歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アークエンジェルからプラントに戻ったラクスが、業界の裏側を暴露した放送を一人の少女が見ていた。
「えっ、ミーア・キャンベルが本物のラクス様?
そんな、私はミーアがいたから芸能界に入ることを諦めたのに」
そう、この少女こそ、本来の歴史でミーアと言う名前で芸能界に入るはずの存在だった。
しかし、この世界では、すでに自分以上にラクスにそっくりな歌声を持つ者がいた。
そのため、彼女は芸能界に入る事なく、その歌声も仲間内で特技として披露するくらいしかしていなかった。
プラントでは、この件はラクスの勇気ある告白として受け入れられていった。
それでも、一部の者達は認めることが出来なかった。
彼女もその一人だった。
「なんで、みんな彼女を認めるの?
私は彼女のせいで夢を諦めたのに!」
そんな彼女に声をかける者がいた。
「光が強くなるほど影は濃くなる。
貴女も、ラクス・クラインと言う光の被害者なのですね」
「あなたは?」
突然、声をかけてきた者に驚き、警戒する少女。
「警戒するのも無理はないですが、私も貴女と同じですよ。
世の中には、正義とか道徳といった光によって絶望と言う影に堕とされる者たちがいるのです。
貴女もその一人でしょう?」
その話を聞きながら、少女は共感してしまった。
自分はラクスの被害者だ!
そう主張してもプラントでは自分こそが悪として扱われる。
誰も私の想いを認めてくれない。
「世界に弾かれ、闇に堕とされた者達のために歌ってみませんか?
貴女には、その資格がある」
自分のように誰からも認められずに絶望の中にいる人達のために歌う。
そんな事、自分に出来るだろうか?
それでも歌いたいと思ってしまった。
自分と同じ想いを持つ人達のために。
「やります。
いえ、やらせてください!」
「貴女ならそう言ってくれると思っていました。
ですが、今の貴女の実力ではラクス・クラインには対抗できない。
かなり無茶をしなければなりません。
喉が潰れてしまうかもしれませんよ?」
「かまわないわ!
ラクスに、世界に、私たちのような存在もいるのだと示すことが出来るなら、声が出なくなっても後悔はしない」
「貴女の覚悟に敬意を。
最高の訓練環境を用意しましょう」
こうして少女は過酷な訓練を積んでいく。
ラクスと言う光を否定する歌を歌うために。
2年後
少女は、顔をラクスそっくりに整形し、髪も同じ色に染めていた。
「君は、私の予想を遥かに上回る成長をしました。
ラクス・クラインと同じ顔、同じ声で、ラクスを否定する歌を歌うのです」
この2年の間で、この男が大きな組織に所属している事に気付いていた。
自分の歌も、なんらかの目的のために使うつもりなのだろう。
それでも少女はかまわなかった。
私は自分の想いを歌にのせる。
それだけなのだから。
「もうすぐ世界は貴女を知る。
名前はどうします?
ミーア・キャンベルと名乗りますか?」
「いいえ、その名はいらないわ。
ミーアは、私が本来いたはずの場所だったのに。
そう思っていた時期が私にもあったわ。
でも、もうそんな事はどうでもいい。
今は、ラクスやカガリと言う光で絶望に追いやられた人達もいると世界に示したい。
これから歌う歌は正義なんかじゃない。
光の中で生きられない人達のための、世界に対する反逆の歌よ。
だから、私は闇ラクスと名乗る!」
「ふふふ、闇の歌姫ですか。
どうやら私の評価はまだ甘かったようですね。
もう少し待ってください。
必ず、君に相応しいステージを用意します」
ヤキンドゥーエ戦において、巨大モビルアーマー『ジャッジメント』は歌によって動きが鈍り、撃破された。
システムの中枢だったジャッジメントが破壊された事で無人機たちも、その動きを止めてしまった。
ライトマンは、プラントの秘匿研究所でその様子を見ていた。
「ホーク君は、完全に感情を失っていた。
それでも、こんな結果になるとは。
歌がある限り、私の理想とする世界にはたどり着けない。
大きな力を持つ者が、感情のままにその力を振るう事がどれほど危険かは、この戦争が証明したのに。
いくら感情を消しても、歌が甦らせてしまう。
そして、また人々は争い出すだろう。
人類の明るい未来のために、歌などあってはならない存在だ。
不安定な人間を使わない完璧な機械の巨人達を作り出し、歌と言う文化を滅ぼさなければ」
ライトマンは、組織の男『ギルバート・デュランダル』を思い出していた。
彼が提唱していたデスティニープラン。
それは、ライトマンにとっても興味深いものだった。
「彼のデスティニープランは不完全だ。
あれは、コーディネーターのためのプラン。
ナチュラルが幸せにはなれない。
すべての人々が高い能力を持ち、不安定な感情を消して与えられた役割を忠実にこなしていく。
平和で安定した世界。
僕のネオ・デスティニープランこそが世界を救う唯一の方法だ」
そんなライトマンの前に、再びネームレスの人間が現れた。
「素晴らしいプランです。
引き続き君を支援させてもらいますよ。
まずは、ここを脱出しましょう。
火星に研究所を用意しました。
AIの開発はそこでしてください」
ライトマンは、ネームレスの男に脱出用のシャトルまで案内された。
そのシャトルでプラントを離れ、これから火星に向かうのだ。
遠ざかるプラントを見ながら、ライトマンが小さく呟く。
「世界を支配した気になっている人達は、なんで自分が例外だと思い込むんだろうね。
権力者こそ真っ先に感情なんてものを消さなきゃいけない。
この戦争でジェネシスの引き金が引かれてしまった事からも明らかじゃないか」
ライトマンは、ネームレスの支援を受ける事にしたが、その思惑通りに動くつもりはないようだった。
彼は地下に潜り、力を蓄える。
彼が理想とする平和で安定した世界を創り上げるために。
この世界のどこか
ネームレスの意思決定がなされる場。
そこには個人の情報は出てこない。
互いに相手が誰かなど分からないのだ。
「ああ、ライトマン博士のプランは面白い。
AIの技術にも目処が着きそうだ」
「カガリとラクスに対抗する駒として、闇ラクスも十分に成長している」
「これで、あの計画を実行に移すことが出来るわね」
「カガリとラクス、そして闇ラクスのデータすらも取り込んだ最強の歌姫を作る」
「電子の歌姫『シャロン・アップル計画』
今まで研究してきた洗脳技術の完成形だ。
これで、全人類を洗脳し、歴史上初めて世界の完全支配が達成される。
誰もが待ち望んだ恒久平和の時代が訪れるのだ!」
歴史の裏でうごめき、人類の完全支配を狙うネームレス。
今まで決して表に出てこなかった組織が、大きく動き出そうとしていた。
光にあふれ、明日に希望が持てる世界を望むカガリとラクス。
そんな世界から弾かれてしまった者達のために歌うと決意した闇ラクス。
感情を揺さぶる歌を否定して、歌と言う文化を滅ぼすことを決めた。
感情のない静寂の世界を目指すライトマン。
そして、完全支配を狙うネームレスが作り出そうとしている、全人類を洗脳するための存在、電子の歌姫シャロン・アップル。
それぞれが次の時代を欲して動いている。
世界の平穏が破られた時、彼らは次の時代を賭けてぶつかるだろう。
新時代争奪歌合戦が始まろうとしていた。
オーブ連合首長国
街中にある、おしゃれなカフェのオープンテラスで一人の美女が優雅にお茶の時間を楽しんでいた。
そんな彼女に声をかける者がいた。
隣のテーブルで、彼女と背中合わせの席に男が座っている。
彼が声をかけたのだ。
「なぜ、組織を裏切ったのですか?」
「あら、なんの事かしら?」
「とぼけないでください。
あなたとカガリの行動で組織の計画が狂ってしまった」
「裏切ってなんかいないわ。
私は、カガリの力を組織に示しただけよ」
「・・・SEED」
「ええ、そうよ。
カガリの声には特殊な周波数が含まれている。
それこそが、カガリが持つSEED」
「カガリの歌で組織が行っていた洗脳を解いて、どうしようと言うのです?」
「カガリの歌には洗脳を解く力がある。
それは、洗脳する力もあると言うことよ」
そこで彼女は一口、お茶を飲んで続ける。
「西暦時代、カガリと同じ力を持つ男が演説を武器に一国のトップにまで成り上がった。
その男は大戦を引き起こし、歴史に残る大虐殺を行った。
でも、国民は誰も彼を止められなかった。
むしろ、熱狂的に支持していたわ。
まるで洗脳でもされていたかのようにね。
でも、その声が持つ力が最大限に発揮されるのは演説なんかじゃない。
歌こそが、SEEDの真の力を引き出し、人々の心を自由に操る魔法」
「歌による人類の洗脳ですか」
「ふふっ、組織は予定していたデスティニープランを破棄して、私が提唱したシャロン・アップル計画を採用したのでしょう?」
女は、笑みを浮かべて男を見た。
「感謝してほしいわね、マルキオ導師。
あなたの望み通り、SEEDの力が世界を変えるのよ」
「くっ」
「嫉妬しているのかしら?
私たちのような末端は、組織の意思決定には関われないものね。
でも、私は組織の意思決定に影響を与え、自らのプランを採用させる事ができた」
「油断しないことです。
機械仕掛けのSEEDでは本物のSEEDホルダーには敵いませんよ」
そう言ってマルキオは席を立つ。
マルキオが去った後も、彼女は街並みを眺めながら、お茶を飲んでいた。
「そうね、カガリはさらに成長していくでしょう。
これから世界は、どこに進んでいくのかしら?」
オーブの平和な街並みに、彼女の呟きは溶けていった。
エピローグそのニです。
次の戦争の火種になりそうな人達でした。
後は、続編の予告編と言うかダイジェスト版みたいな物を上げて終了します。