歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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宇宙に響く歌

 

 

 

 ついにワルキューレが射出するサウンドポットがプラントに歌姫達の歌を届けた。

 プラント中の街頭ビジョンが、戦場の様子とラクス達の歌を流している。

 プラント市民は衝撃を受けていた。

 穏健派がプラントの絶望的な立場を公開していた。

 それでも、ラクスの歌に支えられ、少しずつ変わろうとする動きもあったのだ。

 そんな矢先に連合によるラクス暗殺の報で、市民達は楽な方へと流れてしまった。

 連合も非道な事をしている。

 相手を責める事で、自分達がマシな存在であると思い込もうとしていた。

 だが、ラクスは生きていた。

 それも、連合でナチュラルと共に歌っている。

 楽な方へと逃げた先には、更なる絶望が待っていた。

 

 

「映像班、準備は出来てるわね?

 メッセージ映像、流しなさい!」

 

 ワルキューレからカズイが提案して作り上げてきた映像が配信される。

 その映像が、サウンドポットを通してプラントの街頭ビジョンに映し出される。

 

 そこは全てが破壊されて滅びた世界。

 世界に破壊を撒き散らしている怪物がいる。

 そんな怪物の前に、絶望に打ちひしがれた人々が座り込んでいた。

 怪物は、その人達を取り込んでより大きく邪悪になっていく。

 その世界にカガリとラクスが降り立つ。

 純白の鎧を身に纏い、光の翼を持つ姿は、まさに戦乙女《ワルキューレ》だった。

 二人は歌い始める。

 立ち上がれ、前へと進むのだ!

 そうしなければ、この絶望の世界は変わらない。

 そんな想いが籠められた歌に、周囲の人々が一人、また一人と立ち上がる。

 立ち上がった人々は、ラクス達と共に歌い始める。

 立ち上がる人が増えていく。

 その度に、歌の輪が広がっていった。

 怪物に異変が起きた。

 その身体から取り込まれた人々が剥がれ落ちてきたのだ。

 怪物の身体から離れた者達も歌い始める。

 歌の輪が広がる度に、怪物は小さく弱くなっていく。

 そして、少しずつ滅びた世界に草が芽吹き始めた。

 ゆっくりとではあるが、少しずつ世界が再生し始めたのだ。

 

 その映像を見たプラント市民達は理解した。

 これは自分達だと。

 この怪物も、絶望している人々も、自分達の姿だと。

 

 ブルーコスモス過激派がプラント市民を宇宙の化け物と呼んでいた。

 そして、今では地球の人々がそう呼んでいる。

 そんな自分達の立場に絶望していた。

 それでも、ラクスの歌で少しずつ変わろうとしていた。

 なのに、ラクス暗殺でまた座り込んでしまった。

 それが宇宙の化け物をより強大にして、自分達の絶望をより深くする行為なのに。

 

 この映像が示していた。

 ここが最後の一線だと。

 絶望に座り込んだまま、目を閉じ、耳を塞ぎ、分からぬと逃げて、宇宙の化け物の一部になるか?

 自らの過ちを認め、その罪を受け入れ、世界と誠実に向き合うか?

 これが、歌姫達の献身が与えてくれた最後の機会なのだ。

 

 世界の再生はゆっくりだった。

 当然だろう。

 世界からの信頼は、簡単には回復しない。

 自分達が誠実に向き合う事で、少しずつ回復させていくしかないのだ。

 それが嫌なら、もう宇宙の化け物として撃たれる未来しかない。

 プラント市民は、目覚めるしかなかった。

 人々の目には、化け物にはなりたくない、そんな思いが宿っていた。

 

 市民達の様子を見ていた穏健派が行動を起こす。

 

「彼女に連絡を入れて。

 クーデターを始めると」

 

 戦争を終わらせるために、プラントも動き始めた。

 

 

 ヤキンドゥーエ、司令所

 

 歌を流しているワルキューレを見て、パトリックが顔を歪めていた。

 

「小癪な小娘どもめ!」

 

 通信をプラントの秘匿研究所に繋げる。

 

「ライトマン、何をしている。

 さっさと奴らを蹴散らせ。

 そのために受け入れてやったのだぞ」

 

「わかりました。

 では、ジャッジメントとゴーストを使用します」

 

「結果を出せ。

 お前には、ここしか居場所がないと言う事を忘れるな」

 

「ええ、わかっていますよ」

 

 ライトマンとの通信を終えたパトリックは、ジェネシスの発射準備を進めていく。

 

 

 プラント、秘匿研究所

 

 通信を終えたライトマンは、戦況を分析していた。

 

「あれほど念入りに洗脳したのに、アスラン君の意識が戻ってしまうとは。

 歌とは、これ程の力があったんですね。

 やはり、彼女達の歌が理想の世界を作るための最大の障害になる」

 

 ライトマンは、ジャッジメントを出撃させる。

 標的は、ワルキューレに設定した。

 ジャッジメントのパイロットは、コーディネーターを素材とした生体CPUだ。

 彼は、口元だけが露出する大きなヘルメットのような物を被っている。

 そこに多数のコードが繋がっている。

 脳にインプラントした機械を用いて、機体と脳を直接繋げているのだ。

 ジャッジメントには、通信装置を載せていない。

 彼には歌が届かない。

 宇宙では、その手段がないのだ。

 だから、アスランのように洗脳が破られ、正気に戻る事はない。

 いや、そもそも身体を改造する過程で人格が壊れているので、洗脳が破られても廃人になるだけだが。

 

 

 プラントから巨大モビルアーマー、ジャッジメントが出撃する。

 同時に、多数のモビルスーツも出撃していた。

 普通のモビルスーツに比べて2回りほど小さい機体だった。

 その機体達が、プラントに迫る連合に襲いかかる。

 連合も当然迎撃する。

 だが、その機体達を止められなかった。

 小さなモビルスーツ、ゴーストは、速く鋭い動きで鋭角な軌道を描く。

 連合のモビルスーツの攻撃は、誰もゴーストを捉えられなかった。

 信じられなかった。

 こんな動きをすれば、中のパイロットが持たないはずだ!

 誰もがそう思った。

 事実、ゴーストの中にパイロットが居れば、持たないだろう。

 居ればだが。

 ゴーストは無人機だった。

 通常の機体より小さいのは、パイロットの為のスペース、コックピットや生命維持装置などが必要ないからだ。

 

 マシン・マキシマム

 パイロットの安全や生命を考慮せず、技術的限界性能を追求する思想。

 普通なら、こんな設計思想の機体は存在しない。

 だが、パイロットの居ない無人機でなら、この思想は当然の選択になる。

 

 あり得ない性能を示したゴースト達に、連合は一方的に打ちのめされていく。

 

 ここで疑問が浮かぶ。

 これほどの性能を持つ無人機。

 何故、連合には開発計画がなかったのか?

 それは、制御するAIの性能が要求を満たさないからだ。

 では、ライトマンがそれ程のAIを開発したのか?

 如何にライトマンが天才でも、この短期間でそんなAIを開発する事は出来ない。

 ジャッジメントがシステムの中枢として無人機達を制御しているのだ。

 108機のゴースト達を制御するジャッジメント。

 生体CPUに改造されたとは言え、そんな事が可能なのか?

 答えは不可能だ。

 

 ライトマンの後ろに答えがあった。

 培養液で満たされたシリンダーの中で人間の脳が浮かんでいる。

 脳には、コードが繋がっていた。

 脳に直接電極が突き刺さっている。

 それが数十個並んでいた。

 ライトマンの研究の犠牲になった被験者達の脳だった。

 

 彼らの脳は、ドラグーンの制御に使われている量子通信技術によってネットワークを構築している。

 そのネットワークの中心に居るのが、ジャッジメントのパイロットだった。

 彼らによって無人機は制御されている。

 ジャッジメントは、戦場で無人機を制御するための中継装置としての機能も持っていた。

 

 ジャッジメントが多数のゴーストを引き連れてワルキューレへと向かう。

 その前に立ち塞がるのは、当然アークエンジェルだった。

 キラ達も、そのあり得ない機動からゴーストが無人機だと気付いている。

 だからと言って対応できるわけではない。

 

 イレブンとフレイが全てのミサイルを撃ち出した。

 多数のミサイルによる飽和攻撃を仕掛けたのだ。

 それでも、ゴースト達は人には不可能な機動で回避してしまい、ほとんど撃墜できなかった。

 襲いかかってくるゴースト達に、イレブンとフレイは背中合わせになって弾幕を張ることで互いの死角を守っていた。

 

 キラとムウも、同様に苦戦していた。

 キラはその高速機動で、ムウは無人機の予測を裏切るエンデュミオン・ダンスで絶えず動き続ける。

 その上で、互いの背中を守り合っている。

 そこまでしても尚、撃墜されない事で精一杯だった。

 

 後方からトールが支援攻撃を行なっているが、キラ達の負担を僅かに軽くする事しか出来ていない。

 だが、機動性の低いモンスターではゴーストに対応できない。

 距離を取って、支援を続けることしか出来なかった。

 

 

 それでも、連合屈指のエース部隊だからこそ、撃墜されずに済んでいるのだ。

 周りでは、連合の部隊が蹂躙されている。

 ワルキューレの盾になって、必死に戦っているアークエンジェルもゴーストの攻撃でボロボロになっていた。

 この無人機達の中枢だと予測される巨大モビルアーマーに対してゴットフリートを撃つ。

 しかし、ジャッジメントの巨大な陽電子リフレクターの前にゴットフリートですら捻じ曲げられて届かなかった。

 では、実体弾ではどうか?

 バリアントは、既にゴーストの攻撃で破壊されている。

 トールのモンスターでは、アークエンジェルに着艦して射撃態勢を取る前にゴーストに撃墜されてしまう。

 

 アークエンジェルは、抵抗する力を失いつつあった。

 いずれ突破され、ワルキューレを落とされてしまうだろう。

 全員が諦める事なく、必死に抵抗を続けているが、現実は非情な結果を押し付けようとしていた。

 

 そんな、絶望的な戦場に侵入してくるザフトの機体が一機。

 巨大なランチャーを担いだバスターだった。

 ディアッカは、軍を脱走していない。

 つまり、バスターはザフトの機体のままだ。

 ジャッジメントやゴーストは、IFFで味方の反応を示すバスターに攻撃せず、ディアッカはジャッジメントの至近距離まで接近する事が出来た。

 バスターがジャッジメントに向けてランチャーを構える。

 ランチャーから撃ち出された物がジャッジメントに着弾した。

 それは、ミサイルではなかった。

 アームを展開してジャッジメントの装甲に張り付く。

 先端のカバーが外れ、ドリルが姿を見せた。

 そう、メテオブレイカーや地球に投下したNジャマーに使用された機材だった。

 フェイズシフト装甲は、実体弾に強い防御力を持つ。

 それを貫くにはどうすれば良いか?

 一つは、フェイズシフト装甲の限界を越える威力で突破する。

 アークエンジェルのバリアントやモンスターのレールキャノン等だ。

 もしくは、衝撃を与え続ける事。

 そうする事で、エネルギー供給が追いつかなくなると一時的にその部分にフェイズシフトダウンを誘発できる。

 ドリルは、フェイズシフト装甲に極めて有効な兵器だった。

 ジャッジメントの装甲を貫通したドリルが内部で外れ、その下からスピーカーが展開される。

 通信装置がないジャッジメントに、今、通信装置が組み込まれた。

 

 

 歌が届くようになったジャッジメント。

 それは、中のパイロットに大きな影響を与えていた。

 パイロットの脳波が乱れる。

 その影響は、ネットワークで繋がっている他の脳にも波及していった。

 ジャッジメントの動きが鈍くなっている。

 彼らが制御していたゴーストの動きも乱れていた。

 

 

 それでも、バスターから攻撃を受けたと認識したジャッジメントは、バスターを敵性存在と判断。

 バスターを攻撃対象に変更していた。

 ジャッジメントやゴーストから攻撃を受けたバスターが被弾しながらアークエンジェルに通信を送る。

 

「聞こえてるか、アークエンジェル!

 あのモビルアーマーには、生体CPUに改造されたコーディネーターが乗ってる。

 頼む、こいつを楽にしてやってくれ!」

 

 

 ディアッカの言葉を受けて、アークエンジェルのクルーも何とかしたいと思ったが、バリアントは破壊されている。

 陽電子リフレクターが健在なため、ゴットフリートでは効果がない。

 ゴーストも動きが乱れているとは言え、脅威である事には変わりなかった。

 そんなアークエンジェルに通信が入る。

 

「俺に任せろ!」

 

 トールのモンスターがアークエンジェルの後方から接近して来た。

 着艦のためにモビルスーツへと変形していく。

 

 ジャッジメントも動きが鈍ったとは言え、攻撃は続いている。

 トールのモンスターは、変形途中で被弾して右腕と左脚を破壊された。

 そのまま、アークエンジェルの甲板に落ちる。

 モンスターは、四つん這いのような体勢になりながらも、背中のレールキャノンを動かし照準をジャッジメントに定めようとしていた。

 4門のレールキャノンがジャッジメントをロックオンする。

 

「うおおおぉぉぉぉおぉ!」

 

 トールが引き金を引いた。

 それぞれがバリアントに匹敵する砲弾が発射される。

 歌で動きが鈍っているジャッジメントは、その砲撃を回避することが出来なかった。

 フェイズシフト装甲を突き破り、内部に破壊をもたらしていく。

 それは、コックピットにも到達した。

 爆発に包まれていくコックピットの中で、パイロットの脳裏に映像が浮かんだ。

 こちらに笑顔を向ける二人の赤毛の少女達。

 よく似た顔をしている事から姉妹なのだろう。

 人格が壊れているはずのパイロットの口元には笑みが浮かんでいた。

 最後に幸せだった頃の記憶を思い出す事ができたのだ。

 

 ジャッジメントが撃破された事で、ゴースト達もその動きを止めていた。






プラントにカズイが作った映像と共に二人の歌が届きました。
ライトマンの切り札、ジャッジメントとゴースト達との絶望的な戦いも切り抜ける事に成功。
次が最後の戦闘回です。
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