歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ジャッジメントが破壊され、ゴースト達が動きを止めた事は、ヤキンドゥーエの司令所でも確認していた。
「ライトマンめ、口程にもないな。
まあ良い、時間は稼いでくれた」
ジェネシスの第3射の準備が完了していた。
「照準座標を入力しろ。
目標、大西洋連邦首都、ワシントンDC」
地球を撃つと言うパトリックに、さすがに司令所の者達も騒めく。
そんなパトリックに抗議の声を上げる者がいた。
「何を言ってるんです、議長。
そんな事をすれば、地球上の生命が滅んでしまう。
ジェネシスの威力は見せつけた。
ジェネシスの解体を約束すれば、連合も我々の要求を飲むでしょう!」
「ユーリよ・・・この愚か者め!」
パトリックが、自分に逆らったユーリを拳銃で撃っていた。
ユーリが、撃たれた衝撃で後方の壁まで流される。
「パトリック、まさか・・・最初から・・地球を・・
すまない、ニコ・・ル」
そこでユーリ・アマルフィは力尽きた。
「何をしている。
照準座標を入力しないか!」
パトリックに言われて入力を始める。
自らの命を危険に晒してまで、地球を守ろうとする者はいなかった。
照準座標が入力され、発射の号令を待つばかりとなった。
パトリックが発射の命令を出そうとした瞬間。
彼の身体に衝撃が走る。
一度だけではない、何度も衝撃は襲って来た。
痛みが広がっていく。
身体から力が抜けていくのが分かる。
後ろに目を向けると、涙を流しながら銃を構えているアスランの姿があった。
パトリックには、その光景が理解できなかった。
何故、決して裏切ることのない人形にしたはずのアスランが私を撃ったのだ?
あの女のように、お前まで私を裏切るのか?
「アス・・ラン、世界を・・我らの・手に・・」
そこで、パトリックの意識は途絶えた。
最後まで、自らの野望に固執していた男の姿に、アスランはどうしようもなく悲しくなった。
アスランには、洗脳されていた時の記憶も残っていた。
もう父親とは分かり合えない。
止めるためには殺すしかないと理解していても、もしかしたらと言う思いは捨てられなかった。
しかし、現実は、アスランにそんな感傷に浸っている時間を与えてはくれなかった。
ヤキンドゥーエに警報が響く。
自爆装置が作動したのだ。
アスランは、急いで端末を操作して状況を確認する。
そして気づいてしまった。
ヤキンドゥーエの自爆にジェネシスの発射が連動している。
そして、ヤキンドゥーエの自爆のトリガーは、パトリックの生命反応の消失だった。
死んでも地球を滅ぼす。
そんな父親の執念に恐怖すら感じた。
なんとか、自爆を解除しようとするが、時間が圧倒的に足りない。
アスランは、何かを決意した顔で司令所を出る。
ジャスティスに戻ったアスランは、ジェネシスに向かった。
ジェネシスの内部に侵入したアスランが、ジャスティスの自爆装置を起動する。
ジェネシス内部でジャスティスを核爆発させようとしているのだ。
父親に洗脳され、言われるままに戦って来た。
そんな自分を救おうとしてくれたニコルも自分の手で殺してしまった。
アスランには、もう生きる意味を見出せなかった。
こんな自分の命で地球を救えたなら、あの世で少しはニコルに顔向け出来るかな?
そんな思いで、自爆装置のパスワードを入力していく。
入力が終わり、カウントダウンが始まった時、その場に別のモビルスーツが侵入してきた。
それは、プロヴィデンスだった。
戦場に乱入してきたゴーストにゲシュペンスト隊の相手を任せて戻ってきていた。
「アスラン、自爆装置を起動したのなら、早くこちらに移れ。
脱出するぞ!」
プロヴィデンスのコックピットが開き、クルーゼの声が届く。
「クルーゼ隊長!
隊長も洗脳が解けたんですね」
「いや、私は洗脳などされていない。
議長の前では演技をしていたのだ」
「なっ!」
アスランの驚く顔を見て、驚くのも無理はないと思っていた。
回想
パトリックが部屋を出ていき、ライトマンが洗脳処置を施すために近づいて来た。
クルーゼは、もはやこれでかと思っていた。
「ライトマン博士、その処置、やめて頂きたい」
突然、聞き慣れた声が響いた。
まさか
顔を向けると、友人のギルバート・デュランダルが立っていた。
何故、ギルがここにいる?
「おや?君はたしか、ギルバート君だね。
君が提唱したデスティニープランは面白かったよ」
「あのライトマン博士にそう言って頂けるとは光栄です」
「それで、止めて欲しいとは?
議長には世話になっているから、不義理はしたくないんだけど」
「私も組織の一員です」
「おや、君はネームレスの一員だったのかい?」
「ネームレス?」
「ああ、議長がそう呼んでいるんだよ」
「なるほど、確かに相応しい名前ですね。
それで、彼に対する処置は止めて頂けますか?」
「私も組織から支援を受けている。
組織の一員である君の頼みなら聞いてもいいけど、理由が知りたいね」
「私も聞きたいな。
まさか、お前がネームレスの一員だったとは」
クルーゼも驚いていた。
デスティニープランなどと言う、イカれた計画を企んでいるのは知っていたが、まさか、こんな裏の顔があったとは。
「パトリックの思惑が完全に達成されるのは、組織としても困るのですよ。
それはあなたも同じではないですか?」
「ふむ、確かに議長の野望は私の理想とは相容れない。
何処かで失敗させる必要があるとは思ってました」
「パトリック・ザラを躓かせる小石にする。
そう思ってはくれませんか?」
「うーん、まあ、いいでしょう」
どうやら、ギルのお陰で助かったらしい。
パトリックの邪魔をしろと言うなら、喜んで従おう。
パトリックの話を聞いている内に、クルーゼの心に変化があった。
自分が憎しみを向けるべきは、パトリックやネームレスのような奴らではないか?
自分を作ったユーレン・ヒビキやアル・ダ・フラガのような奴らこそ、抹殺すべき対象だ。
そう思うようになっていた。
「分かっていると思うが、時が来るまで洗脳されているフリをして下さい」
「助けてもらったんだ、指示には従おう」
「話は終わったね。
では、治療を始めようか」
「博士、なんの事です?」
「何って、治療だよ。
クルーゼ君の身体は、不完全なクローニングで細胞バランスが狂っている。
だいぶ、痛みが酷いはずだよ?」
「・・治せるのか?」
「もちろん、洗脳処置と一緒にするつもりだったんだ」
「残り少ない命だが、苦痛を取ってくれるならありがたい」
「残り少ない?
確かに君の細胞年齢は50代前半くらいだけど、人間の生物学的寿命を考えたら、後30年くらいは生きれるでしょ?」
「は?」
「ああ!身体の痛みで寿命が近いと思ってたんだね。
違うよ、痛みは細胞バランスの乱れによるものだ」
「つまり、私は60歳近くまで生きられると?」
「まあ、病気とか事故とかで死ななければね」
「私は、何をしていたんだろうな」
こうして、ライトマンによる治療を受け、研究所を出る事になった。
クルーゼは研究所を出た後、ギルバートの真意を尋ねた。
「何故、私を助けた?
パトリックの邪魔をするなら、私でなくても良かったはずだ」
「私の役目は穏健派の中に入って、彼らの思考を操作する事。
上手くいけば、デスティニープランを実行する機会を与えてくれる約束だった。
だけど、カガリ・ユラと接触した後のラクス・クラインの歌で思考誘導が解除されてコントロールが出来なくなってしまってね」
「なるほど、だから穏健派がまともな行動をするようになったのか」
「組織の影響力も、かつてない程に低下している。
これでは、各国の要人を洗脳してプランに同意させるなど不可能だ」
「それで?」
「デスティニープランを実行できない以上、組織のために働く理由はない。
なら、友人のラウを助けたいと言う個人的な理由で動くのも悪くないと思ったんだよ」
「私が、いずれネームレスに噛み付くつもりだとしてもか?」
「言ったでしょう。
組織のために働く理由は、もう無いと」
こうして、パトリックの野望を挫くために洗脳されたフリをしながら妨害してきた。
穏健派にラクス暗殺計画をリークしたのもクルーゼだった。
アスランの洗脳が解けていなかったら、クルーゼがパトリックを撃っていただろう。
回想終了
呆けているアスランを正気に戻さなければ。
時間がないと分かっているのか?
「詳しい話は後だ。
時間がない。
早くこちらに来い」
「しかし、私は・・」
「ネームレス」
「!」
「君の父上がそう呼んだ組織。
世界の裏で暗躍している奴らを野放しにしたまま、ここで死ぬのか?」
クルーゼは、アスランに生きる意味を与えていた。
ニコルに救われたこの命を、簡単に投げ捨てて良いはずがない。
強硬派や穏健派を裏から操り、この戦争を引き起こした存在。
奴らがいなければ、ニコルをこの手で殺す事もなかったかもしれない。
アスランの瞳に力が戻ってくる。
「分かりました、隊長。
ニコルがくれた命、無駄にはしません」
アスランがプロヴィデンスのコックピットに移動して、ジェネシスから脱出する。
そして、ジャスティスの自爆装置のタイマーが0になった。
発射寸前の臨界状態だったジェネシスは、ジャスティスの核爆発を起点に大爆発を起こし、跡形もなく消滅した。
議会では、その光景を強硬派の者達が呆然と見ている。
そこにカナーバを先頭に穏健派の議員達が兵士を従えて入ってくる。
兵士達が強硬派の議員達を拘束する。
穏健派によるクーデターが発生したのだ。
そんな中、一人の強硬派議員がカナーバに近づく。
不思議な事に、兵士達がその議員の行動を止める事はなかった。
「後は頼んだよ、アイリーン」
「協力、感謝します、エザリア」
そう、穏健派のクーデターを手引きしたのはエザリア・ジュールだった。
ディアッカが父親、タッド・エルスマンを通してイザークの死の状況を伝えていた。
イザークが連合に殺されたと報告を受けていたエザリアは、当初は信じなかった。
だが、ディアッカがバスターの戦闘記録を持ち出し、エザリアに見せた事で事実を知った。
そして、事実を握りつぶし、自分の都合の良いように事を運ぼうとするパトリックを許す事が出来なかった。
彼女は、自分が所属している派閥を裏切る決断を下していた。
エザリアも強硬派として罪を重ねて来た。
今、拘束されている者達と共に裁きを受ける事になる。
それでも、息子の想いを知った今、恥ずかしくない母親でいたかった。
ジェネシスの爆発に衝撃を受けて、一時的に戦闘が停止している中で、プラントから宙域全体に声が響く。
「プラントの最高評議会は穏健派が掌握しました。
我々は、この宙域全てのザフト軍兵士達に対し、即時無条件での停戦を命じます。
シーゲル・クラインが、この戦争とエイプリルフールクライシスを引き起こした責任者として国際法廷に立つために、既に地球連合本部に入っています。
連合とは停戦で合意しました。
終戦の条件についても、大幅な緩和を約束されています」
それは、ザフトにとって希望となる宣言だった。
宇宙の化け物として撃たれる未来しかないと絶望していた者達が、ようやく銃を下ろす事ができた。
もちろん、緩和されて尚、厳しい条件だと想像はつく。
それでも、生きる事すら許されるか不安だったのだ。
多くの人命を奪った戦争が、今、ようやく終わった。
クルーゼが作られた時のアルの年齢を30代くらいの設定にしました。
クルーゼ本人は24歳
とすると、細胞の年齢は50後半くらい。
細胞分裂を抑える薬を飲んでたはずなので、無理の無い設定かなと思います。
原作で、ムウと会った時に体格がほぼ変わらなかったのは不思議です。
少年時代の4歳差は大きいはずなんですけどね。