すまない、キラ。
俺は行くよ。
やらなければいけない事がある。
今はまだ、死ねないんだ」
そう言ってアスランは引き返していく
きっと父親を止めに行くのだろう。
その背中を、キラ達は何も言わずに見送っていた。
フリーダムのニコルが死に、ジャスティスが撤退した事で、ワルキューレはプラントに向けて前進を再開した。
しかし、ヤキンドゥーエのパトリックは、その事を気にも留めていなかった。
ジェネシスの第2射の準備が終わったのだ。
これで、この戦争の勝利が決まる。
その上で、尚も抵抗を続ける連合を前に、やむを得ず地球を撃つのだ。
パトリックは、込み上げてくる笑いを抑えていた。
周りには沈痛な面持ちを見せる。
これは本意ではないのだとアピールしていく。
「ジェネシス照準、月面、プトレマイオス・クレーター、地球軍本部!」
パトリックの指示の下、照準座標が入力される。
「これで、我々の勝利が決まる。
ようやく、進化した新たなる種である我々の時代が来るのだ。
ジェネシス、発射せよ!」
パトリックの号令でジェネシスから再び光が放たれる。
その光は、真っ直ぐに月へと進んでいく。
このままでは、月本部が壊滅してしまう。
しかし、歴史の流れは変化していた。
ジェネシスの射線上、その光の前に突然、巨大な構造物が現れる。
その構造物がバリアを貼り、ジェネシスの光を受け止め、拡散させていく。
その姿は、アークエンジェルからも確認できた。
「なっ、あれは!」
「ええ、ユーラシアの要塞、アルテミスです」
「理事は、知っていたのですか?」
「すみません。
敵を騙すには、まず味方から。
切り札は、ギリギリまで伏せておきたかったんです」
アルテミスは、修理が終わり復旧していた。
しかし、位置的に重要な拠点でない事に変わりはない。
そこで、アズラエルの部下のアイディアマンが再び提案したのだ。
重要な場所にないなら、移動してしまえば良いと。
アルテミスの司令、ガルシアがその提案を採用。
フレアモーターを使って移動を開始していた。
「本来なら、ミラージュコロイドで近づいて、バリアを貼ったままヤキンドゥーエに体当たりする予定でした。
バリア・アタックってやつですね」
しかし、ジェネシスの第1射でザフトの切り札の存在を知った。
ミラーを換装し、第2射の準備をしていた事から、ガルシアは、アルテミスを射線上に展開させて盾となったのだ。
「おのれ、地球軍め!
よもや、あの様な物を用意していたとは」
自らの野望の前に立ち塞がったアルテミスの姿を見ながら、パトリックは怒りに震えていた。
「何をしている!
早くジェネシスの次射の準備に取り掛かれ!」
プラントの勝利のために行動しろと言うパトリックの指示に従い、ジェネシスの準備を進めていく。
月本部への攻撃は防がれてしまった。
なら、次は何処を狙うのか?
そんな疑問を思い浮かべる者はいなかった。
司令所に配置されているのは、パトリックに忠実に従い、自分で何かを考えると言った事をしない者達だった。
再び、ミラーの換装が進められていく。
司令所の者達が疑問に思わなくても、連合は気付く。
アークエンジェルも、気付いていた。
「そんな、また、ミラーが!」
「月本部への攻撃は失敗した。
なら、次に狙うのは・・・地球」
「あんなものを地球に撃ったら・・・」
「強烈な輻射熱で地表の約80%が焼き尽くされる」
「人類滅亡の引き金を引くつもりか!」
ワルキューレから通信が繋がる。
「ワルキューレの護衛はもう良いです!
アークエンジェルは、あれを破壊しに行って下さい」
「でも、それじゃあ・・・」
ザフトは、ジェネシスを撃った事で引けなくなっていた。
連合を屈服させ、宇宙の化け物として憎まれ、恐れられる未来しかない。
負ければ滅ぼされる。
ならば、化け物になってでも生き残る未来を目指すしかないじゃないか!
プラント防衛部隊が、暗い絶望を抱えながら抵抗していた。
あえて、民間船のワルキューレを狙うような者はもういない。
それでも、戦場はビームやミサイルが飛び交っているのだ。
そんな場所にワルキューレだけを置いていくわけにはいかない。
逡巡しているアークエンジェルに通信が繋がる。
臨時の旗艦となり、本隊をまとめ上げたドミニオンだった。
「あの巨大兵器の破壊にはドミニオンが向かう。
アークエンジェルは、引き続きワルキューレの護衛に当たれ!
プラントに届くまで後少しだろう」
「サザーランド大佐、しかし!」
「ドミニオンには、陽電子破城砲『ローエングリン』が搭載されている」
「あの試作兵器がですか?」
「そうだ。
アークエンジェルより、我々の方が適任だと分かっただろう」
ローエングリンは、アークエンジェルに搭載が計画されていたが、見送られた経緯がある。
その絶大な火力を誇るローエングリンをドミニオンは搭載していると言うのだ。
「分かりました。
ドミニオンに任せます」
「それで良い。
諸君は、諸君がすべき事に集中したまえ」
「はっ!」
ユーラシアのアルテミスがジェネシスの光に対する盾となった。
サザーランド大佐が指揮するドミニオンが、そのジェネシスの破壊に向かう。
アークエンジェルは、ワルキューレと共にプラントへと歌を届けるために進む。
それぞれが、仲間を信じてやるべき事をしている。
連合は今、一つになっていた。
そして、ついにプラントに歌が届く位置にまで到達した。
サウンドポットが射出される。
プラント本国を含む、この宙域すべてに歌が響こうとしていた。
ここで、アルテミスが再登場しました。
ヤキン攻略の切り札として準備していた物が、ジェネシスに対する最強の盾になった感じですね。
そして、ニコルの死。
だいぶ悩みましたが、アスランのその後の行動や続編での立ち位置のためにプロット通りにしました。