歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
連合とプラントの戦争が終わってから2年が経とうとしていた。
あれから世界は大きく変わった。
地球連合は発展的解消を行い、プラントを含むすべての国家が参加する地球統合政府及び統合軍が設立された。
統合政府は各国の内政には一切関与しないため、参加したプラントは実質的な独立を得ることが出来ていた。
もちろん、プラントの工場としての設備は理事国の資産であると認めなければならなかった。
多額の借金を背負って理事国からプラントの経営権を買い取るのか?
プラント市民の財産から資金を出して、新たなコロニーを建設し、誰からも文句を付けられない経済的基盤を作るのか?
あるいは、このまま理事国の下で働き続けるのか?
それはプラント市民が話し合い、これから決めていくことだろう。
キラ達も、戦後それぞれの道を歩いていた。
そんなヘリオポリス組がオーブで久しぶりに集まろうと言う話になった。
同窓会と言ったところだ。
キラ達は、その同窓会に参加するためにオーブに帰ってきていた。
「オーブの復興もだいぶ進んだね」
「カガリ、戦後もチャリティーコンサートとかで忙しくしてたもんな。
キラもあんまり会えてないんだろ?」
「うん、でも元気そうにしてたよ。
そう言うトールだって、ミリィに会えてないでしょ?」
「あいつは、戦場カメラマン兼フリーライターとして世界を飛び回ってるからな」
「でも、この同窓会には来るんでしょ?
私も久しぶりにミリィに会えるのが楽しみだわ」
「フレイはいいよな。
イレブンさんとずっと一緒にいられて。
俺たちの前でイチャイチャしやがって」
「ちょっ、イチャイチャなんてしてないでしょ!
私たちは、場所をわきまえてるわよ!」
「そう思ってるのは、お前たちだけだって。
隙があれば、すぐ惚気てるじゃないか」
「何ですって!」
「何だよ、ホントの事だろ!」
「トールもフレイもそのくらいにしとこうよ、遅れちゃうよ?」
アークエンジェルは統合軍として、今も平和を守るために戦い続けている。
キラたち3人も、アークエンジェルに残ってパイロットを続けていた。
統合軍の役割は、未来において異星起源種とコンタクトした際、統合政府による外交が失敗あるいはコミュニケーションが成立せずに争いになった時に人類の盾として戦うことだ。
しかし、それは遠い未来の事だと思われている。
今は、戦後のどさくさで姿を消したザラ派の残党の捜索や戦時特権を手放すことを拒否して海賊行為を始めたジャンク屋連合の取り締まりなどが任務になっている。
キラたちが店に入ると、すでにサイとミリィが待っていた。
「みんな、久しぶり!」
ミリィが笑顔で明るく声をかけてきた。
「ホントに久しぶりね!
会いたかったわ!」
フレイがミリィに抱きついていた。
「おい、フレイ!
そこは彼氏の俺に譲れよ!」
「いいじゃない、心の狭い男は嫌われるわよ。
ねぇ、ミリィ」
「はははっ、トールとフレイも相変わらずだな」
そのやり取りを見ていたサイも学生時代を思い出させるノリに懐かしさを感じていた。
友人達との久しぶりの再会を喜び、和やかに会話をしていく。
「そう言えば、サイ、仕事はどう?
統合政府に職員として入ったんだよね?」
「ああ、出来たばかりの組織だから、いろいろ大変だよ。
でも、やりがいはあるよ」
「頑張ってるんだね」
「あたりまえだろ。
キラたちを後ろから支えるために統合政府に入ったんだ。
それに、アークエンジェルのクルーだったってことで一目置かれているよ。
このまま出世して、早くキラたちをサポート出来るようにならなきゃな」
そこに最後の一人、カズイが到着した。
「ごめん、みんな。
遅れちゃったかな?」
「大丈夫よ、カズイ。
まだ時間じゃないわ」
「それに、カズイが忙しいのはみんな分かってるよ」
「カガリたちのツアーの準備、大変なんだろ?
むしろ、よく来れたな」
「この集まりの事を知って、みんなが頑張ってくれたんだ」
カズイは、映像クリエイターとしてワルキューレの映像班に入っていた。
カガリのライブに同行して、ライブ演出の映像を担当している。
「今回の火星ツアーにも同行するんだよね?」
「うん、未来に向けたメッセージ映像をライブで流す予定だよ」
「カガリたちと一緒に働けるとか、カズイが一番の勝ち組だよな」
「ラクスも参加するんでしょ?
あの娘も、ようやく前を向いて歌えるようになったのね」
ラクスは戦後、地球各地をツアーで回っていた。
史上最悪の大量虐殺者として歴史に刻まれたクラインの名を、それでも背負っていくと、すべてを背負って裁かれた父親を一人にはしないと言う覚悟を持ってクライシスの被害者たちの前で歌っていた。
シーゲルとラクスを別だと考えることが出来ない者たちもいた。
そんな人たちに石を投げられたこともあった。
それでもラクスは歌い続けた。
世界の人々も、そんなラクスの想いと歌を少しずつ認めていった。
「キラ達だって、今回は一緒だろ?
アークエンジェルが火星ツアーの護衛に就くって聞いたよ」
「うん、火星支援は、統合政府が一番力を入れている事業だからね」
統合政府の一番の役割は、人類の生存圏の拡大、宇宙移民の推進だった。
先の大戦でジェネシスや核などの最終兵器が実際に撃たれてしまった。
抑止力としての歯止めが外れてしまっているのだ。
人々は、人類の滅亡を意識せざるを得なかった。
人類の種の保存のため、世界の目が宇宙移民に向いたのは必然だったのだろう。
その第一段階として、火星の移民事業への支援拡充が行われていた。
戦争中、細々とした支援で凌いでいた火星政府は、この動きを歓迎した。
今回の火星ツアーは、過酷な環境の中で人類の宇宙移民の最前線にいる者たちへの表敬と慰問を兼ねて統合政府が企画し、カガリに依頼したものだった。
「ようやく、カガリもラクスも、明るい笑顔で歌えるようになったんだ」
あの戦争の中でも失われなかったキラの優しい顔を見て、サイたちはキラに感謝していた。
カガリの強さに憧れただけじゃない、キラの優しさに何度も救われたから、ここまで歩いて来れたんだ。
「この世界を守るために、これからも頑張っていかなきゃな」
サイの言葉に、皆がこれからも未来に向けて歩いていこうと決意を新たにしていた。
「じゃあ、そろそろ同窓会を始めようぜ。
カンパイだ!」
トールがグラスを掲げた。
「世界のために頑張るのは明日からだ。
せっかくみんなで集まったんだ。
今日は、全力で楽しもうぜ!」
「「「「「「カンパイ!!」」」」」」
明日から、またそれぞれの道に戻り、歩いていく事になる。
それでも目指す先にある空は繋がっている。
確かな絆で繋がっている仲間と一緒になら、望む明日へ向かっていける。
キラ達は、明るい未来を信じることができる世界にたどり着いていた。
統合軍、ドミニオン・ブリッジ
「ねぇ、ナタル。
アークエンジェルって、少し頑張ればモビルスーツに変形できる形をしていると思わない?」
「は?何、馬鹿な事を言ってるんですか、艦長」
「失礼ね!
私だって、大気圏内でそんな事が出来るとは思ってないわよ。
でも、宇宙でなら可能じゃないかしら?」
「艦長、疲れてるんですね。
ここ最近、任務が立て込んでましたから無理もありません」
「ナタル、私は正気よ!
何の根拠もなく言ってるんじゃないわ」
ナタルは突然、夢物語のような事を言いはじめたマリューを心配していた。
だが、マリューがどんな馬鹿な事を言っていても、自分だけは否定せずに最後まで聞いてあげよう。
そう思って、マリューに続きを促す。
「アークエンジェルが改修のために長期のドック入りをしてるでしょ?
それで、今はドミニオンを使っているけど、おかしいのよ」
「どう、おかしいのですか?」
「ドミニオンは、普通の戦艦なのよ」
「はあ、そうですね」
「バリアントは両舷に付いてるし、ローエングリンも搭載されてるわ」
アークエンジェルは、左舷にしかバリアントを装備していない。
予定されていた陽電子破城砲ローエングリンの搭載もされていなかった。
まるで、別の物を装備するために取り止めたように感じる。
「外見は同じだけど、艦の内部構造もドミニオンとは違っているの。
それを踏まえて考えると、アークエンジェルは最初からモビルスーツへの変形を考慮して設計されている。
そうとしか思えないのよ」
「艦長、いや、まさかそんな・・・」
ナタルも、まさかこんな技術的な観点からの真面目な考察が出てくるとは思わなかった。
「アークエンジェルは、戦時中に造られた新造艦よ。
こんなすぐに改修されるのもおかしいわ。
見つかった不具合を解消するための短期改修ならともかく、長期のドック入りを必要とする大改修なんて。
技術的な目処が立ったからじゃないかしら」
ナタルは、顔を引き攣らせていた。
最初は何を馬鹿なと思って聞いていた。
だが、聞けば聞くほどリアリティーがあり、妙な説得力を持ち始めたのだ。
アークエンジェルはもうすぐ改修が終わり、カガリ達が行う火星ツアーの護衛に就く事が決まっている。
戻ってくるアークエンジェルには、どんな魔改造が施されているのだろう?
横で楽しそうにしているマリューを見ながら、ナタルの不安は尽きなかった。
地球、某所
街頭ビジョンには、地球各地を巡って歌っているラクス・クラインの映像が流れている。
統合政府が企画した火星ツアーに、カガリと共に参加すると言うニュースも流れていた。
そのビジョンを見上げているサングラスの男が一人。
大きなサングラスのため、その表情は見えない。
何を考えているのかは窺えないが、ずっとそのビジョンを見続けていた。
そんな男に声をかける者がいた。
大きな仮面を被り、顔を隠している男だった。
「そんなに気になるなら、彼女の下に戻るか?
英雄の帰還だ。
向こうも歓迎するだろう」
戦後、地球に照準を向けていたジェネシスの発射を止めるために、アスランがパトリックを撃った事が明らかになっていた。
そのアスランの姿が最後に確認されたのは、ジャスティスでジェネシスに向かう所だった。
そのすぐ後に、ジェネシスは内部から大爆発を起こした。
ジェネシス内部でジャスティスを核爆発させた可能性が高い。
公式の記録では、そこでアスランは死亡した事になっている。
人類の未来のために父親を討ち、ジェネシスを破壊するために命を捧げたアスランを連合は高く評価していた。
真の正義を示したとして、ヤキンのジャスティスと呼ばれる英雄となっていた。
「いえ、彼女には幸せになって欲しい。
ラクスの側にいるのは、キラの方がいい」
「そうか、では行こうか」
「はい、クルーゼ隊長」
「今の名前はネオ・ロアノークだ。
傭兵部隊ファントムペインの隊長だ。
間違えるなよ、アレックス・ディノ」
「あっ、すみません。
ネオ隊長」
「それでいい」
「しかし、よく傭兵部隊なんて立ち上げられましたね」
「何、昔の伝手を頼ったんだよ。
今の我々は、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルの私兵だ」
「あの人も、俺のイメージとは違ってました」
「世の中とはそういうものだ。
私達は、これからネームレスと戦うのだ。
彼も同じ敵と戦う仲間だと言う事だよ」
彼らはかつての名前を捨て、世界の裏で暗躍している者たちと戦う道を選んだ。
歴史に名を残すような栄光ある戦いではない。
影の中に潜む者たちと戦うために、自らも影の中に入る事を選んだのだ。
アレックスは、もう一度ビジョンの中で歌うラクスを見た。
「ラクス、俺はもう光の中には戻らない。
だから、キラと幸せになってくれ」
そう言い残し、その場を後にした。
歴史には残らない戦場に向かうために。
エピローグその一です。
主に主人公サイドのその後ですね。