歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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戦争の後始末

 

 

 

 開戦時の評議会議長シーゲル・クラインは、クライシスを含めた戦争の責任者として国際法廷に立った。

 彼は、すべての弁護を拒否していた。

 被告が可能な限り多くの罪による裁きを求める前代未聞の裁判となった。

 プラントの立場を少しでも良くするために、より多くの罪を被ろうとしているのだ。

 たった1人に独裁者として全ての責任を押し付ける。

 それが正しい事ではないのは、両陣営も理解している。

 しかし、人類は西暦時代の大戦で、復讐心のままに苛烈な懲罰を下せば次の大戦の原因になってしまう事を学んでいた。

 なにより、まともになった穏健派を全て裁いてしまえば、再び強硬派のような者たちに実権を握られてしまうかもしれない。

 プラントやザフトを許せないから市民達を一人残らず皆殺しにするか?

 未来に禍根を残さずに復讐するなら、そうするしかない。

 それは、はるか昔に野蛮だと捨て去ったはずの思考だ。

 何より、歌姫達の覚悟を見て、世界を変えようとしている者達に取れる手段ではなかった。

 人類史上最悪の大量虐殺を主導した者として歴史にその名が刻まれる。

 シーゲルは、それを承知で連合に身柄を預けた。

 連合も、その覚悟に応えなければならない。

 シーゲルの覚悟に敬意を表して、処刑は苦痛を与えないように薬物による安楽死となった。

 彼は、最後まで取り乱す事なく、静かに自らの死を受け入れていた。

 

 

 ザフトは、地球のすべての占領地から撤退した。

 ジブラルタル、カーペンタリアの両基地も、基地としての機能を放棄し、地球側と交流するための領事館としての機能だけを残して、ほとんどの人員が宇宙に引き上げた。

 プラントの工場としての設備も、理事国の財産である事が確認された。

 プラントが行動を起こす前の状況にまで戻したのだ。

 本来の時空で、マルキオ導師によってプラントに持ち込まれたオルバーニの譲歩案。

 この世界では、ほぼそのままの条件で成立していた。

 穏健派と連合政府の間で、シーゲルが責任者として裁かれる事と引き換えに合意が成立していたため、政治的な決着はほとんど混乱する事なく終わった。

 

 

 問題が起こったのは、やはり戦争犯罪への対処だった。

 地上軍や宇宙軍の一部は、自ら出頭し、その罪を告白した。

 また、自ら名乗り出なかった者も、裁判に掛けられた際、多くが大人しく法廷に出頭していた。

 問題となったのは、ザラ派を中心としたザフトの強硬派だった。

 彼らは、裁かれる事を不服とした。

 いや、敗戦を認めた穏健派の決定を認めていなかった。

 戦後の混乱を利用し、軍から離反して姿を眩ませた。

 一部の者達は、モビルスーツや艦艇を奪っての逃走すらしていた。

 連合は、彼らをテロリストと認定。

 プラント政府もこれを追認。

 世界の敵として、連合軍から追われる立場となった。

 しかし、あまりにも離反した数が多かった。

 他にも問題が起こっていたため、多数の強硬派を取り逃す結果となってしまった。

 

 その問題とは何なのか?

 連合は、戦争が終わったため戦時特権の廃止をジャンク屋連合に通達していた。

 ロウ・ギュールなど、良識ある者たちは大人しく従い、それぞれの所属国に復帰していた。

 しかし、艦艇や施設を自分達で破壊して、ジャンクだと言って持っていくなど海賊のような真似をしていた者達が通達を無視して活動を継続。

 本物の宇宙海賊になっていた。

 彼らは、戦時中から用意していたらしく、宇宙に連合も知らない拠点を幾つも作り上げていた。

 ザフトを脱走した強硬派の者達も取り込んで、さらに凶悪な海賊となった事で、そう簡単に殲滅できない勢力へと成長していた。

 

 姿を眩ませ、地下に潜ったテロリスト達。

 宇宙に蔓延る宇宙海賊。

 連合軍は、戦後新たに発生した脅威から平和を守るために戦っていく事になる。

 

 

 一方、プラント政府はこの事態に頭を悩ませていた。

 戦争犯罪者として裁かなければならない者が多すぎた。

 強硬派の脱走兵も大量に出てしまったため、ザフトが軍として機能不全に陥っていたのだ。

 そのため、自ら出頭して罪を告白した者達の罪を許し、軍務に復帰してもらおうと考えた。

 しかし、彼らはその温情を拒否した。

 罪を償うために罰を受ける事を自ら望んだのだ。

 そんな甘い処分を行えば、ただでさえ悪いプラントの立場がさらに悪化する。

 誰も罪から逃れようとしなかった。

 

 

 プラント政府はザフトの解体を宣言。

 連合から顧問を招き、明確な階級制度と指揮系統を持つ真っ当な軍組織としてザフトを再建する事にした。

 その間のプラント防衛は、連合に頼る事になる。

 

 

 また、自ら出頭し、免罪を拒否した者達を戦争犯罪者と認定。

 彼らを集めた懲罰部隊を編成し、連合の指揮下に組み込んだ。

 彼らは、平和を守るため、脱走してテロリストになったかつての同胞や宇宙海賊と戦う事で罪を償う事になる。

 

 本来の懲罰部隊は戦場で弾除けの盾にされたり、捨て石のような扱いを受ける。

 犯罪者であるが故に戦意も低く、督戦隊が付いて戦わなければ後ろから撃たれる事になる。

 

 だが、彼らは違う。

 少しでもプラントの立場を良くするために。

 自分の罪と向き合い、償うために。

 高い戦意と責任感を持って戦っていく。

 そんな彼らを連合軍も認めていた。

 捨て石のような扱いはせず、共に戦う仲間と認めていたのだ。

 彼らはただの懲罰部隊ではない。

 プラント政府は、彼らを連合軍の指揮下で戦わせる事で正規の軍組織について学ばせるつもりなのだ。

 罪を償うための任期が終われば、再建されたザフト軍の中核を担ってもらう。

 それがプラント政府の考えだった。

 

 

 

 これら、一連の戦後処理を定めた終戦条約が月面都市コペルニクスで調印された。

 その為、この条約はコペルニクス条約と呼ばれることになる。

 

 その条約は、プラントとザフトが行ってきた事を考えると連合が大幅に譲歩したものだった。

 カガリとラクスの歌で優しい世界に変わったのだろうか?

 実は、そうではない。

 評議会が理事国の財産を横領し兵器を開発、配備してプラントを武装占拠した時、国際連合は彼らをテロリストと認定せずにコペルニクスで交渉の席を設けて話し合いで解決しようとしていた。

 世界はもともと優しかったのだ。

 コペルニクスの悲劇と呼ばれる爆弾テロで、プラントと理事国の対立は決定的なものになってしまった。

 このテロによって世界は戦争へと進んでいった。

 実行犯は分かっていない。

 ブルーコスモスの強硬派だと言う者もいる。

 プラントの仕業だと言う者もいる。

 

 だが、一部の者達には第3の可能性が浮かんでいる。

 決して表に出てこない、世界の要人達の思考を操作する事で歴史を捻じ曲げてきた組織。

 自分の思考が操作されたものだと気付いた僅かな者達しか、その存在を確信している者はいない。

 彼らは恐怖していた。

 本物の秘密結社とは、この組織を言うのだろう。

 この組織に比べれば、ロゴスなどただの公開組織だ。

 巨大企業や財閥が無駄に争わないための利害調整機関に過ぎない。

 一般人でも調べればどんな組織か分かる。

 ロゴスは、陰謀論や悪の秘密結社だと都市伝説でよく噂される。

 

 だが、本物は人々に存在さえ認識されない。

 名前があるのかさえ分からない組織。

 そんなものの情報など公開できない。

 公開しても誰も信じてくれない。

 その組織が存在する証拠など何もないのだ。

 末端らしき人物を見つける事が出来ても、そこから組織の中枢に繋がらない。

 どんな組織体系なのか?

 どうやって末端に指示を出しているのか?

 何も分からないのだ。

 

 たとえ信じてもらえても、世界に無用の混乱を引き起こすだけだ。

 自分の思考が操作されているかもしれない。

 隣にいる人物が組織の末端かもしれない。

 そんな疑心暗鬼が世界を覆ってしまう。

 

 

 だが、放置するわけにはいかない。

 その組織の存在に気付いた一人であるアズラエルが決意していた。

 必ずこの組織の中枢を見つけ出し、潰す。

 そうしなければ、またこの平和が壊されてしまう。

 

 影の中に潜んで出てこない組織を潰すなら、こちらから影の中に入っていかなければいけない。

 

「こんな戦いを、キラ君達にさせるわけにはいかないですね」

 

 それは、世界の裏で行われる暗闘だ。

 悍ましい闇を目の当たりにするだろう。

 

「汚れ仕事は、僕らみたいな汚れた大人がするべきです。

 違いますか?」

 

 そう言って、目の前の男達に問いかける。

 

「いえ、異論はありませんよ。

 我々は光の中には戻れない身。

 理事には感謝しています」

 

「それでは、ネームレスとの戦いを始めましょう。

 影に潜るための新しい身分も用意しています」

 

「はっ!

 これより、我々は理事の私兵として行動します」

 

「頼りにしてますよ。

 ようやく戦争のごたごたが片付いたんです。

 ネームレスに壊されるなんて、許せません」

 

 平和になった世界の裏で、新たな戦いが始まる。

 

 

 

 新たに部下になった男達が退室した後。

 アズラエルは、机の引き出しから二つのファイルを取り出した。

 一つは、コロニー『メンデル』を調査した報告書だった。

 当時のブルーコスモスが最も危険視した研究。

 人口子宮による生命の製造。

 生命倫理に対する冒涜だった。

 そこで研究されていたスーパーコーディネーターのデータ。

 そして、もう一つは、キラ・ヤマトの遺伝子データ。

 この二つは完全に一致していた。

 キラと言う名前とその脅威的な能力から、もしやと思い調べさせていたのだ。

 

 アズラエルは、キラの姿を思い浮かべた。

 人の闇によって生み出された存在なのに、随分と光の中で生きる姿が似合っている。

 人は、どう生まれたかよりも、どう育てられたかが重要なのだ。

 キラを育てた養父母はとても素晴らしい両親なのだろう。

 アズラエルは、ヤマト夫妻を尊敬していた。

 彼らこそ本物の親だと。

 

 スーパーコーディネーターのファイルに目を落とす。

 そこには、実父ユーレン・ヒビキとの遺伝子鑑定の結果も記載されていた。

 遺伝子一致率は、約80%だった。

 これは酷い。

 親子として判定されない。

 せいぜい親戚程度でしかない一致率だ。

 

「ユーレン・ヒビキは、これで満足だったんでしょうか?」

 

 科学的に親子であると立証できない子供。

 それは、本当に自分の子供だと言えるのだろうか?

 

 アズラエルは、二つのファイルを裁断機にかけた。

 書類は処分した。

 遺伝子鑑定に関しては守秘義務がある。

 後は、自分が墓場まで持っていけば、キラ・ヤマトがスーパーコーディネーターである事は誰にも知られずに歴史の中に消えていく。

 

「やれやれ、こんなの僕のキャラじゃないはずなんですけどね」

 

 アズラエルには、キラが化け物だとは思えなかった。

 遺伝子を弄ったから化け物になるのではない。

 プラントの市民達も、周りの環境や教育が宇宙の化け物に育てたのだ。

 現に地上軍は変わった。

 なら、もう少し彼らに猶予を与えてもいい。

 アズラエルは、プラント市民達が変わっていけるのか様子を見る事にしていた。

 もし、彼らがまた宇宙の化け物に戻ろうとするなら、その時は僕が手を汚そう。

 周りからどんな目で見られても構わない。

 アズラエルも覚悟を持って自らの進む道を定めていた。







次回は、エピローグを表と裏の2本投稿します。
これで、ひとまず完結という事になります。
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